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「鬼道が弟だから入れるって、そう言うのかよっ!?」


ベンチに響いた声に、腕を組んだ円堂は静かな眼差しを半田へ向けた。
多大に非難の含まれるそれに顔色一つどころか眉一つ動かさずに享受する。
ここが全国試合のベンチであるとか、仲間からの非難の視線なども一切物怖じせずに真っ向から受けた少女は、嘆息すると背をもたせていた壁から体を浮かした。


「俺は別に許容したわけじゃない」
「言い訳か?」
「いいや。本音だ」


ちらりと視線を持ち上げて時計を確認した円堂は、そのまま仲間を一人一人見た。
その様子にもベンチに座っている響木は何も言わない。
ただ沈黙を通し、円堂を弁護する真似をしなければ、同じように責めることもしない。

彼女に半田が食って掛かるのは理由がある。
全国大会二戦目、それが始まる寸前になり、彼女の弟であった『鬼道有人』が雷門へ転入すると告げられたからだ。
理由は聞いてないが、そのままサッカー部に入部する気だと教えられ、半田が怒りを爆発させた。

何故、よりによって今なのかと。
まもなく始まる全国大会の二戦目。
自分たちが勝ち取った栄誉であり、強いからと外部の人間を引き入れるのかと。
知っている事実を教えてもらえなかった。
まるで───自分たちを信用していないように感じられたのだろう。

だが甘んじて怒りを受けた彼女は、迷いのない瞳を向けてきた。


「おかげさまで弟と呼べる関係には戻った。昔みたいに兄弟としては暮らす気はないが、弟だと思ってる」
「なら」
「けど、それとこれとは別だ。身内贔屓で引き入れようと思わない。だから、俺は今話した」
「どういう意味だ?」


微笑みに近い表情を見せた円堂に半田が息を呑む。
視線だけを響木に向けた彼女は、緩く首を振る。


「俺はお前らが嫌なら『鬼道有人』は必要ないと思ってる」
「・・・円堂?」
「だってそうだろ?どんな想いを抱えようと、勝負は勝負。負けは負けだ。負けたくないと望むチームはいないわけない。抱える想いだって大なり小なりあるに決まってる。それをどうだ?あいつのやろうとしてることは、全てを覆す行動だ。勝ったチームに転入してプレイする。大義名分は関係ないな、それは自己満足を得るための自分勝手な行為に過ぎない。フェアじゃないだろ。───なぁ、響木監督」
「・・・俺の判断に文句があったか?」
「そうですね。なかったら、あいつが来る前に言葉にしませんよ」
「だが、来るかどうか判らないだろうが」
「本気で言ってますか?」


黙り込んだ響木を責めるでもなく囁いた言葉だったが、彼は苦々しい表情を浮かべる。


「・・・もしかして、響木監督もご存知だったんですか?」
「───まあな」


緩やかな肯定に、仲間の雰囲気が毛羽立った。
先ほど円堂が『有人が雷門に転入した』と告げたときより動揺は酷かったかもしれない。
信じられないと首を振りながらの染岡の囁きは、部員全員の心の叫びだっただろう。
信頼していた監督は、自分たちに黙って新たに帝国イレブンのメンバー、それもキャプテンを仲間に入れようとしていたのだ。
豪炎寺と土門の強張る顔に一之瀬は小さく笑い、円堂の隣に並んだ。
それまで成り行きを静観していたのは、彼女なら大丈夫だと知っていたからだ。
手助け無用とばかりに挑戦的な瞳で見られれば、言葉がなくともわかってしまう。
そう、判ってしまえる位置が一之瀬と円堂の距離。

それが誇らしく、また同時にもどかしいと言えば、アメリカ帰りの親友は渋い顔をするのだろう。
一之瀬の位置を土門が羨み、またどういう目で見ているか正確に理解しているから悟れる。
けれど譲る気はない。
土門が知らない頃から自分はずっと『マモル』を見てきたのだ。
簡単に代わってやれる位置じゃない。

肩に手を置いて視線で見れば、こちらに向け一瞬だけ口角を上げた彼女はすぐに笑みを消した。


「監督。俺はね、あいつは雷門に居なくてもいいと思ってる」
「・・・円堂、それをお前が言うのか」
「言いますよ。あいつが『弟』だからこそ、余計にね。俺の立場じゃ何を言っても仲間の反感を買うのはわかってる。けど、何も言わないのはフェアじゃない。ついでに言えば俺がやりたいサッカーは個人の戦力が特出してればいいってもんでもない。『仲間とプレイするサッカー』。それが俺の目指すものだ」
「欺瞞でしかないな。お前たちの力だけでは次の試合勝ち抜けるか判らん」
「判ってないですね、監督。それはあなたが口にしていい言葉じゃない。俺たちのサッカーの一番の強み、皆忘れてないか?」
「・・・どういうことだ?」


首を傾げた豪炎寺に、楽しくて仕方ないとばかりに円堂は笑った。
いっそ無邪気に見える子供っぽい笑みなのに、どこか隙がない凛とした微笑み。
まるで昔イタリアの地でサッカーをしていた最中みたいな表情に、一之瀬の背中をぞくぞくとしたものが駆け抜ける。
凛とした強さと危うげな色気。
彼女の本質を表したような油断ならない空気がとても好きだった。

