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「上だ、有人!!」
今まさに試合再開のホイッスルを審判が吹き鳴らそうとした瞬間、試合へ集中した意識を逸らすよう叫び声が聞こえた。
驚き咄嗟に上を見上げ、そこで見つけたものに体が凍りつく。
判っていたのに、どうして忘れてしまっていたのか。
ここ最近の影山の動向を見張り、調べ上げ警戒していたのは、こういった事態を予測していたからではないか。
雷門のサッカーに心動かされ、影山のサッカーを、行動を危ぶんでいたのではなかったのか。
センターサークルへ向けて容赦なく降り注ぐ鉄骨にぐっと唇を噛みしめ、全力でダッシュする。
そしてセンターライン付近に居た仲間に二人を体当たりして弾き飛ばし、来るべき衝撃へ体を強張らせた。
「諦めてんじゃねぇよ」
「っ!?」
聞こえた声に瞑っていた目を大きく見開く。
目の前に居た姿に息を呑み、構えるまもなく弾き飛ばされた。
「───!!?姉さん!!」
体を包む黄金色の掌に強引に押し出される感覚のまま地面に転がり、身を起こして正面を向く。
土煙の上がる中落ちてきた鉄骨は雷門側に多く落ちていたらしく、土煙で視界が取れない。
信じられなかった。
「円堂!」
「円堂!?」
「何故、自分からセンターサークルへ行ったんだ!俺たちに危険を促したのは、お前だろう!!」
この騒ぎの中でも怪我人一つでなかったらしい雷門イレブンの叫びが聞こえた。
どうやら『姉』は何らかの理由で影山の行動を予期し、仲間に危険を告げていたのだろう。
センターサークル付近以外には影響がなかったこちらとはちがい、雷門イレブンは全員がタッチライン付近まで非難している。
ならば何故、と尚更疑問が沸く。
どうして鬼道を助けたのか。
彼女は自分を押し出す瞬間、昔よく見た笑顔を浮かべていた。
甘ったれな『弟』に苦笑する、『姉』の表情をしていた。
『有人』を捨てたのに、どうして。
「く・・・くくく・・・はーっはっは!相変わらずだな、守!お前はいつだって弟のためなら何でもした。未だにその甘さは残っていたか!」
「・・・総・・・帥?」
「教えてやろう、鬼道。二年前、お前の姉であった『鬼道守』は交通事故に合い一月の間意識を取り戻さぬ重症に陥った。その間にお前の父である鬼道に最新の治療を受けれるよう渡米を促したのは私だ。意識を取り戻した守に待っていたのは、二度とサッカーは出来ないという宣告。そう、お前は努力などしなくとも、もうとうにお前の『姉』を超えていたのだ!」
「姉さんが・・・サッカーを、出来ない・・・?」
言われた言葉の意味が理解できなかった。
『有人』の姉の『守』は、サッカーをするために生まれてきたような人だ。
サッカーの神様に愛され、溢れんばかりの才能を有し、誰よりも早く、誰よりも凄く、誰よりもサッカーを愛していた。
その『守』が。
「二度と、サッカーが出来ない?」
「そうだ、鬼道!お前の姉『鬼道守』が居なくなってから、一度として探そうとしない父をおかしいと思わなかったのか?お前に何を言われても沈黙を通したその意味を考えようと思ったことは?仮にも鬼道の娘が居なくなり、周りが何もしなかったのに違和感を感じたことはないのか?お前はいつだって自分のことばかりだな、鬼道。守が居なくなった理由をお前に誰も教えなかったのは、守がサッカーを出来ないという事実にお前が傷つくのを防ぐためだ。誰よりも姉に憧れ近づこうと努力したお前を知る『守本人』が、お前に告げるなと、怨まれるのを承知で父に頼んだからだ。───お前は、いつだって守に護られてたんだよ、鬼道」
「っ!!?」
醜悪な笑顔を浮かべる恩師に、息が止まってしまえばいいのにと喉元を両手で押さえる。
今まで信じていた全てを根底から叩き割られたような衝撃を受けた。
