忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
41   40   39   38   37   36   35   34   33   32   31  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

*ルフィたちが海賊王になる少し前の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
だが───今から語る話は、まだ彼らがその栄誉ある称号を手に入れる少しだけ前の物語である。



夜の帳が深くなる時間、波に揺られながら慣れたキッチンの中を動き回る。
明日の朝食と昼食の下拵えをすべく玉葱を微塵切りにしていく。
朝食にパンを出すために捏ねた生地は発酵中で、挟もうと思っているローストビーフはタレにつけて冷蔵庫の中に仕舞ってある。
他にも卵サンド、フルーツサンドを作る予定だが、それはまた明日にしようと決め包丁を止めた。
どれだけ集中していても、絶対に気づく気配がドアの向こうに現れたからだ。
手早く包丁をふき取りエプロンの裾で手を拭く。
腰に手を当て振り返れば、丁度いいタイミングでドアが開いた。

「よう、サンジー!メシくれ!」
「メシくれ!じゃねぇよ!お前晩飯たらふく食ったろうが!」
「もう消化しちまったよ。肉くれ、肉。肉が食いてぇ!」
「アホ!こっちも食料配分っつーもんがあるんだよ!サンドイッチ作ってやるから待ってろ」
「肉か!?」
「ハムとチーズだ。文句言うなよ。作ってやるだけありがたいと思え」

先ほど発酵させていたものではなく、焼いたばかりのパンを手に取るとキッチンに置いておいたチーズとハムを手早く挟みトマトソースで炒めたキャベツを挟む。
マヨネーズも塗り、皿に手早く盛っていった。

「食べても良いか」
「ちったぁ我慢できねぇのか?」
「だってサンジのメシ、マジで美味ぇんだもん!」
「・・・そうかよ。ほれ、一皿目出来上がりだ」
「うひょー!やっぱ美味そうだ!」
「バーカ。美味そうじゃなくて美味いんだよ」

カウンターに座ったルフィの前に、小山になった皿をどんと置けば、涎を垂らさんばかりの笑顔を浮かべた。
キラキラしい笑顔に顔を俯け僅かに口角を上げる。
緩んだ表情などこの奔放な船長に見せるのは癪だった。
───例え、彼のために予め焼きたてのパンを準備していようとも。
例え、始めから食料計算をして、ハムとチーズを捻出していようとも。
それを悟られるには、サンジの低くないプライドが疼く。

今度は同じ材料でもホットサンドにし、味付けも僅かに変える。
それも小山にして並べれば、先に出した一皿を丁度食べ終わったルフィと目が合った。

「やっぱ、サンジのメシは最高だな!」
「当然だ」

満足気に目を細めたルフィに背を向け、冷蔵庫から蜜柑を取り出し絞り器で絞った。
コップに流し込めばあっと言う間にフレッシュなオレンジジュースの出来上がりだ。
どうせ一杯では済まないだろうとさらに幾つも取り出し、折角ナミさんから貰ったのにと勿体無く思いながらもジュースを作っていれば、不意にルフィから声を掛けられた。

「───なぁ、サンジ」
「ん?何だ?」
「気持ちは決まったか?」

静かな問いかけに蜜柑を絞る手が止まる。
震えた体が動揺を表し、鋭く舌打ちした。

「何の、話だ?」
「お前の身の振り方についての話」

むぐむぐと篭った声で淡々と話すルフィに、眉間に皺を寄せた。
どう考えても重要な話を振ってきたくせに、この緊張感のなさはどうだろう。
苛立ち、そのままの勢いで振り返れば、予想通りに頬をリスのように膨らませたルフィと目が合った。

「・・・・・・」

黒々とした瞳は、普段と何も変わらない。
だからこそサンジは唇を噛み締めた。
ルフィは時々信じられないほど核心を突く。
平然と、当たり前に。

そんな時のルフィは、酷く凪いだ雰囲気を発し、だからこそ普段通りに簡単にあしらえない。
悔しいが、彼はこの船の船長で、そこに年齢差は関係なかった。
ルフィはこの船の中で一番敬うべき存在で、標となる男。

「お前、オールブルーを見つけてから、ずっと迷ってただろ」

手が自然と煙草を探り、ポケットからライターと共に取り出す。
無性にニコチンが恋しく胸がざわざわと落ち着かない。
こんなに居心地悪い気分でサンジが居るのに、ルフィは平然とサンドイッチを頬張り続ける。
すうっと胸の奥深くまで紫煙を吸い込むと、ぷかっと吐き出した。
何も答えないサンジに、ルフィは再び視線を向ける。

