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「ほい、有人。熱々だから火傷しないように食べろよー」
とん、と目の前に置かれた皿に、ゴーグルの下で目が輝く。
鬼道家で出される料理と違いシンプルな皿に盛られたホットクレープにいそいそと箸を伸ばす。
本来ならナイフとフォークを使って、と行きたいが、そんな上品な食べ方はここでは必要ないだろう。
事実壁山や栗松など、マナーも関係なく美味い美味いとかっ喰らっている。
顔のそこかしこに食べかすをくっつけながら満面の笑みを浮かべる彼らは、とても嬉しそうだ。
大なり小なり反応に差はあるが、彼女の作ったデザートは好評で、鬼道は弟としても鼻が高い。
林檎とクレープに生クリームとカスタードが乗るよう苦心して切り、ぱくりと頬張る。
ふわりと香るシナモンに、しゃりしゃりとした林檎の食感。生クリームとカスタードの味付けも絶妙で、久し振りの懐かしい味に、じんわりと笑みが浮かんだ。
「美味い」
「そっか、良かった。有人は甘いもの好きだもんな」
「姉さんが昔からよく手作りしてくれたから。でもやっぱり姉さんの手作りが一番美味しい」
「ふふ、もう刷り込まれてるのかもな」
「そうかもしれない」
もう一口、とクレープに箸を伸ばしながら、言い得て妙だなと苦笑する。
まだ鬼道がほんの子供の頃から料理上手だった円堂は、よく色々なお菓子を手作りしてくれた。
料理の練習も兼ねていると言っていたが、今思えば鬼道に気を使ってくれていたのだろう。
春奈と暮らしていたときも両親はほとんど家におらず、施設に預けられてからも配られるのは既製品のおやつばかりだった。
手作りのおやつの味を知ったのは、大金持ちの財閥である鬼道の家に行ってからだ。
円堂が日本にいる間は、どれだけ忙しくても一日に一回は手作りのおやつを出してくれて、その味が鬼道は大好きだった。
懐かしさに目を細めていると、隣の風丸が口を開いた。
「まも姉が初めて作ったお菓子は、確か蒸しパンだったよな」
「おう。───ってか、よく覚えてるな。お前まだ3歳だったろ?」
「まも姉だって覚えてるじゃないか。おばさん直伝の黒糖蒸しパン。懐かしい感じの味だったよな」
「今度作ってやろうか?まだレシピは覚えてるし」
「ああ。そのときは、俺も手伝うよ」
突然幼馴染の会話を始めた二人に、林檎を租借しながらむっと柳眉を寄せた。
風丸と円堂は鬼道が知り合う前からの幼馴染らしいが、こうあからさまに過去を髣髴とさせる会話をされると面白くない。
何しろ鬼道はずっと昔から円堂を一番知っている気でいた。
自分以上に姉を理解する人間は居ないと自負していたのに、風丸が口を開くと知らなかった円堂の姿が見えてきて嫌だった。
子供っぽい独占欲だと判っているが、それを許されていた過去があるだけにすぐには切り替えられない。
唇を尖らせて無言でクレープを食べていると、優しい掌が降って来る。
「ほら、そんなにすぐに拗ねるなよ」
「───拗ねてない」
「そ?ならいいんだけど。・・・そういや、さっき監督が言ってたんだけど、近くに温泉があるから入って来いってさ」
「温泉?」
「ああ。天然温泉だってよ。混浴になるから、ちゃんと水着も持ってけな」
「・・・姉さんは行かないのか?」
「何?俺と一緒に風呂に入りたいの?」
「ッ!!?何を!!?」
「冗談だよ、冗談。俺はこっちを片付けてから行くよ。後片付けまでが料理だからな」
「なら俺も手伝おう」
「俺も」
「いらないよ。お前らは皆を連れて先に行ってな。マネージャーたちに場所を教えてるから、彼女たちも連れてってよ」
