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「結局この間は円堂のタイプが判らんかったし、今日こそ逃がさへんで」
「またぁ?食事くらいゆっくり摂ろうぜ?」
「あかん!そんなこと言って逃げる気やろ」
「別に逃げるとかじゃなくってさ・・・前にも言ったけど、俺、好みのタイプってないんだってば。人にはそれぞれいいところがあるし、魅力なんて色々だろ?」
「ほんなら、あんたはあそこに座る面々とでも付き合えるって言うんか!?」
そう言ってリカが指差したのは、食事をしている面々が集まっている一角の一つだ。
ちなみに席についているのは、綱海、土方、飛鷹、壁山、立向居としっくりきているのか異色だと驚けばいいのか微妙なメンバーだった。
リカの声に驚いたように視線をこちらに向ける綱海に苦笑して手を振る。
「悪い、綱海。ちょーっとリカが暴走中でさ」
「あー・・・そりゃなんか見たら判る」
「どうかしたんですか、円堂さん?」
「実はな」
「───何で円堂に聞いてるのに浦部が答えようとするんだ?」
「実はな!円堂の好みのタイプを突き止めようとしてんねんけど、こいつがのらりくらりとかわしよるねん」
「へー、円堂の好みのタイプか。そいや、お前の好みのタイプとか聞いたことねえな」
「せやろ?そのくせ本人はいろんな男に粉掛けられっ放しやん。せやから好みのタイプを教えろって言うたんやけど、こいつ人にはそれぞれの魅力がある、みたいな綺麗ごと言うて逃げようとするもんで、ならこいつらとも付き合えるんかい!って問いただしてる最中や」
「こいつらって、俺たちのことっすか?」
「そうや。この間のイケメン集団が居ないからあんたらで代理や」
「イケメン軍団?」
「豪炎寺、鬼道、佐久間、風丸、虎丸の五人や。ちなみにうちのお勧めは豪炎寺や!」
「豪炎寺さんっすか~。確かにイケメンっすね」
「・・・他の四人も種類は違うが、顔は整ってる」
「実際、同じ男として比べられたくない人たちですね」
「ばーか!男は顔じゃないぜ!な、円堂!」
「そうそう」
な、と笑顔を向けてきた綱海に、円堂も腕を組んでこくこくと頷く。
そんな円堂を半眼で睨んだリカは、彼らに対し著しく失礼な発言をした。
「ほんならあんたは豪炎寺たちやなく、そいつらとでも付き合えるっちゅうんか?」
どうなんや、とばかりに腰に手を当ててにじり寄るリカに苦笑する。
どうしてそこまで自分の好みのタイプが気になるのか全く理解できないが、一度気になるととことんなのはリカらしいとも言える。
「別に、普通に付き合えるよ」
『ええ!?』
「何?俺、驚くようなこと言った?」
綱海以外の面々が瞳をまん丸にして驚くのに、むしろこちらが驚いてしまう。
驚愕し動けずに居る彼らを他所に、綱海が円堂の肩を抱いて引き寄せた。
肩がぶつかり少し痛かったが、悪戯っ子のように笑う彼に円堂も釣られて苦笑する。
「ほーらな!男はやっぱ、顔じゃなくて中身だぜ」
「アホ!あの男前集団は見た目だけじゃなく中身もスペシャルや!そんなのにあっちじゃなくてこっちの三枚目集団を選ぶやなんて・・・」
「・・・ちょっとリカ、さっきから言い過ぎじゃないか?」
「だって信じられへんもん!こいつらの何処がそんなに魅力的なんや!?」
「ったく、しょうがないな、リカは。こいつらのどこが魅力的か言うのはいいけど、その代わり」
「その代わり?」
「聞いたら失礼発言を謝る事。判ったか?」
「・・・判ったわ」
悪い子ではないが、イケメン好きの友人に円堂は苦笑した。
円堂とてイケメンは嫌いじゃないが、人間の魅力はそこだけじゃない。
「まず、壁山」
「え!?俺っすか!?」
「壁山の魅力は自分の弱さに向き合って頑張れるところだ。最初から雷門にずっと居て、逃げたいことだってあっただろうし実際に逃げ出そうとしたこともあったけど、こいつは絶対に逃げなかった。それって心が強いってことだ。気が弱そうでも芯が一本しっかり通ってるのは魅力だろ」
「その、ありがとうございますっす」
「次に立向居」
「え?は、はい!」
「立向居の魅力は地道に努力が続けれるところだ。自分の力に対して謙虚で努力できる強さがある。自分を弱いと思い込むのは悪い癖だけど、その分誰に対しても当たりが柔らかい。優しくて柔軟なところが立向居の魅力だな」
「うわわわわ・・・憧れの円堂さんに褒めてもらえるなんてっ」
「次は、飛鷹」
「・・・」
「飛鷹は口下手で不器用なところがあるが、真っ直ぐだ。誰にも見えないところで努力して努力して努力して努力して、花開かせても努力したことすら口にしない。驕りと正反対の場所に居る。不器用だけど一途なところが魅力的だ」
「っ」
「そんで土方」
「おう!」
「土方は器がでかいよな。豪炎寺を匿ってくれたときも自分だって弟たちの面倒を見なきゃいけなくて大変だったろうに、苦労してるなんて全くうかがわせなかった。やるべきことを当たり前にやってるって感じだったけど、それって実は難しいことだ。しかも弟たちの面倒を見てたから家事もばっちりだ。これはかなりの良好物件と言える」
「ははは!ま、確かに家事全般出来るな!」
「最後に綱海!」
「よしきた!」
「こいつは笊の目がめちゃくちゃ粗いけど、凄く気がいい奴だよな!空気読めないし、サーフィン馬鹿だし、飛行機乗ると錯乱するけど」
「・・・俺だけ貶されてねぇか?」
「でも面倒見いいし小さなことに拘らないし一緒に居て気が楽だし、実は結構気遣いさんだよな。意外と周りを見て動くし、頼まれたら嫌って言えないお人よしだし土方と同じくらい度量がでかい!やっぱ男は器の大きさだよな!」
「さすが円堂!判ってるじゃねぇか!」
「そしてこいつら全員に言えることだが、一度付き合ったら浮気しなさそうだ!───綱海は微妙だけど」
「っ、失礼だな!俺は自分の惚れた相手は大事にするぞ!」
「ははは、冗談だって!───これだけ聞いてもこいつらに付き合う魅力ないって言えるか?」
「それは・・・、うちの負けや。酷いこと言って堪忍な」
ぐっと拳を握り頭を下げたリカを前に、誰も口を開くものはいなかった。
返事がないのを訝り顔を上げると、壁山と立向居、飛鷹は顔を真っ赤にして俯いており、土方は照れくさそうに視線を逸らしながら頬を指先で掻いている。
唯一照れていないのはにこやかな笑顔で円堂の肩を抱く綱海だけで、瞬きをして肩を竦めた。
「初心なのも魅力の一つって奴かい」
「あははは!」
「そうかもしれねぇな」
三人の笑い声が食堂に響き、イナズマジャパンの不思議そうな視線が突き刺さる。
結局円堂の好みのタイプを聞き出せなかったのにリカが気づいたのは、宿泊施設の自分の部屋に帰ってからだった。
「またぁ?食事くらいゆっくり摂ろうぜ?」
「あかん!そんなこと言って逃げる気やろ」
「別に逃げるとかじゃなくってさ・・・前にも言ったけど、俺、好みのタイプってないんだってば。人にはそれぞれいいところがあるし、魅力なんて色々だろ?」
「ほんなら、あんたはあそこに座る面々とでも付き合えるって言うんか!?」
そう言ってリカが指差したのは、食事をしている面々が集まっている一角の一つだ。
ちなみに席についているのは、綱海、土方、飛鷹、壁山、立向居としっくりきているのか異色だと驚けばいいのか微妙なメンバーだった。
リカの声に驚いたように視線をこちらに向ける綱海に苦笑して手を振る。
「悪い、綱海。ちょーっとリカが暴走中でさ」
「あー・・・そりゃなんか見たら判る」
「どうかしたんですか、円堂さん?」
「実はな」
「───何で円堂に聞いてるのに浦部が答えようとするんだ?」
「実はな!円堂の好みのタイプを突き止めようとしてんねんけど、こいつがのらりくらりとかわしよるねん」
「へー、円堂の好みのタイプか。そいや、お前の好みのタイプとか聞いたことねえな」
「せやろ?そのくせ本人はいろんな男に粉掛けられっ放しやん。せやから好みのタイプを教えろって言うたんやけど、こいつ人にはそれぞれの魅力がある、みたいな綺麗ごと言うて逃げようとするもんで、ならこいつらとも付き合えるんかい!って問いただしてる最中や」
「こいつらって、俺たちのことっすか?」
「そうや。この間のイケメン集団が居ないからあんたらで代理や」
「イケメン軍団?」
「豪炎寺、鬼道、佐久間、風丸、虎丸の五人や。ちなみにうちのお勧めは豪炎寺や!」
「豪炎寺さんっすか~。確かにイケメンっすね」
「・・・他の四人も種類は違うが、顔は整ってる」
「実際、同じ男として比べられたくない人たちですね」
「ばーか!男は顔じゃないぜ!な、円堂!」
「そうそう」
な、と笑顔を向けてきた綱海に、円堂も腕を組んでこくこくと頷く。
そんな円堂を半眼で睨んだリカは、彼らに対し著しく失礼な発言をした。
「ほんならあんたは豪炎寺たちやなく、そいつらとでも付き合えるっちゅうんか?」
どうなんや、とばかりに腰に手を当ててにじり寄るリカに苦笑する。
どうしてそこまで自分の好みのタイプが気になるのか全く理解できないが、一度気になるととことんなのはリカらしいとも言える。
「別に、普通に付き合えるよ」
『ええ!?』
「何?俺、驚くようなこと言った?」
綱海以外の面々が瞳をまん丸にして驚くのに、むしろこちらが驚いてしまう。
驚愕し動けずに居る彼らを他所に、綱海が円堂の肩を抱いて引き寄せた。
肩がぶつかり少し痛かったが、悪戯っ子のように笑う彼に円堂も釣られて苦笑する。