嘘だと否定したいのに、理性がそれを拒絶する。
違和感は常に感じていた。
どうして鬼道家の娘が居なくなったのに財界の人間が騒がないのか。
どうしてあれほど娘を誇りに思っていた父は姉のことを口にしなくなったのか。
どうしてサッカーを愛する姉がサッカー界から去ったのか。
どうして必死に探したのに、二年もの間何の情報も得られなかったのか。
気がつけば全部辻褄は合う。
彼女自身が望み、父や周囲の人間が情報を操作し隠した真実。
「今回の『不幸な事故』に巻き込まれるなど、守もなんと運がないのか。ああ、違うな。自ら走りこんだのか。くくっ・・・必死の想いでリハビリしたのだろうに、本当に愚かな」
「───姉さんを」
「何だ?」
「姉さんを、愚弄するな!!」
「ほう?それをお前が言うのか?誰より守を憎んでいたのはお前だろう、鬼道。真実を知らず、周囲の優しさに甘え、守の苦しみも知らずに自分のことだけを考えて生きてきたお前が、今更『姉さん』と守を呼ぶ権利があるとでも?『鬼道守』は死んだ!鬼道有人、お前のために死んだのだ!!」
心底愉快だと高笑いする影山に一言も言い返せない。
自分は何も知らなかった。知ろうともしなかった。
ただ、彼女に捨てられたと思い込み、憎み怨むことで自我を保ってきた。
そうしなければ、彼女が居ないという現実に耐えられなかった。
だがそれは言い訳でしかない。影山が言うとおり、すべては自分の所為だ。
涙すら流せない絶望に、全身の力が抜けた。
「───っ!?」
「人の弟、苛めるの止めてくれよ」
「守!!?」
呻りを上げたボールが影山のすぐ傍のベンチを破壊すると同時に、冴え冴えとした声が響く。
土煙が晴れた場所で腕を組んで仁王立ちした存在は、鋭い眼差しで影山を睨み付けていた。
普段は明るい笑顔の印象が強いのに、珍しくも酷く怒りを滲ませた表情だ。
びりびりと肌を刺すような怒気に身を竦ませると、組んでいた腕を解いた。
オレンジ色のバンダナを無造作に掴むと手首に巻く。
額が切れたのか血が流れ顎へと伝って、瞳に入らないように右目を眇めていた。
「姉さん!?顔に傷が」
「そんなのどうでもいい。それより、言いたい放題言ってるその男を黙らせるのが先だ。───随分と好き勝手に言ってくれたな、影山。お前の言い草を聞くとまるで有人が俺の不幸の源みたいじゃないか」
「実際その通りだろう、守。私のお前はサッカー以外に執着を持たない強い子供だった。それがなんだ?玩具として与えた弟に執着し、お前は変わってしまった。私が作り上げた最高の作品のお前が、サッカーより他のものを優先させるなど」
「黙れ」
「黙らない。お前は昔に戻らねばならない。一途にサッカーだけを求め、サッカーだけを愛し、私の望みの上を行くお前に」
「黙れって言ってんだよ、クソ野郎」
低くドスを利かせた声を出した彼女は、鬼道を睨みつける影山の視線を遮るように二人の中間地点に入る。
もうほとんど身長も変わらないのに、自分を庇う背中は相変わらず大きく見えた。
何故、と思う。
彼女を憎み、恨み、呪い続けた鬼道を、どうして今になっても庇おうとするのか。
あれほど憎悪をぶつけられ、どうしてそれでも無防備に背中を晒すのか。
「『姉』が『弟』を護るのに理由なんて要らない。俺は有人の正義のヒーローなんだよ。ヒーローってのは最高に格好良くて最強に強いんだ。有人が居てくれたから俺は前より強くなれた。諦めようと思ったサッカーも続けれた。今の俺は昔よりも随分と劣る。それは俺だって認めるさ。けどな、諦める気はねぇよ。サッカーも、有人もな」
「───何故だ。何故お前は私に屈さない。私のサッカーに染まらない。私の・・・私の技術を誰よりも完璧に使いこなすのに、何故私を受け入れない!?」
