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*設定は架空のものですのでご了承ください。ダークシリアスです。
『君はもう二度とサッカーをしてはいけない』
眼鏡の奥から真っ直ぐな眼差しを向けて真摯に宣告した人の顔を覚えている。
同伴していた父が瞬間に息を呑み、抱き寄せるようにしていた自分の肩を掴む手に力を篭めた。
頭が真っ白になり、何を言われたか理解できなかった。
人より遥かに回転が速いと称された脳が理解を拒み、今が夢ならばどれほど幸せかと強固に現実にしがみ付く理性が嘆く。
全てが始まったばかりだった。
イタリアへ拠点を移し、長年のライバルと共にリーグ優勝を果たし、次の目標は何にするか、つい先日も夜を明かして話していた。
男女の差があれど、それ以上に強い仲間意識で通じ合っていた彼は、遠いイタリアの下で自分の帰りを待ち続けているはずだ。
だって、約束した。
すぐに帰ると、ただの一時帰国だと、また一緒にプレイすると。
心筋の細胞の性質が変わり、心室全体が拡大する病気。
原因は不明で治療法も確立されていないと宣告され、何をどうしろと言うのか。
心筋が薄く伸び血液を送るポンプとしての力が弱まり、壁が薄くなるごとに重症に陥る。
教えてもらった治療法は病状を改善させるためのものではなく、進行を遅くする程度のささやかなもの。
呆然として医師の宣告を聞いた後、家に帰って最初にしたのは自分の患った病気の詳細を調べること。
自分以上に衝撃を受けた父は、迂闊にも守の部屋の情報回線をとぎるのを忘れていた。
現在ではインターネットで調べれる情報量は多く、徹夜をして得た内容は絶望を与えるに足るもの。
それでも納得出来ずに朝一番で図書館へ赴き、医学書を片っ端から読み漁った。
小学生が読むには難解すぎる内容。
知らない専門用語も多数出てきたが、ありがたいことに辞典も置いてある。
部屋を一歩も出てこない父のお陰で自由を確立できた三日間。
その短くも長い期間で、自分が置かれた状況は把握できた。
最初に感じたのは、理不尽だと湧き上がる怒り。
涙も流せぬ強い憤怒はどうして自分が、と神へ向けた衝動。
遺伝子異常、ウィルス感染、免疫異常、妊娠状態。
どれが原因かもわからず、上げられる候補のどれも当てはまらないかもしれない原因に、何故自分が振り回されなければいけない。
初期症状ではほとんど自覚症状もない病気を発見できたのは運が良かったと言われた。
ならばこの先十年後に未来がある確率が低い運命を自覚させられて、一体何が運がいいのか教えて欲しい。
病名を知ったところで有効な治療はなく、手術ですら経過は不良の可能性が高いのに、一体何が良かったのだ。
十年後、守が生存している確率は僅か三十数パーセント。
それもこれもサッカーを止めて、安静に病院暮らしをしていたら、と注釈がつく。
体中を管で繋がれ、過去の栄光に想いを馳せて生きる人生の何がラッキーなのか。
死なないために生きる将来に、涙を流して感謝でもしろというのか。
心臓移植以外で希望のないこの病気に、生きている間に細胞移植や心筋再生治療などが発展して奇跡を見せてくれるのか。
こんなことなら日本に帰ってこなければ良かった。
何も知らず、イタリアの空の下で走っていたかった。
検査で異常が発見されなければ、ぎりぎりまでこの体が持つ間はサッカーが出来た。
あの広い空の下で、息の合った相棒と上を目指して走り続けれた。
でも、これからはそれは望めない。
これほど愛したサッカーは、命と引き換えに取り上げられる。
父は自分を愛するが故に、サッカーを止めろと懇願するだろう。
それは嫌だ。
サッカーが出来ないなんて、息をしないのと同じだ。
生きたまま羽を?がれて死ぬのを待つ虫と同じ。
空に憧れて飛び立てず、地表から焦がれて魂をじりじりと削られる。
そんなのは嫌だ。
