忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
34   35   36   37   38   39   40   41   42   43   44  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

漸く一日が終わり、冥加は一つ息を吐き出す。
今日は著名な音楽家である月森蓮を招いての講演があったのだが、予想以上に長引いた。
若手ながらも世界屈指の実力を持つ新進気鋭の青年へ、天音学園の生徒からの質問は次から次へと沸き起こり、それを一々真面目に答えてくれるおかげでいつの間にか夕方どころか時間は夜に差し掛かっている。
今日はこの後特に予定はないが、それでもスケジュール調整に疲れは覚えていた。

理事長室にある応接セットに腰掛け、紅茶を上品に啜る月森はとても端整な顔立ちをしている。
端整な指先はヴァイオリンを奏でるために存在していると、いつだったか雑誌で読んだのを思い出しひっそりと眉を寄せた。
すると隣に居た天宮が敏感に反応しこちらを見てきたので何でもないとジェスチャーで告げる。
理事長室には他にも七海の姿があり、先ほど今年のコンサートで奏でた楽曲の感想を聞いていたところだった。
的確なアドバイスはさすがに現役のヴァイオリニストだと感心させられるばかりで、自分の技術の高さを理解する冥加ですら純粋に凄いと思える。
焦がれる音を奏でるのはかなで一人だが、それでも目の前に座る男は、一人のヴァイオリニストとして尊敬していた。


「それで、月森さんのこの後のご予定は?もし何もなければ食事会を設けたいのですが」


そつなく誘えば、思いも至らなかったとばかりに月森が目を丸くした。
こんな誘いはしょっちゅうだろうに驚く姿に戸惑い、そして気がつく。


「何か、ご予定が入ってらっしゃるんですか?」
「・・・ああ。すまない。今日は古くからの友人達が母校に集まっているんだ。これから俺も向かおうと思っている」
「月森さんの母校って言ったら、星奏学院ですよね?」
「そうだ。そう言えば、今年のオケ部の決勝は星奏と天音だったか。営巣に知り合いでも?」
「はい。星奏学院のアンサンブルメンバーの一人と親しくさせて頂いてるんです。この間なんて、七海の家に一緒にサンマーメン食べに行きました」
「・・・何?俺は聞いてないぞ、天宮」
「そりゃ冥加なんて誘わないよ。楽しくなさそうだし」
「天宮さん!あ、あの、すみません、部長!俺も小日向さんも連絡しようとしたんですけど、通じなくて!」
「そうそう。代わりに妹の枝織ちゃんとご一緒したよ。小日向さんともども無邪気に喜んで可愛かったな」


ほくほくとした笑顔を浮かべる天宮に、ぎりりと歯軋りする。
確かに数日前仕事中に携帯に連絡があったのを留守番通知で確認したが、その後七海から謝罪のメールが入っていたので無視をしていた。
それがまさかかなでと妹を引き連れてサンマーメンを食べに行っていたとは知らなかった。
隣で笑顔の幼馴染だが、絶対に確信犯だった筈だ。
ここ数日いやに機嫌が良いとは思ってたのだ。

苛立ちを噛み殺していると、その様子を眺めていた月森が微かな笑みを顔に浮かべる。
あまり表情の変化がない男だけに、僅かに微笑むだけで随分と華がある。
何故いきなり笑顔を浮かべたのか判らずにいると、失敬、と謝罪された。


「小日向さん、とは星奏学院の1stを務めた子のことか?」
「・・・どうしてそれを?」
「いや、衛藤君からメールを貰ってね。将来有望なヴァイオリニストだと。そうだな───それなら、君たちも来るか?」
「何処にでしょうか?」
「星奏学院にだ。食事は少し遅くなるが、俺の旧友達が今そこでミニコンサートをしてるはずなんだ」
「ミニコンサート?そんな告知、聞いてませんが」
「内々のものだからな。プロとアマが入り混じっての、遊びみたいなものだ。格式はないが楽しんでもらえると思う」


誘いの言葉に七海と天宮は躊躇なく頷いた。
しかし冥加は少し躊躇う。
月森蓮と顔を合わせるのも会話をするもの初めてではない。
だがこんな誘いを受けるほど親しくなく、だからこそ急な誘いに戸惑っていた。
すると、そんな冥加のためらいに気付いたように月森がこちらに視線を向ける。


「俺が君を誘うのはおかしいか?」
「・・・それは」
「そうだな、昼の演奏を聞かなければ君を誘ってなかったかもしれない」


昼の演奏、と聞き眉間に皺を寄せた。
月森蓮を呼ぶにあたり、こちらからも数名選抜メンバーで舞台で演奏をした。
その際、実力から行くと絶対に外せない冥加自身も演奏したのだが、それのことを指しているのだろう。


「以前、君の演奏を聞いたとき、確かにその技術の高さに驚かされた。高校生どころかプロでも通用しそうなほど美しい音色を奏でるのに、その音はただ寒々しいものだった。温かみの欠片も見つけれない、空洞に響く空虚な音」
「・・・手厳しいですね」
「プロだからな。しかし、今日の君の音を聞いて見識を変えた。技術力、表現力は以前と変わらない。けれど何かが決定的に違った。溢れる音楽はどこか優しく、暖かで柔らかい。表面だけであれば以前と変わらないのに、奥深くから湧き出るものが変わっていた」


思わず黙り込んだのは、その指摘に心当たりがあるからだ。
認め難いが冥加は変わったのだろう。
否、変わらざるを得なかった。

ずっと追いかけている人がいた。
ずっと魂の欠片を奪われていた。
ずっと焦がれ望んでいた。
その音を再び耳に出来、冥加は変えられてしまった。
抵抗する暇などない。抵抗を覚える間も与えられなかった。
悔しさを覚える隙間も貰えず、どうしようもなく諦めた。

あれは、あの女は、そういう生き物なのだから、と。

冥加が変わったなら原因はかなでで、変わったと見抜かれるのは、それでも嫌ではなかった。


「君の音が変わった原因が彼女なら、俺も彼女を見てみたい。そして、君と彼女の音を聞きたい」
「・・・酔狂な」
「そうだな。そうかもしれない。だが、失ってから後悔しても、全てが遅いんだ」
「何を───」
「何でもない。・・・ああ、ほら早くしろと急かされているな。君たちには聞こえないか?囁きに似た甘い音が」


