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注:オリジナル技が発動してます。大丈夫な方のみお進みください。
「言っておくが、今日の俺に敗北はないぞ」
「ふふふ。その自信、最後まで続くといいね?」
不適な笑みを交わして手を握り合う。
互いにチームのユニフォームを着て対立するのは、もう半年振りだった。
北と南の代表チームとして立つフィールドは、ジュニアユース以下の試合としては最大規模のものになる。
先日と違い来ているテレビ局はローカルでも全国ネットだし、会場の広さや観客の多さも比べ物にならない。
この間の北の代表選抜戦と同じようにユニフォームの上に青いマントを纏う守は、首から提げたゴーグルを顔に嵌めた。
「またその格好?ってことは、ユウトがこの試合を見るのか?」
「当然。しかも今日は生だ。俺の始めての晴れ姿だからって、学校休んで父さんと見に来てる」
「え?何処?」
「あそこ」
「VIP席?あのおじさんがマモルのお父さんなんだ?あ、キドウファミリーに混じってエドガーも居る」
「え?エドガー居るの?」
「気づいてなかったのか?薄情な許婚だな」
驚いて瞳を丸めた彼女に突っ込むと、悪びれずにひょいと肩を竦めた。
彼の存在に気づかなかった守を口で言うほど責めているわけでもないフィディオは、まあいっかと呟きながら取り合えず守の隣で手を振ってみる。
すると良好な視野を確保する瞳には、じっとりと苛立たしげに顔を歪めたエドガーが映り苦笑した。
「あ、俺じゃ駄目だった」
「当たり前だろ」
ひょいと手の甲で突っ込んだ守が同じように手を振ると、きょろきょろと視線を彷徨わせた彼はおずおずと手を振り返した。
自信なさげな仕草に思わず噴出すと、堪えろと横から声を震わせた守が囁く。
たったこれだけの行為が自分に向けられたかどうかすら自信が持てず、周りに誰か居ないかを確認してから嬉しそうに笑ったエドガーはある意味可愛い。
普段の彼がどれだけ取り澄ましているか知ってるだけに、余計に。
距離が離れている所為で詳細な表情の変化までは見て取れないが、今ここに双眼鏡があればいいのにと痛切に願った。
「ああいうとこは可愛いんだけどな~」
「・・・何だかんだ言って、マモルはエドガーのこと結構好きだからね」
「まあね。立場上俺たちの関係に感情は立ち入れないものだが、俺は、まぁラッキーだと思うよ。こうるさいけどエドガーは俺自身を見てくれてるからな」
頭の後ろで腕を組んだ守の表情は大きなゴーグルの所為で読み取れないが、それでも言葉に嘘がないのは判った。
生憎フィディオは一般人なのでエドガーや守のような立場の人間の気持ちは判らない。
けれど彼らとの付き合いから、お金持ちは裕福なだけでなく色々と自由を奪う縛りがあるのだと気がついていた。
口に出せば彼らとの距離を明確にされそうで言えないけれど、きっとそれは重たいものなのだろう。
守が普段は本当の自分を隠してお嬢様で居るのも、エドガーが感情を見せずに取り澄ましているのも立場を理解してるからだ。
だから自分は対等で居たいと思った。
公式の場では無理だとしても、プライベートでは友達として同じ位置に立って居たかった。
しんみりとした空気を打ち払うように顔を上げると、ゴーグル越しに視線を合わせる。
口の端を持ち上げて掌を上げれば、同じように手を上げた守が景気良く叩き合わせた。
「いい試合をしよう」
「ああ。お互いに、悔いのない試合を」
きゅっと一瞬だけ掌を握りこむと、同時に離して背を向ける。
試合開始の時間はもう間近に迫っていた。
試合開始のホイッスルが鳴り響き暫くの拮抗の後に展開が動き出した。
FWからバックパスを受けた守が、トンとボールを宙に上げる。