それなら一思いに死にたい。
けど───。
『ははっ・・・無理だ。そんなの、無理に決まってる。父さんを裏切れない、受けた恩を返してもいないのに、望みに反するなんて出来ない』
ふらふらになって辿り着いた部屋。
昼間でもカーテンを閉め切って一人で蹲る。
何も知らされてない使用人は訝しげな眼差しを向けたが、徹夜で勉強したと誤魔化し眠たいからと人払いをした。
弟は小学校で、父は狂ったように仕事に精を出している。
何も知らない弟には、なんて言えばいいのか判らない。
サッカーをしている自分に憧れているのを知っている。
いつだって背中を追いかけてくる小さな姿は可愛くて、とても愛しい。
だからこそ怖い。
守がサッカーを出来ないと知ったら、彼はサッカーを続けれるのだろうか。
曇りのない笑顔は、痛々しく歪められるのではないか。
自分に遠慮してやりたいことも我慢し、敷かれたレールの上を歩く人形になってしまうのではないか。
『・・・っ』
想像するだけで、胸が痛む。
それを歓ぶ自分に嫌悪し、嘆く自分に苛立って。
相反する感情は今は辛うじて望まない方に天秤が傾いている。
だがこれはいついかなる要因が入り込み逆転するか判らない。
守は聖人君子じゃない。
全てを奪われる現状に、将来が開けている弟を笑って祝福してやれるほど優しい人間じゃない。
愛しているからこそ自分と同じどん底まで叩き落して、二度と這い上がれないように決定的な傷をつけたくなる。
『姉さん?』
唐突に真っ暗な世界に光が射す。
侵入者に目を細めれば、隠し扉を開いて顔を覗かせた子供ははにかんだような笑みを浮かべた。
『・・・有人?どうしたんだ?学校は?』
『今日は早く終ったんだ。姉さんとサッカーがしたくて運転手に急がせた。姉さん、サッカーをしよう』
『───悪い、有人。俺、昨日勉強してて寝不足なんだ。今からお昼寝って決めてんの。だから、サッカーはまた今度な』
『ああ、だからこんなに部屋が真っ暗なのか。姉さんがサッカーを後回しにするなんて、明日は台風が来そうだ』
『失礼だなぁ、有人は。ほれ、お前も一緒に昼寝するぞ』
『俺も?・・・でも、俺は』
『いいからいいから。久し振りの兄弟水入らずなんだから、たまにはいいだろ』
『・・・うん』
両手でサッカーボールを抱えたまま近づいた弟を抱きしめる。
太陽の香りがする彼は、無防備に心をさらけ出し照れながらも守の服の端をきゅっと握った。
相変わらず甘えただと苦笑して髪を結んでいるゴムを解くと、特徴的なドレッドがベッドに広がる。
見た目より柔らかなそれに手を差し込んで、繰り返すうちに心の天秤は落ち着く。
壊したい、から、守りたい、へ。
いつまで傍に居られるか判らないなら、この存在を大事にしたいと。
生まれて初めて出来たサッカー以外の特別だから、可愛い弟なのだからと。
この存在は守が気に入るように影山から選りすぐられた『もの』。
暇つぶしと称して与えられた『特別』は、可愛くて大切。
だから壊してはいけない。
壊したい衝動と闘って、何が何でも勝たねばならない。
すうすうとあっという間に寝息が聞こえ、どれだけ自分の存在に心を許しているか知る。
泣くことすらできない絶望の中、有人だけが守の光。
「───随分と、気分のいい目覚めじゃないの。神様」
嘲りを多大に含んだ声で嫌味交じりに飛び出た囁きは、何処にいるか知れないそいつに届いてるだろうか。
真っ暗な闇に目を凝らせば、記憶の中の状況と自分が存在する部屋の違いに嫌でも気づく。
広々としたキングサイズのベッドではなく、シンプルなクイーンサイズのベッドはそれでもまだ大きいけれど、自分を包むシーツの色も柔らかさも違っていた。
「そう言えば、まだあの頃は敬語じゃなかったな。中学に入学するんだからと口調を改めたのは、もうちょっと後か」
どちらにしろ懐かしい記憶だ。
思い出したくもない甘ったるい記憶にしがみ付いてる自分に反吐が出る。
