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ある日煎餅片手に歩いていたら、とても珍しい光景を目にした。
仲良しFFI一年メンバーと、いかにもそんな彼らとつるみそうにない不動の姿。
休憩所の中で真剣な顔をして顔を突き合わせている彼らは、どうやらトランプをしているようだった。
何でまたトランプ、と思いながらも好奇心のままに足を踏み入れる。
丸テーブルに左から壁山、栗松、立向居、小暮と並び、両隣から隙間を空けた部分に不動が足を組んで座っていた。
浮かんでいる笑顔はいかにも性質が悪いもので、何となく展開を読みながらも一応声を掛けてみる。
「何してるんだ?」
『キャプテン!』
「円堂さん!」
「・・・・・・」
動揺で呼び方が以前に戻っている面々と、元から名前呼びの立向居。
彼らは揃って顔を上げると、情けなくも瞳を潤ませた。
ちらりと机の上を覗けば、普段は壁山が所有しているお菓子の山が全て不動の元へと集まっている。
それどころかノートやサッカー雑誌、挙句の果てに『お掃除当番交代券』なるものや際どいところでは『パシリ券』なるものまである。
多大に呆れを含んだ半眼の眼差しでじとりと一年メンバーを眺めると、恥じ入るように俯いた立向居は小さくなり、壁山と栗松は胸の前で手を組んで泣きそうな顔になり、小暮は不機嫌そうな顔で視線を逸らした。
嘆息して不動を見れば、にやにやと悪役面して笑っている。
心持ち勝ち誇ったように胸を張っている姿は年相応と言えなくもないが、カモにするにしてもこれはやりすぎだろう。
「こんなとこで何してんの、不動君」
「見てわかんねえのか?トランプだよ、トランプ」
「賭けなんて監督に見つかったら何言われるかわかんないぞ?」
「知るかよ。大体金銭や命を賭けてるわけでもあるまいし、一々いい子ぶった発言をするな。それとも、お前がこいつらに代わって俺の相手をするか?」
「俺からも搾り取りたいわけ?貪欲だなぁ」
「普段から無駄に余裕ぶってるその面の皮剥がしてやるよ」
「はぁ・・・」
ちょっと立ち寄っただけなのだが、どうやら面倒に巻き込まれたらしい。
もっとも放置するにも縋るように見上げる可愛い後輩を見捨てるのも後味が悪いし、仕方無しに隣の空いていたテーブルの上に煎餅を置きちょいちょいと指先で拱く。
獰猛な獣が獲物を前に牙を剥く寸前のように剣呑な表情で嗤った不動は、のそりと体を起こすと円堂の前の椅子へ腰掛けた。
「言っておくが、俺はお前が相手でも手加減なんかしねぇぜ?きっちりと勝たせてもらう」
「ふーん。でも、俺が賭けれるのってこの一日限定五袋の醤油煎餅しかないぜ?ちなみにこれは朝五時から並んで買った」
「・・・よし。それならその煎餅でいい」
「えー?でも勿体無いしなぁ。一枚一枚でもいい?」
「どうせ全部巻き上げるから構わねぇよ」
「んでお前は何賭けるの?」
「そうだな・・・そいつらから巻き上げたもんでも賭けてやるよ」
「あっそう。ゲームの指定は俺でもいいの?」
「構わないぜ」
「じゃあポーカーな。ホールデムのルールは判るか?」
「当然」
「んじゃチップの代わりが手持ちのアイテムでいいか?リミット制限はどうする?」
「ノーリミットだ」
「・・・俺の煎餅こんだけだけど」
「煎餅がなくなれば一枚一服でも取ってやる」
「わお!不動君俺の体に興味があったんだ?不埒ー、エッチー、ついでにムッツリー」
「何とでも言え。最愛の姉のヌードショットを写メールしてやれば、鬼道はどうなるかな?」
「有人?いやぁ、青少年だし喜ぶんじゃない?───でも、俺のヌードは高くつくかもよ」
「っは、精々今の内に粋がっているんだな」
にいっと笑顔をかわす二人に、他の面々は泡を食う。
助けて欲しいと思ったが、まさか円堂にヌードなどさせるわけにはいかない。
年下であるが男として絶対に許せない暴挙だし、同時にそんなことさせたら確実に円堂を慕う人間から闇討ちにあう。
