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初めてその動きを映像で見た瞬間、息を忘れるくらいに興奮した。
生まれ持った体のバネ、研ぎ澄まされた感覚によるボールコントロール、フィールドを上から眺めているような的確な指示、どんな状況でも絶対に諦めない負けん気の強い瞳。
オレンジ色のバンダナの上で長い栗色の髪をツインテールにし首にゴーグルを下げて、男子で構成されているイタリアチームに一人女子として試合に参加している彼女。
けれど誰よりも速く走り、誰よりも高く飛び、誰よりもボールを、そして試合の流れを見ている子。
自分と同い年くらいなのに、サッカー大国の第一線で活躍する少女は、とてもとても輝いていた。
「・・・凄い」
この映像は、イタリア国内のジュニアユースにすらならない年齢層の子供のプレイ状況を映したものだ。
将来有望とされる子供をピックアップし、深夜枠のサッカーの試合の隙間に組まれた特集だった。
勿論言語はイタリア。下に英語で字幕テロップが出ている。
今放映されている試合はイタリア全土でのジュニアユース未満の選手のもので、決勝リーグの試合の一つらしい。
幾度もアップでカットが入るのは二人。
『白い流星』のフィディオ・アルデナ。
『不屈のポラリス』のマモル・キドウ。
FWとMFの二人はポジションこそ違うが、他のプレイヤーと一線を画すという意味では同じだ。
個人技を駆使して攻め上がるフィディオを止めるのは、長い髪を文字通り馬の尻尾のように揺らしたマモル。
体全体でボールを操る彼が一瞬の隙をついて突破しようとした瞬間、にいっと笑った彼女はすれ違いざまに踵を使ってボールをトラップした。
唖然とするフィディオに親指を立ててそのままFWへダイレクトパスを上げると、その動きに合わせた相手がシュートを決める。
目の前で悔しげに唇を噛み締めるフィディオに何事か告げると、仲間の下へ駆け寄り飛びついて喜びを表した。
ダイジェストなので残りはカットされたが、結局そのシュートが決勝点になったらしく勝利インタビューはフィディオではなくマモルへと向けられた。
アップで映る顔はどう見ても日本人だが、交される言語はイタリア語。
人前に立つのに慣れているのか物怖じせずにライバルへの賛辞や、仲間への賞賛を伝える彼女は堂々としている。
日系なのだろうか、とテロップの内容を読み取りながら首を傾げると、最後の質問でありがちな言葉が向けられた。
この勝利を誰に伝えたいですか、と問われたそれに瞬きを繰り返した彼女は、それまでのすまし顔を変えて子供っぽい表情を浮かべた。
『有人、見てる?姉さんの勝利は有人へ捧げます。もうすぐに日本へ帰るから、あと少しだけいい子で待ってて』
ピースサインをしてウィンクしながら視線をカメラに向けた少女から発せられたのは紛れもなく日本語で、インタビュアーが戸惑うのも気にせずに手を振り『Ciao!』と笑ってそのまま仲間の下へと走っていってしまった。
その途中でフィディオに捕まり、仲良さげに笑いながら並んで歩く。
ライバル関係にあってもどうやら親しい間柄らしい二人に、ツキリと胸が痛んだ。
初めての感覚に首を傾げて服の上から胸を押さえる。
その間に画面は切り替わって、中継は試合へと戻った。
先ほどまであんなに興奮して続きを楽しみにしていた試合なのに、心は初めほど躍らない。
脳裏に浮かぶのは彼女のプレイと笑顔だけで、どうにも我慢できずに枕もとの携帯へ手を伸ばす。
この携帯はサッカーの練習で遅くなる一哉に連絡用として親が買い与えたもので、登録されている番号はチームの仲間やサッカー関連の人間のみだった。
深夜二時を越える時間をディスプレイで確認しながら、アドレス帳を操作して目的の人間を探す。