「ほーらな!男はやっぱ、顔じゃなくて中身だぜ」
「アホ!あの男前集団は見た目だけじゃなく中身もスペシャルや!そんなのにあっちじゃなくてこっちの三枚目集団を選ぶやなんて・・・」
「・・・ちょっとリカ、さっきから言い過ぎじゃないか?」
「だって信じられへんもん!こいつらの何処がそんなに魅力的なんや!?」
「ったく、しょうがないな、リカは。こいつらのどこが魅力的か言うのはいいけど、その代わり」
「その代わり?」
「聞いたら失礼発言を謝る事。判ったか?」
「・・・判ったわ」
悪い子ではないが、イケメン好きの友人に円堂は苦笑した。
円堂とてイケメンは嫌いじゃないが、人間の魅力はそこだけじゃない。
「まず、壁山」
「え!?俺っすか!?」
「壁山の魅力は自分の弱さに向き合って頑張れるところだ。最初から雷門にずっと居て、逃げたいことだってあっただろうし実際に逃げ出そうとしたこともあったけど、こいつは絶対に逃げなかった。それって心が強いってことだ。気が弱そうでも芯が一本しっかり通ってるのは魅力だろ」
「その、ありがとうございますっす」
「次に立向居」
「え?は、はい!」
「立向居の魅力は地道に努力が続けれるところだ。自分の力に対して謙虚で努力できる強さがある。自分を弱いと思い込むのは悪い癖だけど、その分誰に対しても当たりが柔らかい。優しくて柔軟なところが立向居の魅力だな」
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「次は、飛鷹」
「・・・」
「飛鷹は口下手で不器用なところがあるが、真っ直ぐだ。誰にも見えないところで努力して努力して努力して努力して、花開かせても努力したことすら口にしない。驕りと正反対の場所に居る。不器用だけど一途なところが魅力的だ」
「っ」
「そんで土方」
「おう!」
「土方は器がでかいよな。豪炎寺を匿ってくれたときも自分だって弟たちの面倒を見なきゃいけなくて大変だったろうに、苦労してるなんて全くうかがわせなかった。やるべきことを当たり前にやってるって感じだったけど、それって実は難しいことだ。しかも弟たちの面倒を見てたから家事もばっちりだ。これはかなりの良好物件と言える」
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「最後に綱海!」
「よしきた!」
「こいつは笊の目がめちゃくちゃ粗いけど、凄く気がいい奴だよな!空気読めないし、サーフィン馬鹿だし、飛行機乗ると錯乱するけど」
「・・・俺だけ貶されてねぇか?」
「でも面倒見いいし小さなことに拘らないし一緒に居て気が楽だし、実は結構気遣いさんだよな。意外と周りを見て動くし、頼まれたら嫌って言えないお人よしだし土方と同じくらい度量がでかい!やっぱ男は器の大きさだよな!」
「さすが円堂!判ってるじゃねぇか!」
「そしてこいつら全員に言えることだが、一度付き合ったら浮気しなさそうだ!───綱海は微妙だけど」
「っ、失礼だな!俺は自分の惚れた相手は大事にするぞ!」
「ははは、冗談だって!───これだけ聞いてもこいつらに付き合う魅力ないって言えるか?」
「それは・・・、うちの負けや。酷いこと言って堪忍な」
ぐっと拳を握り頭を下げたリカを前に、誰も口を開くものはいなかった。
返事がないのを訝り顔を上げると、壁山と立向居、飛鷹は顔を真っ赤にして俯いており、土方は照れくさそうに視線を逸らしながら頬を指先で掻いている。
唯一照れていないのはにこやかな笑顔で円堂の肩を抱く綱海だけで、瞬きをして肩を竦めた。
「初心なのも魅力の一つって奴かい」
「あははは!」
「そうかもしれねぇな」
三人の笑い声が食堂に響き、イナズマジャパンの不思議そうな視線が突き刺さる。
結局円堂の好みのタイプを聞き出せなかったのにリカが気づいたのは、宿泊施設の自分の部屋に帰ってからだった。
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「好みのタイプ?俺の?」
「そうです!一度聞いてみたかったんです、円堂先輩の好みのタイプ。この間もイタリアの白い流星と一緒にイタリアエリアでデートしてましたよね?その前はテレスさんと一緒に二人きりで守備について話して、その前はエドガーさんとお茶してたし、その前はユニコーンと一緒にサッカーしてましたよね?」
「まぁ、誘われたしな。あいつらサッカー上手いし、話が弾むんだよな~」
「で、ぶっちゃけ本命は誰ですか?世界有数のイケメンに囲まれてるんです。一人くらい好みのタイプいるでしょう?」
「好みのタイプねぇ。俺って、好みのタイプってないんだよね。みんなそれぞれいいところあるし」
「・・・それ、股掛け宣言ですか?」
「あはははは!俺が?世界のイケメンで逆ハー宣言。いいねぇ、それって女の夢じゃん」
「笑い事じゃないですよ」
いくら訴えても暖簾に腕押しの態度を変えない円堂に業を煮やした音無が、むっと唇を尖らせる。
同じ夕食の席についていた木野はむきになる音無に苦笑し、隣の冬花と顔を見合わせた。
そんな音無の様子に共感したのは恋バナが大好きなリカで、塔子が呆れるのも気にせずに笑うと現在同じように食事中のイナズマジャパンのメンバーを指差す。
「ほんなら、こいつらの中ではどいつが好みなん?」
「こいつらって───イナズマジャパンのメンバー?」
「そやそや。うちのお勧め第一弾はこいつや!」
「・・・何だ?」
食事中走り寄ったリカにいきなり指差された豪炎寺は、箸を止めて顔を上げる。
同じ席についていた鬼道、佐久間、風丸、虎丸が釣られてリカを眺め、その視線の先にいる円堂を見る。
「へぇ、リカのお勧めは豪炎寺か。意外だなあ。一哉とはタイプが違うんじゃない?」
「顔だけなら飛びぬけてイケメンやろ!」
「顔ならお兄ちゃんだって負けてませんよ!私のお勧めは断然お兄ちゃんです!お兄ちゃんは凄く格好いいんですから」
「でも顔なら佐久間君だって綺麗よね。眼帯で隠れてるけど」
「あ、それなら風丸も負けてないじゃん。二人とも女が顔負けの女顔だからな」
へらりと笑って告げた塔子に、二人の鋭い視線が突き刺さる。
どれだけ女顔でもやはり男の子。
もしかすると綺麗過ぎる顔をコンプレックスとしているのかもしれない。
二人の視線を遮るように塔子の前に立つと、円堂は苦笑する。
「ははは。二人とも、塔子に悪気はないんだ、許してやってくれよ」
「悪気がない?」
「そう言うのが一番性質が悪いんだ」
「大丈夫、大丈夫。確かにお前ら激しく女顔だけど」
『円堂』
「でも、性格この上ない男前だからな。十分魅力的な男の子だ」
からからと笑って言われ、急に褒められた二人は顔を赤らめ俯いた。
確かに女顔とコンプレックスを刺激されて憤っていたのに、これでは怒りを持続できない。
真っ赤になった二人を眺め、鬼道が柳眉を吊り上げる。
「どういうことですか、姉さん」
「あ、それはうちが説明したるわ。実はな今円堂の好みのタイプを探してるとこやねん」
「姉さんの、好みのタイプ?」
「せや。円堂ってば他のチームの面々によくデートに誘われとるんやけど」
「!?姉さん、俺は聞いてません!」
「そりゃ言ってないし。一々デートの報告をする姉って微妙じゃない?」
「微妙じゃありません!今は家を出ていますが、あなたは鬼道の娘なんですよ!ふしだらな態度は慎んでください!」
「ふしだらっつってもなぁ。別に俺へんな事してないし。単なるデートだぞ?しかもお前らの練習中に遊んでるとかじゃなく、ちゃんとオフタイムだし」
「最近部屋に行ってもいないと思ったら・・・。いつの間にそんな約束してるんですか」
「いつの間にって・・・俺たちメル友。ほれ」
「うわー、円堂羨ましいわ。これあのイケメンたちのアドレスなん?」
「そうそう」
「メール見てもいい?」
「別にいいぞ」
ほら、とあっさりと手渡された携帯を操作したリカは、鬼道たちの前でがくりと肩を落とした。
どうしたんだと近寄る彼らに向かい、持っている携帯の画面を見せ付ける。
「あかん、全部英語や。この携帯、設定がバイリンガルになっとる」
「うわ、本当だ!」
「海外仕様ですか?」
「携帯は日本製だけどね。ほら俺って一応帰国子女じゃん?英語の方が慣れててさ」
「英語なら私読めるわ」
「そんなら宜しく頼むわ。一番上のから読んだって」
「え?でも・・・」
「別に構わねぇよ、秋。どうせ大したメールしてないし」
「うん、それなら」
戸惑いながらも頷いた木野が視線を携帯に落としてメール画面を出す。
そして視線が文章を追うにつれ、徐々に顔が赤らんできた。
「ちょ、円堂君。これ・・・」
「な、大したことない内容だろ?」
「大したことないって・・・これ、ほとんどデートの誘いか口説き文句じゃない!」
『ええ!?』
「しかも日付を見ればほとんど毎日来てる」
「───どういうことですか、姉さん。大したことない内容だったんじゃなかったんですか!?」
「えー?大したことないじゃん。可愛いとか好きとか付き合ってくれとか結婚しようとかそんなんばっかだぞ」
からり、と言われたが教えられた方はたまったもんじゃない。
女性陣と男性陣が同時に奇声を上げたが、その反応は正反対だ。
思わぬ恋話に目を輝かせる女性陣と違い、焦りの滲む男性陣は顔を引きつらせている。
しかし受け取った張本人は全く気にしないとばかりに笑いながら手を振った。
