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「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


三つ巴状態の中に紛れ込んだ豪炎寺は、無言で睨み合う彼らの間でひっそりと内心でため息を吐いた。
最近は定番になりつつ部室での昼食だが、ここまで気詰まりな雰囲気は初めてだ。
目の前に座る風丸と一之瀬の無言の視線が隣に座る鬼道へ突き刺さり、見開かれた瞳から発される尋常じゃない鋭さのそれを鬼道は華麗にスルーした。
片手に箸、片手に弁当箱を握り締めた豪炎寺は、一向に進まない食事に、この場にいない二人が早く帰ってくるよう密かに祈る。
基本的に物事は自分ひとりで対処しようとする自分にとって、誰かを頭から頼る展開は珍しいが、それでも助けを求めずに居られなかった。


「チョリーッス!ジュース買出し部隊、ただいま帰還しました!」
「ったく、円堂は買い過ぎ、貰い過ぎだっての。どうすんのよ、この菓子の差し入れ。またマネージャーに叱られるぞ」
「ええー?これは我が家の食料へ備蓄されるんだよ。な、一哉?」
「守、遅い。早くこっちに来て座って」
「円堂は俺と一之瀬の間だ。土門は鬼道の隣。お前らを待ってたら腹が減った。早く座ってくれ」
「あれ?まだ飯食ってなかったのか?いっつも先に食ってんじゃん」
「今日は待ちたい気分だったの。ほら、守早く」


ぺしぺしと自分の隣の空いた椅子を叩く一之瀬に苦笑した円堂が、ジュースを両手に持って近づく。
彼女からジュースを受け取った風丸が机の上にそれを並べ、土門は苦笑しながら両手一杯に抱えた菓子を机に置いた。
そしてそのまま自然と一之瀬の手が伸び円堂に触れようとした瞬間、隣から腕が伸ばされたのを豪炎寺はしっかりと目撃した。


「姉さんは、俺の隣だ」


ぺしりと一之瀬の手を弾いた鬼道は、涼しい顔で円堂の腕を掴むと引っ張った。
おろ?と変な声を上げてバランスを崩した円堂に、またか、と痛む頭を抱えたくなる。
ぽん、と後ろから肩に手を置かれ、振り向けば眉を下げて笑う土門と目が合った。


「教室でもこんな感じなのか?」
「いーや。教室では極力関わらないようにしてる。タイプが違うから、集まる友人も違うしな」
「円堂が居るとこうなるのか」
「そうそう。勘弁して欲しいぜ、ホント」


肩を竦めた土門は、心底疲れたようにため息を吐いた。
若干やつれたように見える姿に、豪炎寺は苦笑する。
そして同時に、心底彼らと同じクラスじゃなくて良かったと感じた。

先日の千羽山との試合で雷門に転校してきた鬼道は、よりによって彼を嫌いと断言した一之瀬と同じクラスになった。
間に入るのは可哀想に苦労性な土門で、まさしく中間管理職さながら板ばさみ状態になっている。
飄々としていながらも他人の感情の機微に聡い彼ならではの気遣いは、鬼道と一之瀬によりすり減らされている一方だ。
千羽山戦で鬼道と雷門サッカー部の面々との溝は少しずつ埋まり始めてるのは、ある意味この対立のお陰でそれどころじゃなくなっているからかもしれない。
そこに風丸も交えれば三つ巴が完成し、あからさまに円堂に好意を抱く彼らの間に入ろうという物好きはいなくなり小さなことへの拘りも減った。
良かったのはこのライバル心ゆえの向上心で切磋琢磨を地で行く彼らのお陰で、最近は部活の練習も熱が篭ったことくらいだろうか。
この三つ巴を始めは仲裁していた染岡も今では苦々しく距離を取るだけで、反鬼道意識を抱いていた半田も、イメージの違う彼に苦笑しか浮かばないらしい。