「・・・判った」
「明日は俺たちが片づけをするから」
「よし、いい子。ありがとな」
にこり、と微笑んだ円堂は、風丸と鬼道の頭を撫でると、どこからともなく取り出したトレイに食べ終わった皿をどんどんと乗せて行く。
よくよく見れば、それは先ほどおにぎりが山積みになっていたものだと気がつき、鬼道は柳眉を顰めた。
「・・・姉さん」
「ん?」
「姉さんは、きちんと食べたのか?」
よく考えれば、鬼道は円堂が食事を摂っている姿を見ていない。
山積みになっていたおにぎりは全て消えているが、自分たちが食事をしている最中に彼女はすでにデザートを作っていた気がする。
「何を言うかと思えば。当然だろ?動いた分食べないと体がもたない」
「・・・そうか」
さらりと肯定され、ほっと胸を撫で下ろした。
要領のいい姉のことだ。鬼道が気がつかない間に、食事を摂っていたのだろう。
「そんなことより、さっさと皆を風呂に連れてってやってくれ。ユニフォームの洗濯だってしなきゃならないし、早め早めの行動が望ましい。夜の内に干して乾かしたいだろ?」
「そうだな。結構、汗を掻いたし」
「だろ?俺も後から行くから、皆の引率を頼むな」
からりとした笑顔で促した円堂に、鬼道と風丸は頷いた。
その様子を確認して、トレイに載せた皿を器用にバランスを取りつつキッチンへと歩いていく。
さくさくと歩く姿を見送っていると、隣の風丸がぽつりと呟いた。
「・・・エプロンでも、プレゼントしようかな」
「俺がするから、風丸はしなくていい」
「俺が先に言い出したんだぞ。鬼道こそ余計なことはするな」
青緑色の瞳を色濃くして睨みつけてくる風丸を睨み返しながら、極めて子供っぽい喧嘩をしている自覚はあるのに全くやめる気はない。
ばちばちと火花を散らした二人は、ふんと鼻を鳴らすと顔を背けた。
男には、負けられない戦いがあるのだ。
とん、と目の前に置かれた皿に、ゴーグルの下で目が輝く。
鬼道家で出される料理と違いシンプルな皿に盛られたホットクレープにいそいそと箸を伸ばす。
本来ならナイフとフォークを使って、と行きたいが、そんな上品な食べ方はここでは必要ないだろう。
事実壁山や栗松など、マナーも関係なく美味い美味いとかっ喰らっている。
顔のそこかしこに食べかすをくっつけながら満面の笑みを浮かべる彼らは、とても嬉しそうだ。
大なり小なり反応に差はあるが、彼女の作ったデザートは好評で、鬼道は弟としても鼻が高い。
林檎とクレープに生クリームとカスタードが乗るよう苦心して切り、ぱくりと頬張る。
ふわりと香るシナモンに、しゃりしゃりとした林檎の食感。生クリームとカスタードの味付けも絶妙で、久し振りの懐かしい味に、じんわりと笑みが浮かんだ。
「美味い」
「そっか、良かった。有人は甘いもの好きだもんな」
「姉さんが昔からよく手作りしてくれたから。でもやっぱり姉さんの手作りが一番美味しい」
「ふふ、もう刷り込まれてるのかもな」
「そうかもしれない」
もう一口、とクレープに箸を伸ばしながら、言い得て妙だなと苦笑する。
まだ鬼道がほんの子供の頃から料理上手だった円堂は、よく色々なお菓子を手作りしてくれた。
料理の練習も兼ねていると言っていたが、今思えば鬼道に気を使ってくれていたのだろう。
春奈と暮らしていたときも両親はほとんど家におらず、施設に預けられてからも配られるのは既製品のおやつばかりだった。
手作りのおやつの味を知ったのは、大金持ちの財閥である鬼道の家に行ってからだ。
円堂が日本にいる間は、どれだけ忙しくても一日に一回は手作りのおやつを出してくれて、その味が鬼道は大好きだった。
懐かしさに目を細めていると、隣の風丸が口を開いた。