「言ったろ?俺は俺にしか染まらない。俺は俺のサッカーをする。それはあなたの教えを受けた子供の頃から何も変わらない。・・・そろそろ、お迎えが来る時間だぜ、影山」
「迎え?」
「観念するんだな、影山。今の『不幸な事故』について、聞きたいことがある」
「お前は・・・」
「証拠不十分とは言わせないぞ。残念だが証人が居るんでな。それに、これもある」
「ボルトだと?」
「そこの円堂君が落ちていたものを提出してくれたんだ。天井に何か仕掛けられているかもしれないから、調べてくれとな。たっぷりと聞かせてもらうぞ、四十年分の全てをな」
にいっと笑う男に、鬼道も見覚えがあった。
帝国学園の試合のたびに幾度か顔を見せていた彼は、警察手帳を提示する。
手首に鎖をかけられた影山は大した抵抗もせずに微笑んだ。
視線は鬼道ではなく、真っ直ぐに彼女に向いていた。
そして初めて、彼が自分の最高傑作と豪語する彼女に歪んだ愛情を向けていたのだと気づく。
真っ向から影山の視線を受けても怯まずにいた人は、額から流れる血を無造作に拭ったらしい。
キーパーグローブに赤い血が付着して息を呑む。
背後の鬼道の動揺に気づいているのか居ないのか。
ゆったりとした声で、彼女は影山に呼びかけた。
「あなたには感謝している」
「・・・・・・」
「俺にサッカーをする場を与えてくれた。技術、経験、知識、そして共に闘う仲間を与えてくれた。何より───可愛い『弟』を与えてくれた。俺たちの道は二度と交わらない。だから最後に恩師であったあなたに、『最後のライン』をこの場で明かさなかったあなたに感謝を。今まで、ありがとうございました」
きっちりと姿勢を正して深々と頭を下げた彼女に、何か言いたげに影山が口を開く。
二、三度開け閉めして、結局言葉を捜せなかったらしくそのまま踵を返しフィールドから出て行った。
手錠を繋がれ連行されているというのに、凛と背筋を伸ばした彼は、どこか誇らしげにも見えた。
今まさに試合再開のホイッスルを審判が吹き鳴らそうとした瞬間、試合へ集中した意識を逸らすよう叫び声が聞こえた。
驚き咄嗟に上を見上げ、そこで見つけたものに体が凍りつく。
判っていたのに、どうして忘れてしまっていたのか。
ここ最近の影山の動向を見張り、調べ上げ警戒していたのは、こういった事態を予測していたからではないか。
雷門のサッカーに心動かされ、影山のサッカーを、行動を危ぶんでいたのではなかったのか。
センターサークルへ向けて容赦なく降り注ぐ鉄骨にぐっと唇を噛みしめ、全力でダッシュする。
そしてセンターライン付近に居た仲間に二人を体当たりして弾き飛ばし、来るべき衝撃へ体を強張らせた。
「諦めてんじゃねぇよ」
「っ!?」
聞こえた声に瞑っていた目を大きく見開く。
目の前に居た姿に息を呑み、構えるまもなく弾き飛ばされた。
「───!!?姉さん!!」
体を包む黄金色の掌に強引に押し出される感覚のまま地面に転がり、身を起こして正面を向く。
土煙の上がる中落ちてきた鉄骨は雷門側に多く落ちていたらしく、土煙で視界が取れない。
信じられなかった。
「円堂!」
「円堂!?」
「何故、自分からセンターサークルへ行ったんだ!俺たちに危険を促したのは、お前だろう!!」
この騒ぎの中でも怪我人一つでなかったらしい雷門イレブンの叫びが聞こえた。
どうやら『姉』は何らかの理由で影山の行動を予期し、仲間に危険を告げていたのだろう。
センターサークル付近以外には影響がなかったこちらとはちがい、雷門イレブンは全員がタッチライン付近まで非難している。
ならば何故、と尚更疑問が沸く。
どうして鬼道を助けたのか。
彼女は自分を押し出す瞬間、昔よく見た笑顔を浮かべていた。
甘ったれな『弟』に苦笑する、『姉』の表情をしていた。
『有人』を捨てたのに、どうして。
