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「君が琉夏ちゃん?」
「は?」


いきなり話かけて来た見知らぬ青年に、冬姫は眉を顰める。
親しげな笑みを浮かべる彼は怪しい人物には見えないが、唐突な言葉の意味は理解しかねた。
スタリオン石油の制服をこんなに間近で確認するのも初めてなら、ここまで馴れ馴れしい会話をしたのも初めてだ。

今日の冬姫は琉夏と一緒にWestBeachで過ごしていた。
実家に居た母親が、いつもお世話になっているのだからと、大量のバーベキュー用の肉と、親戚から送られてきた野菜を差し入れにと持たせたのが切欠だ。
野菜も入れるとダンボール箱一杯まで嵩張った荷物に、どうしたものかと兄弟にメールを入れたのは昨夜で、それならバイトが休みの琉夏がバイクで取りに行くから一緒に夜に焼肉をしようと誘われた。
琥一が一日バイトだから琉夏と二人で準備をし、彼が帰って来次第取り掛かれるように二人で朝から足りないものの買出しに出かけていたのだが。
琥一の昼ごはんを琉夏が冷蔵庫を開けて発見し、なら二人で冷やかしがてら届けようかとバイト先まで足を延ばしたのが先ほどまでの回想だ。

こてり、と首を傾げた冬姫は、少し警戒を滲ませた視線で青年を見上げる。
すると冬姫の心境を悟ったらしい青年は、笑って掌をひらひら振った。
まるで心配することないと言っているような仕草に、益々眉が寄る。

「どうして俺が君のことしてるか、不思議?」
「・・・・・・」

そもそも、自分は琉夏じゃない。
琉夏はバイクの給油場所に自分を残し、琥一が居る休憩所へ足を運んでいる。
冬姫はその間、ガソリンを入れている最中のバイクの見張り番を頼まれた。
給油のメーターを見ても後どれ位中に入るか冬姫には判断が付かない。
唇を窄め早く終わらないかとメーターを睨んでいると、そんな態度に苦笑した青年が話を続けた。

「たまに桜井が休憩中に電話とかメールするとさ。相手は弟か幼馴染なんだよね」
「・・・琥一君が?」
「そそ。メールはチラ見しただけだけど、電話はたまに折り返しで掛けてるから。そん時に出てくる名前が『冬姫』と『琉夏』だったんだ。んでどんな関係か聞いたら渋い顔で幼馴染と弟って言うからさ。そりゃ、こんなに可愛い幼馴染なら渋るよな」
「ありがとう、ございます」
「ははは!お世辞じゃないぜ?桜井が居なかったら俺がデートに誘いたいくらいだ」
「───それで、私が『琉夏』だと?」
「うん。君が桜井の大事な琉夏ちゃんだろう?」

勘違いも甚だしい彼の発言に、大きく息を吐き出した。
確かに自分は彼の幼馴染で、彼のバイト中に留守電にメッセージを残しているが、琥一の大事な『琉夏』は自分よりもっと彼に近い。
何処から誤解を解こうかと渋い表情で唇に指を当てて思案していれば、背中に何かが覆いかぶさった。

「何してんの?浮気中?」
「は?」
「あれ?彼氏居るの?」
「・・・あんたに何か関係ある?」
「いや俺には関係ないけどさ。桜井の大事な『琉夏』ちゃんに虫が付いてるなんて、桜井も残念だなって思って。ああ、それとも君が『冬姫』くん?」

青年の言葉に、背後から冬姫の肩に顎を乗せ体に腕を回していた琉夏が、なんとも微妙な表情をして顔を覗き込んできた。
その気持ちがよく判る冬姫は、同じように微妙な表情で肩を竦める。
それだけで琉夏は何となく状況が悟れたらしく、眉根をぎゅっと寄せた。

「確かに『琉夏』はコウにとって大事だろうけど」
「何とも言い難い感じでしょ?」
「うん。他人に面と向かって言われるとちょっと複雑」
「はは。もしかして照れてる?」
「そうとも言う」

赤くなった琉夏が、隠すように冬姫の肩口に顔を埋める。
だが色素が薄い琉夏の肌は紅潮を隠すのには向いてなく、耳まで真っ赤だった。

冬姫に甘えるように顔を摺り寄せる琉夏の頭に、ごんと拳が落とされる。
彼の体越しに衝撃が伝わり、思わずよろけた冬姫の腕を、第三者が掴んで支えた。
力強く、けれど壊れ物を扱うような繊細な力で触れる相手に心当たりがあるので、驚かずに身を任す。
冬姫と琉夏の二人分の体重を受けてもビクともしなかった人物は、低い声で不機嫌に唸った。

「何してやがんだ、ルカ」
「痛いよコウ」
「年がら年中発情してんじゃねえぞ。───お前もしっかり抵抗しろ!ルカはこんなでも一応男だ」
「・・・そんなに怒らないでよ、琥一君」
「お前が何回注意しても理解しねぇから怒ってんだよ、俺は」
「───折角お弁当届けに来たのに怒られちゃったね、冬姫」
「うん。お腹を空かせた琥一君のために来たのにね、琉夏君」
「え!?」

きっと意識して名前を告げたのだろう琉夏に合わせ、冬姫もわざとらしく眉を寄せて彼に同調した。
すると先ほどの琥一の『ルカ』の呼びかけに、まさかと言わんばかりに顔を引きつらせていた青年は、震える指を持ち上げる。

「もしかして・・・『琉夏』ちゃん?」
「ソウデース」
「『冬姫』くん?」
「そうですね」

頷いた二人に、益々彼は顔を歪める。
これくらいで罪悪感を感じるなら、やはり彼は善良な青年なのだろう。
ただ一人話題について行けない琥一が、何で先輩がお前らの名前呼んでんだ?と首を傾げる。
そんな彼を傍目に、琉夏と目を合わせて小さく微笑みを交わした。



どうやら琥一は予想以上に琉夏と冬姫を気にかけていると気が付いた、ある夏の日の蝉が鳴く中での出来事だった。

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