普段はしっかり者なのに円堂が絡むとダークな空気を纏う風丸や、クールで格好いいのに自分の想いに未だ気づかぬ若干天然が入ってる豪炎寺や、シスコンマックスの鬼道や、ストーカーじみた執着を持つ基山や他にも以外にネットワークの広い円堂の知人友人にボコられる。
確実に死亡フラグが立ってしまう。
それならまだ不動のパシリをした方が確実にマシだ。
早くも煎餅十枚の内三枚をなくした円堂に、そっと壁山が近づいた。
「その、俺たち不動さんの言われたとおりにするっすから、もういいっす」
「そうですよ、円堂さん!元はと言えば俺たちが安易に誘いに乗ったのがいけなかったんです!」
「あいつの思い通りになるのや嫌でやんすが、自業自得でやんす」
「そうだよ・・・俺たちなら我慢できるから、もういいよ」
しゅんとした顔で反省を露にする後輩に、円堂はくすりと笑った。
彼らはまだまだ精神的には幼いが、素直でとても可愛らしい。
近くにあった小暮の頭を撫でると、きょとりとした眼差しでこちらを見上げてきて益々笑みを深める。
「どうせここで降りるって言っても俺の負けだ。逃がしてくれないよな、不動君」
「当然だな、円堂ちゃん。逃げれると思うなよ」
連続で勝ち越して気分が良くなっているのか、にいっと口の端を持ち上げると機嫌よく笑顔を見せる。
どう見ても三流悪役の姿に笑いがこみ上げるが何とかぐっと堪えた。
ここで爆笑すれば折角機嫌よくゲームしている不動が剥れてしまう。
他のメンバーは不動と距離を置こうとするが、むしろ円堂からすればこの手のタイプは構いたくて仕方ない。
爪を立て牙を剥き出し警戒してますと全力で訴える姿に、こう、心がうずうずと疼くのだ。
絶対に噛まれると判っているが、野良猫を懐かせたいと望むのと同じだろうか。
嫌だと叫ぶ姿を見ながら腕にぎゅうぎゅうに抱きしめて構いたいのだ。
自分の思うとおりに動かすためにも勝たせて上げている円堂は、フォルドと呟くとカードを捨てる。
煎餅を更に二枚手に入れた不動は満足げに喉を鳴らす猫のようだ。
可愛いなぁと目を細める円堂は、鬼道が傍に居たなら趣味が悪いと嫌そうな顔で忠告されたに違いない。
残念ながらそこまで深く円堂の性格を理解しない一年生は、不安そうに眉を下げて瞳を潤ませた。
頭を撫でていた小暮に顔を近づけづと、紙とペンを用意して文書を作って欲しいと囁く。
大まかに内容を説明すると、目を丸くしていた彼はそれでも頷いて駆け出した。
「何だ?助っ人でも呼びに行ったのか?」
「まさか。お前と勝負するのに助っ人なんて要らないさ」
「───その余裕ぶった態度がむかつくって言ってんだよ」
「悪いな、これは性格だから今更直らないんだ」
息せきかけて戻ってきた小暮に頷くと、一年生たちは小暮に誘われ別のテーブルへ固まる。
その様子を横目で確認してからさらにもう一枚不動に煎餅を巻き上げられて肩を竦めた。
調子付く不動はにやにやとした笑みを常時浮かべ新たにカードを五枚手に取る。
ポーカーフェイスで役を眺めながら、淡々とした様子で口を開いた。
「ポーカー理論って知ってるか、不動君?」
「・・・何だそれは?」
「ハーバード大学の教授も共感し広めようとする理論だ。ポーカーを理解しない奴は一般的に心理戦と言われている部分だけを捉えるが、実際はそうじゃない。勿論それは間違いじゃないが、心理戦のみでは勝ち抜けないプラスアルファの要素がある」
「・・・・・・」
「ポーカーは極めて学術的なゲームだ。カードは五十二枚と限られ、俺とお前が今プレイしているホールデムはポケットは二枚、ボードは五枚の計七枚のカードから五枚を利用する」
「だからどうしたって言うんだ」
「つまり、だ。何が言いたいかというと、数式さえ知っていればどの役がどの程度の割合で完成するか、今俺が利用しているポケットは勝率がいかほどでどういうボードに有利か確立を算出出来るってことだ。少し前の映画でもあっただろう?あれと同じだ」
「だから、何が言いたいかって聞いてるんだよ!」
