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「ねえ、冬姫」
「何、ルカくん」
「大きくなったら、俺のお嫁さんになって」

唐突な弟の爆弾発言に、一緒に遊んでいた琥一はぽかんと口を開けた。
今日最後のかくれんぼが終わって、夕日が沈み始めた帰り道。
いつも通り少女を間に挟んで三人で歩いている最中だった。

今までも琉夏の突拍子が無い行動に幾度か驚かされてきたが、その中でも今日のこれが一番だ。
クラスメイトの中で好きな相手が出来ただの、初恋だのと耳にすることはあっても、まだ自分には関係ないと思っていた。
実際ガキ大将でありながら男に頼られる性質である琥一に何人か相談に来ることはあっても、話を聞いて適当に頷くだけで終わりである。
琥一自身色恋沙汰の話は苦手で、どうにも照れくさくむず痒い。
第一同じ学校の女子について可愛いと思うこともなければ、嫌いじゃないと思う以上の好意も持っていなかった。
そして気づかぬ内に、琉夏もそうだと勝手に思い込んでいた。

自分よりも僅かに低い冬姫の黒目がちの瞳を見つめる琉夏の目は、きらきらと輝いている。
夕日の所為じゃなく頬は僅かに赤く染まり、はにかんだ微笑みを浮かべていた。
そうしていると琉夏は本当に綺麗な男の子で、可愛らしく華奢な冬姫と並べると一対の人形のようだ。
唐突に自分の居場所がない気がして、琥一は顔を俯けた。

胸の中が酷くもやもやとし、今まで感じたことがない消化不良な感覚に戸惑う。
唇を噛み締め顔を俯けた。
ただ、嫌だ、と何に対してかわからない気持ちが心の中で叫んだが、それを言葉にするには少しばかりプライドが高すぎた。

「私が?」
「うん」
「ルカくんのお嫁さん?」
「そう。───いや?」

こくり、と首を傾げて琉夏が冬姫を伺う。
反射的に嫌だと答えそうになった自分を、拳を強く握り締めることで押さえつけた。

冬姫が再び口を開くまで酷く長い時間が経った気がしたが、実際はそうでもなかったらしい。
ふわり、と琥一が知るどの女の子よりも可愛らしく好きだと思える笑顔を浮かべると、琉夏の手をきゅっと握った。

「いいよ」

やはり、という思いと、どうしてだよ、という想いが交差する。
琉夏は冬姫を予てから特別扱いしており、冬姫も琉夏を特別扱いしている。
彼らの間には琥一に知れない絆があり、それすら理解していたのに。
それでも二人に置いていかれた気がして、むっと唇を尖らせた。

「でも」

「コウくんも一緒ね」

ふわり、と左の手が暖かくなる。
視線を向ければ自分よりも随分と白い小さな手がつながれており、一瞬で顔が赤くなった。
気恥ずかしくて仕方ないのに、振り払えないのは冬姫の手だからだろう。
何が起きたか判らなくて、ぱちぱちと瞬きしながら冬姫を見れば、先ほど琉夏に向かっていたのと同じ、愛らしい笑顔と正面からかち合った。
益々顔に熱が集まるのを感じ、金魚のようにぱくぱく口を動かすが、結局何も言葉は出ない。

「私、ルカくんのお嫁さんになる。それで、コウくんのお嫁さんにもなる」
「コウも?」
「そう。それで、三人でずっと一緒に暮らすの。ね、いい考えでしょ?」
「───うん。そうだね。冬姫を独り占めできないのは悔しいけど、それって凄くいいアイディアだ」

冬姫の突拍子も無い言葉に、眉を寄せ難しい顔で考え込んだ琉夏は、それでも結局頷いた。

「コウくんは?」
「あ?」
「コウくんは、私がお嫁さんだと嫌?」

肩を少し超える髪を揺らし、黒目がちの瞳を僅かに潤ませた冬姫が問いかける。
その顔は卑怯だと、心の中で呟いた。
眉を下げてじっと自分を見詰める冬姫のこの表情に琥一は酷く弱い。
それこそ、大抵の無理難題は是と答えてしまうくらいに。

視線をあちこちに彷徨わせ、額に汗を掻きながら琥一が導いた応えは、結局今回も『是』の一言。
耳まで赤くなった琥一と、満足気に頷く琉夏。そして間に冬姫を挟み、三人は手を繋いで家路に着いた。

夕日に照らされた三人の長い影だけが、彼らのやりとりを見守っていた。

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