優しい記憶の裏には、いつだって容赦ない現実が比較される。
味わった絶望は過去形ではなく現在進行形で我が身を苛んでいるのに、一体何に縋ろうとしてるのか。
「全く、嫌になるな」
どくどくと痛む胸に上半身を屈めて堪えつつ、くいっと口の端を持ち上げて笑う。
何もかも嫌になる。
世界が今この瞬間に終ったら、どれだけ幸せだろう。
「───っ」
声なき声で悲鳴を上げれば、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。
どうして自分なんだ。
どうして自分でなければいけない。
世界を救うためでもなく、地鎮祭の生贄になるでもない。
自分の命が消えるのに理由はなく、偶然か必然かすらも判らない。
宇宙人の襲来とは言いえて妙だ。
我ながら笑ってしまうほど奇妙にしっくり来た例えだった。
選ばれるのに意味はなく、連れ去られる時期だって判らない。
そのくせ拒否権など与えられておらず、歯向かう気力は根本から叩き折られた。
片っ端から医学書を読み、増えた知識から絶望を知る。
「はは・・・ははは、あはははは!!」
狂ってしまえればいい。
何も理解できず、正しいことも悪いことも判断できないくらいに、とことんと堕ちてしまえれば。
「・・・っ、そんなの絶対ごめんだ」
闇は腕を広げて落ちてくるのを待っている。
それが神が残した優しさならば、絶対的に受け入れられない。
全てを捨ててしまえば楽になるだろうが、絶望の淵に叩き込んだ奴に縋るのは嫌だ。
だから覚悟を決めたのだ。
自分が闘う相手は、他の誰でもなく自分自身と。
他の何かはもういらない。
望んでも掌から零れ落ちるだけなら、サッカーだけがあればいい。
「Vaffanculo!!」
押さえきれない憤怒が形となり、罵声が唇から零れる。
泣きたいのか笑いたいのか、守りたいのか壊したいのか。
全ての衝動を体に抱いて、早く夜が明けろと光を願った。
『君はもう二度とサッカーをしてはいけない』
眼鏡の奥から真っ直ぐな眼差しを向けて真摯に宣告した人の顔を覚えている。
同伴していた父が瞬間に息を呑み、抱き寄せるようにしていた自分の肩を掴む手に力を篭めた。
頭が真っ白になり、何を言われたか理解できなかった。
人より遥かに回転が速いと称された脳が理解を拒み、今が夢ならばどれほど幸せかと強固に現実にしがみ付く理性が嘆く。
全てが始まったばかりだった。
イタリアへ拠点を移し、長年のライバルと共にリーグ優勝を果たし、次の目標は何にするか、つい先日も夜を明かして話していた。
男女の差があれど、それ以上に強い仲間意識で通じ合っていた彼は、遠いイタリアの下で自分の帰りを待ち続けているはずだ。
だって、約束した。
すぐに帰ると、ただの一時帰国だと、また一緒にプレイすると。
心筋の細胞の性質が変わり、心室全体が拡大する病気。
原因は不明で治療法も確立されていないと宣告され、何をどうしろと言うのか。
心筋が薄く伸び血液を送るポンプとしての力が弱まり、壁が薄くなるごとに重症に陥る。
教えてもらった治療法は病状を改善させるためのものではなく、進行を遅くする程度のささやかなもの。
呆然として医師の宣告を聞いた後、家に帰って最初にしたのは自分の患った病気の詳細を調べること。
自分以上に衝撃を受けた父は、迂闊にも守の部屋の情報回線をとぎるのを忘れていた。
現在ではインターネットで調べれる情報量は多く、徹夜をして得た内容は絶望を与えるに足るもの。
それでも納得出来ずに朝一番で図書館へ赴き、医学書を片っ端から読み漁った。
小学生が読むには難解すぎる内容。
知らない専門用語も多数出てきたが、ありがたいことに辞典も置いてある。
部屋を一歩も出てこない父のお陰で自由を確立できた三日間。
その短くも長い期間で、自分が置かれた状況は把握できた。