迷いなく通話ボタンを押すと、数コールの内に相手は出た。
「もしもし、マーク?」
「・・・どうしたんだ、こんな時間に」
「マーク、今日の試合録画するって言ってたろ?」
「はぁ?何なんだ唐突に?」
「だから、今流れてるイタリアの試合。見てないの?」
「いや、見てるからお前の電話にすぐに出れたんだが・・・」
「じゃあ、さっきのダイジェストも録画してただろ?俺に頂戴」
「何故?」
「見てたなら判るだろ!?俺たちと同じポジションの天才!」
「・・・マモル・キドウ。フィディオ・アルデナと並びイタリアで将来を嘱望されている稀代の天才。『不屈のポラリス』と二つ名を持ち、その意味は北極星が迷える旅人の導となったように、彼女自身が仲間の標として存在していることに由来している。どんな状況でも絶対に勝利を諦めない強固な意志を持ち、個人技もさることながらチームを使った戦略を得意とする司令塔」
滔々と携帯から流れる説明に、ぱちりと瞬きをした。
眠気はとうに吹っ飛んでいるが、脳に流れる情報の濃さに驚きを禁じえない。
「詳しいな、マーク」
「去年偶々イタリア戦の合間に今日と同じようにダイジェストで映像が流れていた。何でも去年からイタリアと日本を行き来してプレイしているらしい。たった一年でイタリア全土に名を広めた天才。ヨーロッパのサッカー雑誌にもたまに載っている」
「・・・・・・なんでそんなに詳しいんだ?」
「ファンだ」
「ファンか。そうか」
きっぱりと言い切られると何も突っ込めない。
あの普段から取り澄ました顔のマークがどんな表情で言っているのか興味はあるが、何となくいつもどおりな気もする。
そう言えば、ある一時期からマークは海外のサッカー雑誌を集めるようになっていた気がする。
本屋になければネットで買いあさり、親に頼んでHDDに録画できるプレイヤーまで購入していた。
DVDも生来の気質かきっちりとラベルを貼って保存していたが、こういう理由があったとは。
「ん?それなら、マークはマモル・キドウの映像、これ以外にも持ってるってこと?」
「・・・そうなるな」
「じゃ、それも頂戴」
「何を自然に言っている。やるわけないだろう」
「どうして?」
「ファンだからだ」
「・・・そうか」
潔すぎる。
むしろいっそ清々しい断言に、図らずとも頷いた。
けれど知ってしまったからには、一哉だって欲しい。
もっともっと彼女のサッカーを見たい。
全身で楽しいと訴えるプレイ。
同年代でありながら、遥かに自分を上回るテクニックに、周りを視る観察眼、そして誰をも惹き付けるカリスマ性。
肩を並べれるフィディオが羨ましくて仕方ない。
顔を近づけて笑い合える親密さが羨ましくて、その高みにあるテクニックを嫉む。
もっともっと、彼女を知りたい。
追いついて、肩を並べて、そして一緒にプレイしたい。
同じフィールドに立って同じ空気を吸って、高揚感を共有して、全身で楽しいと訴えるサッカーをしたい。
けれど、まずは。
「とりあえず今までの録画分は明日見に行くから宜しく。あ、晩御飯もお願いできる?」
「・・・」
「マークのことだからスクラップブックもあるんだろ?ちゃんと全部準備しておいてよ。徹夜覚悟で行くから」
「・・・・・・」
長い沈黙の末、マークから許可を貰うと、満足げに笑って携帯電話を閉じる。
気がつけば試合は終っていたが、それよりも明日得る情報に心は踊りいそいそとベッドに潜り込んだ。
翌日、マークの部屋に用意されたスクラップブックの美しさと、ネットなどから引き出された情報量の多さにさり気無く気に入った雑誌の切抜きを奪ったのだが。
練習中に笑顔で返せと強要するマークに背筋を奮わせたのは一哉だけでなく、巻き込まれたチームメイトは怒りの理由を言わない彼の逆鱗に触れないよう普段よりも厳しく練習に励んだ。