普通に上げたはずなのにボールは何故か勢い良く回転を始めた。
ちらりとコースを確認するように顔を上げた守は、真っ直ぐにゴールを見て唇を持ち上げる。
「レインボードロップ!!」
叫び声と同時に放たれたシュートは、複雑な軌跡を描いてゴールネットに吸い込まる。
上空まで蹴り上げられたそれは確実に外れたと誰もが確信を抱いたはずなのに、野球のシュートのように急下降してキーパーの足元へと突き刺さった。
GKの実力を知るフィディオからすれば、そのシュートは彼が取れないほど速くなかった。
けれど彼は全く反応が出来ず、気がつけば後ろに転がっていたボールを眺め、口を開けたまま守へと視線を移した。
『ゴール!!先取点はマモル・キドウが新必殺技でもぎ取ったぁ!!上空から急下降したボールがキーパーの足元へ滑り込むミラクルシュートだ!』
解説の男が興奮したように叫び、掲示板の点数が一点追加された。
元のポジションに戻ろうとする守がすれ違いざまに微笑を浮かべる。
悔しさに唇を噛み締めると、彼女はこてりと小首を傾げた。
「あの技の真価はあんなもんじゃねぇぞ。出来るもんなら引き出してみな」
愉快そうに笑う彼女の挑発に、フィディオは落ち着こうと深呼吸した。
全く嫌になるくらい手強い人だ。
同年代ではすでに敵なしと言われた自分たちのチームを前に、彼女が率いるチームは新星のごとく現れ圧倒する。
けど、こちらもそうそう負けていられない。
一度目は出来たばかりのチームと油断して手痛い敗北を期したが、今の自分たちは以前と違う。
重なる勝利で知らず積まれた驕りは彼女相手に叩き潰され、再戦を望んで努力した。
そう簡単に負ける気はない。
いいや。絶対に、勝ってみせる。
「出し惜しみしてるなら君たちが敗北するだけだ。俺たちだって努力したんだ。あの頃と同じと思わないことだね」
ホイッスルと同時に回ってきたパスに、フィディオは笑う。
向かってくるFWをかわし、白く残像が見えるほどの速さでボールを捌く。
司令塔として指示を出した守の裏を掻くようにバックパスを味方に渡し、自身は彼女にマンツーでつくと近距離で微笑んだ。
「油断大敵だね、守。俺を誰だと思ってるんだ。君のライバルのフィディオ・アルデナだぞ」
「っ!!」
フィディオと名を呼ばれ、体を翻してゴールへ向かう。
入れ替わりに四人の仲間が守を取り囲み、身動きできなくなった彼女は舌打ちしてDFに指示を出した。
だがすべては遅い。
受け取ったボールをドリブルして、ゴールへの道筋を探す。
そうして見つけたMFとDFの隙に、フィディオの口角がゆるりと持ち上がった。
「いくぞ!オーディンソード!!」
「何!!?」
驚きの声を上げる守に気分が高揚する。
この技はまだ三本打って一本しか成功しない、未完成の技。
それを決勝で放つのは大きな賭けだったが、話を聞いた仲間は誰もが賛成してくれた。
彼女の率いる強豪チーム相手にリスクのない勝利はないと、そう思ったから。
一直線に突き刺さるシュートに会心の笑みを浮かべる。
ウィンクして親指を立てると、やられたと苦笑した守は秀でた額に手を当てて空を仰いだ。
「まさか、完成してない技で勝負をかけると思ってなかった。ついでに四人がかりで妨害にあうともな」
「ははっ、君の危険度は俺たちは一度経験済みだからね。大袈裟と思われるくらいの妨害にあうのは始めてかい?」
「そうだな。今までは精々が二人くらいまでだったから、四方から固められたらこうなんのかってよく判った」
ポジションに戻りながら肩を竦める守にウィンクすると、近距離ゆえに確認できたゴーグルの奥の瞳が楽しそうに笑っていた。
「それでも勝つのは俺たちだ」
「いいや。俺たちだよ」
自分のポジションで足を止めた守に手を振ると、フィディオは自分の位置へと戻った。
再びホイッスルが高々と鳴る。