「お前の好きなようにしていいぞ」
「え?」
「船を降りるか旅を続けるか。お前、自分で決めろ」

それは船長としての言葉だった。
ずしり、と響く、重たい言葉だった。

「もうすぐワンピースが見つかる。最果ての島まで数日だってナミが言った。あいつの予想は外れない。───だから、お前それまでに決めろ。船を降りるかどうかを」
「・・・ルフィ」
「お前が居ても居なくてもおれたちは先に進むぞ、サンジ」

きつい言葉に煙草のフィルターを噛み潰す。
紛れもなくそれは真実だ。

ゾロは何処までもルフィとあろうとするだろう。彼は海賊王と並び立つために大剣豪の称号を得た。迷いはなく死が別つまで、否、執念深い彼のことだ、死んでも喰らいつくと決めているに違いない。
ナミもついていくだろう。彼女の夢は世界地図を作ること。まだ所々空いた部分があり、彼女もルフィと共に行く。それに彼女は、自分が居ないとルフィの船が進まないのを、誰よりも理解していた。
ウソップだってそうだ。彼の夢は勇敢なる海の戦士。島に自分を待つ少女が居ると言っていたが、彼が海を、ルフィの傍を永久に離れるとは考え難い。
チョッパーは万能薬になると言っている。世界を見るために出た彼は、これからも世界を回り薬であり続けるに違いない。
ロビンはルフィと同じでラフテルで夢をかなえる。だが彼女は船を降りない。ロビンはルフィの傍を自分の居場所と定めていた。
フランキーもこの船から離れない。海賊王の船に憧れを抱いていた彼は、ルフィの船を常に万全にしているのに誇りを持っている。この船と、ルフィと共に生きていくだろう。
ブルックとて変わらない。彼はワンピースを得た後、友人である鯨に会いに行く。その後はきっとルフィと旅を続けるのだろう。ガイコツである彼を受け入れたルフィに、見た目以上に心酔していた。

自分だけだった。
迷っているのは、サニー号の上でサンジただ一人だ。
だからこそ、そんな自分が悔しくもどかしい。
何故、自分だけ、と歯痒く思う。

だが本人であるサンジが苛立っても、ルフィは平然としたものだ。

「好きな道を選べサンジ。お前の人生はお前のもんだ」

にっと唇を持ち上げたルフィは、悪戯っぽく笑う。
唇についたタレを指先で拭ってぺろりと舐めたルフィの笑顔に気負いはなく、本心から告げていると嫌でも理解させた。

ルフィが選んでくれればいいのに、と甘い考えを持つ自分が悔しい。
選んでもらった人生を歩めば何かあったら自分が後悔すると知っているのに、甘えようとする自分が情けない。
これほど居心地がいい空間なのに、ルフィが選んだ人生を歩めばきっと自分は怨んでしまう。
あの時、ああ言われなければ、と気のいい仲間を憎んでしまう。
そんなのは嫌だ。
自分自身を嫌う生き方をしたくない。

だからこそ、ルフィは自分で選べと言うのだろう。
厳しく優しい気持ちを向けて。
あまり吸わぬ内に短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
じじっと音を立てて呆気なく消えた火種に、自分の気持ちもこんなに簡単に処理できればいいのにと、苦い気持ちで考えた。

「サンジ」
「・・・何だよ」
「お前が何処でメシを作っても、おれは絶対に食いに行くぞ」

じゃな、おやすみ。
言いたいことだけ言って席を立ったルフィは、ひらひらと後ろ向きに手を振った。
ばたん、と音を立ててドアが閉まる。

その気配がすっかりと遠ざかるのを確認し、流しに背を預けるとずるずるとしゃがみ込んだ。

「ちっくしょー・・・お前がそんなんじゃなければ、おれも迷わなかったんだよ」

ルフィが好きにしていいと言ったからといって、サンジはこの船で不用な人物だとは思わない。
疑うことなく信じれるのは、ルフィ本人が言った通りに何処で料理をしていようと、彼はきっとサンジのご飯を食べに来ると判っているからだ。
ルフィは全身でサンジの作ったものが好きだと訴える。疑問に思う余地も残さず、全力で。
だからサンジは迷うのだ。
ここではない場所で店を開こうかどうかを。

「全く、敵わねぇ」

掌で顔を覆い、唇を歪めた。
ルフィはこの船の標だ。
船の方針を決め、自分たちの人生の進む道を選択させる。

「サンキュ、ルフィ」

心は随分と軽くなった。
どんな道を選んでも、自分は絶対に後悔しない。


それは、後に海賊王と呼ばれる人物が乗る船が、最果ての島に辿り着く数日前の出来事だった。

拍手[50回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