微苦笑した月森に訝しげに顔を歪める。
耳を澄まして、そして何を言われたか理解した。

ささやかな音で聞こえてくるのは、懐かしく忘れられない曲。
冥加を地獄に突き落とし、すべてを束縛した思い出の曲。


「『愛の・・・挨拶』?」


この部屋は当たり前に防音処理が施され、音が入る隙間はない。
それ以前に聞き覚えがありすぎるこの音を奏でられる少女はこの場に居ない。
なのに何故音が聞こえるのだろう。
唯一冥加の心を放さない旋律は、一体何処から流れてくるのか。

驚き目を丸くする冥加に、嬉しそうに月森は笑った。
その顔はまるで自分と同年代の少年のようで、何を言っていいか判らず唇を噛んで俯いた。

拍手[30回]

PR
大海賊な彼ら-ある船長の場合- のオマケです。

*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





覚えているのは、真っ暗な場所。
外から聞こえる悲鳴に耳を両手で塞ぎ、必死に小さくなって、嗚咽が漏れれば居場所がばれると声を堪えて泣いていた。
何故そうなったか判らなかった。
昼間ではいつもと変わらない日常が流れていて、今日も一日が終わって明日が始まるはずだった。

唐突に始まった海賊の侵略行為は、平和な村では防戦どころかなす術もないまま一方的に陵辱されていった。
両親に無理やり地下の収納庫に押し入れられると、すぐさま家のドアが開く音がした。
叫ぶ母の声に、詰る父の声。
家の入り口が開けられたおかげで外の世界の音が先程よりも明確になり、誰のものか判らぬ悲鳴が塞いだ耳の奥まで刺さる。
気絶してしまいたかった。
意識を失って、目を覚ましたら何もかも夢だったと思いたかった。

けれどそう簡単に意識など失えず、震える体とひくつく呼吸を必死に宥め、息を殺して両親の帰りを待った。


どれくらい時間が過ぎたのだろう。
まだ一分ほどしか経っていない気がするし、何日も閉じこめられている気がする。
暗闇は感覚を狂わし、心すら麻痺してきた。
段々と悲鳴にも心が動かなくなり、早く時間が過ぎて欲しいとだけ祈る。

体を抱え込み胎児のように丸くなって怯えていると、不意に光が世界に射した。

始めに認識したのは赤。
彼の纏う色に目を見張り、恐怖で息が喉に張り付く。
早まる鼓動を必死に宥めながら、同時に酷く安堵した。
この男が賊の一人であるならば、悪夢は終わるかもしれないと。
自分のような抵抗する力も持たない子供は、彼にとって簡単に殺せるだろう。
収束する世界を享受すれば、地獄のような今から逃げ出せる。
従順に自分を差し出すべく瞼を閉じかけ───彼の後ろから見えた姿に息を飲み込んだ。

彼の肩に圧し掛かるようにしている男、それは先ほど自分をこの場所に押し込めた父親だった。
体中血だらけで、口から吐血までしている父は、麦藁帽子を被った男の無造作な行為で自分の前に差し出される。
血濡れの父の瞳がこちらを見て、驚きで丸くなったかと思うと、透明な雫を静かに流し、そのままことりと顔を伏せた。


「あ・・・あぁ・・・あぁぁぁあああああぁぁあああ!!!」


ギリギリで繋がっていた精神が崩壊する。
血が沸騰したように熱く、目の前で倒れた父に縋り付く。
胸に刺さるナイフから血が滴り、手を汚したが気にならない。
まだ温かさが残る体から魂が抜けていくのに涙が零れた。
短い腕で必死にその体を抱きしめ、ただただ悲鳴を上げて泣く。

口が自然に動いて何かを叫んでいるが、自分でも何を言ってるか判らない。
それは目の前の彼に生き返って欲しいと望む願いであり、置いていった彼に向かっての怨嗟であり、彼が自分を守ろうとしての結果を呪う叫びだった。
喉も涸れよと叫び続け、全ての意識が染まっていく。
先ほどまで死んでも良いと思っていたのに、もうそんな想いは欠片も残って居ない。


「お前が殺したのか!!?」


問いかけると、黒々とした瞳を僅かに丸くした男はこてりと首を傾げた。
地獄と称するに相応しいこの地においてその仕草は酷く浮いていて、益々怒りを煽る要素となった。

男の第一印象を赤だと思った。
何故だったか、今はわかる。

目の前の彼は赤いベストを着ているが、それ以上に真っ赤な血に濡れていた。
彼には見える部分には傷はなく、そうすると結論は一つしか思いつかない。

あれは、胸元にべたりと付着するあの色は、父の生きた証に違いないと。
怒りで恐怖は吹き飛び、収納庫に隠される前に渡された唯一の武器を手に忍ばせる。


「お前なんか・・・お前なんか、死ねばいい!!」


ぐさり、と手に感触が伝わる。
驚いて目を丸めた男は、ナイフを体に埋め込みながら何も抵抗してこない。
その様に馬鹿にされているのかと更に力を篭めてナイフを抉るように動かすと、漸く動いた男がナイフを握る手の上に掌を重ねた。
苛立ち睨みあげると、何が面白いのか男は緩く口角を上げる。

人を刺したのは初めてだが、罪悪感は一切沸かなかった。
涙を零しながら睨み続けると、不意に体がぞくりとして身動きが取れなくなる。

いつの間に居たのか、男の背後に緑色の髪をした隻眼の男が立っており、きつい瞳をこちらに向けていた。
睨み付ける視線に篭められたのは、きっと殺気というものだろう。
先ほどまで忘れていた恐怖が体を這い上がり、ナイフを掴んだままの手が震え始める。

