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「お前って結構容赦ない性格してるよな」
隣で並んで歩く綱海の、無意識に出たとばかりに自然な言葉に、円堂はぱちりと一つ瞬きをした。
足が止まった円堂に気づくと、不思議そうに顔を傾げて彼も歩みを止めた。
現在綱海と円堂が居るのはライオコット島の滞在地のジャパンエリアではなく、そこから離れた場所にあるイギリスエリアだ。
バスを乗り継いで態々足を伸ばしたのは、偏に円堂が本場のスコーンと紅茶が欲しかったからであり、偶々サーフィン帰りだった綱海は好奇心でついてきた。
気心知れる友人が一緒に来たいと言うのなら特に断る理由もなく、そのまま行動を共にしたのだが。
「どうかしたのか?」
「いや、どうかしたのは俺じゃなくてお前だろ。どうしたんだよ、綱海?」
「何が」
「何がって・・・俺が容赦ない性格してるのは今更だろ?何を改めてんだ?」
「否定しないのか?」
「する要素がないからな」
スコーンの入った袋とと女の子へのお土産のトライフルを両手に持ち、ひょいと肩を竦める。
ちなみに綱海には紅茶缶とイギリスパン、そして近場の店で買ったグリルドポテトを持たせていた。
綱海が自分の意思で購入したのはグリルポテトだけで、他は全部円堂のチョイスだ。
紅茶缶は数種類選んだので宿舎で飲み比べをするのもいいかもしれない。
どちらかと言えば紅茶より珈琲派だが、やはりスコーンは紅茶に限る。
嵩張る袋は綱海の足に幾度も当たりがんがんと音を立てていたが、そのたびに聞こえる悲鳴は華麗にスルーしていた。
荷物持ちをさせた上に不満も完全無視している円堂を、容赦する性格だと言うならそれはある意味感心する。
そう口にすれば、綱海は呆れたとばかりに盛大に表情を崩して、これ見よがしにため息を吐き出した。
「そうじゃねえよ。まぁ、そっちも容赦ないと思うけどさ、そうじゃなくてお前の許容範囲って狭いよな」
「あはは、何言ってるんだよ綱海。俺ほど博愛主義な人間もいないだろ」
「そうそれ!博愛主義!───誰にでも好きって言ってるのに、そのくせ相手の好意を嫌うとこが微妙だっつってんだよ」
再び隣に並んでバス停への道を歩き出すと、上手いこと言うなと感心したように見下ろしてきた。
豪快な彼の性格は空気を読まないが存外に的を得ているから面倒だ。
僅かに笑みを深めた円堂に、嫌そうに眉間の皺を寄せた綱海は、漸くたどり着いたイギリスエリアにある停留場のベンチに腰掛けとんとんと隣を叩いた。
時刻表を確認するとバスが来るまで後十分。
それまでこの会話を続けるのかと思うと少し嫌気が襲うが、拒絶するほどでもない。
ま、いいか、と誘われるままに綱海の隣に腰掛けると、さりげなく荷物を奪われ手が空いた。
「・・・綱海。それトライフル入ってんだけど揺らすなよ」
「トライフルって?」
「さっき買ったケーキ。ほら、女の子のお土産にするって言っといたあれ」
「おお、あれか。うわ、じゃあこれだけ円堂が持て」
「はいはい。大雑把なお前じゃぐちゃぐちゃになるもんな」
「食ったら全部同じだけどな」
「そんなこと言ってる男はもてないぜ、綱海。男は気を使えてナンボだろ」
「けどよ、気を使ってもお前は俺を好きになんかならねぇだろ?」
「・・・ばーか。勿論、俺はお前が好きに決まってるだろ。じゃなきゃ一緒に行動しない」
「判ってんだろ?その好きじゃないって」
不意に普段のおちゃらけた雰囲気を消すと、真剣な眼差しを向ける。
瞳をすいっと細めるだけで綱海の纏う空気は一変する。
