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弁慶は年に似合わず早熟な子供だった。
それは生まれ持っての聡い感覚であったり、家庭環境だったりと色々と理由があるがともかく同世代の子供とは一線を画した存在だ。
彼の特異性は自分が特異と理解しつつ周囲に馴染みこんでいるところにある。
ずば抜けて知能の高い子供である我ゆえに出来ることだが、同時に彼は子供らしさがない子供であった。
それも当然だろう。
幼稚園の年長でありながら読み書きどころか三桁の掛け算までマスターしている彼にとって、ボタンが締めれないだのトイレに一人で行けないだの下らない理由で泣き喚く五月蝿い存在と同等に見られるのはこの上ない侮辱である。
普段笑顔で隠している分、その胸の内は計り知れないものがあった。
しかし幼稚園での受けはすこぶる良い。
常に穏やかに微笑んでいる手のかからない子供。
一人で食事も片付けも着替えもトイレも出来、泣くことも我侭を言うこともせず同じクラスの他の子の面倒も進んで見る。

呆気ないほどに簡単に掌で転がる。
それが弁慶の狭い世界の内情だった。



「さわらないで」

涙で瞳に膜を張った少女は、笑顔の弁慶を睨み付けた。
差し出された手は振り払われきりきりと釣りあがった目は射抜くように鋭い。
艶やかな長い黒髪に大きな翡翠の瞳。
人形のように整った顔立ちの少女は、頬を赤く染め上げ激怒していた。
無表情に赤くなった手を眺める。
これだから子供は嫌なのだ。
大人が聞けば渋い顔をしそうな感想を内心で抱き少女を見詰めた。

表情を消した弁慶を警戒するように、腕に抱いたものを護るように身を引く。
怪我をした小鳥は力なく少女の腕の中で声を上げているが、弁慶にはその先が判っていた。
猫にでもやられたのだろう。
殺される寸前まで追いやられ、それでも無残に生き延びた小鳥は小さな掌の中で必死に羽ばたく。
だが翼は折れ所々から血が出ている姿は間もなく来る死を予感させた。

緑の瞳を怒りに染め上げた少女は弁慶から目を離さぬまま後ろへ下がる。
まるで目を離した途端襲い掛かられるとでも思っているかのような警戒のしように唇が歪んだ。


弁慶がその少女を見かけたのは幼稚園の敷地の端だった。
砂場へと誘われ足を向ける最中にしゃがみ込む姿を見つけ、近づいたのは珍しく好奇心が過ぎったからだ。
何をしているのだろうと首を傾げ、誘ったクラスメイトを先に行かせると弁慶は少女へと近づいた。
そして泣きそうな目をした少女が抱えた厄介な存在に、眉を顰めて忠告した。

『それは、もうだめですよ』

弁慶からしたら親切心だった。
助かる見込みがない存在に心を砕いても仕方がないし、何より後になって傷つくのは少女であろう。
情が移るのは見て取れたし、小鳥にとっても延命処置をするより死なせてやった方が楽に決まっている。
だが教えてやった途端、延ばした掌は弾かれた。
子供を護る親のように、動物であれば全身の毛を逆立て怒り狂ってる様子で警戒し距離を取られた。
良かれと思って教えたのに、何故ここまでされなければいけないのか。

「あなたなんて、きらい」

怒りできらきらと輝く瞳が弁慶だけを映し、可愛らしいぷっくりとした赤い唇が開くと同時に罵倒が飛ぶ。
下らない、と眉を寄せる。
だから子供は嫌いだと、滅多に見せない渋い表情を浮かべた。

「べつにすかれなくともかまいません。ですが、そのこはおいていきなさい」
「いや」
「───へたにくるしみをあたえるだけです」
「なにもしないでしぬのをみるのなんていや!あなたなんて、きらい!!」

もう一度、今度は大きな声で叫ぶと少女は踵を返し去っていった。
その後姿を見て一つため息を落とす。
馬鹿な子供だ。
何故かきゅうきゅうと痛む胸を無視して、弁慶もその場を立ち去った。



数日後、泣きながら先日会った場所にしゃがみ込む少女を見つけた。
隣には癖毛がちの髪を持つ男の子の姿。
泣いている少女の髪を幾度も幾度も梳き、慰めるように何かを言っている。

(ほら、みなさい)

だから、忠告したのにと弁慶は苦く思う。
泣くと思ったから教えてあげたのに、やはり馬鹿な子供だ。
忠告に従っていれば、一時の罪悪感と引き換えに胸が張り裂けるような悲しみは得なかった。
ぼろぼろと大粒の涙を零す少女の瞳は兔のように真っ赤だ。

(ばかなこです)

苦く考える弁慶の脳裏には、何故か泣きじゃくる少女の姿が焼き付けられるように鮮やかに残った。

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