私は、一体何をしているのだろう。

震え怯えながら、それでもナイフを掴んだ手は離せない。
まるで自分を繋ぎとめるものがそれしかないように縋り付く自分の前で、彼らは暢気に会話をしている。
麦藁帽子の男の言葉に嫌な顔をした隻眼の男は、すいっと視線を外した。
お前など視界に入れる価値すらないと言外に言われた気分だが、体の重圧がなくなり恐怖から開放された。

呼吸も忘れていたために息が苦しく、深呼吸を繰り返していると、麦藁帽子の男がこちらを覗き込んでくる。
唾でも飛ばしてやりたいが、生憎喉はからからに渇いていて無理そうだった。
黙って睨んでいると、男は不意に破顔した。
つい今しがたまで纏っていた、何処か無邪気な雰囲気を一新し、危険な香り漂う男臭い笑い方。
優しさを一切感じさせぬ、嘲りを含んだ嫌な笑顔。
歯軋りすると唇まで噛んでしまったのか、鉄錆び臭い味が口内に広がる。
苛立つ様子は伝わっているだろうに、益々笑みを深めた男は初めてこちらに向けて言葉を発した。


「おれの名はモンキー・D・ルフィ。海賊王だ」


その言葉に、息を呑む。
世界中でその顔を知らずとも、その名を知らぬものはない。
海賊の中の海賊と歌われる最強の男。
世界の海を股にかけ、誰よりも海を自由に進む男。
それがこの目の前の男だと言うのか。

目の前が絶望で暗くなる。
父親の敵はとんでもなく雲の上の存在で、それでも諦めるなど出来ない。
向けられる視線を正面から受け止め、殺してやると泣き喚く。


「そうか。・・・なら、ここまで昇って来い。お前がおれを殺しに来るまで、おれはここで待っててやるよ」


子供の戯言と一笑に帰すことも出来るくせに、嘲りを篭めた笑みのまま男は言った。

そうしてそれが、生きる指針となった。

刻まれたのは鮮やかな嘲笑。
忘れ得ぬのは緋色の体。
そして───そして、抱き上げられた腕の温もり。





「本当に、行くのかい?」


心配そうに顔を歪めてこちらを見るのは、あの日親を失った子供達を集めた孤児院のシスターだ。
ふっくらとした体つきと溢れんばかりの愛情を子供に与えてくれた。
親が居ない寂しさを感じさせないくらいに毎日が笑いに満ちていて、共に育った兄弟は血が繋がらないが血よりも濃い絆がある。
いつも太陽のように笑っているシスターが顔を曇らせるのに胸が痛まないではないが、もうずっと前から決めていた。


「うん。私は海軍に入る。そして───そうして、この手で海賊王を捕まえる。海賊の中の海賊と呼ばれ蛮行を繰り返し私の村のような存在を増やしてる。そんなの絶対に赦せない」
「でも、海賊王は噂ほど悪いお人じゃ」
「何言ってるの!?村を荒らしたのが誰か忘れたの!?私の父さんも母さんも海賊に殺された!私は、私の手で海賊王を絶対に殺す。一生かかってもいい。そのためなら何だって犠牲にする。あの日の宣言どおり、あいつは未だにあの高みに存在するわ。少しの犠牲も失くすために、私が必ず殺してやる。そうして父さんと母さんの敵をとるんだ!!」


言葉は悲鳴に近い。
何も聞きたくないと両手で耳を押さえ、哀しそうに目を伏せるシスターを睨む。
他の誰にも邪魔されたくなかった。
これは自分で立てた生きるための楔。
あの日を最後に姿を見ていない海賊王、『モンキー・D・ルフィ』。
黒髪黒目の細身の青年でどこか飄々とした雰囲気を纏う人。
涙を零す自分に向かい、嘲りを隠さず追って来いと誘った男。

何度も何度も夢に見た。
赤に塗れたあの日の夢を。
血濡れの父に、見つからなかった母。
家は燃え焦げ臭さが漂い耳を塞いでも消えない叫び声。
そんな悪夢の中でも笑う男は、麦藁帽子を指先で持ち上げにいと口角を持ち上げる。

目が覚める度に心臓が早鐘を打ち、夢の中でも笑う男に憎しみが沸く。
頬を伝う涙は止めどなく溢れ、震える手を握り復讐の日を待った。


「私はあいつを殺すために生きてきた。そうしてあいつを殺すために生きていく」
「───そんなの、誰も望んじゃいないよ。この村で普通に暮らせばいい。恋人を作って結婚して子供生んで・・・そうして暮らすのがあんたの両親も望む未来じゃないのかい?」
「・・・ごめんなさい、シスター」


緩く首を振り謝ると、今にも泣きそうな顔になった。
そんな顔をさせたいわけじゃない。何年も母と愛した人なのだ。
それでもこれだけは譲れない。

黙り込んだシスターから一歩離れると、ゆっくりと顔を上げる。
あの地獄の日から彼女の新しい家になった建築物は、素朴でありながら村の何より頑丈な造りをしていた。
いつの間にか出来ていた建築物は初めは避難場所として使われていたが、村が復興してくると徐々に村人達は自身の家へと帰っていった。
それでも何か有事の際にはこの孤児院は避難場所になっている。
村ではついぞ見かけない技法で建てられたここは、村でも特別な場所だった。


「私は行くよ、お母さん」
「・・・・・」
「また生きて会えるよう、頑張るから」
「───いつか」
「え?」
「いつかあんたが真実を受け止められるようになるのを、私は心から祈ってるよ。・・・いってらっしゃい、私の娘」


きゅうっと抱き込まれ、今から捨てる未来に、一粒だけ涙を零した。





「・・・久しぶりだね、海賊王」
「んー?」


十年ぶりに顔を見た男は、間抜けな顔でこてりと首を傾げる。
覚えているよりも少しだけ年を経ているが、相変わらず何処か飄々とした雰囲気の男だ。
海軍の軍艦に囲まれながらも余裕を失わない男に、ぎりりと歯軋りする。
世界の海を自由に駆ける彼自身の船の船首に胡坐を掻いてこちらを眺める男に焦りは欠片もなく、むしろ余裕たっぷりだ。
少し離れた場所にはあの日恐怖した緑頭。そして海賊王を挟んで反対側には煙草を咥える金髪の男。
麦わら海賊団の双璧の、海賊狩りのロロノア・ゾロと、黒足のサンジの登場に海軍の兵がざわめく。

