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握力の少ない細い腕が、そっと首にさしかけられる。
くっついていて欲しいのに、今にも離れそうなそれに小さく非難の声が上がる。
不満を訴える冬姫に、幼馴染が低い声で喉を震わせた。
上目遣いで睨み上げると宥めるように苦笑され頬を膨らませる。
離れてしまった体が恋しい。
冬姫は、彼が欲しかったのに。
「私のドクログマちゃん」
がくり、とUFOキャッチャーの操作盤に項垂れる。
時代は更に動いて、ゲームセンターが主流になっていた。
メダルゲームでカジノ王気分を満喫してきたらしい琉夏が笑顔で近寄ってくるのを不機嫌に眺める。
隣で立っていた琥一が再び苦笑する気配を感じ、河豚のように頬を膨らませた。
それだけで現状を理解したのだろう、琉夏が眉を八の字に下げ苦笑する。
血の繋がりより濃い絆を持つ彼らのそうした笑い方はそっくりで、益々冬姫の機嫌は下降した。
「コウ、お姫様はまた失敗しちゃったの?」
「おう。だから止めとけって言ったんだけどな」
「音ゲーも格ゲーも落ちゲーも上手くなったのに、これだけは下手なままだな」
「だな。俺の方がまだ上手い。金をどぶに捨てるっつーのはこんな状態を言うんだな」
怒りで肩を震わす冬姫に気づいてないはずがないのに、意地悪く彼らは放し続ける。
しかしながら口にしたそれらは全て外れていないので強く物申すことも出来ない。
悔しさに唇を噛み締めてケースの中からこちらを見詰めるぬいぐるみに視線をやる。
両手を伸ばした状態でこちらを向いている彼は、絶対に自分にゲットしてもらいたいはずだ。でなければあんなにガン見してないだろう。
幼馴染に言えば益々呆れられそうな考えで頭を一杯にした冬姫は、頭上で会話をしている彼らを無視すると財布からもうワンコイン取り出す。
ダーツやボウリングと違い現在は夕食をかけた戦いは滅多にしないのに、何故こんなにも財布の中身が寂しいのか。
否、答えは初めから判っている。諦めきれない自分が悲しい。
「───そんなにあいつが欲しいの?」
「おい、ルカ」
「だってさ。冬姫、雨の中捨てられた子犬みたいな顔してる。コウはこんな冬姫放っておけるんだ?」
「・・・・・・」
「ほらみろ。コウだって放っておけないんじゃん。今更戦利品が増えたとこで気にしない気にしない」
「───気にせずにいられるか」
苦々しく呟いた琥一の言葉を無視した琉夏が、にこり、と微笑む。
「お願いして、冬姫」
「・・・そうしたら取ってくれる?」
「うんうん、任せて。はい、両手を胸の前で組んで」
「はい」
「顎を僅かに引いて視線は上目遣い。瞳は大きく瞬きを繰り返し、『お願いルカ君(ハァト)』と呟きましょう」
「お願いルカ君(はぁと)」
「よし、動画ゲット。今度からこれが冬姫の着信ボイス」
「え、これが?」
「うん。じゃあ、俺ドクログマとってあげる」
「出来そう?」
「任せて」
ウィンクをして余裕の表情で操作盤に向かったルカから携帯を受け取る。
ちょっと・・・ではなくかなり嫌だと思いながら、預かった携帯の動画を再生すると、そこにはかなり微妙な仕草の自分の姿。
恥ずかしい。穴がなくても掘って入りたいくらいに恥ずかしい。
少し冷静になった今、いい年をしてこんな仕草をしてまで強請るほどあのドクログマが欲しかったのだろうかと自分に問いかけていると、すいっと長い手が横から伸ばされ携帯を奪われた。
「琥一君?」
「え?・・・ああ」
冬姫のぶりっこシーンを再生しつつガン見する幼馴染に顔を赤くして問いかけると、何とも複雑な表情をした琥一はぎこちなく冬姫から視線を逸らす。
やっぱりあれはなかったかと内心で酷く落ち込むと、怒ったような声が上から降ってきた。
「おい」
「何?どうせ琥一君も痛い映像って思ってるんでしょ?私だって判ってるわよ」
