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「いつか、あなたが教えてくれたわ」

その『いつか』の頃には決して見せなかった表情で、彼女は悲しそうに微笑んだ。
伏せられた睫毛の長さも、大好きだった髪の色も、白くて華奢な体つきも、綺麗な緑色の瞳も。
何もかも変わっていなくて、何もかも変わってしまった人。

「ボリス」

けれどどんなに何が変わっても、ボリスを呼ぶ声は変わらない。
流れる血の種類が変わったと、彼女はいつかボリスに忠告してくれた。
きっとあれは、友人であった彼女からの最終通告であったのだろう。

お気に入りの銃に触れさせるくらい、お気に入りだった可愛い少女。
どんなに何を言われても、やっぱり彼女は彼女でしかなく。
ボリスの前で銃を構える闇に紛れる漆黒スーツを纏った女性は、ボリスの大好きなアリスでしかなかった。

「臆病だから銃を持つと、初めに教えてくれたのはあなただったわ」

暗闇の中、アリスの闇に強い瞳はきちんと捉えていた。
闇に紛れているのは彼女一人ではなく複数の人間で、そして自分が囲まれていることを。
火薬の匂いは嗅ぎ慣れている。それ以上に、血の匂いも。
だから間違えることはない。真っ黒に見えるあのスーツは、どれだけの血を吸ったのだろう。
悲しげに見える理由がそれならいいのに、と漠然と思う。
それはきっと、彼女に対して残酷な望みなのだろうけど。

「銃を撃つのは簡単だわ。引き金を引く覚悟があればいいんだもの」

月が雲間に隠れ、あたりの闇が一層濃くなった。

「ねぇ、本当に簡単だったのね」

銃声に紛れて聞こえた声が、揺れていたのはきっと気のせいじゃないだろう。
それがボリスには嬉しくて、けれど同時にとても悲しかった。

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