ちなみに間に挟まれている円堂はどうしているかと言えば、本人は渦中の人物であるくせにマイペースを崩さず、現在も左右から引っ張られるのをそのままに空いている方の手でパックの牛乳を掴むと飲み始めた。
呆れるほどマイペースな彼女の度胸を分けてもらいたいくらいだ。
風丸と一之瀬は彼女の服を掴み、鬼道は腕を掴んで引っ張っている。
どう考えてもぐらぐらと揺れる体は飲み物を飲むにはバランスが悪いだろうに、器用に体勢を整える彼女は全く苦にせずパックを空けた。


「お前らも食わないと部活に響くぞー」
「・・・俺たちはこの状況の中、お前みたいにぱくぱく食えるほど肝が座ってないの」
「お前は気にならないのか、円堂?」
「えー?土門も豪炎寺もそんなんじゃ持たないぞ。こんなんは小鳥の囀りとでも思ってりゃいいの」
「って言われてもな。何処が小鳥の囀り?」
「ピーチクパーチク雀みたいじゃない?」


はははっと笑って毒舌を吐いた円堂に、土門が引きつった笑みを見せた。
懸命にも肯定も否定もしなかった彼は、苦笑すると部活の壁に凭れてポケットからパックのジュースを取り出す。
ちゅるちゅるとジュースを飲み始めた土門に、豪炎寺も弁当箱へもう一度箸を伸ばした。
ちなみに円堂はその間にも自身の弁当箱から手作りのサンドウィッチを取り出して租借を始めている。
卵サンドとハムサンドはボリュームもあって美味しそうだった。


「守は俺の隣!」
「いや、姉さんは俺の隣だ」
「鬼道。円堂はもう厳密にはお前の姉じゃない。よって、お前は遠慮しろ」
「名前や血だけが絆じゃない。姉さんは、俺の姉さんだ」
「・・・シスコンも大概にしろ、ゴーグル野郎」
「そうだ。ただの兄弟なら、将来の兄に遠慮しろ」
「誰が将来の兄だ。ふざけるな。俺は絶対に認めない。大体俺たちには血の繋がりはないと言っているだろう。俺だって立場はお前らと変わらない」


どんどんとヒートアップしている彼らから離れるべく、弁当箱と円堂が買ってきたジュースを手に取り豪炎寺は席を立った。
そのまま避難している土門の横に並ぶと、深く重いため息を吐き出した。


「・・・どうしてあいつはあの状況で普通に弁当が食べれるんだ?」
「さあな。でもなんとなく慣れて見えるのがあれだな。流し方が尋常じゃないくらいに上手い」
「ああ。スルースキルが半端ないな」


どこから取り出したのか、おにぎりを食べ始めた土門に、弁当からウィンナーを取りつつ同意する。
行儀は悪いが、これが一番落ち着いた食事が摂れた。
ぱくぱくと弁当を口に入れつつ改めて光景を眺めれば、色々と赤裸々になり始めた発言の中、一切の動揺もなく彼女は最後のサンドウィッチへ手を伸ばした。
熱くなる一之瀬や風丸と反し、どこまでも滔々とした鬼道が言い争う様は最早恒例となりつつあった。


「てか、お前らも喧嘩してないで昼飯食わないと時間なくなるぞ」
「守は黙ってて!」
「そうだ。円堂は黙っててくれ!」
「───姉さんに対してなんて言い草だ。大体お前らは姉さんに対して馴れ馴れしいんだ。どうして俺ですら別居しているのに、一之瀬が姉さんと暮らしてるんだ?」
「それは俺も疑問だった。アメリカから帰国して住む場所がなければ土門の家に下宿すればいいだろう?何で態々まも姉の家に居るんだ?」
「俺はいいんだよ。なんてったって、守の特別だからね」


気がつけば三つ巴は形を変え、鬼道と風丸がタッグを組み一之瀬が責められている。
だが責められる張本人はにっと笑うと円堂の首に両腕を巻きつけて抱きついた。
おっ?と声を上げてバランスを崩した彼女は、寄りかかるように一之瀬へもたれかかる。
すると残りの二人が気色ばんで表情を思い切り歪めた。
再び勢いを取り戻した三人に、豪炎寺と土門は顔を合わせて息を吐き出した。

喧嘩するほど仲がいい。

そんな諺が思い起こされ、存外に苦労性な二人は惨状に疲れを覚えずに居られなかった。

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