センターサークルに居た選手がパスを送り、試合が再開された。
「アンジェロ、パスだ!」
「了解、マモル!!」
MFの守が攻め上がり、FW2人の間に入るとすれ違いざまにパスを受ける。
FWの二人は右翼と左翼へ散り、守を中心に円を描くようにしてMFも上がった。
前方に三人、後方に二人。
DFとGKを残した全員が彼女を真ん中に一斉に走り出す。
鋭くそれらを見渡すと、即座にフィディオは判断を下した。
「このチームの要はマモルだ!さっきと同じようにマモルを封じ込めれば手出しは出来ない!」
叫ぶ自身も彼女のマークへ付くべく駆け寄ると、すでにその場に居た仲間たちに加わった。
歯噛みしたくなる技術力を持つ彼女は、それでも華麗なテクニックでボールを操り主導権を握っている。
不敵な笑みを浮かべて余裕を崩さずに楽しそうにしていた。
「マモル!」
「俺たちは大丈夫だぞ!」
「全員配置についた!」
「シュミレーション通りだ!!」
前方、後方から掛けられる声に、フィディオは顔を上げる。
気がつけば守を包囲する自分たちを囲うように、相手チームが詰めていた。
「!?しまった!!」
守に気を取られるあまりDFの形が崩れ、ゴール前は隙だらけだ。
迂闊さに気がついたときにはもう遅かった。
「残念、フィディオ。俺たちの、勝ちだ」
くすくすと囁いた彼女は、ボールの側面を擦るようにして回転をつけそのまま宙に上げた。
不思議な回転を維持したボールは顔の前面まで持ち上がる。
「レインボードロップ」
ぽつりと告げられた技名に、仲間たちは戦慄した。
空気を巻き込んでうねるボールを横から蹴ると、先ほどとは違いフィディオたちの足の間を右から抜けて蛇のように這いずった。
同じ技名だが全く違う動きに目を見張り、慌ててわれに返るとボールを追いかける。
だが、すべては遅かった。
「このチームはマモルだけのものじゃない!俺たちだって、北の代表だ!!」
意地を見せるようにパスを受けた少年がゴール前までボールを持ち込み、鋭いシュートでネットを揺らした。
悔しさで呻るように喉を鳴らすと、ふっふっふと自慢気に指先を振って腰に手を上げる。
「俺たちのチームは北イタリアの代表だぜ?俺だけ抑えりゃ勝てるとか、見通し甘すぎだろ」
「・・・そうだな。甘く見ていたよ」
「ははっ、残りはロスタイムだな。追いつく自信は?」
「あるさ。PK戦まで持ち込めば、俺たちが勝つ」
剣呑に睨んでやれば、飄々とした笑みを浮かべてウィンクしてきた。
煽られそうになる悔しさを深呼吸一つで抑える。
「あのボールは変則的なシュートだね。一回目の蹴りで急回転を掛けて、次の蹴りで角度を与える」
「さすが、フィディオ。二回見ただけでほとんどのからくりを言い当てるなんてな。補足するなら二回目の蹴りは角度だけじゃなく回転も与えてる。それにより不可思議な軌跡を描くのが『レインボードロップ』。七色の変化球だ。ちなみに、あれはシュートじゃなくてパスの技ね」
「でも、さっき」
「あんなんただの応用だろ。今はまだ大したスピードも威力もないから、シュートには向いてないんだ」
「『今は』、ね」
「おう、『今は』、だ。必殺技に完成なしだぜ」
仲間の呼ぶ声に手を振ってから身を翻した守に、フィディオは苦笑した。
あれだけ確かな技術を持ちながらも向上心に衰えはなく、自分だけじゃなく仲間とサッカーを続ける守。
同じフィールドに立ちながら、一歩先を歩く人。
憧れずにはいられない、異国から来たプレイヤー。
凛と背筋を伸ばして真っ直ぐに立つ彼女は、ポニーテールとマントを揺らして堂々と自分のポジションに陣取った。
ちらりと客席に視線を上げ、そのまま真っ直ぐにフィディオと対峙する。
「姉さん、頑張れ!!」
何処かから聞こえた小さな声に面映そうに笑った少女は、マントを靡かせ風になった。