遠まわしな言い回しに我慢ならないとばかりに柳眉を吊り上げた不動は、カードを指先で弄びながら眺める。
何だかんだ言ってイカサマもせずに真っ向から勝負を挑むところが可愛い。
その気になれば不動ならイカサマくらいは出来そうだが、正々堂々と、と決めているのだろうか。
自分なら勝ちたい勝負で躊躇しないだろうなと想像できるので、ある種の真っ直ぐな理念は好ましくある。
彼は些か歪んでいるが基本的に勝利へ向かい努力する姿勢は真っ直ぐだ。
もっとも、イカサマはばれなければいいだけで、ばれたら下策でしかない。
技術を持つ人間はイカサマを見抜くのもお手の物だ。
円堂相手にその手の技を使わないのは、むしろ正しい。
不動がイカサマを利用しようとしたら、完膚なきまでに同じ手を出してやろうと決めていた。
ぎらぎらとした目で一直線に怒りをぶつける彼よりも、自分の方が余程性格が悪い。
クツクツと喉を震わせて笑いながら、一番端のカードを指先で触れる。
予想通りの役が手の中に揃っていて計算した勝率は悪くない。
「やれやれ。珍しく飲み込みが悪いな、不動。簡単なことだ。お前は俺に勝てない」
「何をっ!?」
「お前が得意なのは心理戦略、そして俺はプラスして確率論戦略も得意なんだ。ポーカーは心理戦だけじゃ勝てない、実に効率のいいゲームだよ。自分の計算を信じる俺はブラフに左右されず動ける。つまりベッドするタイミングも、フォルドするタイミングも心理状況に頼らず選べるってわけだ。今回のゲームでノーリミットに賛同したのは悪判断だったな」
「ふざけるな!あんな化け物じみた行為が出来る奴なんて映画の中だけだ!」
「そんじゃ試してみるか?」
「当然だ!余裕ぶった顔、ぼろぼろに歪めてやるよ」
「負けて後悔してもしらないからな」
「負けねえよ。だから後悔なんてしないね」
あらまぁ、熱くなっちゃって。
内心で笑いが止まらないが、怒りで状況を理解出来てない不動は身を乗り出さんばかりにして睨んで来る。
熱くなると冷静さを欠く部分は弟そっくりだが、腕を伸ばしてぐりぐりと撫で回したい衝動を何とか我慢した。
代わりに近寄ってきた小暮から頼んでいたものを受け取り、にいっと笑う。
ひらりと差し出された紙に訝しげに目を細めた不動は、警戒するように椅子に腰掛けて距離を取った。
「じゃ、これにサインして」
「何だそれ?」
「誓約書。さっき壁山と栗松に作ってもらった。ちゃんと正式文書の法的に考慮できる奴だ。勝つ自信があるならサイン出来るよな?」
「お前も同じ条件か?」
「当たり前だ。ほらペン」
「・・・拇印もか?」
「ああ。あ、これ濡れティッシュ。ほい、立向居預かっておいて」
「でも、円堂さん・・・万が一負けたら」
「大丈夫。俺を信じろって」
「・・・キャプテン」
「お前らの今のキャプテンは俺じゃないだろ。ほれほれ、大丈夫だからどんと腰掛けて状況を見守ってなさいって。ちなみに不動からあれらを巻き上げたら、お前らパシる権利は俺に移行するだけだから覚悟しとけよー」
「ええ!?取り返してくれるんじゃないの!?」
「奪われたものは取り返してやるよ。でも反省の念も篭めてきっちりと顎で使ってやるから覚悟しとけ」
「これじゃどっちを応援していいか判らないっす」
「どっちが勝っても俺たちに待ってるのはパシリでやんす」
「俺は円堂さんのためならそんな紙なくても何でもします!」
「それは立向居だけだよ。キャプテンは本当に容赦ないんだから」
自らの行動を嘆く彼らに微笑むと、サインを終えた紙を公平を期して栗松へ渡す。
煎餅袋の中身を全て確認し、にっと笑った。
先日響から譲り受けた近所の和菓子屋で五百円で買える商品は、実のところ限定商品でもなんでもないし対して執着も持ってない。
この程度の煎餅が欲しいのなら幾らでも譲ってやりたいが、勝ち誇って笑う彼に教えたときの態度も中々楽しみだ。
「さて、それじゃあゲームを続けようか」
勝利の女神の微笑みを受けながら、その一切を懐へ隠してカードをオープンした。
