忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
331   330   329   328   327   326   325   324   323   322   321  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ボールに飛びつこうとした円堂の動きが一瞬鈍る。
狙い済ましたように指先を掠めてボールがゴールの中に入り、土門はひっそりと眉根を寄せた。
傍に居たからこそ感じた違和感。
彼女は全力でボールを取りに行き失敗した。そこは欠片も疑ってない。

だが失敗の仕方こそが土門の中に残った。
苦悶の表情を浮かべ身を縮めて、届くはずのボールを逃したように見えたのだ。


「キャプテン、大丈夫っすか!?」
「おう。ごめん、皆。一点取られた」
「まだ時間はある!俺たちの力を合わせれば点を取り返すチャンスはあるさ。なぁ、皆!」


風丸の言葉に、全員が頷いた。
それを円堂から少し離れた場所で眺めながら苦い思いを飲み下す。
今までのプレイを見ていた限り、この一点は大きすぎた。
仲間を信じていないのではない。
円堂を筆頭に纏まる雷門サッカー部は結束力も含めて最高に信頼できる相手だ。
だが冷静に判断すると、風丸の言葉には頷けようはずがなかった。

メンバーを考えると、円堂と豪炎寺と並び土門もサッカー経験は長い。
様々な戦局を乗り越えてきただけに、今の雷門はいつもの輝きがないのは判っていた。
きっと円堂と豪炎寺もそうだ。
だから円堂は何も言わずに苦笑して、豪炎寺は厳しい表情で俯いた。
豪炎寺にしても円堂にしても負ける気はないだろう。勿論、土門もない。

自らを鼓舞する仲間から視線を逸らすと、ベンチメンバーから僅かに距離を開けて座るその人を見た。
膝の上で拳を握り、何かを堪えるように唇を噛み締める鬼道は、自分たちの連携が上手くいっていないこともその理由もお見通しだろう。
帝国でプレイしてまず驚いたのは彼の洞察力と、理論的な思考による戦略の組み立て方。
もどかしげに自分たちを見詰める鬼道なら、この場に居るもう一人を除いて今のチームを立て直す実力があるはずだ。

それぞれのポジションへ散った仲間を見送り、ホイッスルが鳴る僅かな間に土門は円堂に問いかけた。


「円堂。───この試合、今のままなら俺たちは負けるな」
「何?もう諦めモードなわけ?」
「諦めてるわけじゃない。負けたくないし、全力でプレイする」
「それならポジションに戻れよ。諦めずにプレイするのが雷門のサッカーだろ」
「諦めずに!・・・諦めずにプレイすれば勝てる試合ばかりじゃない。今の俺たちは何かが空回りしてる。仲間を信頼し、全力でプレイしていても歯車が全く噛み合ってない。お前ならその理由も、解決法も判るんじゃないか?」


問い詰めれば、苦笑した円堂はひょいと肩を竦めた。
無言の肯定に眉間の皺を増やし渋い表情をすると、困ったように眉尻を下げる。


「あのな、土門。俺は何だ?」
「お前は円堂だろ?」


唐突な問いかけに意味が判らず首を傾げると、そういう意味じゃねぇよと小さな子供を見るような顔で微笑まれた。


「俺はゴールキーパーだ。キーパーは基本的にゴールを守るもんだ。腰に力を溜めて、全力で打ち込まれるシュートを受け止める。この場所を守るのが俺の役目だ」
「そりゃ、判ってる。キーパーはゴールを守るもんだって、小学生だって知ってるさ」
「ならお前の言う解決法を俺が試すのは無理だって理解しろ。俺はお前らがどうして噛み合わないか判ってる。どうすれば最良か、それすらきっちりと理解できる。けどな、俺はこの場所を長く離れられない。ここぞと言うとき攻めあがるのと、お前らと同じ位置で指示し続けるのとは違うんだ。俺はもうミッドフィルダーじゃない。お前らと並走して、指示し続けることは出来ないんだ」


ある意味では理に適った言葉だが、土門は納得しきれずにいた。
『鬼道守』であった円堂を知ってしまったからこその不満に、ぶつけるのは間違っていると理性が告げる。
だがあの輝きを目にする前と後では、彼女への印象も違ってしまった。
ミッドフィルダーとして走る姿は同じプレイヤーとして憧れずに居られなかった。
フィールドを空から見下ろすような的確な指示に、絶妙な個人技、そして仲間との一体感と信頼感。
彼女一人が居るだけでチームは輝きを増し、絶対の自信を持って前を見据えていた。

帝国戦で影山が教えてくれた内容が本当なら、今彼女がプレイしているのは奇跡なのだろう。
サッカーを愛するからこそ努力して、意地を通してフィールドに立っている。
土門では想像も及ばないような不幸は、きっと同じような不遇を得た一之瀬にしか理解出来まい。
それでも、どうして、と思ってしまう。
何故彼女はよりによって以前の自分を捨てて、キーパーになってしまったのだろうか、と。


「気づいてるのは、お前と豪炎寺とあと一人だけか。けど、前半をプレイしきれば皆も認めれるはずだ」
「何を?」
「勝つために必要なパズルのピースを、見つけれてないってことにさ」