「言っておくが、今日の俺に敗北はないぞ」
「ふふふ。その自信、最後まで続くといいね?」
不適な笑みを交わして手を握り合う。
互いにチームのユニフォームを着て対立するのは、もう半年振りだった。
北と南の代表チームとして立つフィールドは、ジュニアユース以下の試合としては最大規模のものになる。
先日と違い来ているテレビ局はローカルでも全国ネットだし、会場の広さや観客の多さも比べ物にならない。
この間の北の代表選抜戦と同じようにユニフォームの上に青いマントを纏う守は、首から提げたゴーグルを顔に嵌めた。
「またその格好?ってことは、ユウトがこの試合を見るのか?」
「当然。しかも今日は生だ。俺の始めての晴れ姿だからって、学校休んで父さんと見に来てる」
「え?何処?」
「あそこ」
「VIP席?あのおじさんがマモルのお父さんなんだ?あ、キドウファミリーに混じってエドガーも居る」
「え?エドガー居るの?」
「気づいてなかったのか?薄情な許婚だな」
驚いて瞳を丸めた彼女に突っ込むと、悪びれずにひょいと肩を竦めた。
彼の存在に気づかなかった守を口で言うほど責めているわけでもないフィディオは、まあいっかと呟きながら取り合えず守の隣で手を振ってみる。
すると良好な視野を確保する瞳には、じっとりと苛立たしげに顔を歪めたエドガーが映り苦笑した。
「あ、俺じゃ駄目だった」
「当たり前だろ」
ひょいと手の甲で突っ込んだ守が同じように手を振ると、きょろきょろと視線を彷徨わせた彼はおずおずと手を振り返した。
自信なさげな仕草に思わず噴出すと、堪えろと横から声を震わせた守が囁く。
たったこれだけの行為が自分に向けられたかどうかすら自信が持てず、周りに誰か居ないかを確認してから嬉しそうに笑ったエドガーはある意味可愛い。
普段の彼がどれだけ取り澄ましているか知ってるだけに、余計に。
距離が離れている所為で詳細な表情の変化までは見て取れないが、今ここに双眼鏡があればいいのにと痛切に願った。
「ああいうとこは可愛いんだけどな~」
「・・・何だかんだ言って、マモルはエドガーのこと結構好きだからね」
「まあね。立場上俺たちの関係に感情は立ち入れないものだが、俺は、まぁラッキーだと思うよ。こうるさいけどエドガーは俺自身を見てくれてるからな」
頭の後ろで腕を組んだ守の表情は大きなゴーグルの所為で読み取れないが、それでも言葉に嘘がないのは判った。
生憎フィディオは一般人なのでエドガーや守のような立場の人間の気持ちは判らない。
けれど彼らとの付き合いから、お金持ちは裕福なだけでなく色々と自由を奪う縛りがあるのだと気がついていた。
口に出せば彼らとの距離を明確にされそうで言えないけれど、きっとそれは重たいものなのだろう。
守が普段は本当の自分を隠してお嬢様で居るのも、エドガーが感情を見せずに取り澄ましているのも立場を理解してるからだ。
だから自分は対等で居たいと思った。
公式の場では無理だとしても、プライベートでは友達として同じ位置に立って居たかった。
しんみりとした空気を打ち払うように顔を上げると、ゴーグル越しに視線を合わせる。
口の端を持ち上げて掌を上げれば、同じように手を上げた守が景気良く叩き合わせた。
「いい試合をしよう」
「ああ。お互いに、悔いのない試合を」
きゅっと一瞬だけ掌を握りこむと、同時に離して背を向ける。
試合開始の時間はもう間近に迫っていた。
試合開始のホイッスルが鳴り響き暫くの拮抗の後に展開が動き出した。
FWからバックパスを受けた守が、トンとボールを宙に上げる。
普通に上げたはずなのにボールは何故か勢い良く回転を始めた。
ちらりとコースを確認するように顔を上げた守は、真っ直ぐにゴールを見て唇を持ち上げる。