「こんなん外国じゃ普通、普通!な、秋」
「え?」
「だってこいつら最初の一哉の行動にだって驚いてたんだぞ?アメリカじゃハグとキスくらい親愛の情なのにな」
「ハグとキス!?」
思わず上げてしまった声らしく、叫んだ跡に慌てて虎丸が口を押さえる。
その姿に目を丸くして、円堂はにいっと意地の悪い笑顔を浮かべた。
女子のグループから離れ座っている虎丸の前で足を止める。
にやにやとした笑顔に虎丸が身構えようとした瞬間、彼女は彼の腕を引っ張った。
「えっ!?」
「虎丸ってばマジで可愛いなぁ。何か、昔の有人みたいだ。キスしただけで真っ赤っか」
「ええ!?ええええ!?」
何が起きたか判らないとばかりに大きな瞳で激しく瞬きを繰り返す虎丸を、ぎゅうっと胸に抱き込む。
言葉通りにハグとキスを受けている虎丸は、座っているので頭が胸に埋まり顔がどんどんと赤くなった。
ませた言葉を言うこともあるが、やはり基本は小学生。
色恋沙汰に免疫がないのか、今にも湯気が出そうなくらい照れまくる。
「うーん・・・確かに、可愛いな。これは将来有望やわ」
「あはは!真っ赤だぞ、こいつ」
「確かにアメリカでは挨拶かもしれませんが、ここは日本ですからね。虎丸君もまだ小学生ってことですね」
「・・・湯気が出そう」
「円堂君!?虎丸君が可愛そうよ」
「いや、つい可愛くて。ごめんな、虎丸」
「うー・・・俺だってこれでも男なんですよ!」
「判ってる、判ってる!虎丸は将来有望な男の子だよな」
「円堂先輩!」
大きい瞳を潤ませながら怒って訴える虎丸の頭を撫でて、円堂は爽やかに笑った。
きゃんきゃんと食いつく虎丸を軽くいなす円堂に、リカは肩を竦める。
突然の出来事に呆然とした男性陣を横目に軽く息を吐き出した。
「こりゃ、上手いことごまかされたな」
「円堂はリカみたいに何でも色恋に重ねるわけじゃないってことだよ」
「あははは。確かに、そうじゃなきゃあれだけの口説き文句は流せないね」
「・・・付き合うはともかく、結婚はないわね」
好き勝手言い合う女性陣のすぐ横で、未だ硬直の解けない男性陣は瞳を丸くしたまま硬直していた。
「そうです!一度聞いてみたかったんです、円堂先輩の好みのタイプ。この間もイタリアの白い流星と一緒にイタリアエリアでデートしてましたよね?その前はテレスさんと一緒に二人きりで守備について話して、その前はエドガーさんとお茶してたし、その前はユニコーンと一緒にサッカーしてましたよね?」
「まぁ、誘われたしな。あいつらサッカー上手いし、話が弾むんだよな~」
「で、ぶっちゃけ本命は誰ですか?世界有数のイケメンに囲まれてるんです。一人くらい好みのタイプいるでしょう?」
「好みのタイプねぇ。俺って、好みのタイプってないんだよね。みんなそれぞれいいところあるし」
「・・・それ、股掛け宣言ですか?」
「あはははは!俺が?世界のイケメンで逆ハー宣言。いいねぇ、それって女の夢じゃん」
「笑い事じゃないですよ」
いくら訴えても暖簾に腕押しの態度を変えない円堂に業を煮やした音無が、むっと唇を尖らせる。
同じ夕食の席についていた木野はむきになる音無に苦笑し、隣の冬花と顔を見合わせた。
そんな音無の様子に共感したのは恋バナが大好きなリカで、塔子が呆れるのも気にせずに笑うと現在同じように食事中のイナズマジャパンのメンバーを指差す。
「ほんなら、こいつらの中ではどいつが好みなん?」
「こいつらって───イナズマジャパンのメンバー?」
「そやそや。うちのお勧め第一弾はこいつや!」
「・・・何だ?」
食事中走り寄ったリカにいきなり指差された豪炎寺は、箸を止めて顔を上げる。
同じ席についていた鬼道、佐久間、風丸、虎丸が釣られてリカを眺め、その視線の先にいる円堂を見る。
「へぇ、リカのお勧めは豪炎寺か。意外だなあ。一哉とはタイプが違うんじゃない?」
「顔だけなら飛びぬけてイケメンやろ!」
「顔ならお兄ちゃんだって負けてませんよ!私のお勧めは断然お兄ちゃんです!お兄ちゃんは凄く格好いいんですから」
「でも顔なら佐久間君だって綺麗よね。眼帯で隠れてるけど」
「あ、それなら風丸も負けてないじゃん。二人とも女が顔負けの女顔だからな」
へらりと笑って告げた塔子に、二人の鋭い視線が突き刺さる。
どれだけ女顔でもやはり男の子。
もしかすると綺麗過ぎる顔をコンプレックスとしているのかもしれない。
二人の視線を遮るように塔子の前に立つと、円堂は苦笑する。
「ははは。二人とも、塔子に悪気はないんだ、許してやってくれよ」
「悪気がない?」
「そう言うのが一番性質が悪いんだ」
「大丈夫、大丈夫。確かにお前ら激しく女顔だけど」
『円堂』
「でも、性格この上ない男前だからな。十分魅力的な男の子だ」
からからと笑って言われ、急に褒められた二人は顔を赤らめ俯いた。
確かに女顔とコンプレックスを刺激されて憤っていたのに、これでは怒りを持続できない。
真っ赤になった二人を眺め、鬼道が柳眉を吊り上げる。
「どういうことですか、姉さん」
「あ、それはうちが説明したるわ。実はな今円堂の好みのタイプを探してるとこやねん」
「姉さんの、好みのタイプ?」
「せや。円堂ってば他のチームの面々によくデートに誘われとるんやけど」
「!?姉さん、俺は聞いてません!」
「そりゃ言ってないし。一々デートの報告をする姉って微妙じゃない?」
「微妙じゃありません!今は家を出ていますが、あなたは鬼道の娘なんですよ!ふしだらな態度は慎んでください!」
「ふしだらっつってもなぁ。別に俺へんな事してないし。単なるデートだぞ?しかもお前らの練習中に遊んでるとかじゃなく、ちゃんとオフタイムだし」
「最近部屋に行ってもいないと思ったら・・・。いつの間にそんな約束してるんですか」
「いつの間にって・・・俺たちメル友。ほれ」
「うわー、円堂羨ましいわ。これあのイケメンたちのアドレスなん?」
「そうそう」
「メール見てもいい?」
「別にいいぞ」
ほら、とあっさりと手渡された携帯を操作したリカは、鬼道たちの前でがくりと肩を落とした。
どうしたんだと近寄る彼らに向かい、持っている携帯の画面を見せ付ける。
「あかん、全部英語や。この携帯、設定がバイリンガルになっとる」
「うわ、本当だ!」
「海外仕様ですか?」
「携帯は日本製だけどね。ほら俺って一応帰国子女じゃん?英語の方が慣れててさ」
「英語なら私読めるわ」
「そんなら宜しく頼むわ。一番上のから読んだって」
「え?でも・・・」
「別に構わねぇよ、秋。どうせ大したメールしてないし」
「うん、それなら」
戸惑いながらも頷いた木野が視線を携帯に落としてメール画面を出す。
そして視線が文章を追うにつれ、徐々に顔が赤らんできた。
「ちょ、円堂君。これ・・・」
「な、大したことない内容だろ?」
「大したことないって・・・これ、ほとんどデートの誘いか口説き文句じゃない!」
『ええ!?』
「しかも日付を見ればほとんど毎日来てる」
「───どういうことですか、姉さん。大したことない内容だったんじゃなかったんですか!?」
「えー?大したことないじゃん。可愛いとか好きとか付き合ってくれとか結婚しようとかそんなんばっかだぞ」
からり、と言われたが教えられた方はたまったもんじゃない。
女性陣と男性陣が同時に奇声を上げたが、その反応は正反対だ。
思わぬ恋話に目を輝かせる女性陣と違い、焦りの滲む男性陣は顔を引きつらせている。
しかし受け取った張本人は全く気にしないとばかりに笑いながら手を振った。
「こんなん外国じゃ普通、普通!な、秋」
「え?」
「だってこいつら最初の一哉の行動にだって驚いてたんだぞ?アメリカじゃハグとキスくらい親愛の情なのにな」
「ハグとキス!?」
思わず上げてしまった声らしく、叫んだ跡に慌てて虎丸が口を押さえる。
その姿に目を丸くして、円堂はにいっと意地の悪い笑顔を浮かべた。
女子のグループから離れ座っている虎丸の前で足を止める。
にやにやとした笑顔に虎丸が身構えようとした瞬間、彼女は彼の腕を引っ張った。
「えっ!?」
「虎丸ってばマジで可愛いなぁ。何か、昔の有人みたいだ。キスしただけで真っ赤っか」
「ええ!?ええええ!?」
何が起きたか判らないとばかりに大きな瞳で激しく瞬きを繰り返す虎丸を、ぎゅうっと胸に抱き込む。
言葉通りにハグとキスを受けている虎丸は、座っているので頭が胸に埋まり顔がどんどんと赤くなった。
ませた言葉を言うこともあるが、やはり基本は小学生。
色恋沙汰に免疫がないのか、今にも湯気が出そうなくらい照れまくる。
「うーん・・・確かに、可愛いな。これは将来有望やわ」
「あはは!真っ赤だぞ、こいつ」
「確かにアメリカでは挨拶かもしれませんが、ここは日本ですからね。虎丸君もまだ小学生ってことですね」
「・・・湯気が出そう」
「円堂君!?虎丸君が可愛そうよ」
「いや、つい可愛くて。ごめんな、虎丸」
「うー・・・俺だってこれでも男なんですよ!」
「判ってる、判ってる!虎丸は将来有望な男の子だよな」
「円堂先輩!」
大きい瞳を潤ませながら怒って訴える虎丸の頭を撫でて、円堂は爽やかに笑った。
きゃんきゃんと食いつく虎丸を軽くいなす円堂に、リカは肩を竦める。
突然の出来事に呆然とした男性陣を横目に軽く息を吐き出した。
「こりゃ、上手いことごまかされたな」
「円堂はリカみたいに何でも色恋に重ねるわけじゃないってことだよ」
