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ボールを持っていつも通りに基礎の練習をしようと人目につかない場所を探してうろついていた飛鷹は、目に入る意外な光景に心底驚いた。
木漏れ日の中で何かを必死に編む円堂。
何故人目につかない場所でやっているのか知れないが、それだけなら飛鷹もそう驚かなかった。
問題は彼女のすぐ隣で胎児のように背中を丸めて眠る不動だ。
いつも生意気な顔で挑戦的な目をしている印象が強い彼なのに、円堂の隣で眠る彼は寄せられていることが多い眉間の皺も解け随分と柔らかい表情をしていた。
まるで、そう、まるで絶対的に信頼できる相手の近くで眠る、安心しきった子供のようだ。
自分を傷つけるものはいない、だから警戒する必要もない、とばかりに健やかな寝息を立てていた。
呆然とボールを持ったまま間抜けな格好で立ち竦んでいると、前触れ無しに声を掛けられぱちりと意識を取り戻す。
こちらを振り向きもしないで手元だけを見ているのに、いつから気づかれていたのだろうか。
驚愕している飛鷹に、ゆっくりと顔を上げる円堂はいつも通りに笑っている。
そしてとんとんと不動とは反対側の場所を指で叩いた。
隣に来い、と言うことだろうか。
少しだけ躊躇い、そっと足音を立てぬように近寄る。
僅かでも音を立てれば眠っている不動が目を覚ましそうで、つい細心の注意を払った。
「また基礎練習か?精が出るな」
「そんなことないです。・・・俺は、他の奴らほど技術がねえから、きっちりと練習しねえと」
「そっか。うん、その調子で無理せず適当に頑張れ」
「適当・・・ですか?」
「そう。適当って言ってもいい加減に手抜きしろって意味じゃないぞ。自分の状況に相応しい量だけこなせって意味だ。求める以上をすれば体に負荷が掛かり過ぎる。努力は尊いがやり過ぎで体を壊したら元も子もないからな」
「はい」
噛み砕いて説明してくれた彼女に頷くと、にかっと笑ってまた視線を手元に戻した。
何となくつられて流れるような動きに見惚れていると、何本もの糸を器用に操りながらどんどんと柄が出来ていく。
「ミサンガですか」
「そ。黒とグレーをベースに赤がアクセント。白は柄を作るのに使ってるんだ。あ、何かわかる?」
「髑髏・・・っすか?」
「正解!いやぁ、良かった。久し振りに作るからちょっと自信がなかったんだよな」
「十分上手に見えますけど」
「お世辞でも嬉しいよ、サンキュ。一応プレゼント用だからな」
「・・・・・・」
髑髏柄のそれをプレゼントと聞き、僅かに首を傾げる。
スタイリッシュなデザインのそれは格好いいが、彼女の弟や豪炎寺にはイメージが違う気がした。
だからと言って他に仲のいい綱海や、一年生たちとも違う気がする。
マネージャーたちを思い浮かべたが、女性がするにはデザインが男性向けだ。
自分が知らない親しい相手にでも上げるのだろうか、と、つきりと痛む胸に眉を顰めると、白糸と黒糸を交互に編んだ彼女は器用に新しい柄を追加する。
しかし完成したそれは、柄ではなく文字だった。
「A・H?イニシャルですか?」
「うん。不動明王だからA・H。スカルはイメージじゃない?」
「いや・・・似合ってると思います」
言葉に嘘はない。
プレゼント相手を考えると、確かにそれは不動のイメージにピッタリだ。
甘さのないキツイ印象でスマートで無駄がない。だが何故か惹き付けられる。
まるで彼そのもので、だからこそ飛鷹は何とも言えない気分になった。
このミサンガは彼にプレゼントされるために作られた、不動のためだけの一品ものだ。
つまりこれを作ってる間はきっとずっと不動のことだけを考えていて、その間だけでも彼女の意識を独占できたということだろう。
彼女に特別な意味で好意を持っている飛鷹からすると、とても複雑で仕方ない。
他人を気に掛ける円堂の懐の大きさを好んでいるのに、相反して自分だけを見て欲しいと望みそうになる。
そんなこと絶対に言えっこないのに、何も言わなくても気に掛けてもらえる不動が羨ましい。
「ですが普通にプレゼントしても不動は絶対につけないと思います」
「だな。だから勝手につけてやる。しかも固結び。ふはははは、目覚めてから驚くがいい」
「・・・そんなに結んだら解けないんじゃ」
「ミサンガは普通解かないだろ。自然に切れるまで身に着けなきゃ意味ないじゃん」
「でも、鋏で切られたら」
「いいのいいの。それならそれで別にいい。俺がやりたいからやるだけだしな」
けど、もし不動が彼女のプレゼントをずさんな扱いをするなら、円堂が許したとしても自分は許せない。
彼女がどんな顔でこれを作ったか見てしまったから、だから絶対に赦せないだろう。
暴力沙汰は禁止されているが、その瞬間を見たら自分がどう出るか判らない。
