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自分にだけ貞節を誓った穴に指を突っ込む。
しっくりとサイズの合うそこに指を絡め、琉夏は口の端を持ち上げた。
滑らかな曲線を描くボディが光に照らされ艶やかに輝く。
適度な重みにゆっくりと腕を曲げ、顔に近くまで持ってきた。

「琉夏、いっきまーす」

気の抜けた声と、それに反する気合で腕を振りかぶる。
時代はダーツからボウリングへと移行していた。



琉夏のイメージした通りの道筋を描いてマイボールが転がっていく。
高校を卒業してすぐに通っていたボーリング場でつい作ってしまったそれだったが、現在は割りと活用されていた。
手に馴染んだ重さに自分のサイズで開けられた穴。
別にマイボールでなくともそこそこ点数は稼げるのだが、やはり専用となると調子は上がる。
悔しげに唇を噛み締める冬姫と、不機嫌そうに眉間に皺を刻み込む琥一というギャラリーが居れば尚更だ。
ハンデありの対戦だが冬姫が首位を奪取する回数は少なく、琥一も僅かに及ばずという感じで勝負が続いていた。
ちなみに現在戦績は十一試合七勝一敗三分けだ。自分で言うのもなんだが、結構好調で愉しすぎる。
前回のダーツ対決は琥一が無残な敗北に喫して終えたので、もしかしたらボウリングも琉夏を派手に嵌める作戦で来るかと警戒していたが、今のところそれもなかった。
前回の琥一みたいなお色気攻撃ならいつでも来いと意気込んでいるのだが、ボウリング場では前方に立つのは無理だしついでにギャラリーも多すぎる。
そんな中で過保護な琥一が琉夏と同じ作戦に出るとは考えられなかった。
少しばかり残念だが、勝利に犠牲はつきものかと斜め上方向で納得する。
どうせ心の中の会話には誰も突っ込んだりしないだろう。

そうこうしている間に、あっという間に第八フレームへと突入する。
前回の優勝者が最後に投げる自分たちルールに乗っ取って、冬姫から最初にアプローチ場所へ立った。
最近めきめきと腕を上げている冬姫は、意外にもストライクとスペアで点を伸ばした。
琥一は一ピン残しでガーターだが、それでも十分に逆転の範囲内だ。
今のところ琉夏がトップだが油断は許されない状態だ。もっともこのギリギリのラインが楽しい。純粋に混じり気なく。
中学時代に愉しんだ危うさを含んだ享楽ではなく、子供っぽい無邪気な楽しさは数年前から琉夏のお気に入りだ。


「・・・これ、決められちゃうと不味くない琥一君」
「だな。俺らこれで何連敗だ?」
「四連敗。・・・どうする?」
「仕方ねぇ、やるか」
「了解」

ぼそぼそと聞こえてくる会話に、自然と唇が緩む。
やはり彼らには腹芸は向いていない。そこが愛しくある二人だけれど。

さて、何をするのやらと考えながら、ゆっくりとフォームを整える。
一歩二歩と歩を進め、腕を後ろに振り上げる。
その瞬間。

「ルカくん、だいすき」

たどたどしい口調で告げられた台詞は、決して大きくなかったのにするりと耳に辿り着く。
まるで子供時代を髣髴とさせる普段より少し高めの声に、体は正直に反応した。

「あ!?」

ボールは指からすっぽ抜け、マナー違反も著しい音を立ててガーターへ。
だがそれを視線で見送りつつも、琉夏は固まった姿勢から動けない。

「おしっ、成功だな」
「さすが琥一君!琉夏くんのこと良く判ってるね」
「当たり前だ。あいつは正面切っての色仕掛けは喜ぶだけだからな。動揺させるなら気を衒わねぇと」
「琥一君はストレートに弱かったけどね」
「っ!うるせぇ!」

背後で流れる緊張感のない会話を一切振り返らず、琉夏はその場でしゃがみ込む。
顔を両手で覆ったがその熱さに自分でもびっくりだ。
髪から覗く耳まで真っ赤に違いない。下手をしたらタンクトップから覗く腕も首もかもしれない。
恥ずかしくて胸が苦しくて仕方ない。
何だろう、何ていえば良いのか・・・ああ、そうだ。
今なら照れくささに悶え死んでしまいそうだ。
胸がきゅっと締め付けられて、甘酸っぱい感情で走り出してしまいたい。

「───今日は、覚悟しなきゃ駄目かも」


ガーターを連発させる作戦を考えているらしい二人に、振り回されるのかと財布の中身を計算する。
今日のところはむず痒くなる幼馴染のささやきに振り回されてあげようと、彼らに見えないようにへにゃりと表情を崩した。
レコーダー代わりに携帯で代用できないかと、頭の中で算段をたてるところが琉夏らしい部分だろう。

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