「あははは。確かに、そうじゃなきゃあれだけの口説き文句は流せないね」
「・・・付き合うはともかく、結婚はないわね」
好き勝手言い合う女性陣のすぐ横で、未だ硬直の解けない男性陣は瞳を丸くしたまま硬直していた。
「まさか、鬼道さんと音無が兄弟だったなんて」
驚愕の事実に震える掌で顔に触れる。
動揺のあまりしばらくは動けそうにないな、なんて考えているところで不意に声が掛かった。
「さてさて土門君。今の話を聞いちゃったね?」
音無と鬼道の会話に気配を殺していた土門は、聞こえた声にびくりと体を震わせた。
慌てて顔を横に向ければ、いつの間に隣に居たのか腕を組んで壁に背を凭せ掛けている円堂と、さらに頭の後ろで腕を組んで立っている一之瀬の姿。
絶対に見られたくない二人の登場に土門は息を呑み体を強張らせた。
「よ、土門!」
「一之瀬・・・」
「板ばさみは辛いねぇ、土門」
「円堂」
にっと笑う円堂に、土門は体を震わせる。
驚きで動けないでいると、ゆっくりと壁から背を離して体をこちらに向けた。
「何でって思ってる?」
「・・・・・・」
「簡単だよ。俺、お前がサッカー部に入部した初日から、帝国のスパイって判ってたもん」
「なっ!?」
「駄目だろ、キラースライドは。あれは帝国じゃなきゃ覚えられない技だ。自分で『帝国のスパイです』って言ってるようなもんだよ」
まさか、気づかれていると思っておらず目を見開いた。
最初から知っていたなら今までの円堂の態度は何だったんだ。
自分こそ裏切っていたのに、裏切られたように感じたのはきっとそれだけ心を許していたからだろう。
唇を噛んで俯けば、ひょこりと近づいた一之瀬が下から顔を覗き込む。
「何、土門。落ち込んでるの?」
「・・・そりゃ、落ち込むだろ。まさか最初から見破られてると思ってなかったからな。今までの態度は全部俺を騙すための演技か、円堂?」
「演技?何が?」
「一緒に練習したり、笑ったり、話したりしたこと全部だよ。俺がスパイって判ってたから逆に騙してたのか?」
問いかけにきょとりとした顔をした円堂と一之瀬は、互いに顔を見合わせるとぷっと吹き出した。
けらけら笑う二人はどこか似た雰囲気を醸し出し肩を抱き合い思い切り笑顔だ。
そして笑い尽くしたと言わんばかりに目尻に涙まで溜めて漸く笑いを収めると、息を整えながら腹を抱えてこちらを見た。
「んなわけないじゃん。俺は一之瀬からお前の人となりは聞いてたし、実際に自分の目で見てもいい奴だって思った。お前、冬海先生がバスに細工しようとしたの止めてただろ」
「───そんなことまで見てたのか」
「まあね。あ、別に土門を見張ってたんじゃないぞ?冬海先生は初めから疑ってたからな」
「疑う?」
「ああ。あの先生は帝国───引いては帝国学園を率いる影山と繋がってる。違うか?」
「いや・・・当たってる。だが、何故その名前を」
問いかければ初めて円堂は黙り込み、ちらりと視線を一之瀬に向けた。
迷うような表情の円堂に一之瀬は小さく微笑みかける。
その笑顔は昔自分がよく見た彼の笑顔と全く違って、どこか男を感じさせる力強い励ますような笑みだった。
一之瀬の瞳を見詰めた円堂は、一つため息を吐くと苦笑する。
眉根を下げて困ったように笑う円堂に、土門は全てを理解した。
「俺には言えないってか」
「悪いな土門。お前を信じてないとかそういうんじゃない。ただ、俺にも言えない理由があるんだ」
きゅっと服の上から心臓の辺りの服を掴んだ笑顔はどこか切ないものを含んでいて、土門はそれ以上聞けなくなる。
黙り込んだ土門に一之瀬が近寄り、ぽんと肩を叩いた。
「その内判るよ───俺たちと一緒に戦っていればね」
「え?」
「え?って何驚いてるんだよ。お前は雷門イレブンだろ」
「けど、俺は」
「雷門にはお前の力が必要だよ、土門。お前はさっき鬼道にもうスパイは嫌だって言ってたじゃないか。なら本当に俺たちの仲間になればいい」
「そうそう!守とのサッカーは楽しいしね。俺もお前と一緒にプレイしたい」
「だが冬海先生を放っておくわけには」
「告発は俺が手紙で理事長室のドアに挟んどいたよ。夏美なら冬海先生に上手くやってくれるさ」
「・・・冬海先生は俺が帝国のスパイだって知ってる」
「なら先に皆に自分から謝っちまえばいい。お前を許さない奴なんて、雷門のサッカー部には居ないだろうよ。な、一哉」
「俺はまだ良く雷門の皆を知らないけど、守が言うならそうなんだろうね。大丈夫!いざとなれば俺と守も一緒に謝ってあげるよ」
「お前ら」
肩を組んで笑いあう二人に、土門も思わず表情が崩れた。
泣きたくなるくらいの安堵感に、自分がどれほど彼らの仲間になりたかったのか漸く理解する。
帝国とはまったく違う雷門のサッカー。
勝つために手段を選ばないのではなく、正攻法で真っ向から勝利を得る。
努力し喜びを分かち合うサッカーは、帝国では甘いとなじられるだろう。
それでも、土門どれだけプレイしても心から楽しめない帝国のサッカーより、甘いと言われても心から信頼し合える仲間とプレイしたかった。
「あ、でも一発殴られるくらいは覚悟した方がいいかもな」
「へ?」
「風丸ってああ見えて意外と手が早いんだよ。見た目可愛いけど性格男前だから」
円堂以外が口にしたならそれこそ速攻で殴られそうな発言に、土門はひくりと口の端を引きつらせた。
サッカーを楽しめる仲間を手に入れる前の試練は、自業自得とは言え存外に厳しそうだった。
驚愕の事実に震える掌で顔に触れる。
動揺のあまりしばらくは動けそうにないな、なんて考えているところで不意に声が掛かった。
「さてさて土門君。今の話を聞いちゃったね?」
音無と鬼道の会話に気配を殺していた土門は、聞こえた声にびくりと体を震わせた。
慌てて顔を横に向ければ、いつの間に隣に居たのか腕を組んで壁に背を凭せ掛けている円堂と、さらに頭の後ろで腕を組んで立っている一之瀬の姿。
絶対に見られたくない二人の登場に土門は息を呑み体を強張らせた。
「よ、土門!」
「一之瀬・・・」
「板ばさみは辛いねぇ、土門」
「円堂」
にっと笑う円堂に、土門は体を震わせる。
驚きで動けないでいると、ゆっくりと壁から背を離して体をこちらに向けた。
「何でって思ってる?」
「・・・・・・」
「簡単だよ。俺、お前がサッカー部に入部した初日から、帝国のスパイって判ってたもん」
「なっ!?」
「駄目だろ、キラースライドは。あれは帝国じゃなきゃ覚えられない技だ。自分で『帝国のスパイです』って言ってるようなもんだよ」
まさか、気づかれていると思っておらず目を見開いた。
最初から知っていたなら今までの円堂の態度は何だったんだ。
自分こそ裏切っていたのに、裏切られたように感じたのはきっとそれだけ心を許していたからだろう。
唇を噛んで俯けば、ひょこりと近づいた一之瀬が下から顔を覗き込む。
「何、土門。落ち込んでるの?」
「・・・そりゃ、落ち込むだろ。まさか最初から見破られてると思ってなかったからな。今までの態度は全部俺を騙すための演技か、円堂?」
「演技?何が?」
「一緒に練習したり、笑ったり、話したりしたこと全部だよ。俺がスパイって判ってたから逆に騙してたのか?」
問いかけにきょとりとした顔をした円堂と一之瀬は、互いに顔を見合わせるとぷっと吹き出した。
けらけら笑う二人はどこか似た雰囲気を醸し出し肩を抱き合い思い切り笑顔だ。
そして笑い尽くしたと言わんばかりに目尻に涙まで溜めて漸く笑いを収めると、息を整えながら腹を抱えてこちらを見た。
「んなわけないじゃん。俺は一之瀬からお前の人となりは聞いてたし、実際に自分の目で見てもいい奴だって思った。お前、冬海先生がバスに細工しようとしたの止めてただろ」
「───そんなことまで見てたのか」
「まあね。あ、別に土門を見張ってたんじゃないぞ?冬海先生は初めから疑ってたからな」
「疑う?」
「ああ。あの先生は帝国───引いては帝国学園を率いる影山と繋がってる。違うか?」
「いや・・・当たってる。だが、何故その名前を」
問いかければ初めて円堂は黙り込み、ちらりと視線を一之瀬に向けた。
迷うような表情の円堂に一之瀬は小さく微笑みかける。
その笑顔は昔自分がよく見た彼の笑顔と全く違って、どこか男を感じさせる力強い励ますような笑みだった。
一之瀬の瞳を見詰めた円堂は、一つため息を吐くと苦笑する。
眉根を下げて困ったように笑う円堂に、土門は全てを理解した。
「俺には言えないってか」
「悪いな土門。お前を信じてないとかそういうんじゃない。ただ、俺にも言えない理由があるんだ」
きゅっと服の上から心臓の辺りの服を掴んだ笑顔はどこか切ないものを含んでいて、土門はそれ以上聞けなくなる。
黙り込んだ土門に一之瀬が近寄り、ぽんと肩を叩いた。
「その内判るよ───俺たちと一緒に戦っていればね」
「え?」
「え?って何驚いてるんだよ。お前は雷門イレブンだろ」
「けど、俺は」
「雷門にはお前の力が必要だよ、土門。お前はさっき鬼道にもうスパイは嫌だって言ってたじゃないか。なら本当に俺たちの仲間になればいい」
「そうそう!守とのサッカーは楽しいしね。俺もお前と一緒にプレイしたい」
「だが冬海先生を放っておくわけには」
「告発は俺が手紙で理事長室のドアに挟んどいたよ。夏美なら冬海先生に上手くやってくれるさ」
「・・・冬海先生は俺が帝国のスパイだって知ってる」