世界で最弱と名高い東の海で遭遇したまさかの大敵に、同僚達は息を呑んで怯んでいる。
自分自身まだ大佐へ昇進したばかりで、まさかこんなに早く彼に見(まみ)えると思ってなかった。
この体が震えるのは恐怖のためではない。
漸く目にした宿敵への歓喜と、震えるほどの興奮によるものだ。


「私を覚えてる?それとも、数多く潰した内の村の生き残りなんて覚えてないかしら」
「あーん?ルフィ、何だ?あのお嬢さんと知り合いなのか?」
「知り合い?」
「・・・ルフィ。あいつ、あん時の餓鬼じゃねぇか?お前にナイフ埋め込んだ」
「おお!思い出した!いやぁ、懐かしいなお前!元気にしてたか?」
「っ・・・ふざけるな!!」


ひらひらとこちらに向かって手を振る男に絶叫する。
無邪気にも見える笑顔が憎い。
全てを黒く塗りつぶして壊してしまいたいほどに。


「海賊王『モンキー・D・ルフィ』!私はお前に一騎打ちを申し込む!」
「・・・ヒュー。ルフィに一騎打ちを申し込むなんて、あのお嬢さん何もんだ?」
「さてな。被害者になるんだろうよ、あの馬鹿に踊らされる」
「何知ってやがる、ミドリ頭」
「お前に言う義理はねぇよ。・・・ともあれ一騎打ちだ。なら、おれらの出番はねぇな」
「だな。おーい、海兵さんたちよ!そっちも聞いただろ?これは一騎打ちだ。うちの船長そっちにやるからよ、手を出すなんてダセェ真似、してくれんなよ」


怯えもないゆったりとした口調で声を掛けてきた黒足は、その言葉どおりに海賊王を寄越した。
一人で甲板に降り立つ海賊王の姿に、部下達は立ち竦む。
この場で一番階位が高いのは自分だ。ならば、彼らを護るのも自分の仕事。
そして目の前の男を殺すチャンスに手は出されたくない。


「一騎打ちかぁ。何かすげぇ久しぶりだな。まさか東の海で申し込まれると思わなかったぞ」
「・・・五月蝿い。確かに東の海は最弱の海と呼ばれている。でも、最弱の海に強い者が居ないわけじゃない」
「しししっ、確かにその通りだ。よし、じゃ一騎打ちは受ける。おれが勝ってもお前の仲間には手をださねぇよ」
「なら、私が勝ってもお前の仲間には手を出さないと誓おう。私が殺したいのは、お前だけだ」
「はぁ、お前おれに勝つつもりでいんのか。すげぇな。ちっとは強くなったのか?」
「馬鹿にするな!お前を殺すために鍛錬は欠かしたことはない!」
「捕らえる、じゃなく殺すか。どうやら、何も変わってねぇみたいだな」


のんびりと彼自身の呼び名に由来する麦藁帽子を被りなおすと、体を正面に向ける。
あの日と同じ緋色のベスト。目に焼きつく記憶に、血が沸騰した。

両手に腰に差していた大振りのナイフを持つと片方は順手、片方は逆手に構える。
独特の構えは自力で開発したもので、選んだ武器はあの日を忘れないためのもの。
憎しみに心を染めながら、冷静になれと何度も呟く。


「あの日から一日たりともお前の顔を忘れた日はなかったわ。今日こそこの恨み晴らしてみせる」
「しししっ。御託はいいからさっさと来いよ」
「っ、死ねぇ!!」


叫びは祈り。
心からの願い。
二振りのナイフを握り、一気に距離を詰める。
余裕の笑みを崩さない海賊王は、凶器を前に笑ったまま。
その笑顔すら憎々しく、ナイフを握る手に力を篭める。

まずは一撃。
喉笛を狙い左手のナイフを振る、しかしあっさりと避けられ、右手のナイフで進行方向を突いたがそれも躱された。
右、左、左、右、右、左。
息をつかせぬ猛攻を掛けながらも、一撃も掠らずのらりくらりと避けられる。


「余裕ぶってるつもりか!!」
「ぶってんじゃねえ。実際、余裕なんだよ。何だ、思ったより成長してねぇな。相変わらず弱いままだ」
「っ、舐めるな!」


避けられたナイフを瞬時に逆手に持ち代えると眼球を狙う。
笑顔でそれを眺める男へあと少しで届くと思った瞬間、信じられない重圧が体に掛かった。


「これしきの覇気も跳ね返せねぇのか?この十年、何してたんだお前」
「・・・・・・」
「本気でおれを追う気があるのか?この程度でおれを殺せると?」
「・・・ぅ・・・」
「甘いな。サンジがナミたちに作る手作りスイーツより甘ぇ」


訳がわからない比較をした男は、倒れこんだままの自分の前でしゃがみ込む。
玩具を見つけた子供みたいな笑顔で、手から離れたナイフを拾った。
そのまま鮮やかな手つきで弄ぶと、刀身に手を触れ刃を砕く。
海兵になってからずっと愛用していた武器の末路に目を見開いたままでいると、折れた刀身を握った彼は硬い木で出来てるはずの甲板がバターか何かじゃないかと思えるほどあっさりとそれを根元まで突き刺した。
首筋すれすれの部分にささるそれに、息を呑む。
体中の毛穴が開いて一気に汗が吹き出た。


「勝負あり、だな。景品はこいつでいいよ」


彼を殺すと決めた日から伸ばし続けた髪が、無骨な掌の上で弄ばれる。
まるで、自分の気持ちを軽く扱われるようで屈辱に涙が歪んだ。


「泣いてたっておれは死にゃしねぇよ」
「・・・ぅ、っぇ・・・」
「じゃーな、クソガキ。次会うときにはもう少しマシな成長しとけよ」


無防備に晒されたその背中は、こんなに近いのに全く手が届かない。




久方ぶりに踏んだ故郷の土は、あれほどの悪夢が染み付いているにも拘らずやはり懐かしい。
親友の結婚式に出るためにドレスアップし、慣れない女の格好で居ると、最高に綺麗な笑顔を浮かべた親友が嬉しそうに近寄ってくる。