くすくすと楽しげに微笑んだ彼女が肩を竦めると同時に、試合再開のホイッスルが響く。
意味を理解しきれない助言に頭を悩ませる間に前半が終了し、まもなく自分たち以外の意外すぎるもう一人を知った。


「・・・俺と・・・鬼道さんを、入れ替えてください」


震える拳を真っ白になるまで握り締め、泣き出す一歩寸前のように声を揺らした宍戸に、土門は目を丸くする。
土門としては、まさかの相手で発言だった。
悔しいと全身で訴えながら、それでも言い切った宍戸に半田と染岡が詰め寄る。


「何言ってんだよ、宍戸!俺たちはこのままで大丈夫だ!」
「そうだ、宍戸!後半に俺が絶対に点を入れてやる。だからっ」
「それじゃ駄目なんです!!先輩たちだってわかってるでしょう!?今の雷門のサッカーは、俺たちの『最高』じゃないって!!」


普段はどちらかと言えば大人しい後輩の絶叫に身を引いた二人を睨み、そのまま宍戸はメンバー全員へ視線をやった。


「俺だって悔しいですっ!怪我もしてないのに、自分のポジションを代わってくれなんて頼みたくない!俺だって雷門の一員です。試合に出たいし、一緒に皆とプレイしたい。でもそれ以上に───絶対に、負けたくない!!俺はまだ皆とプレイしたい。皆と一緒に優勝したいんです・・・っ」


涙腺が決壊したように涙を零す宍戸に、半田や染岡はもとより他のメンバーも口を噤む。
心からの言葉は、彼の本気をダイレクトに伝え仲間たちの言葉を奪った。
そんな中でも少し離れた場所で様子を眺めていた円堂は、ベンチの壁に持たせていた背を離すと組んでいた腕を解く。
そしてそのまま座っている鬼道の前に行くと、俯きがちの彼に声を掛けた。


「だとよ。どうする有人?」
「俺は」
「お前はどうしたい?どうすべきだと、考える?」


静かな問いかけに奥歯を噛み締めた鬼道は、意を決したように頷くとベントから立ち上がった。


「俺を試合に出させてくれ。俺なら、お前らがかみ合わない原因も、その解決法も出せる。・・・頼む」
「っ・・・俺はあいつに頼るくらいなら負けた方がいい!!」
「半田」
「俺たちのサッカーは、雷門のサッカーだ!!鬼道なんかに頼らなくても、俺たちはやれる!!」


声を上げた半田に、仲間たちは沈黙した。
皆判ってるのだ。このままでは勝てないと。
半田にしてもそうだろう。意地になって折れるタイミングを見失っているだけ。

どうすればいいと問いかける視線が円堂へと集中し、嘆息した彼女は肩を竦めると笑った。


「なら、負けるか。中途半端で不完全燃焼な惨めなプレイがお前の言う『雷門のサッカー』なら、それで負けても悔いはないだろ」


優しげにすら感じられる微笑で告げられた内容は、心を抉るような的確な言葉だった。
声を失った半田や雷門の面々を眺めると、不思議そうに小首を傾げる。
確信犯だろうにいっそ無邪気に見える姿に、土門はごくりと唾を飲み込んだ。


「『限りのある回数』の中、俺は絶対に悔いの残る試合をしたくない。宍戸だってそうだ。だから、下げたくない頭を下げて、悔しい思いを飲み込んで、それでも勝つために有人に頼んだ。何故か判るか?後悔したくないからだ。自分だけじゃなく皆を考えて出した結果がそれで、最良だと考えたからだ。だが、怪我もしてないのに自分より実力があるプレイヤーに頭を下げて頼み込んだ宍戸の気持ちすら踏み躙って、負けを選ぶのも一つの選択だろう」


話は終わりだ、とばかりに手を打った円堂はそのままフィールドへ向かう。
背を向けた円堂はこちらを振り返りもしない。

見放されたのだと、言葉よりも有限に教える姿に、先日の鬼道の絶望が理解できた。


「どうした?行かないのか?」
「・・・俺が鬼道を選ばなかったから、お前は怒ったのか?」
「怒る?俺が?半田が有人を選ばなかったくらいで?はは、馬鹿言うなよ。言ったろ?お前らが嫌なら俺は『鬼道有人』はいらないって。信じる気がない相手を入れても今より最悪になるだけだしな」
「けど、現にお前はっ」
「───俺が怒ったというのなら、自分たちのプレイをする気もなく、意地だけで宍戸の想いも踏み躙り負けを選んだお前に対してだ。仲間を信じるサッカー。諦めないサッカーが雷門のサッカーだと俺は思ってた」
「けど、鬼道は仲間じゃない!」
「そうか。なら仕方ないな。実際有人がやった行為は褒められたもんじゃないしこずるい手だと思うが、それでもサッカーを好きな人間なら仲間になる要素はあると俺は思ってた」