「なら先に皆に自分から謝っちまえばいい。お前を許さない奴なんて、雷門のサッカー部には居ないだろうよ。な、一哉」
「俺はまだ良く雷門の皆を知らないけど、守が言うならそうなんだろうね。大丈夫!いざとなれば俺と守も一緒に謝ってあげるよ」
「お前ら」
肩を組んで笑いあう二人に、土門も思わず表情が崩れた。
泣きたくなるくらいの安堵感に、自分がどれほど彼らの仲間になりたかったのか漸く理解する。
帝国とはまったく違う雷門のサッカー。
勝つために手段を選ばないのではなく、正攻法で真っ向から勝利を得る。
努力し喜びを分かち合うサッカーは、帝国では甘いとなじられるだろう。
それでも、土門どれだけプレイしても心から楽しめない帝国のサッカーより、甘いと言われても心から信頼し合える仲間とプレイしたかった。
「あ、でも一発殴られるくらいは覚悟した方がいいかもな」
「へ?」
「風丸ってああ見えて意外と手が早いんだよ。見た目可愛いけど性格男前だから」
円堂以外が口にしたならそれこそ速攻で殴られそうな発言に、土門はひくりと口の端を引きつらせた。
サッカーを楽しめる仲間を手に入れる前の試練は、自業自得とは言え存外に厳しそうだった。
久しぶりに足を踏み入れる土地で、初めての学校の門を潜る。
アメリカとは違い制服がある日本は、同じ格好の生徒が何人も居て私服姿の自分を不思議そうに眺めていた。
しかしそんなことは今の一之瀬には欠片も気にならない。
きょろきょろと周りを見渡し、ずっと会いたかった人を探す。
彼女がいる場所は判らないが簡単に見つけ出せることは知っていた。
門に足を踏み入れてしばらく視線を彷徨わせれば、グランドと思しき場所でユニフォーム姿の少年たちがサッカーボールを転がしていた。
一之瀬の瞳が歓喜で輝く。
サッカーボールを見つけたのなら、もう会いたい人を見つけたも同然だ。
何しろ一之瀬の想い人は、稀に見るサッカー馬鹿で、自分よりも才能があるサッカープレイヤーだった。
少し小高い場所からベンチの隣に立っている少女の傍まで降りると、その練習風景を観察する。
そして吸い込まれるように視線が誘われた場所には、一之瀬の大好きなあの子が立っていた。
長かった栗色の髪が短くなり、まるで顔を隠すように黒縁のお洒落眼鏡をかけているが一之瀬が彼女を見間違うはずがない。
「・・・守、見っけ」
くしゃり、と子供みたいな顔で笑った一之瀬は、タイミングよく転がってきたボールをリフティングするとそのまま駆け出した。
「スピニングシュート!!」
久しぶりに目にする姿に瞳をまん丸にして驚いていると、その隙を狙ったようにシュート体勢に入った友人に慌てて身構えた。
勢いの乗ったシュートは相変わらずすばらしく切れがよく、豪炎寺に並ぶな、と少し苦笑する。
だがゴールを奪われる気にはならず、胸の前で拳を握った。
「ゴッドハンド!」
流れるような動きで頭上に手をやり、出現した金色の掌を操る。
一瞬だけ視線が絡み、にっと笑えば、相手はくしゃり、と楽しそうに微笑み返した。
激しい衝撃とともに体が押される。
どうやら覚えていた頃よりもパワーアップしているらしく、自然と気持ちが高揚した。
負けるか、と足に力を入れ踏みとどまると、何とか片手の中にボールが納まる。
勢いが消えたそれに息を吐くと、もう目の前には彼の姿があった。
「久し振り、守!」
自分とほとんど変わらない体型の癖に、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が詰まる。
遠くから風丸の悲鳴が聞こえた気がして苦笑した。
ぽんぽんと背中を叩き宥めたつもりが益々手に力を入れられる。
さらに頬に頬を摺り寄せられ、風丸の悲鳴が鶏を絞め殺したときのような声(聞いたことはないが)みたいになった。
「久し振り、一哉。How are you?」
「I'm fine。 And you?」
「Me too」
チュッと頬に口付けられ、同じように頬に返す。
アメリカでは慣れた仕草だが、日本に帰ってまですると思ってなかった。
漸く顔が離れると、きらきらとした大きな瞳が自分を映す。
「一之瀬君!?」
「一之瀬!!?」
背後からの声にぴくりと体を動かした一之瀬は、首だけで後ろを振り返った。
そこに居たのは木野と土門で、折角弱まった腕の力がまた強くなり、彼の機嫌が更に向上したのに気づく。
はぁ、と軽くため息を吐き出すと、疾風のような走りで駆け寄った風丸に無理やり引き離された。
そのまま腕に抱きこまれ背後からぎゅっと抱きしめられる。
ああ、厄介だなぁなんてぼんやりと考えると、鬼気迫るような響きで風丸が叫んだ。
「円堂、こいつは誰だ!?」
「───こいつは一之瀬一哉。アメリカでの俺の友達で、フィールドの魔術師って言われるほどの実力を持ってる。アメリカでも有名な天才プレイヤーだ。そんでもってついでに土門と木野の幼馴染」
「円堂君、知ってたの?」
「うん。アメリカに居るとき二人のことは耳にたこができるくらい聞かされたからな。な、一哉」
「あははは!俺もお前から何回も幼馴染の話は聞かされたけどな。心配性の幼馴染の風丸君は君だろ?」
「っ」
自分を抱きしめる風丸が息を詰めたのに気がつき、緩んだ手から身を抜け出す。
驚いたように目を丸くする風丸に、へらりと笑って見せた。
「何だ、風丸。俺がお前の話をするのは変か?」
「いや・・・だって、俺なんかの話を誰かにしているなんて、思ってもなかったから」
口元を掌で覆い俯いた風丸の髪から覗く耳は真っ赤に染まっている。
どうしようもなく照れている幼馴染に目を細め、一之瀬を振り返った。
突然の来訪は昨日受け取ったメールにも何も書かれていなかった筈だ。
悪戯が成功した子供みたいに笑っている彼は、綺麗にウィンクを決めるとまたこちらに近づいた。
しかし警戒するように間に入った風丸に苦笑すると足を止める。
「守。俺の力必要でしょ?」
「え?」
「だーかーら。守の力を活かすにはこの二年間一緒に居た俺の力が必要になるでしょ?だから、俺来たんだ」
「来たんだって・・・だってお前アメリカのジュニア選抜は?」
「勿論、通ってるよ。でも守も放っておけなかったから。マークやディランも守に宜しくって」
頭の後ろで腕を組んで笑った一之瀬は、アメリカで見たときと同じ軽やかな笑顔を浮かべた。
「約束しただろ?どっちかが心底困ってるときは、必ず助けに駆けつけるって」
「一哉」
「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーますってね」
小指を立ててこちらに向けた一之瀬に、少しだけ昔を思い出す。
『守。俺、君が困ってるときは世界の何処にいても必ず駆けつけるよ』
『んじゃ、俺も。一哉が真剣に悩んでるときは世界の何処にいても必ず隣に行く』
『じゃあ、約束』
『へ?』
『小指出して。日本人の約束は、やっぱあれでしょ』
『って、ここアメリカだぞ?』
『いいからいいから。ほら指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます』
『指切った!』
今より体は小さくて、顔立ちだってもっと幼かった。
身長だって円堂よりも低かったのに、いつの間にか視線はほとんど同じ位置にある。
僅かな時間しか離れていなかったのに男の子の成長は早いものだ。
なんとなく感慨深い気持ちになって、風丸の横から体を出すと腕を伸ばして頭を撫でる。
擽ったそうに首を竦めた表情は、やっぱり昔と少しも変わってなかった。
掲げられた手に昔と同じように音を立てて手を合わす。
ハイタッチの後から左腕を合わせ、そのまま右の腕を合わせるとがっしりと腕を組んだ。
額をつき合わせて至近距離で笑いあう。
懐かしく、穏やかな空気は心地よい。
「頼むぜ、一哉。俺、まだ目的達成してないんだ」
「判ってる。でも、無理は禁物だ。それも約束して」
「善処する───つうことで許して。そのために来てくれたんだろ」
「はぁ・・・しょうがないなぁ、本当に。じゃじゃ馬なのは相変わらずだ。───ところで話は変わるけど」
「ん?」
「髪を切った理由、きっちり教えてよね。俺、守の髪気に入ってたんだから」
にこりと微笑んだ一之瀬はどこか風丸を髣髴とさせる圧力をかける笑みを浮かべていて。
はははは、と渇いた笑みを浮かべて、一歩そっと距離を取った。
そう言えば彼が結構なフェミニストで女性の髪の手入れなどにうるさいのを思い出し、風丸の説教再来かと苦く笑った。
アメリカとは違い制服がある日本は、同じ格好の生徒が何人も居て私服姿の自分を不思議そうに眺めていた。
しかしそんなことは今の一之瀬には欠片も気にならない。
きょろきょろと周りを見渡し、ずっと会いたかった人を探す。
彼女がいる場所は判らないが簡単に見つけ出せることは知っていた。
門に足を踏み入れてしばらく視線を彷徨わせれば、グランドと思しき場所でユニフォーム姿の少年たちがサッカーボールを転がしていた。
一之瀬の瞳が歓喜で輝く。
サッカーボールを見つけたのなら、もう会いたい人を見つけたも同然だ。
何しろ一之瀬の想い人は、稀に見るサッカー馬鹿で、自分よりも才能があるサッカープレイヤーだった。
少し小高い場所からベンチの隣に立っている少女の傍まで降りると、その練習風景を観察する。
そして吸い込まれるように視線が誘われた場所には、一之瀬の大好きなあの子が立っていた。