「来てくれないかと思ったわ!」
「あはは、そんな薄情な真似する訳ないじゃない!家族の結婚式よ?」


彼女もあの悪夢の日に両親を失くした子供の一人だ。
海兵になり敵討ちをすべく進んだ私と違い、彼女は村に残って幸せを掴んだ。
彼女の隣に並ぶのは顔立ちこそ冴えないが心優しい青年で、昔から彼女に何かあると飛んできて慰めるような人だった。
初恋がそのまま結婚になった幸せなカップルに、心が揺れないとは正直言えない。

鍛えられた私のものより華奢な体を腕に抱き込む。
細く柔らかい感触は、自分が持ち得ぬものだった。
同じようにハグを返してくれた彼女は、瞳を潤ませてこちらを見上げる。
男みたいに身長があるこちらと違い、彼女はとても小さい。


「ねぇ。貴女も村に戻ってきなさいよ。シスターだって寂しがってるわ」
「・・・それは無理よ。私は海賊王を」
「もう、いい加減に目を覚ましなさい!」


滅多に声を荒げぬ親友の叫びに目を見開く。
怒りに頬を紅潮させ、悔しげに唇を噛んで。細い手に腕を掴まれるとがくがくと体を揺さぶられた。


「海賊王様は何も悪くないわ!」
「何を」
「彼らは襲われていた私達を助けてくださった!私達の家である孤児院を建ててくださったのも彼らよ!飢えないよう当面の食料を下さったのも、病気が蔓延しないよう薬を下さったのも、自分たちの危険を顧みずに海軍へ救難信号を送って下さったのも、私達の家族の墓を作って下さったのも、生き残りの皆が生きていけるよう手配して下さったのも、全部、全部海賊王様たちがして下さったことよ!貴女にナイフで刺されながらも、貴女を安全な場所まで連れてきて下さったのも、それを黙ってろと私達に言ったのも、全部全部海賊王様よ!それなのに貴女は───っ」
「止めて!!」


抱かれていた腕を振り払い、慌てて距離を取る。
もう、聞きたくなかった。
それなのに、親友は首を振ると詰め寄った。


「止めない!いい加減現実を見なさい!海賊王様が貴女のご両親を殺したはずがないわ!あの方はそんなことする人じゃない。もう二度と村が襲われないように自らの旗を掲げる許可をくれた。海賊も海軍も簡単に手出しできないよう、私達を庇護して下さった!いい加減海賊王様を敵と憎むのは止めなさい!本当は判ってるんでしょう!?」


彼女の叫びは容赦ない。
心の奥深くに閉ざして見ないようにしていた真実を暴き出す。

本当は、ずっと昔に気付いていた。

あの日、父親は自分を見て微笑んだ。
海賊王が敵ならば、あんな顔をするはずがないのだ。
命を懸けて守った娘を敵の前に残して笑って死ぬ人じゃない。

本当は、ずっと判っていた。

雨の中今にも自殺しようとしていた自分に、彼が生きる標をくれたこと。
向けられた憎悪も殺意も何もかも飲み込んで、彼は悠然と笑っていた。
おれを追いかけろと、生きる目的を残してくれた。

本当は、ずっと知っていた。

この村に立てられる海賊旗の意味を。
髑髏に麦わらのマークに自分の村が守られていたことを。

一夜の地獄の後に、残るのは苦しい生活のはずだった。
家も家族も失って、男も女も子供も怪我をして、それでも海軍が来るまで生き延びれたのは、何処からか手配された薬と保存食のおかげだった。
雨風凌げる家があった。先を工面する財宝があった。
そんなものが、何処からともなく沸いて出ることないくらい、そんなのとっくに判っていた。

でも、それを認めれば全てが崩れる。
今まで選んできた人生全てが、全部全部消えてしまう。


「だって、私にはもうそれしか手段がない!生きて、生きて生きて生きて、強くなった私を見てもらう手段が何もない!あの人を憎んでた!殺したいほど憎んでた!そうじゃなければ自分の足で立てなかった!あの人の優しさに甘えて憎む以外に私は生きる術をもてなかったの!」
「・・・っ」
「私は海賊王を追いかける。生涯かけて追い続ける。そのためなら、平穏な人生も幸せな家庭も全部全部要らないわ。私が追いつくまであの人はあそこで待っててくれる。何度だって私は向かってく。いつか───いつか、この手が届くまで、一生懸けて彼を追うわ」


涙が頬を伝って落ちる。
涙を流すのは、あの日海賊王に敗れて以来だ。
あんなに一方的に負けると思っていなかった。一太刀だけでも浴びせれるものと信じてた。
それは驕りに過ぎなくて、いつかと同じで彼はうんと高い場所で、こちらを見て笑うだけ。

『追いかけて来い』と誘ってそのまま背を向けるだけ。


「いくら恩があったとしても、彼は所詮海賊よ。そして私は海兵なの。───私はこの手で必ず彼を追い詰める」


そして───そうして、遙かな先で、もしこの手が届くことがあったなら、そんな未来を掴めたのなら。


「あの高みまで私は上る。彼に並ぶ存在に、私はかならずなってみせる」
「・・・それって」
「何?」
「それって、まるで熱烈な片想いみたいね」


泣きそうな顔で笑った親友は、もう一度私を抱きしめた。
腕の中の温もりは私の捨てた全てを持っている。
後悔なんてしない。
選んだのは、高みで笑う残酷な男。
生半可な努力じゃ辿り着かないその場所で、早く来いと手招く人。

必ず追いついてみせる。
待っていると笑ったあの人を捕まえる。

そうして、もし、奇跡が起こったなら。
この複雑な想いにも、名前をつけることが出来るのかもしれない。

拍手[39回]