「く・・・くくく・・・はーっはっは!相変わらずだな、守!お前はいつだって弟のためなら何でもした。未だにその甘さは残っていたか!」
「・・・総・・・帥?」
「教えてやろう、鬼道。二年前、お前の姉であった『鬼道守』は交通事故に合い一月の間意識を取り戻さぬ重症に陥った。その間にお前の父である鬼道に最新の治療を受けれるよう渡米を促したのは私だ。意識を取り戻した守に待っていたのは、二度とサッカーは出来ないという宣告。そう、お前は努力などしなくとも、もうとうにお前の『姉』を超えていたのだ!」
「姉さんが・・・サッカーを、出来ない・・・?」
言われた言葉の意味が理解できなかった。
『有人』の姉の『守』は、サッカーをするために生まれてきたような人だ。
サッカーの神様に愛され、溢れんばかりの才能を有し、誰よりも早く、誰よりも凄く、誰よりもサッカーを愛していた。
その『守』が。
「二度と、サッカーが出来ない?」
「そうだ、鬼道!お前の姉『鬼道守』が居なくなってから、一度として探そうとしない父をおかしいと思わなかったのか?お前に何を言われても沈黙を通したその意味を考えようと思ったことは?仮にも鬼道の娘が居なくなり、周りが何もしなかったのに違和感を感じたことはないのか?お前はいつだって自分のことばかりだな、鬼道。守が居なくなった理由をお前に誰も教えなかったのは、守がサッカーを出来ないという事実にお前が傷つくのを防ぐためだ。誰よりも姉に憧れ近づこうと努力したお前を知る『守本人』が、お前に告げるなと、怨まれるのを承知で父に頼んだからだ。───お前は、いつだって守に護られてたんだよ、鬼道」
「っ!!?」
醜悪な笑顔を浮かべる恩師に、息が止まってしまえばいいのにと喉元を両手で押さえる。
今まで信じていた全てを根底から叩き割られたような衝撃を受けた。
嘘だと否定したいのに、理性がそれを拒絶する。
違和感は常に感じていた。
どうして鬼道家の娘が居なくなったのに財界の人間が騒がないのか。
どうしてあれほど娘を誇りに思っていた父は姉のことを口にしなくなったのか。
どうしてサッカーを愛する姉がサッカー界から去ったのか。
どうして必死に探したのに、二年もの間何の情報も得られなかったのか。
気がつけば全部辻褄は合う。
彼女自身が望み、父や周囲の人間が情報を操作し隠した真実。
「今回の『不幸な事故』に巻き込まれるなど、守もなんと運がないのか。ああ、違うな。自ら走りこんだのか。くくっ・・・必死の想いでリハビリしたのだろうに、本当に愚かな」
「───姉さんを」
「何だ?」
「姉さんを、愚弄するな!!」
「ほう?それをお前が言うのか?誰より守を憎んでいたのはお前だろう、鬼道。真実を知らず、周囲の優しさに甘え、守の苦しみも知らずに自分のことだけを考えて生きてきたお前が、今更『姉さん』と守を呼ぶ権利があるとでも?『鬼道守』は死んだ!鬼道有人、お前のために死んだのだ!!」
心底愉快だと高笑いする影山に一言も言い返せない。
自分は何も知らなかった。知ろうともしなかった。
ただ、彼女に捨てられたと思い込み、憎み怨むことで自我を保ってきた。
そうしなければ、彼女が居ないという現実に耐えられなかった。
だがそれは言い訳でしかない。影山が言うとおり、すべては自分の所為だ。
涙すら流せない絶望に、全身の力が抜けた。
「───っ!?」
「人の弟、苛めるの止めてくれよ」
「守!!?」
呻りを上げたボールが影山のすぐ傍のベンチを破壊すると同時に、冴え冴えとした声が響く。
土煙が晴れた場所で腕を組んで仁王立ちした存在は、鋭い眼差しで影山を睨み付けていた。
普段は明るい笑顔の印象が強いのに、珍しくも酷く怒りを滲ませた表情だ。
びりびりと肌を刺すような怒気に身を竦ませると、組んでいた腕を解いた。
オレンジ色のバンダナを無造作に掴むと手首に巻く。