平然と腕を組んでいる彼女の肩に腕を乗せると、顔がぐっと近寄る。
けれど一之瀬の仕草など目に入らないと意識すらしてくれない人は、ざわめく仲間を無視して豪炎寺だけを見ていた。
そのまま一人一人へ視線をずらし、確認するように瞳を覗く。
全員を一瞥し、思い切り破顔した。


「判らないか?俺たちの一番の強みは個人技でも最高の必殺技でもない。仲間を信じて諦めない心。仲間が居たからこそ俺たちは強くなれた。サッカーは一人でプレイできない。絶対に仲間は必要なんだ。俺は仲間と最高のプレイをしたい。だからこそ、仲間の意思を尊重する」
「円堂、お前・・・もしかして、弟の鬼道より俺たちを取るって言うのか?」
「当然だろ。『今』、俺が一緒にプレイする仲間はお前らだ。俺自身は有人がどうと言うよりサッカーが好きな奴なら誰だろうと一緒にプレイするのは構わない。だがそれは俺自身の個人的な感情でしかない。1足す1が2になるのは数学だけだ。人間に当てはまるものはない」
「言葉の意味を判っているのか、円堂」
「判ってますよ。今の雷門に有人が来てもマイナスにしかならないだろうってことはね。それならむしろ入れない方がいい。俺が優先すべきは俺の仲間だ。───聞こえたか、有人」
『え!?』


雷門のメンバーが異口同音で驚愕したのに、一之瀬は笑った。
薄々もう来てるのではないかと思っていたのだ。
彼女の話だと彼はとても律儀な性格をしている。
時間前行動は当然だろうし、だからこそわざとあのタイミングで話を始めたのだろう。

『鬼道有人』の覚悟を知るために。
そして『雷門サッカー部』の本意を見極めるために。

彼女は否と言えば絶対に通さない。
有限実行を当たり前にする人で、そんなところも好ましいと思っていた。
非難がましい眼差しを向けてくる音無に笑いかける堂々とした姿に惚れ直す。
か弱いだけの守ってやらなくてはいけない人ではなく、気を緩めれば置いていかれる。
一之瀬が憧れた人は、そんな凄い人だった。


「さて、どうする?雷門の面々はお前をすぐには受け入れられないらしい。俺は仲間を優先する。勿論、響木監督の言葉には従うが、俺だけが従ってもいいプレイは出来ないだろうな」
「・・・はい。判ってます。あなたが仲間を優先するだろうと、俺は知ってます。あなたのサッカーの根本は昔からそれですから。むしろ安心したといってもいいでしょう。俺の憧れたあなたは、そうじゃなければいけない」
「偉そうな態度だな、負けたくせに」
「絡まないの、一哉。お前だって同じ立場なら似たような行動するだろ」
「どうだろうね」


睨み据える鬼道の視線を真っ向から受けて、ひょいと肩を竦めた。
二年間離れていたくせに、まるで自分こそが一番彼女を知っていると言わんばかりの姿にイラつく。
何もかもを理解してるとばかりに胸を張って語るなと、叫びだしたい衝動に駆られ、不意に温もりを感じた。
視線をやれば肩に置いた腕に円堂の手が添えられており、淡い苦笑と共に宥められてるのに気がついた。
小さな子供を見るような眼差しに唇を尖らせると、腕に添えられた手を握った。
伝わる温もりにあっという間に落ち着きを取り戻す自分をどうかと思うけれど、安心してしまうから仕方ない。
鬼道の視線が益々厳しくなるが、無視して円堂に笑顔を向けた。


「それで、どうするの皆?俺は別にどっちでもいいぞ。有人は確かに凄い戦力だ。ゲームメイクの才能はぴか一で状況を観察する力は秀でている。それに何より、あの帝国の鬼道有人が恥辱に塗れ、後ろ指を差されるのを覚悟の上でここまで来た。ライバルに頭を下げて仲間に入れてくれって来る覚悟は、一蹴する内容じゃないとは思う。けどそれは俺の個人的意見。だから、お前らの意見を聞きたい」
「・・・・・・」
「今すぐこの場を去れと言うか、それとも少し考えるか。さて、どうする?」


微笑んで問いかける人は本当にずるい。
自分が酷く突き放せば、仲間がどう動くか知っている。
それが嘘じゃなく本心だから、だから余計に説得力があり仲間も自ら選択する。

少なくとも、同じサッカーを志す人間として、徹底的に突き放せる奴はこの場に居ない。
仲間に入れろと言うのではなく、考えるかと問うのは酷い。
これでは一之瀬が反対しても、仲間はあからさまな拒絶はしない。


「・・・守の馬鹿」
「馬鹿で結構。お前を変えたくないんだよ」
「馬鹿、バーカ!」


たった一言で自分を納得させる彼女が嫌いだ。
それなのに。


「俺は、鬼道有人はキライだ」
「そーかい」
「守のそういうとこもキライ」
「そーかい。俺は一哉が好きだよ」
「・・・・・・・・・俺もだ」


結局流されてしまうのだけれど、もうこれは経験の差と諦めるしかないだろう。
それとも性格の差と言うべきだろうか。
自分だって簡単に乗りこなせるような性格をしてないはずなのに、と悔しく思うけど。

一つ嘆息すると、握った手に力を篭める。

結局、惚れた弱みと諦めるしかないのだろう。

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