最初に感じたのは、理不尽だと湧き上がる怒り。
涙も流せぬ強い憤怒はどうして自分が、と神へ向けた衝動。
遺伝子異常、ウィルス感染、免疫異常、妊娠状態。
どれが原因かもわからず、上げられる候補のどれも当てはまらないかもしれない原因に、何故自分が振り回されなければいけない。
初期症状ではほとんど自覚症状もない病気を発見できたのは運が良かったと言われた。
ならばこの先十年後に未来がある確率が低い運命を自覚させられて、一体何が運がいいのか教えて欲しい。
病名を知ったところで有効な治療はなく、手術ですら経過は不良の可能性が高いのに、一体何が良かったのだ。
十年後、守が生存している確率は僅か三十数パーセント。
それもこれもサッカーを止めて、安静に病院暮らしをしていたら、と注釈がつく。
体中を管で繋がれ、過去の栄光に想いを馳せて生きる人生の何がラッキーなのか。
死なないために生きる将来に、涙を流して感謝でもしろというのか。
心臓移植以外で希望のないこの病気に、生きている間に細胞移植や心筋再生治療などが発展して奇跡を見せてくれるのか。
こんなことなら日本に帰ってこなければ良かった。
何も知らず、イタリアの空の下で走っていたかった。
検査で異常が発見されなければ、ぎりぎりまでこの体が持つ間はサッカーが出来た。
あの広い空の下で、息の合った相棒と上を目指して走り続けれた。
でも、これからはそれは望めない。
これほど愛したサッカーは、命と引き換えに取り上げられる。
父は自分を愛するが故に、サッカーを止めろと懇願するだろう。
それは嫌だ。
サッカーが出来ないなんて、息をしないのと同じだ。
生きたまま羽を?がれて死ぬのを待つ虫と同じ。
空に憧れて飛び立てず、地表から焦がれて魂をじりじりと削られる。
そんなのは嫌だ。
それなら一思いに死にたい。
けど───。
『ははっ・・・無理だ。そんなの、無理に決まってる。父さんを裏切れない、受けた恩を返してもいないのに、望みに反するなんて出来ない』
ふらふらになって辿り着いた部屋。
昼間でもカーテンを閉め切って一人で蹲る。
何も知らされてない使用人は訝しげな眼差しを向けたが、徹夜で勉強したと誤魔化し眠たいからと人払いをした。
弟は小学校で、父は狂ったように仕事に精を出している。
何も知らない弟には、なんて言えばいいのか判らない。
サッカーをしている自分に憧れているのを知っている。
いつだって背中を追いかけてくる小さな姿は可愛くて、とても愛しい。
だからこそ怖い。
守がサッカーを出来ないと知ったら、彼はサッカーを続けれるのだろうか。
曇りのない笑顔は、痛々しく歪められるのではないか。
自分に遠慮してやりたいことも我慢し、敷かれたレールの上を歩く人形になってしまうのではないか。
『・・・っ』
想像するだけで、胸が痛む。
それを歓ぶ自分に嫌悪し、嘆く自分に苛立って。
相反する感情は今は辛うじて望まない方に天秤が傾いている。
だがこれはいついかなる要因が入り込み逆転するか判らない。
守は聖人君子じゃない。
全てを奪われる現状に、将来が開けている弟を笑って祝福してやれるほど優しい人間じゃない。
愛しているからこそ自分と同じどん底まで叩き落して、二度と這い上がれないように決定的な傷をつけたくなる。
『姉さん?』
唐突に真っ暗な世界に光が射す。
侵入者に目を細めれば、隠し扉を開いて顔を覗かせた子供ははにかんだような笑みを浮かべた。
『・・・有人?どうしたんだ?学校は?』
『今日は早く終ったんだ。姉さんとサッカーがしたくて運転手に急がせた。姉さん、サッカーをしよう』
『───悪い、有人。俺、昨日勉強してて寝不足なんだ。今からお昼寝って決めてんの。だから、サッカーはまた今度な』
『ああ、だからこんなに部屋が真っ暗なのか。姉さんがサッカーを後回しにするなんて、明日は台風が来そうだ』
『失礼だなぁ、有人は。ほれ、お前も一緒に昼寝するぞ』