額が切れたのか血が流れ顎へと伝って、瞳に入らないように右目を眇めていた。
「姉さん!?顔に傷が」
「そんなのどうでもいい。それより、言いたい放題言ってるその男を黙らせるのが先だ。───随分と好き勝手に言ってくれたな、影山。お前の言い草を聞くとまるで有人が俺の不幸の源みたいじゃないか」
「実際その通りだろう、守。私のお前はサッカー以外に執着を持たない強い子供だった。それがなんだ?玩具として与えた弟に執着し、お前は変わってしまった。私が作り上げた最高の作品のお前が、サッカーより他のものを優先させるなど」
「黙れ」
「黙らない。お前は昔に戻らねばならない。一途にサッカーだけを求め、サッカーだけを愛し、私の望みの上を行くお前に」
「黙れって言ってんだよ、クソ野郎」
低くドスを利かせた声を出した彼女は、鬼道を睨みつける影山の視線を遮るように二人の中間地点に入る。
もうほとんど身長も変わらないのに、自分を庇う背中は相変わらず大きく見えた。
何故、と思う。
彼女を憎み、恨み、呪い続けた鬼道を、どうして今になっても庇おうとするのか。
あれほど憎悪をぶつけられ、どうしてそれでも無防備に背中を晒すのか。
「『姉』が『弟』を護るのに理由なんて要らない。俺は有人の正義のヒーローなんだよ。ヒーローってのは最高に格好良くて最強に強いんだ。有人が居てくれたから俺は前より強くなれた。諦めようと思ったサッカーも続けれた。今の俺は昔よりも随分と劣る。それは俺だって認めるさ。けどな、諦める気はねぇよ。サッカーも、有人もな」
「───何故だ。何故お前は私に屈さない。私のサッカーに染まらない。私の・・・私の技術を誰よりも完璧に使いこなすのに、何故私を受け入れない!?」
「言ったろ?俺は俺にしか染まらない。俺は俺のサッカーをする。それはあなたの教えを受けた子供の頃から何も変わらない。・・・そろそろ、お迎えが来る時間だぜ、影山」
「迎え?」
「観念するんだな、影山。今の『不幸な事故』について、聞きたいことがある」
「お前は・・・」
「証拠不十分とは言わせないぞ。残念だが証人が居るんでな。それに、これもある」
「ボルトだと?」
「そこの円堂君が落ちていたものを提出してくれたんだ。天井に何か仕掛けられているかもしれないから、調べてくれとな。たっぷりと聞かせてもらうぞ、四十年分の全てをな」
にいっと笑う男に、鬼道も見覚えがあった。
帝国学園の試合のたびに幾度か顔を見せていた彼は、警察手帳を提示する。
手首に鎖をかけられた影山は大した抵抗もせずに微笑んだ。
視線は鬼道ではなく、真っ直ぐに彼女に向いていた。
そして初めて、彼が自分の最高傑作と豪語する彼女に歪んだ愛情を向けていたのだと気づく。
真っ向から影山の視線を受けても怯まずにいた人は、額から流れる血を無造作に拭ったらしい。
キーパーグローブに赤い血が付着して息を呑む。
背後の鬼道の動揺に気づいているのか居ないのか。
ゆったりとした声で、彼女は影山に呼びかけた。
「あなたには感謝している」
「・・・・・・」
「俺にサッカーをする場を与えてくれた。技術、経験、知識、そして共に闘う仲間を与えてくれた。何より───可愛い『弟』を与えてくれた。俺たちの道は二度と交わらない。だから最後に恩師であったあなたに、『最後のライン』をこの場で明かさなかったあなたに感謝を。今まで、ありがとうございました」
きっちりと姿勢を正して深々と頭を下げた彼女に、何か言いたげに影山が口を開く。
二、三度開け閉めして、結局言葉を捜せなかったらしくそのまま踵を返しフィールドから出て行った。
手錠を繋がれ連行されているというのに、凛と背筋を伸ばした彼は、どこか誇らしげにも見えた。
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