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細い腕、白い肌。
琉夏よりも更に小さい華奢な体に、反比例した大きな目。
その子は人形みたいな愛くるしい顔なのに、見た目よりも遙かに厳しい性格をしているらしい。
三人揃って初めて一緒に遊びに来た公園で、早々に絡まれた琉夏を勇ましく助けに入った冬姫に、琥一は頭を抱えたくなった。

「やめてっていってるでしょ!」

きりりと眉を吊り上げた冬姫は、ふわふわのワンピースの腰元に手を当てて怒りに頬を染める。
背後に庇われた琉夏はぽかんと口を開け、いきなり目の前に割り込まれた悪がきどもも似たり寄ったりの間抜け面。
それはそうだろう。
琉夏も大概な女顔だが、それ以前に冬姫はれっきとした女だ。
しかもかなり可愛い部類に入り、見た目だけなら大人しそうな儚い雰囲気すらある。
その美少女が生んだばかりの子を背に庇う母犬さながら(昔一度だけ見たが、それはもう怖かった)、歯をむき出さんばかりに怒っているのだ。
可愛い顔は怒ると妙な迫力があり何となく近寄り難い。
その迫力に、冬姫よりも上背のある男たちはたじたじだ。
そしてよくよく見てみれば、冬姫と琉夏に絡んでいる男たちは、クラスメイトだったりした。

はぁ、と一つため息を落とす。
冬姫に悪気がないのは判るが、あれは男の立場を理解していない。
どんな男だって、惚れた女に庇われるなんて真っ平御免だ。
付け加えるなら、琉夏は見た目以上にプライドが高い。
面倒ごとになる前に間に入った方がいいかと、琥一は苛立ちで目を細めながら険を篭める。
クラスメイトの馬鹿どもとやりあうのは慣れていたし、今更複数相手でも負ける気はなかった。
自分の可愛い弟と妹に手を出したのだ。覚悟くらいはして貰わないと割に合わない。
しかし。

「きゃっ!」

琥一が冬姫の勢いに押され行動を起こすのが遅れたために、運悪く手を上げた男の腕が冬姫の顔に当たった。
華奢な体では踏ん張りが利かず、為す術もなく砂場へ崩れ落ちる。
背中から落ちる前に慌てて間に入った琉夏が辛うじて抱きとめたが、白いまろやかな頬が真っ赤になっていた。
それを見た瞬間、琥一の頭の中が怒りで真っ白になる。
───あの馬鹿は、自分の目の前で、一体何をしてくれた?
拳を握り駆けだそうとした瞬間。

「あやまれ」
「・・・え?」
「冬姫に謝れって言ってるんだ!何、女に手を出してんだよ!殴りたいなら、俺を殴れば良いだろ!!ふざけるな!」

初めて聞いた怒声が、公園中を震わせた。
進もうとした足が思わず止まる。
その怒声の主は、あのいつもへらへらして怒りを流す琉夏が発したものだったから。
苛められても殴られても、抵抗一つしないで笑っていた琉夏のものだったから。

空気が凍ったようになり、弾けるように一人が踵を返せば、釣られて他の面々も転がるように走り出す。
冬姫を抱いているから追いかけこそしなかったが、彼らを追う琉夏の眼差しから怒気が拭われることはない。
始めて見る本気の怒りは、先ほどの冬姫の比でなく怖かった。

公園から駆け抜けた背中が消えるのを待って、心配そうに琉夏は冬姫を覗き込む。
その顔は自分が知るいつもの弟のもので、体から力が抜けそうになった。

「ごめん、冬姫。大丈夫?」
「こんなの掠り傷だよ。ルカくんこそ大丈夫だった?」
「うん。冬姫が、庇ってくれたから。・・・俺、格好悪いな」
「どうして?」
「だって、俺、女に庇ってもらった」
「・・・それ、『さべつはつげん』って言うんだよ」
「?」
「ルカくんだって私を助けてくれたじゃない」
「───それは、でも。お前、顔赤くなってるし。俺の所為だ」
「違うよ。ルカくんのおかげでこれだけで済んだんだよ。ルカくん、凄く格好よかったもん」
「俺が、格好いい?」
「うん。私を抱きしめて悪者に怒鳴ってくれたじゃない。王子様みたいだった」
「───王子様か。・・・どうせなら、ヒーローが良いな」
「正義の味方の?」
「そう。お前専用。どう?」
「ふふふ。じゃあ、コウくんより強くならないとね」
「どうして?」
「だって今はコウくんが私達のヒーローだもの」
「・・・そっか。そうだな。じゃあ、俺も強くなる」
「うん。ルカくんは強くなる」

へへへ、と頬を赤くしたままの冬姫が微笑めば、照れたように琉夏も笑った。
まるでテレビ画面の奥で放映されているヒーローと同じで、この場所から伸ばしても琥一の手は彼らに届かない気がした。

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