長かった栗色の髪が短くなり、まるで顔を隠すように黒縁のお洒落眼鏡をかけているが一之瀬が彼女を見間違うはずがない。
「・・・守、見っけ」
くしゃり、と子供みたいな顔で笑った一之瀬は、タイミングよく転がってきたボールをリフティングするとそのまま駆け出した。
「スピニングシュート!!」
久しぶりに目にする姿に瞳をまん丸にして驚いていると、その隙を狙ったようにシュート体勢に入った友人に慌てて身構えた。
勢いの乗ったシュートは相変わらずすばらしく切れがよく、豪炎寺に並ぶな、と少し苦笑する。
だがゴールを奪われる気にはならず、胸の前で拳を握った。
「ゴッドハンド!」
流れるような動きで頭上に手をやり、出現した金色の掌を操る。
一瞬だけ視線が絡み、にっと笑えば、相手はくしゃり、と楽しそうに微笑み返した。
激しい衝撃とともに体が押される。
どうやら覚えていた頃よりもパワーアップしているらしく、自然と気持ちが高揚した。
負けるか、と足に力を入れ踏みとどまると、何とか片手の中にボールが納まる。
勢いが消えたそれに息を吐くと、もう目の前には彼の姿があった。
「久し振り、守!」
自分とほとんど変わらない体型の癖に、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が詰まる。
遠くから風丸の悲鳴が聞こえた気がして苦笑した。
ぽんぽんと背中を叩き宥めたつもりが益々手に力を入れられる。
さらに頬に頬を摺り寄せられ、風丸の悲鳴が鶏を絞め殺したときのような声(聞いたことはないが)みたいになった。
「久し振り、一哉。How are you?」
「I'm fine。 And you?」
「Me too」
チュッと頬に口付けられ、同じように頬に返す。
アメリカでは慣れた仕草だが、日本に帰ってまですると思ってなかった。
漸く顔が離れると、きらきらとした大きな瞳が自分を映す。
「一之瀬君!?」
「一之瀬!!?」
背後からの声にぴくりと体を動かした一之瀬は、首だけで後ろを振り返った。
そこに居たのは木野と土門で、折角弱まった腕の力がまた強くなり、彼の機嫌が更に向上したのに気づく。
はぁ、と軽くため息を吐き出すと、疾風のような走りで駆け寄った風丸に無理やり引き離された。
そのまま腕に抱きこまれ背後からぎゅっと抱きしめられる。
ああ、厄介だなぁなんてぼんやりと考えると、鬼気迫るような響きで風丸が叫んだ。
「円堂、こいつは誰だ!?」
「───こいつは一之瀬一哉。アメリカでの俺の友達で、フィールドの魔術師って言われるほどの実力を持ってる。アメリカでも有名な天才プレイヤーだ。そんでもってついでに土門と木野の幼馴染」
「円堂君、知ってたの?」
「うん。アメリカに居るとき二人のことは耳にたこができるくらい聞かされたからな。な、一哉」
「あははは!俺もお前から何回も幼馴染の話は聞かされたけどな。心配性の幼馴染の風丸君は君だろ?」
「っ」
自分を抱きしめる風丸が息を詰めたのに気がつき、緩んだ手から身を抜け出す。
驚いたように目を丸くする風丸に、へらりと笑って見せた。
「何だ、風丸。俺がお前の話をするのは変か?」
「いや・・・だって、俺なんかの話を誰かにしているなんて、思ってもなかったから」
口元を掌で覆い俯いた風丸の髪から覗く耳は真っ赤に染まっている。
どうしようもなく照れている幼馴染に目を細め、一之瀬を振り返った。
突然の来訪は昨日受け取ったメールにも何も書かれていなかった筈だ。
悪戯が成功した子供みたいに笑っている彼は、綺麗にウィンクを決めるとまたこちらに近づいた。
しかし警戒するように間に入った風丸に苦笑すると足を止める。
「守。俺の力必要でしょ?」
「え?」
「だーかーら。守の力を活かすにはこの二年間一緒に居た俺の力が必要になるでしょ?だから、俺来たんだ」
「来たんだって・・・だってお前アメリカのジュニア選抜は?」
「勿論、通ってるよ。でも守も放っておけなかったから。マークやディランも守に宜しくって」
頭の後ろで腕を組んで笑った一之瀬は、アメリカで見たときと同じ軽やかな笑顔を浮かべた。
「約束しただろ?どっちかが心底困ってるときは、必ず助けに駆けつけるって」
「一哉」
「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーますってね」
小指を立ててこちらに向けた一之瀬に、少しだけ昔を思い出す。
『守。俺、君が困ってるときは世界の何処にいても必ず駆けつけるよ』
『んじゃ、俺も。一哉が真剣に悩んでるときは世界の何処にいても必ず隣に行く』
『じゃあ、約束』
『へ?』
『小指出して。日本人の約束は、やっぱあれでしょ』
『って、ここアメリカだぞ?』
『いいからいいから。ほら指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます』
『指切った!』
今より体は小さくて、顔立ちだってもっと幼かった。
身長だって円堂よりも低かったのに、いつの間にか視線はほとんど同じ位置にある。
僅かな時間しか離れていなかったのに男の子の成長は早いものだ。
なんとなく感慨深い気持ちになって、風丸の横から体を出すと腕を伸ばして頭を撫でる。
擽ったそうに首を竦めた表情は、やっぱり昔と少しも変わってなかった。
掲げられた手に昔と同じように音を立てて手を合わす。
ハイタッチの後から左腕を合わせ、そのまま右の腕を合わせるとがっしりと腕を組んだ。
額をつき合わせて至近距離で笑いあう。
懐かしく、穏やかな空気は心地よい。
「頼むぜ、一哉。俺、まだ目的達成してないんだ」
「判ってる。でも、無理は禁物だ。それも約束して」
「善処する───つうことで許して。そのために来てくれたんだろ」
「はぁ・・・しょうがないなぁ、本当に。じゃじゃ馬なのは相変わらずだ。───ところで話は変わるけど」
「ん?」
「髪を切った理由、きっちり教えてよね。俺、守の髪気に入ってたんだから」
にこりと微笑んだ一之瀬はどこか風丸を髣髴とさせる圧力をかける笑みを浮かべていて。
はははは、と渇いた笑みを浮かべて、一歩そっと距離を取った。
そう言えば彼が結構なフェミニストで女性の髪の手入れなどにうるさいのを思い出し、風丸の説教再来かと苦く笑った。
「初めまして!俺の名前は円堂守。好きな科目は体育で、得意なスポーツはサッカーです。勉強は苦手で給食が大好きです!ずっと昔は稲妻町に住んでましたが、ここに帰ってくるのは久しぶりです。慣れないことも多いので迷惑かけると思うけど、仲良くしてください」
にこにこと満面の笑みを浮かべる円堂に、豪炎寺は瞬きを繰り返した。
先日転校生が入ったばかりのクラスなのに、また間をおかずに転校生が来たから驚いているのではない。
そうではなく、円堂が着ている制服にこそ問題があった。
だが驚く豪炎寺をよそ目に、クラスメイトは一気に盛り上がる。
先日行われたばかりのサッカー部の試合に助っ人として登場した姿を見ているものがいたからだろう。
帝国のボールを止めたキーパー。
噂は流れていたのに、転校したといった円堂本人はずっと学校に顔を見せていなかった。
試合終了から一週間が経ってもしや転校はその場しのぎの嘘だったのだろうかと疑問に思い始めたときに、その噂の張本人が現れたのだ。
盛り上がらない方がおかしいだろう。
自分のときよりも激しく質問が飛び交い、愛想よく円堂が応えていく。
しばらく問答が続いた後、漸く冬海がハンカチで汗を拭きながら間に入った。
「えー・・・円堂君は二年間アメリカで留学していて日本への帰国は久しぶりになるそうです。慣れないことも多いと思いますので、仲良くしてあげてください。ええと、円堂君の席は・・・」
「先生。俺、豪炎寺の近くがいいです」
「え!?あ、ああ・・・じゃあ、豪炎寺君の隣で。けれど豪炎寺君も転校してきたばかりなので、あまり学校のことには詳しくないですが」
「全然構いません。俺、豪炎寺と友達なんで」
「・・・・・・」
たった二回の会合しかしていないのに、相手はもう豪炎寺を友達認識しているらしく、内心で密かに驚く。
しかし一切表情に出さず、近づいてきた『彼女』を見上げた。
ぴょこんと跳ねる癖の強い栗色の髪に今日はバンダナは巻かれていない。
好奇心一杯の瞳を隠すように黒縁のお洒落眼鏡を指の先で押し上げ、さっと右手を差し出した。
見慣れた制服は綺麗に着こなされ、何の違和感もないほど似合っている。
「よろしくな、豪炎寺」
「・・・ああ」
左の肩口に入る稲妻のマーク。
自分のものと全く同じ、『男子生徒用』の学生服を身に纏った円堂は、コケティッシュな表情でウィンクを決めると人差し指を口元に当てた。
毎放課ごとに人に囲まれる円堂と結局ほとんど会話できないままに時間が過ぎ、気がつけば昼の時間になっていた。
弁当を持ち席を立ち上がろうとした豪炎寺に、隣の席から人の波を縫って円堂が声を掛ける。
「あ、豪炎寺、俺と一緒に昼飯食べない?」
「・・・・・・」
「えー!?俺たちと一緒に食おうぜ」
「そうだよ、円堂君。こないだのサッカーの試合のことも聞きたいし」
「ごめんなー。俺、幼馴染と昼は約束しててさ。豪炎寺も連れてくってメールしちゃってるんだ」
「幼馴染?この学校に幼馴染がいるのか?」
「うん!風丸一郎太って言うんだけどさ。知ってる?」
「知ってる!サッカー部のキャプテンだよね。だからこの間の試合で助っ人したの?」