「レインボードロップ!!」
叫び声と同時に放たれたシュートは、複雑な軌跡を描いてゴールネットに吸い込まる。
上空まで蹴り上げられたそれは確実に外れたと誰もが確信を抱いたはずなのに、野球のシュートのように急下降してキーパーの足元へと突き刺さった。
GKの実力を知るフィディオからすれば、そのシュートは彼が取れないほど速くなかった。
けれど彼は全く反応が出来ず、気がつけば後ろに転がっていたボールを眺め、口を開けたまま守へと視線を移した。
『ゴール!!先取点はマモル・キドウが新必殺技でもぎ取ったぁ!!上空から急下降したボールがキーパーの足元へ滑り込むミラクルシュートだ!』
解説の男が興奮したように叫び、掲示板の点数が一点追加された。
元のポジションに戻ろうとする守がすれ違いざまに微笑を浮かべる。
悔しさに唇を噛み締めると、彼女はこてりと小首を傾げた。
「あの技の真価はあんなもんじゃねぇぞ。出来るもんなら引き出してみな」
愉快そうに笑う彼女の挑発に、フィディオは落ち着こうと深呼吸した。
全く嫌になるくらい手強い人だ。
同年代ではすでに敵なしと言われた自分たちのチームを前に、彼女が率いるチームは新星のごとく現れ圧倒する。
けど、こちらもそうそう負けていられない。
一度目は出来たばかりのチームと油断して手痛い敗北を期したが、今の自分たちは以前と違う。
重なる勝利で知らず積まれた驕りは彼女相手に叩き潰され、再戦を望んで努力した。
そう簡単に負ける気はない。
いいや。絶対に、勝ってみせる。
「出し惜しみしてるなら君たちが敗北するだけだ。俺たちだって努力したんだ。あの頃と同じと思わないことだね」
ホイッスルと同時に回ってきたパスに、フィディオは笑う。
向かってくるFWをかわし、白く残像が見えるほどの速さでボールを捌く。
司令塔として指示を出した守の裏を掻くようにバックパスを味方に渡し、自身は彼女にマンツーでつくと近距離で微笑んだ。
「油断大敵だね、守。俺を誰だと思ってるんだ。君のライバルのフィディオ・アルデナだぞ」
「っ!!」
フィディオと名を呼ばれ、体を翻してゴールへ向かう。
入れ替わりに四人の仲間が守を取り囲み、身動きできなくなった彼女は舌打ちしてDFに指示を出した。
だがすべては遅い。
受け取ったボールをドリブルして、ゴールへの道筋を探す。
そうして見つけたMFとDFの隙に、フィディオの口角がゆるりと持ち上がった。
「いくぞ!オーディンソード!!」
「何!!?」
驚きの声を上げる守に気分が高揚する。
この技はまだ三本打って一本しか成功しない、未完成の技。
それを決勝で放つのは大きな賭けだったが、話を聞いた仲間は誰もが賛成してくれた。
彼女の率いる強豪チーム相手にリスクのない勝利はないと、そう思ったから。
一直線に突き刺さるシュートに会心の笑みを浮かべる。
ウィンクして親指を立てると、やられたと苦笑した守は秀でた額に手を当てて空を仰いだ。
「まさか、完成してない技で勝負をかけると思ってなかった。ついでに四人がかりで妨害にあうともな」
「ははっ、君の危険度は俺たちは一度経験済みだからね。大袈裟と思われるくらいの妨害にあうのは始めてかい?」
「そうだな。今までは精々が二人くらいまでだったから、四方から固められたらこうなんのかってよく判った」
ポジションに戻りながら肩を竦める守にウィンクすると、近距離ゆえに確認できたゴーグルの奥の瞳が楽しそうに笑っていた。
「それでも勝つのは俺たちだ」
「いいや。俺たちだよ」
自分のポジションで足を止めた守に手を振ると、フィディオは自分の位置へと戻った。
再びホイッスルが高々と鳴る。
センターサークルに居た選手がパスを送り、試合が再開された。
「アンジェロ、パスだ!」
「了解、マモル!!」