仲良しFFI一年メンバーと、いかにもそんな彼らとつるみそうにない不動の姿。
休憩所の中で真剣な顔をして顔を突き合わせている彼らは、どうやらトランプをしているようだった。
何でまたトランプ、と思いながらも好奇心のままに足を踏み入れる。
丸テーブルに左から壁山、栗松、立向居、小暮と並び、両隣から隙間を空けた部分に不動が足を組んで座っていた。
浮かんでいる笑顔はいかにも性質が悪いもので、何となく展開を読みながらも一応声を掛けてみる。
「何してるんだ?」
『キャプテン!』
「円堂さん!」
「・・・・・・」
動揺で呼び方が以前に戻っている面々と、元から名前呼びの立向居。
彼らは揃って顔を上げると、情けなくも瞳を潤ませた。
ちらりと机の上を覗けば、普段は壁山が所有しているお菓子の山が全て不動の元へと集まっている。
それどころかノートやサッカー雑誌、挙句の果てに『お掃除当番交代券』なるものや際どいところでは『パシリ券』なるものまである。
多大に呆れを含んだ半眼の眼差しでじとりと一年メンバーを眺めると、恥じ入るように俯いた立向居は小さくなり、壁山と栗松は胸の前で手を組んで泣きそうな顔になり、小暮は不機嫌そうな顔で視線を逸らした。
嘆息して不動を見れば、にやにやと悪役面して笑っている。
心持ち勝ち誇ったように胸を張っている姿は年相応と言えなくもないが、カモにするにしてもこれはやりすぎだろう。
「こんなとこで何してんの、不動君」
「見てわかんねえのか?トランプだよ、トランプ」
「賭けなんて監督に見つかったら何言われるかわかんないぞ?」
「知るかよ。大体金銭や命を賭けてるわけでもあるまいし、一々いい子ぶった発言をするな。それとも、お前がこいつらに代わって俺の相手をするか?」
「俺からも搾り取りたいわけ?貪欲だなぁ」
「普段から無駄に余裕ぶってるその面の皮剥がしてやるよ」
「はぁ・・・」
ちょっと立ち寄っただけなのだが、どうやら面倒に巻き込まれたらしい。
もっとも放置するにも縋るように見上げる可愛い後輩を見捨てるのも後味が悪いし、仕方無しに隣の空いていたテーブルの上に煎餅を置きちょいちょいと指先で拱く。
獰猛な獣が獲物を前に牙を剥く寸前のように剣呑な表情で嗤った不動は、のそりと体を起こすと円堂の前の椅子へ腰掛けた。
「言っておくが、俺はお前が相手でも手加減なんかしねぇぜ?きっちりと勝たせてもらう」
「ふーん。でも、俺が賭けれるのってこの一日限定五袋の醤油煎餅しかないぜ?ちなみにこれは朝五時から並んで買った」
「・・・よし。それならその煎餅でいい」
「えー?でも勿体無いしなぁ。一枚一枚でもいい?」
「どうせ全部巻き上げるから構わねぇよ」
「んでお前は何賭けるの?」
「そうだな・・・そいつらから巻き上げたもんでも賭けてやるよ」
「あっそう。ゲームの指定は俺でもいいの?」
「構わないぜ」
「じゃあポーカーな。ホールデムのルールは判るか?」
「当然」
「んじゃチップの代わりが手持ちのアイテムでいいか?リミット制限はどうする?」
「ノーリミットだ」
「・・・俺の煎餅こんだけだけど」
「煎餅がなくなれば一枚一服でも取ってやる」
「わお!不動君俺の体に興味があったんだ?不埒ー、エッチー、ついでにムッツリー」
「何とでも言え。最愛の姉のヌードショットを写メールしてやれば、鬼道はどうなるかな?」
「有人?いやぁ、青少年だし喜ぶんじゃない?───でも、俺のヌードは高くつくかもよ」
「っは、精々今の内に粋がっているんだな」
にいっと笑顔をかわす二人に、他の面々は泡を食う。
助けて欲しいと思ったが、まさか円堂にヌードなどさせるわけにはいかない。
年下であるが男として絶対に許せない暴挙だし、同時にそんなことさせたら確実に円堂を慕う人間から闇討ちにあう。
普段はしっかり者なのに円堂が絡むとダークな空気を纏う風丸や、クールで格好いいのに自分の想いに未だ気づかぬ若干天然が入ってる豪炎寺や、シスコンマックスの鬼道や、ストーカーじみた執着を持つ基山や他にも以外にネットワークの広い円堂の知人友人にボコられる。