「じゃなくてだな、その、これだけどよ」
「・・・何?」
「その・・・俺にも」
「ハイ、ストップ。取れたよ、冬姫」
「え?」
背後から寄りかかる気配に顔を上げると、目の前にドクログマを吊るされ思わず受け取る。
シュールなマスコットはすぽりと手に入り、思わずにこりと素直な笑顔が浮かぶ。
「コウは駄目だ」
「・・・何でだよ」
「だって冬姫に何もしてないだろ。俺は等価交換」
「・・・・・・」
「だからコウは駄目」
ふふんと自慢げに笑った琉夏に、琥一は悔しげに歯軋りする。
だが間に挟まれた冬姫は頭上で繰り広げられる火花散る戦いに一切の興味を見せない。
どころか喉元過ぎれば熱さ忘れるの典型で掌サイズのドクログマの頭を撫でた。
「琉夏君ありがとう」
ふわりと白百合を思わせる優雅で典雅、それでいて心を和ませる微笑みが向けられ、琉夏は照れたように頬を掻く。
それを見た琥一は、面白くなさそうに舌打した。
「こちらこそ。これで暫くおかずには困らない」
「え?」
「やめろっつーんだ、下ネタ男が!」
力いっぱい振り下ろされた琥一の拳が琉夏の頭上で激しく音を立てる。
ごつんとこちらが痛くなるような音に冬姫は眉を顰め琉夏は頭を押さえて蹲った。
「お兄ちゃん、冗談じゃん」
「お前のは絶対に冗談じゃ済まねえ」
いつになく不機嫌な琥一の額にはくっきりと青筋が浮かんでいる。
琉夏の下ネタ発言を敢えて言及しないで置こうと決めた冬姫は、琥一の手から素早く携帯を奪った。
ボタン操作に躊躇はなく、あっという間に目的の処置を施す。
「はい、琉夏君」
「ありがと、冬姫」
「ううん。気にしないで」
鮮やかな笑顔に琉夏も微笑みを返す。
そんな彼が携帯から目的の動画が消えていると気づくのは数秒後で、にたにたと性質の悪い笑みを浮かべた兄から、残念だったなとしたり顔で慰められるのはさらに数秒後。
口は災いの元とはよく言ったものだ。
くっついていて欲しいのに、今にも離れそうなそれに小さく非難の声が上がる。
不満を訴える冬姫に、幼馴染が低い声で喉を震わせた。
上目遣いで睨み上げると宥めるように苦笑され頬を膨らませる。
離れてしまった体が恋しい。
冬姫は、彼が欲しかったのに。
「私のドクログマちゃん」
がくり、とUFOキャッチャーの操作盤に項垂れる。
時代は更に動いて、ゲームセンターが主流になっていた。
メダルゲームでカジノ王気分を満喫してきたらしい琉夏が笑顔で近寄ってくるのを不機嫌に眺める。
隣で立っていた琥一が再び苦笑する気配を感じ、河豚のように頬を膨らませた。
それだけで現状を理解したのだろう、琉夏が眉を八の字に下げ苦笑する。
血の繋がりより濃い絆を持つ彼らのそうした笑い方はそっくりで、益々冬姫の機嫌は下降した。
「コウ、お姫様はまた失敗しちゃったの?」
「おう。だから止めとけって言ったんだけどな」
「音ゲーも格ゲーも落ちゲーも上手くなったのに、これだけは下手なままだな」
「だな。俺の方がまだ上手い。金をどぶに捨てるっつーのはこんな状態を言うんだな」
怒りで肩を震わす冬姫に気づいてないはずがないのに、意地悪く彼らは放し続ける。
しかしながら口にしたそれらは全て外れていないので強く物申すことも出来ない。
悔しさに唇を噛み締めてケースの中からこちらを見詰めるぬいぐるみに視線をやる。
両手を伸ばした状態でこちらを向いている彼は、絶対に自分にゲットしてもらいたいはずだ。でなければあんなにガン見してないだろう。
幼馴染に言えば益々呆れられそうな考えで頭を一杯にした冬姫は、頭上で会話をしている彼らを無視すると財布からもうワンコイン取り出す。
ダーツやボウリングと違い現在は夕食をかけた戦いは滅多にしないのに、何故こんなにも財布の中身が寂しいのか。
否、答えは初めから判っている。諦めきれない自分が悲しい。
