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望美は基本的に誰とでも仲良くなれる。
見た目の愛らしさもあるが、何より性格がいい。
少し頑固な部分はあるが、明るく元気で優しい少女だ。
自分から進んで挨拶をするし、ありがとう、ごめんなさいも素直に言える。
だから、敵らしい敵を作ったことがなかった───幼稚園に入園するまでは。


自分を睨みつけてくる少年に、望美は心底困って眉を下げた。
一体自分の何が気に入らないのか判らず、かといってそれを口にすれば彼が激昂するのは体験済み。
望美を嫌いなら無視してくれればいいのに、何故か何かと突っかかってくる。
老若関わらず女性には優しいはずの彼が、自分にだけ嫌悪感を露に突っかかってくる理由が望美には判らない。
入園式でお隣に座ってからの付き合いだが、気がつけばこうなっていた。
赤い髪の一部を緩やかに三つ網にした紅顔の美少年。
入園してからずっと同じクラスの彼は、初めて話した時は優しかったはずなのに。
いつからか変わってしまった関係は、優しい記憶があるからこそ残酷だ。

「ヒノエくん、りぼんかえして。それ、まさおみくんにもらったの」
「・・・・・・」
「ヒノエくん、おねがいだから」

ぎゅっとお気に入りの白いレースのリボンを握り締めた少年は、望美の嘆願にふいっと顔を逸らした。
そしてそのまま窓の外へとリボンを投げる。
軽いものなので遠くには行かなかったが、それでも捨てられた行為自体に望美はショックを受けた。
風に乗ったそれは軽やかに舞い上がり、望美では到底手が届かない木の枝に引っ掛かる。

「そんなにほしけりゃあそこまでとりにいけよ。ま、おまえじゃむりだろうけど」
「・・・ヒノエくん」
「なんだよ。おまえのだいすきな『まさおみくん』にでもおねがいすれば?」

泣きそうに瞳を歪めた望美に、僅かに身を引いたヒノエはそれでも精一杯の悪態をついた。
腕を組みふんと鼻を鳴らした少年に、悲しくて顔を俯ける。
どうしてこうなってしまったんだろう。
もう一度考えたけれど、望美にはどうしても判らなかった。
ぎりぎりまで張った涙の膜が今にも崩壊しそうになったとき。


「のん!!」


他には誰もいない教室の入り口から将臣の声が聞こえ、弾かれたように顔を上げる。
教室の前に立った将臣に、望美は駆け寄った。

泣きそうになっている望美の顔を心配そうに覗きこんだ将臣は、ぎっとその原因を睨みつける。
将臣の登場に悔しそうに唇を噛んだヒノエは、無言で教室を出て行った。

「・・・どうして?」
「のん」
「どうして、ヒノエくんはわたしがきらいなの?」

悲しみで染まった声に、将臣は喉を詰まらせた。
望美がどんなに悲しそうでも、将臣にだって理由は判らない。
出会った当初は将臣とて普通に話したし遊んでいた。
けど、気がついたらこうなっていたのだ。
理由を知るには二人は幼すぎた。

答えられない返事の変わりに、目尻に浮かんだ涙を拭う。
そして、ちゅっと可愛いリップ音を立てて望美の額に口付けた。
これは春日家と有川家に伝わる、悲しくなくなるお呪い。

「なくなよ。おれが、そばにいてやるから」
「・・・うん」

泣きたい気持ちを押し殺し、望美は必死に笑顔を作る。
おずおずと伸ばされた手が将臣のTシャツを掴み、ぎゅっと握った。



「ちくしょう」

泣きそうに瞳を潤ませた少女を思い出し、誰も居ない校舎の裏側の壁を蹴る。
普段のヒノエらしくない態度だが、見咎めるものは誰も居なかった。

愛らしい容貌を悲しげに歪めた望美の顔がくっきりと脳裏にこびりついていて、ヒノエはもう一度ちくしょうと呟く。
泣かせたいわけではなかった。
ただ、自分といるのに嬉しそうに将臣の話ばかりするから、それが許せなかっただけなのだ。

もっともっと、ヒノエと一緒に居て欲しいのに、望美はいつも将臣ばかり。
他の女の子ならヒノエを優先するのにと不満に思い、けどあいつじゃなきゃ嫌だと唇を尖らす。

「ちくしょう」

将臣が選んだなんて悔しくて仕方ないけど、でも悲しませてしまったから。
リボンが引っ掛かった木へと足を向けた。

今度は自分が赤いリボンを送ろう。

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