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初めて泊まる木造立ての家は、畳と呼ばれる草が敷かれていていい匂いがした。
その畳の上に寝具を敷き、ルキアは横になっていた。

外はまだ雪が降り続いているらしいが、部屋の中はそれほど寒くない。
暖房機器は見えないのにどういう原理かは判らなかったが、取り敢えずの不便がないからと気にしないでおく。

耳鳴りがするほど静かな空気は久しぶりで、腕を突くと上半身を起こした。
貸し出された衣服は着慣れない所為か少し心もとない。
浦原が私服で着ている『甚平』と呼ばれるものと少しだけ似ている気がしたが、それが判断できるほどルキアには知識はなかった。

部屋と外を区切る障子へ近づくと、そっと手を当てる。
音も立てずに開いたそれは、木枠と紙で出来ていてとても不思議だが安心感があった。


「やはり、降っているのか」


じっと空を見上げれば、真っ暗な空からひらひらと白い雪が降ってくる。
月は見えないが雪が反射してそれほど暗くない。
闇に強いルキアには、外の光景が苦労せず見えた。


「・・・さて、どうしたものかな」


吐き出す息がほわりと白くなる。
それが面白くて幾度か繰り返すが、考えが纏まらずに結局連れてきた相棒を呼び出すことに決めた。

自身の魔力を展開するのではなく、兄に渡された護符を使い結界を張る。
白哉手製のそれは余程力が強い魔獣でも魔法の気配を悟れぬ、強固な結界を安易に作ることが出来た。
だが反して規模は小さい。
ルキアを中心に半径1mほどの中で、縁側と呼ばれる木の板に座ると、指に嵌めている指輪に口付けを落とす。


「Erscheinen Sie(現れよ)」


ルキアの呼びかけに応え、サファイアの指輪が輝くと、へたりと耳を垂らした黒兔が現れた。
眠いのか幾度も目を瞬かせる彼の脇に手を差し込むと、そのまま膝の上に抱き上げる。
頭を撫でると小さく欠伸を漏らした兔は、じっと赤い瞳をルキアに向けた。


「どうしたんですか~、ルキアさん。こんな夜中に」
「うむ。眠っているところを悪いな。どうしても花太郎の意見が聞きたくて」
「こんな時間に、結界まで張ってですか?」
「ああ・・・昼間私がお会いした御仁、お前は見えていたか?」
「・・・はい。指輪の中からでしたけど、凄い力の持ち主でしたね」
「ああ。傍に居るだけで肌がぴりぴりとするほどの力の持ち主だった。───だが、彼が本当にこの村の長だろうか」
「どうしてそう思うんです?」
「彼は・・・魔獣と違う、ような気がした」


オリエンタルブルーの長い髪をした精悍な顔立ちの青年。
顔に大きな傷があったが、それは彼の美貌を少しも損ねていなかった。
ぴんと背筋を伸ばし正座していた彼は、涼やかでいながら人を落ち着かせぬ雰囲気の持ち主であった。
案内役であった冬獅郎を後ろに控えさせた彼は、確かに大物の気配がした。
それは貴族連中と始終渡り合っていたルキアには安易に悟れたが、だが何か違うのだ。

白哉や浮竹が持つ組織のトップとしての『何か』が彼には足らない。
それが何か明確に出来ないのだが、だが彼ではないとルキアの勘が訴えていた。


「私は彼がこの村の長だとは思えぬ」
「・・・ルキアさん」
「違和感がありすぎるのだ。・・・それに、彼の力は魔獣のものとは違う。そうであろう?」


腕の中の赤い瞳を覗き込めば、困ったように視線を逸らした彼はひくひくと鼻を動かす。
何故答えを渋るのか判らないが、それこそが答えなのだろう。
だからこそルキアは確信を抱いて花太郎に問うた。

ルキアが知る誰よりも感知能力に優れた、ルキアの魔獣に。


「氷輪丸殿は精霊だな?」


赤い瞳が、怯えるようにルキアを見詰めた。

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