生まれ持った体のバネ、研ぎ澄まされた感覚によるボールコントロール、フィールドを上から眺めているような的確な指示、どんな状況でも絶対に諦めない負けん気の強い瞳。
オレンジ色のバンダナの上で長い栗色の髪をツインテールにし首にゴーグルを下げて、男子で構成されているイタリアチームに一人女子として試合に参加している彼女。
けれど誰よりも速く走り、誰よりも高く飛び、誰よりもボールを、そして試合の流れを見ている子。
自分と同い年くらいなのに、サッカー大国の第一線で活躍する少女は、とてもとても輝いていた。
「・・・凄い」
この映像は、イタリア国内のジュニアユースにすらならない年齢層の子供のプレイ状況を映したものだ。
将来有望とされる子供をピックアップし、深夜枠のサッカーの試合の隙間に組まれた特集だった。
勿論言語はイタリア。下に英語で字幕テロップが出ている。
今放映されている試合はイタリア全土でのジュニアユース未満の選手のもので、決勝リーグの試合の一つらしい。
幾度もアップでカットが入るのは二人。
『白い流星』のフィディオ・アルデナ。
『不屈のポラリス』のマモル・キドウ。
FWとMFの二人はポジションこそ違うが、他のプレイヤーと一線を画すという意味では同じだ。
個人技を駆使して攻め上がるフィディオを止めるのは、長い髪を文字通り馬の尻尾のように揺らしたマモル。
体全体でボールを操る彼が一瞬の隙をついて突破しようとした瞬間、にいっと笑った彼女はすれ違いざまに踵を使ってボールをトラップした。
唖然とするフィディオに親指を立ててそのままFWへダイレクトパスを上げると、その動きに合わせた相手がシュートを決める。
目の前で悔しげに唇を噛み締めるフィディオに何事か告げると、仲間の下へ駆け寄り飛びついて喜びを表した。
ダイジェストなので残りはカットされたが、結局そのシュートが決勝点になったらしく勝利インタビューはフィディオではなくマモルへと向けられた。
アップで映る顔はどう見ても日本人だが、交される言語はイタリア語。
人前に立つのに慣れているのか物怖じせずにライバルへの賛辞や、仲間への賞賛を伝える彼女は堂々としている。
日系なのだろうか、とテロップの内容を読み取りながら首を傾げると、最後の質問でありがちな言葉が向けられた。
この勝利を誰に伝えたいですか、と問われたそれに瞬きを繰り返した彼女は、それまでのすまし顔を変えて子供っぽい表情を浮かべた。
『有人、見てる?姉さんの勝利は有人へ捧げます。もうすぐに日本へ帰るから、あと少しだけいい子で待ってて』
ピースサインをしてウィンクしながら視線をカメラに向けた少女から発せられたのは紛れもなく日本語で、インタビュアーが戸惑うのも気にせずに手を振り『Ciao!』と笑ってそのまま仲間の下へと走っていってしまった。
その途中でフィディオに捕まり、仲良さげに笑いながら並んで歩く。
ライバル関係にあってもどうやら親しい間柄らしい二人に、ツキリと胸が痛んだ。
初めての感覚に首を傾げて服の上から胸を押さえる。
その間に画面は切り替わって、中継は試合へと戻った。
先ほどまであんなに興奮して続きを楽しみにしていた試合なのに、心は初めほど躍らない。
脳裏に浮かぶのは彼女のプレイと笑顔だけで、どうにも我慢できずに枕もとの携帯へ手を伸ばす。
この携帯はサッカーの練習で遅くなる一哉に連絡用として親が買い与えたもので、登録されている番号はチームの仲間やサッカー関連の人間のみだった。
深夜二時を越える時間をディスプレイで確認しながら、アドレス帳を操作して目的の人間を探す。
迷いなく通話ボタンを押すと、数コールの内に相手は出た。
「もしもし、マーク?」
「・・・どうしたんだ、こんな時間に」