MFの守が攻め上がり、FW2人の間に入るとすれ違いざまにパスを受ける。
FWの二人は右翼と左翼へ散り、守を中心に円を描くようにしてMFも上がった。
前方に三人、後方に二人。
DFとGKを残した全員が彼女を真ん中に一斉に走り出す。
鋭くそれらを見渡すと、即座にフィディオは判断を下した。
「このチームの要はマモルだ!さっきと同じようにマモルを封じ込めれば手出しは出来ない!」
叫ぶ自身も彼女のマークへ付くべく駆け寄ると、すでにその場に居た仲間たちに加わった。
歯噛みしたくなる技術力を持つ彼女は、それでも華麗なテクニックでボールを操り主導権を握っている。
不敵な笑みを浮かべて余裕を崩さずに楽しそうにしていた。
「マモル!」
「俺たちは大丈夫だぞ!」
「全員配置についた!」
「シュミレーション通りだ!!」
前方、後方から掛けられる声に、フィディオは顔を上げる。
気がつけば守を包囲する自分たちを囲うように、相手チームが詰めていた。
「!?しまった!!」
守に気を取られるあまりDFの形が崩れ、ゴール前は隙だらけだ。
迂闊さに気がついたときにはもう遅かった。
「残念、フィディオ。俺たちの、勝ちだ」
くすくすと囁いた彼女は、ボールの側面を擦るようにして回転をつけそのまま宙に上げた。
不思議な回転を維持したボールは顔の前面まで持ち上がる。
「レインボードロップ」
ぽつりと告げられた技名に、仲間たちは戦慄した。
空気を巻き込んでうねるボールを横から蹴ると、先ほどとは違いフィディオたちの足の間を右から抜けて蛇のように這いずった。
同じ技名だが全く違う動きに目を見張り、慌ててわれに返るとボールを追いかける。
だが、すべては遅かった。
「このチームはマモルだけのものじゃない!俺たちだって、北の代表だ!!」
意地を見せるようにパスを受けた少年がゴール前までボールを持ち込み、鋭いシュートでネットを揺らした。
悔しさで呻るように喉を鳴らすと、ふっふっふと自慢気に指先を振って腰に手を上げる。
「俺たちのチームは北イタリアの代表だぜ?俺だけ抑えりゃ勝てるとか、見通し甘すぎだろ」
「・・・そうだな。甘く見ていたよ」
「ははっ、残りはロスタイムだな。追いつく自信は?」
「あるさ。PK戦まで持ち込めば、俺たちが勝つ」
剣呑に睨んでやれば、飄々とした笑みを浮かべてウィンクしてきた。
煽られそうになる悔しさを深呼吸一つで抑える。
「あのボールは変則的なシュートだね。一回目の蹴りで急回転を掛けて、次の蹴りで角度を与える」
「さすが、フィディオ。二回見ただけでほとんどのからくりを言い当てるなんてな。補足するなら二回目の蹴りは角度だけじゃなく回転も与えてる。それにより不可思議な軌跡を描くのが『レインボードロップ』。七色の変化球だ。ちなみに、あれはシュートじゃなくてパスの技ね」
「でも、さっき」
「あんなんただの応用だろ。今はまだ大したスピードも威力もないから、シュートには向いてないんだ」
「『今は』、ね」
「おう、『今は』、だ。必殺技に完成なしだぜ」
仲間の呼ぶ声に手を振ってから身を翻した守に、フィディオは苦笑した。
あれだけ確かな技術を持ちながらも向上心に衰えはなく、自分だけじゃなく仲間とサッカーを続ける守。
同じフィールドに立ちながら、一歩先を歩く人。
憧れずにはいられない、異国から来たプレイヤー。
凛と背筋を伸ばして真っ直ぐに立つ彼女は、ポニーテールとマントを揺らして堂々と自分のポジションに陣取った。
ちらりと客席に視線を上げ、そのまま真っ直ぐにフィディオと対峙する。
「姉さん、頑張れ!!」
何処かから聞こえた小さな声に面映そうに笑った少女は、マントを靡かせ風になった。
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