普段の鷹揚さが嘘のように、まるでライオンのオスのオンとオフの切り替えがされたように研ぎ澄まされた感覚が一直線に伸びてくる。
本音を探りたいと思ったときに見せる核心を探る鋭い眼差しも、そして理性よりも本能を主として冴える直感も彼を気に入る要素の一つだが、自分に向けられると厄介だった。
何しろ一度疑問を抱けば自分が納得するまで放してくれない。
綱海の言いたいことは説明されずとも判っている。
イナズマキャラバンに居るときから幾度も告白紛いの行為をされているし、それを冗談で流そうとする円堂に譲ってくれているのも知っている。
今回問い詰めようとした原因は一つしか思い浮かばず、厄介ごとをつれてきたイギリスのナイツオブクィーンのキャプテンには苛立ちを覚えた。
全く彼とは相性が悪いとしか思えない。
ここでの初対面で男扱いをした後に円堂の正体を知ると地味にツンデレな態度で世話を焼こうとする。
先ほどスコーンの購入先でのエドガーとの遣り取りは記憶に新しく、ついでにそのまま流してしまおうと思っていただけに掘り起されるのも今更だった。
真新しい異国のパン屋の雰囲気に好奇心一杯で遣り取りに気づいていないと思っていたが、目端が利く綱海はしっかりと見ていたらしい。
「で、エドガーとの遣り取り聞いてたのか?」
「まあな。でも英語だったから意味は判んなかった」
「ああ、お前英語駄目なの?」
「自慢じゃないが英語だけじゃない。現国と古典も苦手だ」
「・・・そうか。そうだな。日本語にも不便してるもんな。英語なんて無理だよな」
「余計なお世話だ!ってか話を逸らすなよ。意味は判んなくても雰囲気は察せれる。エドガーに言い寄られてたんだろ?」
「あれを言い寄ると言うのなら、世の中の紳士はお終いだな」
「違うのか?エドガーは円堂が好きだろ?」
「そうだな。だが口説き文句にしてはレベルが低い。ちなみに内容は教える気はないのであしからず」
「ちぇ。ちょっとは気になったんだけどな。だが、まあいい。お前の結論は見えてるし」
こちらに向けた視線に一瞬力を篭め、緩く口端を持ち上げる。
ざっくばらんな性格をしているが、存外に綱海は好戦的だ。
身内には甘いが敵には鋭い。兄貴肌と木野達は称していたが、どちらかと言うと動物の群れのボスが仲間の面倒を見ようとしている方がしっくりと来る気がした。
勿論本人はキャプテンは別の人間だと判っているので引くべき部分はきっちりと引く冷静さを持っているが、身内と認めた人間を守ろうとする際に見せる獰猛な雰囲気は兄貴などという生温いものではない。
綱海自身がそんな己の気性をどう認識しているか知らないが、彼の根が自分と似ていると感じるからこそ円堂は勝手に綱海に親近感を抱いていた。
もっとも、円堂はここまで無遠慮に他人の領域まで入り込もうとは思わない。
相手の領分に足を踏み入れるのは、相手の心に土足で踏み込むのに近い感覚がある。
綱海と円堂の最大の違いは、必要がないのに他人の領域に踏み込んでまで何かをなしたいと思うか、思わないかかもしれない。
好奇心だけで他人に踏み込みいらぬ何かを背負うのは真っ平ごめんだし、自分にその度量はないと理解している円堂は綱海より遥かに事なかれ主義だ。
周りに快楽主義だの刹那主義だの言われているが、彼らが思うよりずっと愉快犯的な要素は少ないと言っていい。
笑顔で居るのは踏み込まれたくないからだし、笑ってる方が拒絶するより楽に物事を流せる。
完璧な拒絶は軋轢を生み先に影響を与える場合もある。ならその後の利得も考えて動いた方が将来的に益になる。