「───そんなにあいつが欲しいの?」
「おい、ルカ」
「だってさ。冬姫、雨の中捨てられた子犬みたいな顔してる。コウはこんな冬姫放っておけるんだ?」
「・・・・・・」
「ほらみろ。コウだって放っておけないんじゃん。今更戦利品が増えたとこで気にしない気にしない」
「───気にせずにいられるか」
苦々しく呟いた琥一の言葉を無視した琉夏が、にこり、と微笑む。
「お願いして、冬姫」
「・・・そうしたら取ってくれる?」
「うんうん、任せて。はい、両手を胸の前で組んで」
「はい」
「顎を僅かに引いて視線は上目遣い。瞳は大きく瞬きを繰り返し、『お願いルカ君(ハァト)』と呟きましょう」
「お願いルカ君(はぁと)」
「よし、動画ゲット。今度からこれが冬姫の着信ボイス」
「え、これが?」
「うん。じゃあ、俺ドクログマとってあげる」
「出来そう?」
「任せて」
ウィンクをして余裕の表情で操作盤に向かったルカから携帯を受け取る。
ちょっと・・・ではなくかなり嫌だと思いながら、預かった携帯の動画を再生すると、そこにはかなり微妙な仕草の自分の姿。
恥ずかしい。穴がなくても掘って入りたいくらいに恥ずかしい。
少し冷静になった今、いい年をしてこんな仕草をしてまで強請るほどあのドクログマが欲しかったのだろうかと自分に問いかけていると、すいっと長い手が横から伸ばされ携帯を奪われた。
「琥一君?」
「え?・・・ああ」
冬姫のぶりっこシーンを再生しつつガン見する幼馴染に顔を赤くして問いかけると、何とも複雑な表情をした琥一はぎこちなく冬姫から視線を逸らす。
やっぱりあれはなかったかと内心で酷く落ち込むと、怒ったような声が上から降ってきた。
「おい」
「何?どうせ琥一君も痛い映像って思ってるんでしょ?私だって判ってるわよ」
「じゃなくてだな、その、これだけどよ」
「・・・何?」
「その・・・俺にも」
「ハイ、ストップ。取れたよ、冬姫」
「え?」
背後から寄りかかる気配に顔を上げると、目の前にドクログマを吊るされ思わず受け取る。
シュールなマスコットはすぽりと手に入り、思わずにこりと素直な笑顔が浮かぶ。
「コウは駄目だ」
「・・・何でだよ」
「だって冬姫に何もしてないだろ。俺は等価交換」
「・・・・・・」
「だからコウは駄目」
ふふんと自慢げに笑った琉夏に、琥一は悔しげに歯軋りする。
だが間に挟まれた冬姫は頭上で繰り広げられる火花散る戦いに一切の興味を見せない。
どころか喉元過ぎれば熱さ忘れるの典型で掌サイズのドクログマの頭を撫でた。
「琉夏君ありがとう」
ふわりと白百合を思わせる優雅で典雅、それでいて心を和ませる微笑みが向けられ、琉夏は照れたように頬を掻く。
それを見た琥一は、面白くなさそうに舌打した。
「こちらこそ。これで暫くおかずには困らない」
「え?」
「やめろっつーんだ、下ネタ男が!」
力いっぱい振り下ろされた琥一の拳が琉夏の頭上で激しく音を立てる。
ごつんとこちらが痛くなるような音に冬姫は眉を顰め琉夏は頭を押さえて蹲った。
「お兄ちゃん、冗談じゃん」
「お前のは絶対に冗談じゃ済まねえ」
いつになく不機嫌な琥一の額にはくっきりと青筋が浮かんでいる。
琉夏の下ネタ発言を敢えて言及しないで置こうと決めた冬姫は、琥一の手から素早く携帯を奪った。
ボタン操作に躊躇はなく、あっという間に目的の処置を施す。
「はい、琉夏君」
「ありがと、冬姫」
「ううん。気にしないで」
鮮やかな笑顔に琉夏も微笑みを返す。
そんな彼が携帯から目的の動画が消えていると気づくのは数秒後で、にたにたと性質の悪い笑みを浮かべた兄から、残念だったなとしたり顔で慰められるのはさらに数秒後。
口は災いの元とはよく言ったものだ。
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