「マーク、今日の試合録画するって言ってたろ?」
「はぁ?何なんだ唐突に?」
「だから、今流れてるイタリアの試合。見てないの?」
「いや、見てるからお前の電話にすぐに出れたんだが・・・」
「じゃあ、さっきのダイジェストも録画してただろ?俺に頂戴」
「何故?」
「見てたなら判るだろ!?俺たちと同じポジションの天才!」
「・・・マモル・キドウ。フィディオ・アルデナと並びイタリアで将来を嘱望されている稀代の天才。『不屈のポラリス』と二つ名を持ち、その意味は北極星が迷える旅人の導となったように、彼女自身が仲間の標として存在していることに由来している。どんな状況でも絶対に勝利を諦めない強固な意志を持ち、個人技もさることながらチームを使った戦略を得意とする司令塔」
滔々と携帯から流れる説明に、ぱちりと瞬きをした。
眠気はとうに吹っ飛んでいるが、脳に流れる情報の濃さに驚きを禁じえない。
「詳しいな、マーク」
「去年偶々イタリア戦の合間に今日と同じようにダイジェストで映像が流れていた。何でも去年からイタリアと日本を行き来してプレイしているらしい。たった一年でイタリア全土に名を広めた天才。ヨーロッパのサッカー雑誌にもたまに載っている」
「・・・・・・なんでそんなに詳しいんだ?」
「ファンだ」
「ファンか。そうか」
きっぱりと言い切られると何も突っ込めない。
あの普段から取り澄ました顔のマークがどんな表情で言っているのか興味はあるが、何となくいつもどおりな気もする。
そう言えば、ある一時期からマークは海外のサッカー雑誌を集めるようになっていた気がする。
本屋になければネットで買いあさり、親に頼んでHDDに録画できるプレイヤーまで購入していた。
DVDも生来の気質かきっちりとラベルを貼って保存していたが、こういう理由があったとは。
「ん?それなら、マークはマモル・キドウの映像、これ以外にも持ってるってこと?」
「・・・そうなるな」
「じゃ、それも頂戴」
「何を自然に言っている。やるわけないだろう」
「どうして?」
「ファンだからだ」
「・・・そうか」
潔すぎる。
むしろいっそ清々しい断言に、図らずとも頷いた。
けれど知ってしまったからには、一哉だって欲しい。
もっともっと彼女のサッカーを見たい。
全身で楽しいと訴えるプレイ。
同年代でありながら、遥かに自分を上回るテクニックに、周りを視る観察眼、そして誰をも惹き付けるカリスマ性。
肩を並べれるフィディオが羨ましくて仕方ない。
顔を近づけて笑い合える親密さが羨ましくて、その高みにあるテクニックを嫉む。
もっともっと、彼女を知りたい。
追いついて、肩を並べて、そして一緒にプレイしたい。
同じフィールドに立って同じ空気を吸って、高揚感を共有して、全身で楽しいと訴えるサッカーをしたい。
けれど、まずは。
「とりあえず今までの録画分は明日見に行くから宜しく。あ、晩御飯もお願いできる?」
「・・・」
「マークのことだからスクラップブックもあるんだろ?ちゃんと全部準備しておいてよ。徹夜覚悟で行くから」
「・・・・・・」
長い沈黙の末、マークから許可を貰うと、満足げに笑って携帯電話を閉じる。
気がつけば試合は終っていたが、それよりも明日得る情報に心は踊りいそいそとベッドに潜り込んだ。
翌日、マークの部屋に用意されたスクラップブックの美しさと、ネットなどから引き出された情報量の多さにさり気無く気に入った雑誌の切抜きを奪ったのだが。
練習中に笑顔で返せと強要するマークに背筋を奮わせたのは一哉だけでなく、巻き込まれたチームメイトは怒りの理由を言わない彼の逆鱗に触れないよう普段よりも厳しく練習に励んだ。
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