損得のみで動くわけではないが、感情で揺れるのは嫌いだった。
綱海が『容赦ない』と責めている部分はそこだろう。
「お前の博愛主義ってさ、結局誰も好きじゃねえじゃん」
「そうでもないぞ?」
「───本気で好意を向ける相手は拒絶して、薄っぺらい吹けば飛ぶような好意は受け入れるのに?お前、自分に損得なしに向けられる好意を嫌悪してるじゃねぇか。好かれること事態が嫌いだもんな。まるで感情を持つ個として扱われるのが嫌だと言わんばかりに」
「・・・それでも例外はあるさ」
「弟は別格って?あいつが求めてるのもその『好き』じゃねえって判ってんのに?」
「それはあいつが勝手に望んでるだけだ。俺が勝手にあいつを特別だと認識してるのと同じだな」
「そういう意味だと、一之瀬と豪炎寺と風丸もお前は特別扱いしてるよな」
「一哉は協力者で、豪炎寺は俺と同じで、風丸は幼馴染だからな」
「それだけで特別扱いされてんなら、男としては同情するぜ。そんなら俺はその他大勢の一人の方がいい」
「俺は綱海も好きだけど?」
「お友達として?はっ、海の男を馬鹿にしてると痛い目を見るぞ」
「今現在痛い目を見てる気もするけどね」
「そりゃいい。お前みたいなのは時々しっぺ返しを食らわねえと判んなくなっちまうだろ。丁度いいじゃねえか」
「・・・俺も容赦ない性格してるけどさ、お前も周りが言うほど鷹揚じゃないよな。いい性格してるよ、ホント」
「お前のダチをやんならこうでもないと付き合いきれねえだろ。海の男は気性も激しいもんだ」
一歩間違えれば険悪にもなりかねなかったムードを忘れたようにカラカラと笑う綱海に苦笑する。
どうやら情緒不安定気味なのを見抜かれていたらしい。
気を抜いた瞬間にガツンと正気に返らせてくれる友人は貴重だ。
やはり綱海は器が大きい。無駄に大人びている自分と違い、その心は本当に海のようだ。
「俺は案外お前が思ってるよりずっとお前が好きだけどな」
「俺が欲しいのはその『好き』じゃねえよ。ま、向けられる好意はありがたくいただいとくけどなー」
「素直にありがとうって言えない奴って寂しいよね」
「素直に感情を吐露できないお前に言われたくねえよ」
正面を向いたまま視線だけで睨み合うと、次の瞬間には破顔した。
けらけらと大声で笑う二人に周囲の視線が突き刺さるが、ありがたいことにどちらも周りの目を気にするタイプでもない。
ひとしきり笑うと丁度いいタイミングでバスが来て、荷物を手に取り立ち上がった。
「宿舎に帰ったらサンドウィッチ作ってやるよ。この間フィディオからいい生ハム貰ったんだ」
「サンドウィッチか。俺は基本ご飯派だけど、たまにはいいな!」
「嵌るぜ、本場のサンドウィッチ。今日の気分はホットサンドだな」
「えー?常夏の島でホットサンドって暑くないか?」
「馬鹿、暑いときに暑いもんを食ってこそ日本人のグルメな舌が満足するんだろうが。言っとくけど、俺のホットサンドは激ウマだからな」
「んじゃお手並み拝見と行くか」
「当然お前も手伝うんだよ。絶対に匂い嗅ぎ付けてつまみ食いするやつらが来るからな」
「そうだな!あいつらも成長期だしな!よし、焼いて焼いて焼きまくるぜ!」
目の前で停留したバスに乗り込むと、隣同士に腰掛けて下らない話題で盛り上がる。
辛辣な言葉を吐いても、後を引かないから綱海が好きだ。
「帰ったらすぐカロリー計算だからな」
「えぇー?円堂がやってくれよ」
「働かざる者食うべからずだ。俺は同い年には容赦しない」
「・・・へぇへぇ、判りましたよ」
拗ねたように唇を尖らせた綱海に円堂はにっこりといい笑顔を向けた。