確実に死亡フラグが立ってしまう。
それならまだ不動のパシリをした方が確実にマシだ。
早くも煎餅十枚の内三枚をなくした円堂に、そっと壁山が近づいた。
「その、俺たち不動さんの言われたとおりにするっすから、もういいっす」
「そうですよ、円堂さん!元はと言えば俺たちが安易に誘いに乗ったのがいけなかったんです!」
「あいつの思い通りになるのや嫌でやんすが、自業自得でやんす」
「そうだよ・・・俺たちなら我慢できるから、もういいよ」
しゅんとした顔で反省を露にする後輩に、円堂はくすりと笑った。
彼らはまだまだ精神的には幼いが、素直でとても可愛らしい。
近くにあった小暮の頭を撫でると、きょとりとした眼差しでこちらを見上げてきて益々笑みを深める。
「どうせここで降りるって言っても俺の負けだ。逃がしてくれないよな、不動君」
「当然だな、円堂ちゃん。逃げれると思うなよ」
連続で勝ち越して気分が良くなっているのか、にいっと口の端を持ち上げると機嫌よく笑顔を見せる。
どう見ても三流悪役の姿に笑いがこみ上げるが何とかぐっと堪えた。
ここで爆笑すれば折角機嫌よくゲームしている不動が剥れてしまう。
他のメンバーは不動と距離を置こうとするが、むしろ円堂からすればこの手のタイプは構いたくて仕方ない。
爪を立て牙を剥き出し警戒してますと全力で訴える姿に、こう、心がうずうずと疼くのだ。
絶対に噛まれると判っているが、野良猫を懐かせたいと望むのと同じだろうか。
嫌だと叫ぶ姿を見ながら腕にぎゅうぎゅうに抱きしめて構いたいのだ。
自分の思うとおりに動かすためにも勝たせて上げている円堂は、フォルドと呟くとカードを捨てる。
煎餅を更に二枚手に入れた不動は満足げに喉を鳴らす猫のようだ。
可愛いなぁと目を細める円堂は、鬼道が傍に居たなら趣味が悪いと嫌そうな顔で忠告されたに違いない。
残念ながらそこまで深く円堂の性格を理解しない一年生は、不安そうに眉を下げて瞳を潤ませた。
頭を撫でていた小暮に顔を近づけづと、紙とペンを用意して文書を作って欲しいと囁く。
大まかに内容を説明すると、目を丸くしていた彼はそれでも頷いて駆け出した。
「何だ?助っ人でも呼びに行ったのか?」
「まさか。お前と勝負するのに助っ人なんて要らないさ」
「───その余裕ぶった態度がむかつくって言ってんだよ」
「悪いな、これは性格だから今更直らないんだ」
息せきかけて戻ってきた小暮に頷くと、一年生たちは小暮に誘われ別のテーブルへ固まる。
その様子を横目で確認してからさらにもう一枚不動に煎餅を巻き上げられて肩を竦めた。
調子付く不動はにやにやとした笑みを常時浮かべ新たにカードを五枚手に取る。
ポーカーフェイスで役を眺めながら、淡々とした様子で口を開いた。
「ポーカー理論って知ってるか、不動君?」
「・・・何だそれは?」
「ハーバード大学の教授も共感し広めようとする理論だ。ポーカーを理解しない奴は一般的に心理戦と言われている部分だけを捉えるが、実際はそうじゃない。勿論それは間違いじゃないが、心理戦のみでは勝ち抜けないプラスアルファの要素がある」
「・・・・・・」
「ポーカーは極めて学術的なゲームだ。カードは五十二枚と限られ、俺とお前が今プレイしているホールデムはポケットは二枚、ボードは五枚の計七枚のカードから五枚を利用する」
「だからどうしたって言うんだ」
「つまり、だ。何が言いたいかというと、数式さえ知っていればどの役がどの程度の割合で完成するか、今俺が利用しているポケットは勝率がいかほどでどういうボードに有利か確立を算出出来るってことだ。少し前の映画でもあっただろう?あれと同じだ」
「だから、何が言いたいかって聞いてるんだよ!」
遠まわしな言い回しに我慢ならないとばかりに柳眉を吊り上げた不動は、カードを指先で弄びながら眺める。
何だかんだ言ってイカサマもせずに真っ向から勝負を挑むところが可愛い。