「ま、そんなとこ。だからごめんな!また今度誘ってくれよ」
「しょうがねえな」
「また今度、絶対よ」
ぶつぶつと文句を言いながらも離れていったクラスメイトを見送り、豪炎寺は一つため息を吐き出した。
どうやら自分は円堂と食事を獲ることになったらしい。
応じたわけでもないのに周りの展開からなんとなく断れずに弁当を持った円堂の後に続く。
しかし聞きたいこともあるし丁度いいか、とため息一つ零してついていくと、くすくすと楽しそうに声が聞こえる。
踵を軸にこちらを振り返った彼女は自分とほとんど変わらぬ背丈で、まっすぐな瞳と視線が絡んだ。
「悪いな、豪炎寺。一人で飯食いたかったか?」
「・・・いや、別に構わない」
「目的地はサッカー部の部室だから、一度靴を変えるぞ。飲み物は一応俺が持ってる。緑茶は飲めるか?」
「大丈夫だ」
軽い会話を交す内に目的地であるサッカー部にたどり着く。
普段なら鍵が掛かっているが、幼馴染と約束していると彼女は言っていた。
風丸はサッカー部のキャプテンで、それなら鍵くらいは持っているのだろう。
躊躇いなくドアノブを回した円堂は転校初日とは思えない堂々とした態度で扉を潜った。
「やっほー、ちろた」
「だからそれは止めろって言ってるだろ、円堂!」
女性的な綺麗な顔を赤く染めて拳を握り訴える風丸に少し驚く。
普段は割りと冷静な面を見せる彼が、個人相手に熱くなるのは初めて見た。
驚く豪炎寺に気づいたらしい風丸は、こほん、と咳払いして姿勢を正す。
「態々悪いな豪炎寺。どうしても円堂がお前を呼ぶって聞かなくて」
「あー、風丸酷いんだ。それじゃ俺が凄い我侭言ったみたいじゃん」
「事実そうだろう。豪炎寺は昼はいつも一人で摂ると聞いている」
「どうしてクラスが違うお前が豪炎寺の昼時まで知ってるんだよ。・・・まさか、風丸」
「違う!!誤解だ!豪炎寺は転校当初から女子たちに人気があって」
「冗談だよ、冗談。風丸はそんじょそこらの女の子より綺麗な顔立ちしてるけど、性格は男前だもんな」
「・・・それは褒められてるのか?貶してるのか?」
「褒めてるに決まってるだろ。格好いいって言ってんだから」
「っ・・・そんなの、初めて聞いた」
顔を赤らめて照れる風丸は、とても判りやすかった。
恋愛沙汰に疎い豪炎寺でも判るくらいのあからさまな様子で、風丸は円堂に懸想しているらしい。
円堂を見てもその笑顔から気づいているかどうかは読み取れないが、関係ないか、と結論付ける。
手持ち無沙汰にしている豪炎寺に気づいた円堂が風丸に視線を向けた。
無言の訴えに気づいたらしい風丸が頷くと、にこりと笑って口を開く。
「とにかく、座ってくれ。一応片付けたんだけど」
机と椅子まで綺麗に用意されていて、促されるままに豪炎寺は腰掛けた。
弁当を置くとさりげなく隣に円堂が座る。
一瞬風丸の眉根が寄せられたが、何も言わずに彼も円堂の前に座った。
どうやら最初から円堂の弁当は風丸が持っていたらしく、座った彼女の前に弁当箱を置く。
その間にペットボトルで用意されていたお茶を紙コップに注いだ円堂が、風丸と豪炎寺の席の前に並べた。
「さて、とりあえず、いただきます!」
ぱちん、と両手を合わせた円堂が頭を下げるのにつられ同じように頭を下げる。
見れば風丸も箸を両手の親指に挟んだ状態で同じように手を合わせて頭を下げていた。
妙な行儀のよさに苦笑し弁当に手をつけ、しばらく無言が続く。
会話の皮切りをしたのはやはり円堂だった。
「それで、豪炎寺。俺に何か聞きたいことがある?」
「・・・直球だな」
「まあな。だって顔中疑問符だらけだったし。お前って感情がすぐに顔に出るな」
「そんなことは初めて言われた」
むしろあまり表情が動かず判りにくいと言われてきた。
幼い頃はそうでもなかった気がするが、母が亡くなってからはその手の言葉ばかりをもらっていた気がする。
しっかりした子供、と言われれば聞こえがいいが、何を考えているか判らないと大人たちにも言われてきたのに。
驚きで箸を止めると、風丸が苦笑した。
「円堂は人の感情を読み取るのが上手いんだ。隠し事しようとしてもすぐに見抜く」
「風丸はポーカーフェイスが苦手じゃん。澄ましてた顔して素直だもんな」
「円堂!」
「ははは!ほらな」
にっと笑った円堂を真っ赤な顔で風丸が睨む。
仲の良い様子に思わず笑うと、ちょっとだけ目を丸くした円堂は瞳を細めた。
「それで質問は?」
「お前は女なのにどうして男子用の制服を着ている」
「お、直球だな」
「婉曲に言っても仕方ないだろう。それで理由は?」
「んー・・・その方が俺には都合がいいから、だな。あ、一応ちゃんと理事長の許可は取ってるし違反はしてないから」
「理事長が、許可を?」
「そ。理由は、そうだな。理由は理事長も許可を与えるものがあるって思ってくれればいい」
「つまり理由は口にする気はないと。その上で俺にはお前の性別を黙っておけと言うのか?」
「さすが、察しがいいな、豪炎寺」
「・・・都合が良過ぎるんじゃないか?」
「俺もそう思う」
「だが、円堂がこの学校に居るためには必要なんだ。頼む、黙っていてくれないか?」
「俺にはお前たちの都合は関係ない」
「うん。───でも、態々俺の性別を口にする気もない。だろ?」
「どうして言い切れる?」
「だって豪炎寺が俺の性別を口にしても何の得もないじゃん。それにお前、告げ口とか嫌いなタイプだろ?」
「・・・・・・」
確かに円堂の言うとおりだが肯定せずに黙っていると、困ったように風丸が眉を下げた。
情けない顔をした風丸に円堂が笑い、そのままの笑顔で豪炎寺を向く。
「それに、永続的に隠せとは言わない。どうせ、いつかはばれるだろうしな」
「なら何故?」
「そうだな・・・お前にとっての夕香ちゃんみたいな存在が、俺にも居るってことだよ」
妹の名を出され、ぴくりと眉が動く。
そう言えば彼女は最初から妹の名前を口にしていた。
警戒するように瞳を細めれば、肩を竦めて弁当へ視線を戻す。
「何故、お前が夕香を知っている」
「そりゃ知ってるさ。友達だからな」
「・・・友達?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないな」
「そりゃ悪い。俺、実は小学時代のお前のサッカーの試合何度か見に行ってるんだ。その先で顔を合わせる内に仲良くなったのが夕香ちゃん。わけ合って俺とは秘密の友達だったけど、結構仲良かったんだぜ」
「・・・」
「その目、信じてないな?んー・・・でも証拠を示すのも難しいしな。・・・あ、これはどうだ?お前、夕香ちゃんにペンダント貰っただろ」
「っ、何故それを!?」
「だって最後に会った時に夕香ちゃんが言ってたからな。『お兄ちゃんがフットボールフロンティアに出場するとき、絶対に渡すんだ』って。あれはお前が小学校のときだったけど、約束は果たされたんだろう?」
小首を傾げた円堂の視線を避けるように俯く。
首から下げられたペンダントを服越しに握り締めると、その固い感触が掌に伝わる。
これは意識があった妹からの最後のプレゼントだ。
内緒で用意したと言っていた存在を円堂が知るなら、本当に夕香と友達だったのだろう。
一つため息を零す。
初めから彼女の性別を誰かに話す気はなかったが、言質は取られる運命らしい。
「判った」
「ん?」
「お前がいいと思うまで、俺の口からは性別は誰にも話さない。それでいいか?」
「やった!サンキュ、豪炎寺!」
くしゃり、と笑顔を浮かべた円堂に苦笑する。
すると益々笑みを深めた彼女は、豪炎寺に向かって爆弾を投下した。
「笑うと益々格好いいな、豪炎寺。ずっとそうしてればいいのに」
「っ!!?」
「───円堂!!」
瞳を見開き息を止めると、顔を真っ赤にした風丸が嗜めるように叫んだ。
けらけらと笑い声を上げる彼女を見詰める自分の顔は、もしかしたら風丸以上に赤いのかもしれない、なんて考え、思い切り顔を俯かせて弁当に箸を伸ばした。
にこにこと満面の笑みを浮かべる円堂に、豪炎寺は瞬きを繰り返した。
先日転校生が入ったばかりのクラスなのに、また間をおかずに転校生が来たから驚いているのではない。
そうではなく、円堂が着ている制服にこそ問題があった。
だが驚く豪炎寺をよそ目に、クラスメイトは一気に盛り上がる。
先日行われたばかりのサッカー部の試合に助っ人として登場した姿を見ているものがいたからだろう。
帝国のボールを止めたキーパー。
噂は流れていたのに、転校したといった円堂本人はずっと学校に顔を見せていなかった。
試合終了から一週間が経ってもしや転校はその場しのぎの嘘だったのだろうかと疑問に思い始めたときに、その噂の張本人が現れたのだ。
盛り上がらない方がおかしいだろう。
自分のときよりも激しく質問が飛び交い、愛想よく円堂が応えていく。
しばらく問答が続いた後、漸く冬海がハンカチで汗を拭きながら間に入った。
「えー・・・円堂君は二年間アメリカで留学していて日本への帰国は久しぶりになるそうです。慣れないことも多いと思いますので、仲良くしてあげてください。ええと、円堂君の席は・・・」
「先生。俺、豪炎寺の近くがいいです」
「え!?あ、ああ・・・じゃあ、豪炎寺君の隣で。けれど豪炎寺君も転校してきたばかりなので、あまり学校のことには詳しくないですが」
「全然構いません。俺、豪炎寺と友達なんで」
「・・・・・・」
たった二回の会合しかしていないのに、相手はもう豪炎寺を友達認識しているらしく、内心で密かに驚く。