黙り込んだ飛鷹に違和感を感じたのか、きょとんと瞬きをしてこちらを見た。
罪悪感からその視線を真っ直ぐに受け止められず俯くと、ぽんと肩を叩かれる。
「実は俺、確信しちゃってるんだ」
「何をです?」
「不動は絶対にこれを捨てないってね。案外に律儀だからな」
「・・・」
何も言わなかったのに全て見抜かれていて、かっと顔が赤くなった。
円堂守という人は、不思議だ。
口にしない思いを理解し、そして何気なく掬い上げる。
見透かされた想いが恥ずかしくて黙り込むと、彼女は自身の体で死角になっていた部分から紙袋を取り出し笑った。
「糸はまだまだあるんだ、飛鷹のも作らせてよ」
「俺の分を?」
「おう!飛鷹は何色が好きだ?お前は硬派なイメージがあるし、シンプルなのも似合いそうだよな。私服のときのイメージで黒地に一本の赤いラインとかいな。お前はどう思う?」
「俺は・・・円堂さんが選んでくれるなら何でも」
「何でもいいってのが一番難しいんだぞ。何選んでも絶対につけろよ」
「・・・はい」
唇を尖らせて訴える円堂が可愛くて、つい笑ってしまう。
瞳を丸めて飛鷹を見詰めた彼女は益々笑みを深めた。
「飛鷹って」
「何ですか?」
「笑うと幼くなるのな」
「───っ」
唐突な言葉に、意味を理解すると同時に顔が赤く染まった。
口元を覆い俯いて顔を隠そうにも、耳まで赤いから隠し切れない。
きっちりとセットしている髪に手を差し込まれくしゃくしゃにされたが怒るに怒れない。
照れくさくて恥ずかしくて、けれどやっぱり嬉しくて。
「練習が終る前までに作っとくから、ちゃんとつけろよ」
俯いていたから、にいっと意地悪く笑ったその表情に気づくことが出来なかった。
その後さらりと手渡されたミサンガが、ピンクと赤のハート飛び交うもので凍りつく。
折角彼女が作ってくれたのだから、とか、約束したし、とか考えながら動けないでいると、盛大に笑った彼女はもう一本別のミサンガを差し出してくれた。
自分の髪と良く似た色がベースのミサンガにはサッカーボールとイニシャルが入れられていて、普通のデザインにほっと息を吐く。
ちなみ最初に差し出されたミサンガもお守りとして櫛に結びつけたのだが、誰にも知られたくなくて予備のものに結ばれたそれは、ひっそりとトランクに隠された。
身に着けるミサンガに願うのは勿論サッカーのこと。
そして隠したミサンガには何も願わずに覚悟を結んだ。
いつかこのミサンガが切れた時、沢山溜まっているはずの覚悟で秘めた想いを伝えようと。
木漏れ日の中で何かを必死に編む円堂。
何故人目につかない場所でやっているのか知れないが、それだけなら飛鷹もそう驚かなかった。
問題は彼女のすぐ隣で胎児のように背中を丸めて眠る不動だ。
いつも生意気な顔で挑戦的な目をしている印象が強い彼なのに、円堂の隣で眠る彼は寄せられていることが多い眉間の皺も解け随分と柔らかい表情をしていた。
まるで、そう、まるで絶対的に信頼できる相手の近くで眠る、安心しきった子供のようだ。
自分を傷つけるものはいない、だから警戒する必要もない、とばかりに健やかな寝息を立てていた。
呆然とボールを持ったまま間抜けな格好で立ち竦んでいると、前触れ無しに声を掛けられぱちりと意識を取り戻す。
こちらを振り向きもしないで手元だけを見ているのに、いつから気づかれていたのだろうか。
驚愕している飛鷹に、ゆっくりと顔を上げる円堂はいつも通りに笑っている。
そしてとんとんと不動とは反対側の場所を指で叩いた。
隣に来い、と言うことだろうか。
少しだけ躊躇い、そっと足音を立てぬように近寄る。
僅かでも音を立てれば眠っている不動が目を覚ましそうで、つい細心の注意を払った。
「また基礎練習か?精が出るな」
「そんなことないです。・・・俺は、他の奴らほど技術がねえから、きっちりと練習しねえと」
「そっか。うん、その調子で無理せず適当に頑張れ」
「適当・・・ですか?」
「そう。適当って言ってもいい加減に手抜きしろって意味じゃないぞ。自分の状況に相応しい量だけこなせって意味だ。求める以上をすれば体に負荷が掛かり過ぎる。努力は尊いがやり過ぎで体を壊したら元も子もないからな」
「はい」
噛み砕いて説明してくれた彼女に頷くと、にかっと笑ってまた視線を手元に戻した。
何となくつられて流れるような動きに見惚れていると、何本もの糸を器用に操りながらどんどんと柄が出来ていく。
「ミサンガですか」
「そ。黒とグレーをベースに赤がアクセント。白は柄を作るのに使ってるんだ。あ、何かわかる?」
「髑髏・・・っすか?」
「正解!いやぁ、良かった。久し振りに作るからちょっと自信がなかったんだよな」
「十分上手に見えますけど」
「お世辞でも嬉しいよ、サンキュ。一応プレゼント用だからな」
「・・・・・・」
髑髏柄のそれをプレゼントと聞き、僅かに首を傾げる。