その気になれば不動ならイカサマくらいは出来そうだが、正々堂々と、と決めているのだろうか。
自分なら勝ちたい勝負で躊躇しないだろうなと想像できるので、ある種の真っ直ぐな理念は好ましくある。
彼は些か歪んでいるが基本的に勝利へ向かい努力する姿勢は真っ直ぐだ。
もっとも、イカサマはばれなければいいだけで、ばれたら下策でしかない。
技術を持つ人間はイカサマを見抜くのもお手の物だ。
円堂相手にその手の技を使わないのは、むしろ正しい。
不動がイカサマを利用しようとしたら、完膚なきまでに同じ手を出してやろうと決めていた。
ぎらぎらとした目で一直線に怒りをぶつける彼よりも、自分の方が余程性格が悪い。
クツクツと喉を震わせて笑いながら、一番端のカードを指先で触れる。
予想通りの役が手の中に揃っていて計算した勝率は悪くない。
「やれやれ。珍しく飲み込みが悪いな、不動。簡単なことだ。お前は俺に勝てない」
「何をっ!?」
「お前が得意なのは心理戦略、そして俺はプラスして確率論戦略も得意なんだ。ポーカーは心理戦だけじゃ勝てない、実に効率のいいゲームだよ。自分の計算を信じる俺はブラフに左右されず動ける。つまりベッドするタイミングも、フォルドするタイミングも心理状況に頼らず選べるってわけだ。今回のゲームでノーリミットに賛同したのは悪判断だったな」
「ふざけるな!あんな化け物じみた行為が出来る奴なんて映画の中だけだ!」
「そんじゃ試してみるか?」
「当然だ!余裕ぶった顔、ぼろぼろに歪めてやるよ」
「負けて後悔してもしらないからな」
「負けねえよ。だから後悔なんてしないね」
あらまぁ、熱くなっちゃって。
内心で笑いが止まらないが、怒りで状況を理解出来てない不動は身を乗り出さんばかりにして睨んで来る。
熱くなると冷静さを欠く部分は弟そっくりだが、腕を伸ばしてぐりぐりと撫で回したい衝動を何とか我慢した。
代わりに近寄ってきた小暮から頼んでいたものを受け取り、にいっと笑う。
ひらりと差し出された紙に訝しげに目を細めた不動は、警戒するように椅子に腰掛けて距離を取った。
「じゃ、これにサインして」
「何だそれ?」
「誓約書。さっき壁山と栗松に作ってもらった。ちゃんと正式文書の法的に考慮できる奴だ。勝つ自信があるならサイン出来るよな?」
「お前も同じ条件か?」
「当たり前だ。ほらペン」
「・・・拇印もか?」
「ああ。あ、これ濡れティッシュ。ほい、立向居預かっておいて」
「でも、円堂さん・・・万が一負けたら」
「大丈夫。俺を信じろって」
「・・・キャプテン」
「お前らの今のキャプテンは俺じゃないだろ。ほれほれ、大丈夫だからどんと腰掛けて状況を見守ってなさいって。ちなみに不動からあれらを巻き上げたら、お前らパシる権利は俺に移行するだけだから覚悟しとけよー」
「ええ!?取り返してくれるんじゃないの!?」
「奪われたものは取り返してやるよ。でも反省の念も篭めてきっちりと顎で使ってやるから覚悟しとけ」
「これじゃどっちを応援していいか判らないっす」
「どっちが勝っても俺たちに待ってるのはパシリでやんす」
「俺は円堂さんのためならそんな紙なくても何でもします!」
「それは立向居だけだよ。キャプテンは本当に容赦ないんだから」
自らの行動を嘆く彼らに微笑むと、サインを終えた紙を公平を期して栗松へ渡す。
煎餅袋の中身を全て確認し、にっと笑った。
先日響から譲り受けた近所の和菓子屋で五百円で買える商品は、実のところ限定商品でもなんでもないし対して執着も持ってない。
この程度の煎餅が欲しいのなら幾らでも譲ってやりたいが、勝ち誇って笑う彼に教えたときの態度も中々楽しみだ。
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勝利の女神の微笑みを受けながら、その一切を懐へ隠してカードをオープンした。
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