*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





サニー号の甲板から岸を見下ろし、咥えている煙草に火をつける。
赤く灯った先端に、一度大きく息を吸い込んでゆっくり紫煙を吐き出した。


「頼むよ、助けてくれよ!!」


一瞬だけ白い煙で視界は邪魔をされたが、煙が晴れればやはり同じようにそこには人間が存在して、華奢な体を縮めて土下座する子供を無感動に眺める。
ちらり、と視線を横に向ければ、そこには船の縁の上で器用に胡坐を掻く船長が居て、ガラス玉のような瞳は何の感情も映していない。

もう一度煙を胸に吸い込むと、沈黙を続ける間を持たせるようにふうっと息を吐き出した。


「頼むよ、あんた海賊王なんだろ!?強いんだろ!?助けてくれよ!」


一方的に身勝手な願いを叫び続ける子供は、小さな顔を涙で歪めていた。
ここから村までは大人の足でも一時間は掛かる。
その距離を全力で走ってきたらしい子供の手足は擦り切れ血塗れだった。

狂ったように助けを求めるこの子供は、先日訪れた村の住人だろう。
確か、肉を買いに行った時に、道の端で擦れ違い様に石を投げられた。
いらっとしたが海賊である以上こんな経験も一度や二度じゃない。
大人の男なら遠慮なく蹴り倒したが、まさか自分の腰ほどの子供をぶっ飛ばすわけにも行かず見逃した。

この島は海軍と癒着があり、海賊への嫌悪感が強い。
必要物資の調達だけ済ましたらすぐに出立する予定だった。
それが地味に延期されているのは、目の前で土下座を続ける子供のせいであり、何も言わずに黙ってその光景を眺める船長が居るからだ。

海軍への癒着のある島は、それほどいい思い出がない。
大抵は島の権力者が海軍のカスと金でつてを作り、虎の威をかる狐状態で過ごしている場合が多いからだ。
かくいうこの島もその例外に漏れず、田舎であるくせに妙な権力意識があり、自分たちがに手が伸びなかったのは海賊王の一団だったからだろう。

それが何故、忌むべき海賊の前で土下座をしているかと言えば、欲をかいた人物がこの島に居たからだ。
海賊王の一味がこの島へ居ると連絡し、おかげで海軍が大挙して来た。
正義を背負う彼らは、必ずしも弱者の味方ではない。
むしろ上に昇れば昇るほど、大義の前の小事は仕方ないと嘯く輩ばかりだ。
この島に派遣された海軍も、そういう人物の指揮下にあったのだろう。

村から離れた場所に隠れるようにして船をつけた海賊王の一味に、まだ彼らは気付いていない。
だがこちらからは丁度彼らが村を攻める様子がよく見えた。
今こうしている間にも砲撃は続き、村は焼け家は破壊されている。
この子供が助けを請いに来たのも、海軍のあまりの酷さに耐えかねたからだろう。

しかし現状は理解できたが、子供の認識は甘すぎる。


「なぁ、お前」
「っ」
「何でおれたちがお前らを助けなきゃいけねぇんだ?お前ら、昨日おれたちに早く島を出てけって言ってたじゃねぇか。あの海軍だっておれらを捕まえに来た奴らだろ?どうしておれたちがそんな奴らの前にのこのこ出てかなきゃいけねぇんだ?」
「それはっ、確かにあいつらを呼んだのは村長だけど・・・でも、海軍があんな酷いことすると思わなかったんだ!このままじゃ皆海軍の奴らに殺されちまう!頼むよ、お前ら強いんだろ!?助けてくれよ!!」


一方的な押し付けをする子供に、サンジはじとりと眉を寄せた。
サンジだけではない。
この船に乗っているクルー達は、皆が皆大体同じ反応だ。
唯一おどおどしているのは心優しき船医くらいで、ナミとウソップは呆れを前面に出してるし、ゾロは嫌そうに顔を顰めている。
ロビンとブルック、フランキーは感情は顔に出していないが、助け舟を出す気はさらさらになさそうだった。
サンジとて彼らと同じ気持ちだ。
何故自分たちを排除しようとした奴らを好き好んで助けねばいけないのか。
あまりに図々しい願いに、うんざりとため息を吐く。

意味が判んねぇと呟いたルフィは、頭を掻きながら子供に問う。


「お前さ、自分を殺すために手引きした奴、進んで助けたいと思うか?」
「・・・でも、このままだと皆死んじゃうんだ!」
「それって自業自得って奴だろ?おれたちは海賊だ。正義の味方じゃねぇ」
「そんなのは知ってる!おれだってお前らなんかに懇願したくねぇ!でも、他に誰も居ないんだ!おれじゃ何も出来ずに死んじまう、だからっ」
「・・・都合がいいことばっか言うなぁ、お前。確かにおれらは強いけどさ、別に始めから勝ち続けてきたわけじゃないぞ?何度だって死に掛けた。それでも諦めないから生きて此処に居る。───お前さ、さっきから助けて助けてって言ってるけど、お前は村の奴らのために何したんだ?」
「おれは・・・っ」
「自分は何もしないで助けを求めるなんて、甘い考えだと思わないのか?
自分は何も危険を冒さないで、おれたちだけに命懸けろって?知り合い未満のお前のために、どうしておれたちがそんなことしなきゃなんねぇんだ?意味が判んねぇ」


緩く首を振ったルフィに、子供は拳を握って俯いた。
噛み締めた唇からは血が流れ、青白い顔色をして今にも倒れそうだ。


「早く行ったらどうだ?こうしてる内にもお前の村の奴らは危険の中に居るぞ。絶対正義を背負った海軍はな、正義のためならなんだってする奴もいるんだぜ」


ルフィの言葉に、弾かれたように踵を返した子供は、また森の中へと駆け出した。
一直線に村へ向かい走る姿に迷いはない。
その背中を見送って、ルフィはのんびりと口を開く。