『俺も?・・・でも、俺は』
『いいからいいから。久し振りの兄弟水入らずなんだから、たまにはいいだろ』
『・・・うん』
両手でサッカーボールを抱えたまま近づいた弟を抱きしめる。
太陽の香りがする彼は、無防備に心をさらけ出し照れながらも守の服の端をきゅっと握った。
相変わらず甘えただと苦笑して髪を結んでいるゴムを解くと、特徴的なドレッドがベッドに広がる。
見た目より柔らかなそれに手を差し込んで、繰り返すうちに心の天秤は落ち着く。
壊したい、から、守りたい、へ。
いつまで傍に居られるか判らないなら、この存在を大事にしたいと。
生まれて初めて出来たサッカー以外の特別だから、可愛い弟なのだからと。
この存在は守が気に入るように影山から選りすぐられた『もの』。
暇つぶしと称して与えられた『特別』は、可愛くて大切。
だから壊してはいけない。
壊したい衝動と闘って、何が何でも勝たねばならない。
すうすうとあっという間に寝息が聞こえ、どれだけ自分の存在に心を許しているか知る。
泣くことすらできない絶望の中、有人だけが守の光。
「───随分と、気分のいい目覚めじゃないの。神様」
嘲りを多大に含んだ声で嫌味交じりに飛び出た囁きは、何処にいるか知れないそいつに届いてるだろうか。
真っ暗な闇に目を凝らせば、記憶の中の状況と自分が存在する部屋の違いに嫌でも気づく。
広々としたキングサイズのベッドではなく、シンプルなクイーンサイズのベッドはそれでもまだ大きいけれど、自分を包むシーツの色も柔らかさも違っていた。
「そう言えば、まだあの頃は敬語じゃなかったな。中学に入学するんだからと口調を改めたのは、もうちょっと後か」
どちらにしろ懐かしい記憶だ。
思い出したくもない甘ったるい記憶にしがみ付いてる自分に反吐が出る。
優しい記憶の裏には、いつだって容赦ない現実が比較される。
味わった絶望は過去形ではなく現在進行形で我が身を苛んでいるのに、一体何に縋ろうとしてるのか。
「全く、嫌になるな」
どくどくと痛む胸に上半身を屈めて堪えつつ、くいっと口の端を持ち上げて笑う。
何もかも嫌になる。
世界が今この瞬間に終ったら、どれだけ幸せだろう。
「───っ」
声なき声で悲鳴を上げれば、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。
どうして自分なんだ。
どうして自分でなければいけない。
世界を救うためでもなく、地鎮祭の生贄になるでもない。
自分の命が消えるのに理由はなく、偶然か必然かすらも判らない。
宇宙人の襲来とは言いえて妙だ。
我ながら笑ってしまうほど奇妙にしっくり来た例えだった。
選ばれるのに意味はなく、連れ去られる時期だって判らない。
そのくせ拒否権など与えられておらず、歯向かう気力は根本から叩き折られた。
片っ端から医学書を読み、増えた知識から絶望を知る。
「はは・・・ははは、あはははは!!」
狂ってしまえればいい。
何も理解できず、正しいことも悪いことも判断できないくらいに、とことんと堕ちてしまえれば。
「・・・っ、そんなの絶対ごめんだ」
闇は腕を広げて落ちてくるのを待っている。
それが神が残した優しさならば、絶対的に受け入れられない。
全てを捨ててしまえば楽になるだろうが、絶望の淵に叩き込んだ奴に縋るのは嫌だ。
だから覚悟を決めたのだ。
自分が闘う相手は、他の誰でもなく自分自身と。
他の何かはもういらない。
望んでも掌から零れ落ちるだけなら、サッカーだけがあればいい。
「Vaffanculo!!」
押さえきれない憤怒が形となり、罵声が唇から零れる。
泣きたいのか笑いたいのか、守りたいのか壊したいのか。
全ての衝動を体に抱いて、早く夜が明けろと光を願った。
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