残念だ、と一言だけ呟いた人は、そのまま自身のポジションへと戻っていった。
雷門ゴールへと向かう円堂を見送る雷門の面々に沈黙が広がり、中でも半田は納得できないと首を振る。
一歩離れた場所からその光景を見ていた土門は、進み出ると鬼道の前へと立った。


「鬼道さん」
「・・・土門」
「俺からもお願いします。試合に、出てください」
「土門!?」


宍戸の横に並んで頭を下げた土門に、染岡が声を上げる。
だが聞こえないフリをして頭を下げ続けた。


「お願いします、鬼道さん。今の雷門に決定的に足りないものがあるとしたら、場を読み指示を出す司令塔だ。俺は、負けたくない。こんなところで終りたくない。勝つことが全てじゃないと知ってるが、もっと俺は、こいつらと、上まで行きたいんです。もっともっとフットボールフロンティアというこの場所で、プレイしたいんです」
「・・・土門」
「俺からも頼む、鬼道。俺は負けないと誓った。そのためにはお前の力が必要で、お前が居ないと果たせない」
「豪炎寺」
「皆だって判ってるだろう。この試合、俺たちは何かが噛み合ってない。俺たちの最大の特徴であるチームワークは全く活かせてない。空回りしてばかりで、パス一つ繋がらない。思い出せ。一切手を抜いてないこの試合で、一度でもゴール前までボールを運べたか?土門や壁山を見てみろ。傷だらけで泥だらけだ。それだけ激しい攻防をゴール前で繰り広げられてるというのに、フォワードの俺たちはほぼ無傷。これを見て、なんとも思わないのか?」


下げていた頭を上げて仲間を見れば、沈痛な表情で彼らは黙り込んでいた。


「けど、俺たちが点を取れば」
「冷静になれ、染岡。今の俺たちは点を取る以前の問題だ。それを理解してるから、宍戸が頭を下げてくれた。他の誰のためでもなく、『俺たちの』ためにだ。こいつが自分から言い出してくれなかったら、俺が言っていただろう」
「仲間を信じられないって言うのかよ!?」
「そうじゃない。だが、勝つためには、鬼道の司令塔としての能力が必要なだけだ。これが俺たちの本気のサッカーなら、まだ負けても納得できる。けど違うだろう?俺たちの本気のサッカーはこんなものじゃないはずだ。それを誰より知ってるのは、共に苦楽を共にした俺たち自身のはずだろう?」


苛立つでもなく、叫ぶでもなく、淡々とした口調で告げる豪炎寺は、事実だけを述べていた。
それ故に言葉は心の奥深くへ届き反論の言葉は一つとして出ない。
沈黙が場を支配し、初めて口を開かなかった一之瀬が声を発した。


「俺は鬼道有人が嫌いだ」


唐突な発言に、言われた当の本人はもとより雷門の仲間も目を瞬く。
きっとその中でも特に驚いたのは、昔から一之瀬を知る土門と木野だろう。
二人とも子供の頃からの付き合いで、彼が誰かの前で誰かの悪口を言うタイプでないと知っているだけに驚きもひとしおだ。
目をまん丸にして一之瀬を見れば、不遜な発言をしたくせに本人は堂々と腕を組んで真っ直ぐに鬼道を射抜いていた。
視線は偽りなく苛立ちを露にし、顰められた眉の間には皺が幾つも寄っていた。
あからさま過ぎる嫌悪感に、土門の方がはらはらとしてしまう。
呆然としている鬼道に体を向けると、彼は言葉を続けた。


「『弟』ってだけで無条件に守に愛される君が嫌いだ。それを当たり前と捉えていて、依存するだけ依存する君が嫌いだ。半田みたいな生ぬるい感情でなく、君という存在が嫌いだ」
「一之瀬?」
「それでも、守が認める君の実力を俺も認めるよ。自分たちのサッカーをする前に負けるくらいなら、君の力を利用する。皆だって、負けたくないだろ?」
「俺は、俺たちは・・・」
「半田や染岡、それに皆の心に引っかかってるのは、鬼道が守の弟だって事実だ。けどサッカーに関しては、守は身内だからって贔屓はしないよ。そんなに甘い人じゃないからね。鬼道が来たからって、守は変わらないよ。───だから安心して鬼道を利用すればいい。潰すくらいの勢いで、利用してやればいいんだ」


実力を認めると言う一之瀬の言葉には随分と険が篭っていた。
独占欲が強い彼の心情が透けて見え、土門は眉を下げて苦く笑う。
あれほど傍に居ても彼はまだ足りないらしく、何をしなくとも特別な地位を得ている鬼道に当たりは強い。

だが、彼の一言で周りの空気が変わった。
言葉を変えれば豪炎寺や土門が言った内容と同じことを言っていたが、一之瀬が告げれば印象は全く違う。
『利用する』とは聞こえが悪いが、先ほどの円堂と同じような詐欺の手口に近い状態で鬼道を入れろを言っているようなものだった。


「もうすぐ試合は始まるよ。俺は勝ちたい。豪炎寺や土門、宍戸だってそうだ。皆はどうなんだ?守が言うとおりに負けるのか?」


静かな問いかけに、顔を見合わせた仲間たちは一つの決断を下した。

拍手[6回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