「まも姉が初めて作ったお菓子は、確か蒸しパンだったよな」
「おう。───ってか、よく覚えてるな。お前まだ3歳だったろ?」
「まも姉だって覚えてるじゃないか。おばさん直伝の黒糖蒸しパン。懐かしい感じの味だったよな」
「今度作ってやろうか?まだレシピは覚えてるし」
「ああ。そのときは、俺も手伝うよ」
突然幼馴染の会話を始めた二人に、林檎を租借しながらむっと柳眉を寄せた。
風丸と円堂は鬼道が知り合う前からの幼馴染らしいが、こうあからさまに過去を髣髴とさせる会話をされると面白くない。
何しろ鬼道はずっと昔から円堂を一番知っている気でいた。
自分以上に姉を理解する人間は居ないと自負していたのに、風丸が口を開くと知らなかった円堂の姿が見えてきて嫌だった。
子供っぽい独占欲だと判っているが、それを許されていた過去があるだけにすぐには切り替えられない。
唇を尖らせて無言でクレープを食べていると、優しい掌が降って来る。
「ほら、そんなにすぐに拗ねるなよ」
「───拗ねてない」
「そ?ならいいんだけど。・・・そういや、さっき監督が言ってたんだけど、近くに温泉があるから入って来いってさ」
「温泉?」
「ああ。天然温泉だってよ。混浴になるから、ちゃんと水着も持ってけな」
「・・・姉さんは行かないのか?」
「何?俺と一緒に風呂に入りたいの?」
「ッ!!?何を!!?」
「冗談だよ、冗談。俺はこっちを片付けてから行くよ。後片付けまでが料理だからな」
「なら俺も手伝おう」
「俺も」
「いらないよ。お前らは皆を連れて先に行ってな。マネージャーたちに場所を教えてるから、彼女たちも連れてってよ」
「・・・判った」
「明日は俺たちが片づけをするから」
「よし、いい子。ありがとな」
にこり、と微笑んだ円堂は、風丸と鬼道の頭を撫でると、どこからともなく取り出したトレイに食べ終わった皿をどんどんと乗せて行く。
よくよく見れば、それは先ほどおにぎりが山積みになっていたものだと気がつき、鬼道は柳眉を顰めた。
「・・・姉さん」
「ん?」
「姉さんは、きちんと食べたのか?」
よく考えれば、鬼道は円堂が食事を摂っている姿を見ていない。
山積みになっていたおにぎりは全て消えているが、自分たちが食事をしている最中に彼女はすでにデザートを作っていた気がする。
「何を言うかと思えば。当然だろ?動いた分食べないと体がもたない」
「・・・そうか」
さらりと肯定され、ほっと胸を撫で下ろした。
要領のいい姉のことだ。鬼道が気がつかない間に、食事を摂っていたのだろう。
「そんなことより、さっさと皆を風呂に連れてってやってくれ。ユニフォームの洗濯だってしなきゃならないし、早め早めの行動が望ましい。夜の内に干して乾かしたいだろ?」
「そうだな。結構、汗を掻いたし」
「だろ?俺も後から行くから、皆の引率を頼むな」
からりとした笑顔で促した円堂に、鬼道と風丸は頷いた。
その様子を確認して、トレイに載せた皿を器用にバランスを取りつつキッチンへと歩いていく。
さくさくと歩く姿を見送っていると、隣の風丸がぽつりと呟いた。
「・・・エプロンでも、プレゼントしようかな」
「俺がするから、風丸はしなくていい」
「俺が先に言い出したんだぞ。鬼道こそ余計なことはするな」
青緑色の瞳を色濃くして睨みつけてくる風丸を睨み返しながら、極めて子供っぽい喧嘩をしている自覚はあるのに全くやめる気はない。
ばちばちと火花を散らした二人は、ふんと鼻を鳴らすと顔を背けた。
男には、負けられない戦いがあるのだ。
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