「やっぱお前は容赦ない性格してるよ」
隣で並んで歩く綱海の、無意識に出たとばかりに自然な言葉に、円堂はぱちりと一つ瞬きをした。
足が止まった円堂に気づくと、不思議そうに顔を傾げて彼も歩みを止めた。
現在綱海と円堂が居るのはライオコット島の滞在地のジャパンエリアではなく、そこから離れた場所にあるイギリスエリアだ。
バスを乗り継いで態々足を伸ばしたのは、偏に円堂が本場のスコーンと紅茶が欲しかったからであり、偶々サーフィン帰りだった綱海は好奇心でついてきた。
気心知れる友人が一緒に来たいと言うのなら特に断る理由もなく、そのまま行動を共にしたのだが。
「どうかしたのか?」
「いや、どうかしたのは俺じゃなくてお前だろ。どうしたんだよ、綱海?」
「何が」
「何がって・・・俺が容赦ない性格してるのは今更だろ?何を改めてんだ?」
「否定しないのか?」
「する要素がないからな」
スコーンの入った袋とと女の子へのお土産のトライフルを両手に持ち、ひょいと肩を竦める。
ちなみに綱海には紅茶缶とイギリスパン、そして近場の店で買ったグリルドポテトを持たせていた。
綱海が自分の意思で購入したのはグリルポテトだけで、他は全部円堂のチョイスだ。
紅茶缶は数種類選んだので宿舎で飲み比べをするのもいいかもしれない。
どちらかと言えば紅茶より珈琲派だが、やはりスコーンは紅茶に限る。
嵩張る袋は綱海の足に幾度も当たりがんがんと音を立てていたが、そのたびに聞こえる悲鳴は華麗にスルーしていた。
荷物持ちをさせた上に不満も完全無視している円堂を、容赦する性格だと言うならそれはある意味感心する。
そう口にすれば、綱海は呆れたとばかりに盛大に表情を崩して、これ見よがしにため息を吐き出した。
「そうじゃねえよ。まぁ、そっちも容赦ないと思うけどさ、そうじゃなくてお前の許容範囲って狭いよな」
「あはは、何言ってるんだよ綱海。俺ほど博愛主義な人間もいないだろ」
「そうそれ!博愛主義!───誰にでも好きって言ってるのに、そのくせ相手の好意を嫌うとこが微妙だっつってんだよ」
再び隣に並んでバス停への道を歩き出すと、上手いこと言うなと感心したように見下ろしてきた。
豪快な彼の性格は空気を読まないが存外に的を得ているから面倒だ。
僅かに笑みを深めた円堂に、嫌そうに眉間の皺を寄せた綱海は、漸くたどり着いたイギリスエリアにある停留場のベンチに腰掛けとんとんと隣を叩いた。
時刻表を確認するとバスが来るまで後十分。
それまでこの会話を続けるのかと思うと少し嫌気が襲うが、拒絶するほどでもない。
ま、いいか、と誘われるままに綱海の隣に腰掛けると、さりげなく荷物を奪われ手が空いた。
「・・・綱海。それトライフル入ってんだけど揺らすなよ」
「トライフルって?」
「さっき買ったケーキ。ほら、女の子のお土産にするって言っといたあれ」
「おお、あれか。うわ、じゃあこれだけ円堂が持て」
「はいはい。大雑把なお前じゃぐちゃぐちゃになるもんな」
「食ったら全部同じだけどな」
「そんなこと言ってる男はもてないぜ、綱海。男は気を使えてナンボだろ」
「けどよ、気を使ってもお前は俺を好きになんかならねぇだろ?」
「・・・ばーか。勿論、俺はお前が好きに決まってるだろ。じゃなきゃ一緒に行動しない」
「判ってんだろ?その好きじゃないって」
不意に普段のおちゃらけた雰囲気を消すと、真剣な眼差しを向ける。
瞳をすいっと細めるだけで綱海の纏う空気は一変する。
普段の鷹揚さが嘘のように、まるでライオンのオスのオンとオフの切り替えがされたように研ぎ澄まされた感覚が一直線に伸びてくる。