「さて、皆どうしたい?」
「おれはどうでもいい」
「私もよ。ルフィの決めたことに従うわ」
「そうだなぁ。昨日スーパー石を投げられたしなぁ」
「ヨホホホホ!確かにあれは痛かった。骨身に染みました、骨だけにっ」
「うっせーよ、テメェは!黙れ!でも、おれはちょっと気になるぜ。やっぱおれらが来なきゃこんなことにはなんなかったろうしな」
「おれは、助けに行きたい。あれじゃ一方的な侵略だ!怪我人が出るかもしれねぇし、そしたら医者はいるだろ?」
「甘いわねぇ、チョッパーは。───そうね、私なら地獄の沙汰も金次第。無償奉仕なら嫌よ」
「んー・・・おれは肉が欲しいな、肉。サンジ、昨日食料の調達はどうだった?」
「バッチリ・・・て言いてぇが、少し微妙だな」
「んなら、ナミの案を取って報酬制にするか?」
「面倒だな。それだと終わった後も関わらなきゃいけねぇだろ。おれたちは海賊だ。どさくさに紛れて奪えばいい」
「あ、それいいかも!海軍からも村からもせしめて、一気に大金持ちよ!」
「お前そんなのばっかだなぁ」


ししし、と頭の後ろで腕を組み、ルフィは面白そうに笑った。
視線だけでフランキーに指示を出すと、船は岸から徐々に離れる。
目標とする場所はそれぞれ判っており、各々の武器を取り出し構えた。


「んじゃ、ナミとゾロの案を採用だ。海賊らしく野蛮にいこう」


にっと好戦的な笑顔を浮かべたルフィに、同じような笑みを浮かべて仲間は頷く。
ルフィの本心がどこにあるかは知らないが、彼が決めたら船の総意だ。

近づくサニー号に軍艦が気付いたのか、威嚇ではなく大袍が撃たれた。
甲板に落ちそうになったそれは蹴り返し、横目で笑う船長の顔を伺う。

一瞬だけ視線が重なったルフィは、無言で小さく微笑んだ。
それは、海賊らしくない、とても無邪気で柔らかな笑みだった。

拍手[36回]

>>木葉様

こんばんは、木葉様!
ワンピース、ついに出向しましたね!
魚人島へ進みだしましたね!!

いやぁ二年振りとはいえ、サンジの反応に若干引きました。
なにやら女に対する態度が、もう本当に病気になってないですかあれ(汗)
勿論、今でも大好きですけど!
久しぶりに麦わら海賊団全員が揃ったのを見て、ほのぼのーと胸が熱くなりました!

レイリーさん見送った際の回想に、ルフィは本当に可愛がられてたんだなぁと嬉しくなります。
絶対にロジャーと被ってますよねw
それとは別に、弟子としても可愛く思うのでしょうねw
そしてハンコックや、他のメンバーに協力した人たち、全員の力を借りて麦わら海賊団は新たな旅へと向かいだしましたねw
続きが、今日読んだばかりなのに、もう続きが気になる次第です!!!
サンジやゾロのレベルアップも含め、他の面々の強さも気になります。
ロビンなんて一番どうなったんだろうと私的には気になってます。
あの能力、あれ以上どう伸びるのでしょう?
革命軍のサボとの連絡役になるのでしょうか?
もう今から気になって仕方ないです!!

また是非ワンピ語りしましょうね!!!
Web拍手、ありがとうございました!!




>>ぴよりん様

こんばんは、ぴよりん様w
いつも感想、ありがとうございますw

ワンピ話、読んでくださってありがとうございます。
実はこの話しは結構前に大部分が脳内で出来上がっていたのですが、どう表現しようとそのままお蔵入りしていたものです。
ぴよりん様が仰るとおり、私もルフィは聖人でも君子でもなければ正義の味方でもないと思います。
自分がやりたいことを傲慢なまでにまっすぐやる。
それがルフィの格好いいとこだと思ってます。
ゾロとルフィの関係も腹を立てつつ大体はゾロが折れるを前提としながら、彼は言葉どおり敵に回ったら容赦しないと思います。
この子供が真実を知ったか、一味は知りません。
そして別に知らなくても構わないと心から思ってます。
またルフィの気紛れか、程度の感想しかないのですが、それでも子供にとっては転機だったに違いないです。

そんなルフィに比べて『拝啓・・・』の勇者様はあれですね。
全く悪気ないKYなので、許してやってください(笑)
彼は自分に欠けた物があると知ってます。逆に言えば、それだけしか知りません。
なので行動は手探りで、求めるものも判りません。
伽羅にとって彼はレイノルドでないならば、嫌う価値すらありません。
厳しいですが、伽羅の価値観などそんなものです。
獣に対しても怒りはないですし、むしろ菊花が激ムカ状態です。
昨日の活動報告に【菊花vs荷葉】の小話を載せたのですが、彼らの相性は抜群に最悪です。
でも伽羅の傷に対して激怒するのは当たり前に変わらないです。
伽羅はナチュラルにストーカーされてるので慣れてますが、流石に結界を張ったりしました。
堂々と覗く彼らはある意味天晴れですけどね(大笑)

今日は無理そうなので、明日今度は梅香視点で更新予定ですw
また是非読んでやってくださいねw

いつも暖かな感想をありがとうございます!
これからも頑張りますのでまた遊びにいらして下さいw
Web拍手、ありがとうございました!!

拍手[1回]

泣かないで
--お題サイト:afaikさまより--

■な 涙じゃない雨粒だよ、泣いてるって証拠でもあるの【恋次】


雨の中一人で佇む姿に、恋次の心は酷く揺れた。
今日は仲間の命日だった。
今はもう二人きりになってしまったが、昔、まだ家族が居た頃の記憶を思い出したのだろう。

鈍重な色をした雨雲の下、全身を濡らした少女は背筋を伸ばして空を見上げる。
入学して配布されたばかりの新品の制服もぐっしょりと濡れていた。


「何やってんだ、お前はよ。風邪引くぜ?」
「ありがたいことにな、体だけは頑丈に出来てるんだ」


恋次の気配にはとうに気付いていたのだろう。
ふん、といつもどおりに小憎らしい顔で笑ったルキアは、先ほどまでの儚さを感じさせない。
見た目よりは確かに丈夫に出来ているのはわかっているが、それでも十分じゃない。
恋次に比べ華奢で小さいルキアの存在は、居なくなってしまうのではないかと酷く不安を煽った。