しかし一切表情に出さず、近づいてきた『彼女』を見上げた。
ぴょこんと跳ねる癖の強い栗色の髪に今日はバンダナは巻かれていない。
好奇心一杯の瞳を隠すように黒縁のお洒落眼鏡を指の先で押し上げ、さっと右手を差し出した。
見慣れた制服は綺麗に着こなされ、何の違和感もないほど似合っている。
「よろしくな、豪炎寺」
「・・・ああ」
左の肩口に入る稲妻のマーク。
自分のものと全く同じ、『男子生徒用』の学生服を身に纏った円堂は、コケティッシュな表情でウィンクを決めると人差し指を口元に当てた。
毎放課ごとに人に囲まれる円堂と結局ほとんど会話できないままに時間が過ぎ、気がつけば昼の時間になっていた。
弁当を持ち席を立ち上がろうとした豪炎寺に、隣の席から人の波を縫って円堂が声を掛ける。
「あ、豪炎寺、俺と一緒に昼飯食べない?」
「・・・・・・」
「えー!?俺たちと一緒に食おうぜ」
「そうだよ、円堂君。こないだのサッカーの試合のことも聞きたいし」
「ごめんなー。俺、幼馴染と昼は約束しててさ。豪炎寺も連れてくってメールしちゃってるんだ」
「幼馴染?この学校に幼馴染がいるのか?」
「うん!風丸一郎太って言うんだけどさ。知ってる?」
「知ってる!サッカー部のキャプテンだよね。だからこの間の試合で助っ人したの?」
「ま、そんなとこ。だからごめんな!また今度誘ってくれよ」
「しょうがねえな」
「また今度、絶対よ」
ぶつぶつと文句を言いながらも離れていったクラスメイトを見送り、豪炎寺は一つため息を吐き出した。
どうやら自分は円堂と食事を獲ることになったらしい。
応じたわけでもないのに周りの展開からなんとなく断れずに弁当を持った円堂の後に続く。
しかし聞きたいこともあるし丁度いいか、とため息一つ零してついていくと、くすくすと楽しそうに声が聞こえる。
踵を軸にこちらを振り返った彼女は自分とほとんど変わらぬ背丈で、まっすぐな瞳と視線が絡んだ。
「悪いな、豪炎寺。一人で飯食いたかったか?」
「・・・いや、別に構わない」
「目的地はサッカー部の部室だから、一度靴を変えるぞ。飲み物は一応俺が持ってる。緑茶は飲めるか?」
「大丈夫だ」
軽い会話を交す内に目的地であるサッカー部にたどり着く。
普段なら鍵が掛かっているが、幼馴染と約束していると彼女は言っていた。
風丸はサッカー部のキャプテンで、それなら鍵くらいは持っているのだろう。
躊躇いなくドアノブを回した円堂は転校初日とは思えない堂々とした態度で扉を潜った。
「やっほー、ちろた」
「だからそれは止めろって言ってるだろ、円堂!」
女性的な綺麗な顔を赤く染めて拳を握り訴える風丸に少し驚く。
普段は割りと冷静な面を見せる彼が、個人相手に熱くなるのは初めて見た。
驚く豪炎寺に気づいたらしい風丸は、こほん、と咳払いして姿勢を正す。
「態々悪いな豪炎寺。どうしても円堂がお前を呼ぶって聞かなくて」
「あー、風丸酷いんだ。それじゃ俺が凄い我侭言ったみたいじゃん」
「事実そうだろう。豪炎寺は昼はいつも一人で摂ると聞いている」
「どうしてクラスが違うお前が豪炎寺の昼時まで知ってるんだよ。・・・まさか、風丸」
「違う!!誤解だ!豪炎寺は転校当初から女子たちに人気があって」
「冗談だよ、冗談。風丸はそんじょそこらの女の子より綺麗な顔立ちしてるけど、性格は男前だもんな」
「・・・それは褒められてるのか?貶してるのか?」
「褒めてるに決まってるだろ。格好いいって言ってんだから」
「っ・・・そんなの、初めて聞いた」
顔を赤らめて照れる風丸は、とても判りやすかった。
恋愛沙汰に疎い豪炎寺でも判るくらいのあからさまな様子で、風丸は円堂に懸想しているらしい。
円堂を見てもその笑顔から気づいているかどうかは読み取れないが、関係ないか、と結論付ける。
手持ち無沙汰にしている豪炎寺に気づいた円堂が風丸に視線を向けた。
無言の訴えに気づいたらしい風丸が頷くと、にこりと笑って口を開く。
「とにかく、座ってくれ。一応片付けたんだけど」
机と椅子まで綺麗に用意されていて、促されるままに豪炎寺は腰掛けた。
弁当を置くとさりげなく隣に円堂が座る。
一瞬風丸の眉根が寄せられたが、何も言わずに彼も円堂の前に座った。
どうやら最初から円堂の弁当は風丸が持っていたらしく、座った彼女の前に弁当箱を置く。
その間にペットボトルで用意されていたお茶を紙コップに注いだ円堂が、風丸と豪炎寺の席の前に並べた。
「さて、とりあえず、いただきます!」
ぱちん、と両手を合わせた円堂が頭を下げるのにつられ同じように頭を下げる。
見れば風丸も箸を両手の親指に挟んだ状態で同じように手を合わせて頭を下げていた。
妙な行儀のよさに苦笑し弁当に手をつけ、しばらく無言が続く。
会話の皮切りをしたのはやはり円堂だった。
「それで、豪炎寺。俺に何か聞きたいことがある?」
「・・・直球だな」
「まあな。だって顔中疑問符だらけだったし。お前って感情がすぐに顔に出るな」
「そんなことは初めて言われた」
むしろあまり表情が動かず判りにくいと言われてきた。
幼い頃はそうでもなかった気がするが、母が亡くなってからはその手の言葉ばかりをもらっていた気がする。
しっかりした子供、と言われれば聞こえがいいが、何を考えているか判らないと大人たちにも言われてきたのに。
驚きで箸を止めると、風丸が苦笑した。
「円堂は人の感情を読み取るのが上手いんだ。隠し事しようとしてもすぐに見抜く」
「風丸はポーカーフェイスが苦手じゃん。澄ましてた顔して素直だもんな」
「円堂!」
「ははは!ほらな」
にっと笑った円堂を真っ赤な顔で風丸が睨む。
仲の良い様子に思わず笑うと、ちょっとだけ目を丸くした円堂は瞳を細めた。
「それで質問は?」
「お前は女なのにどうして男子用の制服を着ている」
「お、直球だな」
「婉曲に言っても仕方ないだろう。それで理由は?」
「んー・・・その方が俺には都合がいいから、だな。あ、一応ちゃんと理事長の許可は取ってるし違反はしてないから」
「理事長が、許可を?」
「そ。理由は、そうだな。理由は理事長も許可を与えるものがあるって思ってくれればいい」
「つまり理由は口にする気はないと。その上で俺にはお前の性別を黙っておけと言うのか?」
「さすが、察しがいいな、豪炎寺」
「・・・都合が良過ぎるんじゃないか?」
「俺もそう思う」
「だが、円堂がこの学校に居るためには必要なんだ。頼む、黙っていてくれないか?」
「俺にはお前たちの都合は関係ない」
「うん。───でも、態々俺の性別を口にする気もない。だろ?」
「どうして言い切れる?」
「だって豪炎寺が俺の性別を口にしても何の得もないじゃん。それにお前、告げ口とか嫌いなタイプだろ?」
「・・・・・・」
確かに円堂の言うとおりだが肯定せずに黙っていると、困ったように風丸が眉を下げた。
情けない顔をした風丸に円堂が笑い、そのままの笑顔で豪炎寺を向く。
「それに、永続的に隠せとは言わない。どうせ、いつかはばれるだろうしな」
「なら何故?」
「そうだな・・・お前にとっての夕香ちゃんみたいな存在が、俺にも居るってことだよ」
妹の名を出され、ぴくりと眉が動く。
そう言えば彼女は最初から妹の名前を口にしていた。
警戒するように瞳を細めれば、肩を竦めて弁当へ視線を戻す。
「何故、お前が夕香を知っている」
「そりゃ知ってるさ。友達だからな」
「・・・友達?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないな」
「そりゃ悪い。俺、実は小学時代のお前のサッカーの試合何度か見に行ってるんだ。その先で顔を合わせる内に仲良くなったのが夕香ちゃん。わけ合って俺とは秘密の友達だったけど、結構仲良かったんだぜ」
「・・・」
「その目、信じてないな?んー・・・でも証拠を示すのも難しいしな。・・・あ、これはどうだ?お前、夕香ちゃんにペンダント貰っただろ」
「っ、何故それを!?」
「だって最後に会った時に夕香ちゃんが言ってたからな。『お兄ちゃんがフットボールフロンティアに出場するとき、絶対に渡すんだ』って。あれはお前が小学校のときだったけど、約束は果たされたんだろう?」
小首を傾げた円堂の視線を避けるように俯く。
首から下げられたペンダントを服越しに握り締めると、その固い感触が掌に伝わる。
これは意識があった妹からの最後のプレゼントだ。
内緒で用意したと言っていた存在を円堂が知るなら、本当に夕香と友達だったのだろう。
一つため息を零す。
初めから彼女の性別を誰かに話す気はなかったが、言質は取られる運命らしい。
「判った」
「ん?」
「お前がいいと思うまで、俺の口からは性別は誰にも話さない。それでいいか?」
「やった!サンキュ、豪炎寺!」
くしゃり、と笑顔を浮かべた円堂に苦笑する。
すると益々笑みを深めた彼女は、豪炎寺に向かって爆弾を投下した。
「笑うと益々格好いいな、豪炎寺。ずっとそうしてればいいのに」
「っ!!?」
「───円堂!!」
瞳を見開き息を止めると、顔を真っ赤にした風丸が嗜めるように叫んだ。
けらけらと笑い声を上げる彼女を見詰める自分の顔は、もしかしたら風丸以上に赤いのかもしれない、なんて考え、思い切り顔を俯かせて弁当に箸を伸ばした。
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