スタイリッシュなデザインのそれは格好いいが、彼女の弟や豪炎寺にはイメージが違う気がした。
だからと言って他に仲のいい綱海や、一年生たちとも違う気がする。
マネージャーたちを思い浮かべたが、女性がするにはデザインが男性向けだ。
自分が知らない親しい相手にでも上げるのだろうか、と、つきりと痛む胸に眉を顰めると、白糸と黒糸を交互に編んだ彼女は器用に新しい柄を追加する。
しかし完成したそれは、柄ではなく文字だった。
「A・H?イニシャルですか?」
「うん。不動明王だからA・H。スカルはイメージじゃない?」
「いや・・・似合ってると思います」
言葉に嘘はない。
プレゼント相手を考えると、確かにそれは不動のイメージにピッタリだ。
甘さのないキツイ印象でスマートで無駄がない。だが何故か惹き付けられる。
まるで彼そのもので、だからこそ飛鷹は何とも言えない気分になった。
このミサンガは彼にプレゼントされるために作られた、不動のためだけの一品ものだ。
つまりこれを作ってる間はきっとずっと不動のことだけを考えていて、その間だけでも彼女の意識を独占できたということだろう。
彼女に特別な意味で好意を持っている飛鷹からすると、とても複雑で仕方ない。
他人を気に掛ける円堂の懐の大きさを好んでいるのに、相反して自分だけを見て欲しいと望みそうになる。
そんなこと絶対に言えっこないのに、何も言わなくても気に掛けてもらえる不動が羨ましい。
「ですが普通にプレゼントしても不動は絶対につけないと思います」
「だな。だから勝手につけてやる。しかも固結び。ふはははは、目覚めてから驚くがいい」
「・・・そんなに結んだら解けないんじゃ」
「ミサンガは普通解かないだろ。自然に切れるまで身に着けなきゃ意味ないじゃん」
「でも、鋏で切られたら」
「いいのいいの。それならそれで別にいい。俺がやりたいからやるだけだしな」
けど、もし不動が彼女のプレゼントをずさんな扱いをするなら、円堂が許したとしても自分は許せない。
彼女がどんな顔でこれを作ったか見てしまったから、だから絶対に赦せないだろう。
暴力沙汰は禁止されているが、その瞬間を見たら自分がどう出るか判らない。
黙り込んだ飛鷹に違和感を感じたのか、きょとんと瞬きをしてこちらを見た。
罪悪感からその視線を真っ直ぐに受け止められず俯くと、ぽんと肩を叩かれる。
「実は俺、確信しちゃってるんだ」
「何をです?」
「不動は絶対にこれを捨てないってね。案外に律儀だからな」
「・・・」
何も言わなかったのに全て見抜かれていて、かっと顔が赤くなった。
円堂守という人は、不思議だ。
口にしない思いを理解し、そして何気なく掬い上げる。
見透かされた想いが恥ずかしくて黙り込むと、彼女は自身の体で死角になっていた部分から紙袋を取り出し笑った。
「糸はまだまだあるんだ、飛鷹のも作らせてよ」
「俺の分を?」
「おう!飛鷹は何色が好きだ?お前は硬派なイメージがあるし、シンプルなのも似合いそうだよな。私服のときのイメージで黒地に一本の赤いラインとかいな。お前はどう思う?」
「俺は・・・円堂さんが選んでくれるなら何でも」
「何でもいいってのが一番難しいんだぞ。何選んでも絶対につけろよ」
「・・・はい」
唇を尖らせて訴える円堂が可愛くて、つい笑ってしまう。
瞳を丸めて飛鷹を見詰めた彼女は益々笑みを深めた。
「飛鷹って」
「何ですか?」
「笑うと幼くなるのな」
「───っ」
唐突な言葉に、意味を理解すると同時に顔が赤く染まった。
口元を覆い俯いて顔を隠そうにも、耳まで赤いから隠し切れない。
きっちりとセットしている髪に手を差し込まれくしゃくしゃにされたが怒るに怒れない。
照れくさくて恥ずかしくて、けれどやっぱり嬉しくて。
「練習が終る前までに作っとくから、ちゃんとつけろよ」
俯いていたから、にいっと意地悪く笑ったその表情に気づくことが出来なかった。
その後さらりと手渡されたミサンガが、ピンクと赤のハート飛び交うもので凍りつく。
折角彼女が作ってくれたのだから、とか、約束したし、とか考えながら動けないでいると、盛大に笑った彼女はもう一本別のミサンガを差し出してくれた。
自分の髪と良く似た色がベースのミサンガにはサッカーボールとイニシャルが入れられていて、普通のデザインにほっと息を吐く。
ちなみ最初に差し出されたミサンガもお守りとして櫛に結びつけたのだが、誰にも知られたくなくて予備のものに結ばれたそれは、ひっそりとトランクに隠された。
身に着けるミサンガに願うのは勿論サッカーのこと。
そして隠したミサンガには何も願わずに覚悟を結んだ。
いつかこのミサンガが切れた時、沢山溜まっているはずの覚悟で秘めた想いを伝えようと。
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