「泣いてたのか?」
「私が?何故だ」
「───泣いてないなら、いいんだ」


卑怯な問いかけだと知っている。
こう聞けば、素直じゃないルキアが是と応えるはずがない。
否定して欲しいと望んだからこその聞き方に、それでもルキアは恋次を詰らない。


「雨、止まなねぇな」
「ああ」


雨に隠さねば涙を零せない幼馴染も、いつか恋次を置いていってしまうのだろうか。


■か 渇いた頬にキスをして、濡らしてやりたかった【浮竹】


「朽木。お前はもう少し欲張りになってもいいんだぞ」
「・・・え?」


浮竹の唐突な言葉に、大きな釣り目がちの瞳で瞬きを繰り返すルキアは小動物のように可愛らしい。
思わず腕を伸ばして撫でてやりたいが、警戒心が強い野良属性だと知っている為伸ばしかけた手を握る。
甘やかそうとしても、毛を逆立てて距離を取るだけだろう。

動物には好かれる気質だと自認していたが、どうにも目の前の子猫のような相手には難しい。
腹心の部下はあっさりと手懐けていたのに、何がいけないのだろうか。
擦り寄ってくれば甘やかす用意は十分なんだが、と苦笑しながら薬の準備をするルキアを眺める。


「なぁ、朽木」
「はい」
「俺が憎いか?」


卑怯な問いかけに、ルキアの瞳はまん丸に見開かれた。
無防備な様子は子供みたいで、浮竹の相貌は少し緩む。
だが心臓は早鐘を打ち、嫌な汗が滲んでいた。


「私が、隊長を憎む?」
「ああ」
「───ありえません。感謝こそすれ、憎むなど」
「・・・そうか」


そっと息を吐き出して笑う。
憎まれる価値すらない己に、情けなさと悲しみを感じながら。

どうして責めてくれないのか。
どうして詰ってくれないのか。
潔すぎる彼女は全てを己の内へと留め、外に出すことはない。
浮竹の前では涙一つ零さぬし、不平不満を漏らさない。


「すまないな、朽木」


いきなりの謝罪に驚くルキアは、きっと謝罪の意味も判らない。
無条件に彼女を可愛がった部下を脳裏に描くと、自分とのあまりの差に息が苦しくなった。


■な 慣れない事はするもんじゃない、わたしも、あなたも【一護】


腕の中の存在は、こんなに小さいものだったろうか。
酷い混乱が心を乱し、それでも抱く手を緩められない。
何故こうなったか、どうしてこうしているのか、一護はよく理解できない。

気がつけばルキアは涙を零し、気がつけば自分は抱きしめていた。

泣かせたままで居させたくなかった。
凛と背筋を伸ばしたまま、静かに涙を流す姿が切なかった。
無意識の内に腕に閉じ込め、そうして不意に気付いてしまった。

ああ、彼女はこんなにも女だったのだと。

気付きたくなかった。
強くて儚い存在を、女として意識したくなかった。
気付いてしまえば引き返せない。
手を放したくないと望んでしまう。

そんな自分に気付かないふりをしていたのに、何故今気付いてしまったのだ。


腕の中で涙を零す麗人に、一護は唇を噛み締める。
嗚咽を殺して泣く姿さえこんなにも愛しいものなんて。

気付きたく、なかったのに。


■い 祈るように君の涙を拭う、それはただの我が儘【コン】


「泣かないで下さい、姐さん」


押入れの中、一護の耳に届かぬように、声を殺して泣く人に手を伸ばす。
ぬいぐるみの掌は、落ちる雫を吸って色を変えた。
体に染みるそれの温度をコンは確かめることすら出来ない。
それでも体を胎児のように丸めて泣く彼女を放っておくなど到底無理だ。


「姐さん、泣かないで」


小さな体に寄り添って、柔らかな頬に頬を摺り寄せる。
零れる涙すら愛しい人は、とても儚く美しい。

一護を死神にしたと、巻き込んでしまったと、後悔を抱え込むこの人は、一護の前では明るいのに、夜の帳に包まれるとたまにこうして静かに泣き出す。
知っているのはコンだけで、優越感は覚えるが、それ以上に切なくて仕方がない。

だってコンじゃ涙を止めれない。
何を告げてもどう慰めても、この人は涙を流し続ける。
泣かないでと、どうかどうか涙を零さないでと、懇願と哀願を篭めてみても、その涙は止まらない。


「姐さん」


泣き続けるルキアにそっと寄り添う。
泣いてるこの人を知るのは自分だけと、喜ぶ自分を嫌悪しながら。


■で 出来損ないの泣き顔を、わたしはずっと持て余してた【ルキア】


泣き方を忘れてしまった。

朽木の広く整備された庭の片隅でぽつりと一人で佇みながら、ルキアは住んだ青空を見上げる。
最後に泣いたのはいつだっただろう。
ああ、確か恋次に養子に行けと言われたときだ。

その時から感情は止まり、何もかもが上滑りしている状態が続いていた。

綺麗な着物を与えられた。
豪華な食事を与えられた。
身に余る地位を与えられた。
昔からでは考えられない贅をつくした生活だ。

それでも心は常に渇き、何かを求め疼いている。
それが何かすらもう忘れてしまっているのに。


ぽつり、と頬に当たった雫に目を細める。
厚い雲に覆われた空が、ついに涙を零し始めた。

冷たい雨は心を潤す。
とうの昔に埋めた何か。
掘り起こすことすら諦めた何かを、その冷たさで思い出させる。


「・・・ルキア


遠くで名を呼ぶ声がした。


「兄様」


許されているのかいないのか判らない呼び名。
それでも他の呼び名は与えられておらず、するりと口から零れた言葉に密かに心が動揺する。

何かを求めてはいけない。
与えられた以上を望んではいけない。

心に決めているのに、何故名を呼ばれるたびに疼くのだろう。


「・・・誰か」


雨音が激しくなってきた。
頬に当たる雫は大きく痛みすら感じる。


「誰か、助けて」


何を求めているか、何を望んでいるか。
忘れてしまったはずなのに。
それでも漏れる救難信号は、誰にも受け取られず儚く消えた。

拍手[12回]

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