本音を探りたいと思ったときに見せる核心を探る鋭い眼差しも、そして理性よりも本能を主として冴える直感も彼を気に入る要素の一つだが、自分に向けられると厄介だった。
何しろ一度疑問を抱けば自分が納得するまで放してくれない。
綱海の言いたいことは説明されずとも判っている。
イナズマキャラバンに居るときから幾度も告白紛いの行為をされているし、それを冗談で流そうとする円堂に譲ってくれているのも知っている。
今回問い詰めようとした原因は一つしか思い浮かばず、厄介ごとをつれてきたイギリスのナイツオブクィーンのキャプテンには苛立ちを覚えた。
全く彼とは相性が悪いとしか思えない。
ここでの初対面で男扱いをした後に円堂の正体を知ると地味にツンデレな態度で世話を焼こうとする。
先ほどスコーンの購入先でのエドガーとの遣り取りは記憶に新しく、ついでにそのまま流してしまおうと思っていただけに掘り起されるのも今更だった。
真新しい異国のパン屋の雰囲気に好奇心一杯で遣り取りに気づいていないと思っていたが、目端が利く綱海はしっかりと見ていたらしい。
「で、エドガーとの遣り取り聞いてたのか?」
「まあな。でも英語だったから意味は判んなかった」
「ああ、お前英語駄目なの?」
「自慢じゃないが英語だけじゃない。現国と古典も苦手だ」
「・・・そうか。そうだな。日本語にも不便してるもんな。英語なんて無理だよな」
「余計なお世話だ!ってか話を逸らすなよ。意味は判んなくても雰囲気は察せれる。エドガーに言い寄られてたんだろ?」
「あれを言い寄ると言うのなら、世の中の紳士はお終いだな」
「違うのか?エドガーは円堂が好きだろ?」
「そうだな。だが口説き文句にしてはレベルが低い。ちなみに内容は教える気はないのであしからず」
「ちぇ。ちょっとは気になったんだけどな。だが、まあいい。お前の結論は見えてるし」
こちらに向けた視線に一瞬力を篭め、緩く口端を持ち上げる。
ざっくばらんな性格をしているが、存外に綱海は好戦的だ。
身内には甘いが敵には鋭い。兄貴肌と木野達は称していたが、どちらかと言うと動物の群れのボスが仲間の面倒を見ようとしている方がしっくりと来る気がした。
勿論本人はキャプテンは別の人間だと判っているので引くべき部分はきっちりと引く冷静さを持っているが、身内と認めた人間を守ろうとする際に見せる獰猛な雰囲気は兄貴などという生温いものではない。
綱海自身がそんな己の気性をどう認識しているか知らないが、彼の根が自分と似ていると感じるからこそ円堂は勝手に綱海に親近感を抱いていた。
もっとも、円堂はここまで無遠慮に他人の領域まで入り込もうとは思わない。
相手の領分に足を踏み入れるのは、相手の心に土足で踏み込むのに近い感覚がある。
綱海と円堂の最大の違いは、必要がないのに他人の領域に踏み込んでまで何かをなしたいと思うか、思わないかかもしれない。
好奇心だけで他人に踏み込みいらぬ何かを背負うのは真っ平ごめんだし、自分にその度量はないと理解している円堂は綱海より遥かに事なかれ主義だ。
周りに快楽主義だの刹那主義だの言われているが、彼らが思うよりずっと愉快犯的な要素は少ないと言っていい。
笑顔で居るのは踏み込まれたくないからだし、笑ってる方が拒絶するより楽に物事を流せる。
完璧な拒絶は軋轢を生み先に影響を与える場合もある。ならその後の利得も考えて動いた方が将来的に益になる。
損得のみで動くわけではないが、感情で揺れるのは嫌いだった。
綱海が『容赦ない』と責めている部分はそこだろう。
「お前の博愛主義ってさ、結局誰も好きじゃねえじゃん」
