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夕べも通された和室に入ると、その部屋の主は背筋を正し正座をしていた。
同じように彼らの正面に置いてある座布団に座り、背筋を伸ばす。
そして手をついて深々と頭を下げた。


「村長殿へ、我が上司浮竹からの文にございます」
「・・・そうか」


頷いた青年が文へと手を伸ばそうとしているのを感じ、ルキアは伏せていた頭を上げた。
そしてじっとそのオリエンタルブルーの澄んだ瞳を見つめる。彼の瞳から感情は一切読み取れない。同様に、彼の考えや意思も。
しかしその理由を最早ルキアはしっかりと悟っていた。


「失礼ながら申し上げます」
「何だ」
「私が浮竹から申し付かったのは、『村長殿へ手紙を渡す』ことであります。つまり、この手紙の所有は、氷輪丸殿あなたではなく」


青年の斜め後ろに何も発さず存在していた少年に視線を向ける。
ルキアの言葉に動揺は一切見せず、静かな観察するような目で只管注視する彼に、額に汗が浮かんだ。
緊張し震える手を強引に押さえ込み、瞳に力を篭める。
信じると決めていた。自分自身の勘と、自分の魔獣の力を。

浮竹から渡された文は重要なものだと彼に言い含められている。
人里離れた半魔獣たちと接触するからには、その意味の重大さもルキアは弁えているつもりだ。
自分の行動が上司の、最悪国への威信に傷をつける行為かも知れないと百も承知していて、その上で敢えてルキアは無礼とも言える行動を選んだ。
何故なら、本物が相手でないと意味がないからだ。
ルキアは、浮竹から信頼され仕事を任された。召喚士として次の世代への架け橋になるだろう仕事の一端だとも聞いている。
失敗は許されない。


「・・・日番谷殿。この手紙は、私の上司から、あなたへのものでございます」


震える手で握った文を持ち、氷輪丸ではなく、彼の後ろに居た冬獅郎へと文を差し出す。
客人の無礼を怒るでもなく静かに眺める氷輪丸。
そして咎めるように強い眼差しを送る冬獅郎。
彼らに挟まれルキアは身が縮む思いで判決の時を待つ。
短かったのかもしれないが、ルキアには随分と長く感じられた時は唐突に終わりを告げた。

一つため息を吐いた冬獅郎が、ルキアが差し出した文に手を伸ばしするすると封印を解く。
何も言わずに為された行動それこそが答えだと知り、ルキアは安堵で全身の力が抜けそうになった。


「いつ気がついた」
「え?」
「俺が村長だと言うのにだ。それらしい素振りはしていなかったように思うが」


淡々と響く声。それに怒りがないのを感じ取ると、少しだけ自分の考えを話すのに躊躇する。
だが藍鼠の瞳に促されるように見詰められ、渋々口を開いた。


「氷輪丸殿は日番谷殿を見ていないですが、意識は常に向いているように感じました。彼が意見を言う際には必ず一拍間があり、何かを確認していると感じたのです。それに、一挙一動を気にしすぎています。上に立つものとして下のものを気遣うのは当然かもしれませんが、その気遣いの仕方が目上のものへの態度と思えたのです」
「───あからさまだったか?」
「いえ。むしろ私が気にしすぎるのだと思います」

物心ついた時には他人の目を常に気にして生きてきた。
それは浦原からの教えでもあったし、自身の身を護る方法でもあった。
目で見て心で判断する。
朽木家の養女であるルキアには、上辺だけで蔓延る輩は掃いて捨てるほどに居て、そんな人間を朽木家のためにも近寄らせるわけには行かなかった。
痛い目を見れば自然と観察眼は身につき、行動への慎重さと、必要があれば大胆に出れる判断力も養った。
ルキアの声に何かを感じ取ったのか、文へ視線を落とした冬獅郎は、ふんと一つ鼻を鳴らした。


「名門朽木家の養女か」
「・・・ご存知でしたか」
「こんな山奥でも目と耳がきちんと機能していれば情報は入るからな」
「左様で」


冬獅郎の言葉の裏を読むと、静かに黙り込んだ。
つまり彼は完全に世俗を離れたわけではなく、朽木の家の情報が入る場所に密偵を送り込んでいるらしい。
さすが幼く見えても一つの村を纏め上げる人だと内心で感嘆の声を上げる。


「浮竹への返事をしたためる。暫し待て」


命令しなれた口調に、頷くと頭を下げた。
漸く一仕事終わったと胸を撫で下ろし、早く家に帰りたいと、置いてきた魔獣たちを思った。

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