「そうでもないぞ?」
「───本気で好意を向ける相手は拒絶して、薄っぺらい吹けば飛ぶような好意は受け入れるのに?お前、自分に損得なしに向けられる好意を嫌悪してるじゃねぇか。好かれること事態が嫌いだもんな。まるで感情を持つ個として扱われるのが嫌だと言わんばかりに」
「・・・それでも例外はあるさ」
「弟は別格って?あいつが求めてるのもその『好き』じゃねえって判ってんのに?」
「それはあいつが勝手に望んでるだけだ。俺が勝手にあいつを特別だと認識してるのと同じだな」
「そういう意味だと、一之瀬と豪炎寺と風丸もお前は特別扱いしてるよな」
「一哉は協力者で、豪炎寺は俺と同じで、風丸は幼馴染だからな」
「それだけで特別扱いされてんなら、男としては同情するぜ。そんなら俺はその他大勢の一人の方がいい」
「俺は綱海も好きだけど?」
「お友達として?はっ、海の男を馬鹿にしてると痛い目を見るぞ」
「今現在痛い目を見てる気もするけどね」
「そりゃいい。お前みたいなのは時々しっぺ返しを食らわねえと判んなくなっちまうだろ。丁度いいじゃねえか」
「・・・俺も容赦ない性格してるけどさ、お前も周りが言うほど鷹揚じゃないよな。いい性格してるよ、ホント」
「お前のダチをやんならこうでもないと付き合いきれねえだろ。海の男は気性も激しいもんだ」
一歩間違えれば険悪にもなりかねなかったムードを忘れたようにカラカラと笑う綱海に苦笑する。
どうやら情緒不安定気味なのを見抜かれていたらしい。
気を抜いた瞬間にガツンと正気に返らせてくれる友人は貴重だ。
やはり綱海は器が大きい。無駄に大人びている自分と違い、その心は本当に海のようだ。
「俺は案外お前が思ってるよりずっとお前が好きだけどな」
「俺が欲しいのはその『好き』じゃねえよ。ま、向けられる好意はありがたくいただいとくけどなー」
「素直にありがとうって言えない奴って寂しいよね」
「素直に感情を吐露できないお前に言われたくねえよ」
正面を向いたまま視線だけで睨み合うと、次の瞬間には破顔した。
けらけらと大声で笑う二人に周囲の視線が突き刺さるが、ありがたいことにどちらも周りの目を気にするタイプでもない。
ひとしきり笑うと丁度いいタイミングでバスが来て、荷物を手に取り立ち上がった。
「宿舎に帰ったらサンドウィッチ作ってやるよ。この間フィディオからいい生ハム貰ったんだ」
「サンドウィッチか。俺は基本ご飯派だけど、たまにはいいな!」
「嵌るぜ、本場のサンドウィッチ。今日の気分はホットサンドだな」
「えー?常夏の島でホットサンドって暑くないか?」
「馬鹿、暑いときに暑いもんを食ってこそ日本人のグルメな舌が満足するんだろうが。言っとくけど、俺のホットサンドは激ウマだからな」
「んじゃお手並み拝見と行くか」
「当然お前も手伝うんだよ。絶対に匂い嗅ぎ付けてつまみ食いするやつらが来るからな」
「そうだな!あいつらも成長期だしな!よし、焼いて焼いて焼きまくるぜ!」
目の前で停留したバスに乗り込むと、隣同士に腰掛けて下らない話題で盛り上がる。
辛辣な言葉を吐いても、後を引かないから綱海が好きだ。
「帰ったらすぐカロリー計算だからな」
「えぇー?円堂がやってくれよ」
「働かざる者食うべからずだ。俺は同い年には容赦しない」
「・・・へぇへぇ、判りましたよ」
拗ねたように唇を尖らせた綱海に円堂はにっこりといい笑顔を向けた。
「やっぱお前は容赦ない性格してるよ」
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