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注:オリジナル技が発動してます。大丈夫な方のみお進みください。
打ち込まれるボールの重みは、ずしんと体の奥深くまで響く。
一発一発に腰を入れ、全身の力を使わねば止められない。
その感触は何よりも明確に彼の努力を表していて、そんな場合じゃないのについ笑ってしまった。
攻め込む帝国の勢いは素晴らしく、これが自分が入るはずだったチームなのかと感慨深い。
「いいざまだな、円堂守。お前の仲間は防戦一方じゃないか」
「そうだな」
「それでこの俺に勝つと言うのか。お前を超えるために努力し、最強のチームを得たこの俺に!」
「・・・ああ。俺はこのチームでお前に勝つ。今のお前にはないものをこのチームは持ってる。お前は俺には絶対に勝てない」
「っ・・・ふざけるな!!俺は勝ち続けなければならない!お前など、最早目ではない!佐久間、寺門!!」
「はい、鬼道さん!」
「行くぞ、佐久間!」
「ゴッドハンドを破るために編み出した必殺技!!」
鬼道の合図で名を呼ばれた二人が駆け上がる。
勢いに乗った様子を見届け、指を緩い輪にすると口に咥えた。
高らかとなる口笛に、必殺技の予兆を感じて足を開いて腰を落とす。
予備動作で何を使った技かは判るが、どうアレンジしているかは知らない。
来るべき衝撃に備え真っ直ぐに前を睨むと、鬼道の足元から順にペンギンが頭を出した。
「皇帝ペンギンっ」
蹴り上げたボールが高く飛ぶ。
五匹のペンギンを纏わり付かせたボールが、唸るようにして前に出た二人に追いついた。
『二号!!』
タイミングぴったりに左右から足を出した彼らから繰り出されるシュートは、勢いを増し向かってくる。
鋭い眼差しをした鬼道がこちらを睨み付けているのを視界に入れ、ふっと軽く息を吐いた。
「勝負だ、鬼道!!」
体の気を高めて空に片手を掲げる。
覚えたのは随分前だが、実践で使うのは未だに数えるほどしかない。
嘗ての自分はキーパー技は禁じていた。使えなかったのではない。敢えて使わなかった、のだ。
恩師である人の影響ではなく、ミッドフィルダーであった自分にキーパー技は不要だった。
ゴール前に留まるより、風を感じて駆けるのが好きだったから。
だが恩師の思惑に反し、皮肉にも優秀な体は一度覚えた技を忘れることはなかった。
「ゴッドハンド!!」
金色に輝く手のひらが空中に出現し、それを操り体の正面に持ってくる。
飛び込んできたボールを掌の真ん中で受け止めると同時に、ペンギンがそれぞれの指へ向かって飛び掛ってきた。
ぎりぎりと押される力にぎり、と奥歯を噛み締める。
堪えようと力を篭めた瞬間体の中心から激痛が走り、一瞬の気の緩みをつかれそのまま吹き飛ばされた。
「ゴール!!」
声が高々と響き、ネット脇に転がるボールに微笑んだ。
痛む胸に手を置き呼吸を整えながら、転がったボールを視界の端に入れる。
まさか止められないと思ってなかった。
「これが俺の力、お前を超える俺の力だ!!」
高らかとした宣言に倒れた身を起こす。
駆け寄ってきた幼馴染が心配げな顔で差し出した手を断ると、ゆっくりと立ち上がった。
「努力したんだな、有人」
「・・・っ」
呟きは小さなものだったが、すぐ傍に居た風丸には聞こえたらしい。
きゅっと眉を寄せなんとも言えない微妙な表情をしたので、手を伸ばしてポンポンと頭を撫でる。
ジェスチャーで大丈夫だと伝えると、納得いかないまでも引いてくれた彼はポジションへ戻った。
キーパーの守備位置に立つと、間髪入れず横から風きり音を響かせて向かってきたボールに視線も向けず手を伸ばす。
ばしん、と鈍い音が響き右腕にじんじんと痛みが伝わった。
いや、痛いというより熱い、かもしれない。
顔を向ければ怒りに瞳を眇めた豪炎寺が鋭い眼差しでこちらを睨んでいた。
「俺がサッカーにかける情熱の全てを篭めたボールだ」
「・・・ああ」
「それを片手で受け止めれるなら、どうしてさっきのボールが取れない!?俺たちを馬鹿にしているのか!?」
「違う。そうじゃなくて、俺は」
「言い訳はいい。全力のプレイをしろ。それが俺たちに対するお前の責任だ」
心からの憤りを我慢ならないとばかりに叫ぶ豪炎寺に、手の中のボールを見つめる。
豪炎寺の言っていることは正論だ。
どれだけ正当化しようとも、今この瞬間のために彼らを利用した事実は消えない。
こんな時にも容赦なく悲鳴を上げようとする肉体に、そっと苦笑した。
サッカーは楽しいものだ。
サッカーは素敵なものだ。
自分の都合で鬼道の心を歪めたくせに、またも勝手な都合で鬼道に思い出させるために、自分は彼らを利用した。
ならば彼の言うとおり、責任に対する義務は果たさねばならない。
怒りで顔を歪めているのに、どこか泣きそうな目をしている豪炎寺に苦笑する。
素直で真っ直ぐで自分にはない輝きを持つ彼は、円堂が初めからが持ち得ない何かを持っていて、とても羨ましく眩しい。
「豪炎寺」
「・・・何だ」
「ありがとな。目が覚めたよ」
自分の都合で『有人』の心に干渉する権利があるのかと、今更になって心のどこかで迷っていた。
心の反応に体が倣い、全力のプレイを拒絶しようとしていた。
だがそれでは全てに意味がなくなる。
何も話さず巻き込んだ雷門中の皆にも、協力してくれた一之瀬にも不誠実な態度でしかない。
こちらを見ていた一之瀬に頷くと、心得たように彼も頷き返した。
体の隅々まで意識を張り巡らし、動かぬ部位がないか確認する。
負けるわけにはいかない。ここまで来て、負けてはいけない。
体が悲鳴を上げようと、全てを無視してプレイする。
それが自分に向かう鬼道にも、共に戦う仲間にも当然の礼儀だ。
全力のプレイはこの二年一度もしてこなかった。
自分を守るために無意識に掛けたリミッターを排除すると、豪炎寺に微笑む。
「取られた一点は責任持って取り返す」
「守!行くぞ!」
「───頼むぞ、一哉」
「任せろ!」
後ろを振り返り少し笑った一之瀬に、円堂も笑い返した。
そして弾かれるように守備範囲外へ飛び出ると一気にトップスピードに乗って駆け出す。
雷門が持っていたボールは気がつけば帝国に奪われていて、ボールを操る人物に目標を定めた。
全力で走れる時間は限られている。
限られた時間で全てを活かすには、決定的な場面でより効果的に相手の士気を下げなければならない。
「ごめん、風丸、壁山、土門!ゴールは任せた!」
「円堂!?」
「俺はやらなきゃいけない。頼む!」
「・・・判った、ゴールは俺たちに任せて行って来い」
「風丸、本気か!?」
「ああ。悪いな土門。そして壁山。二人とも付き合ってくれ。絶対に円堂はシュートを決める」
「───っ、判ったっす!任せるっす、キャプテン!」
「ありがとう!」
誘う言葉に促されるまま、ゴールから一気に全速で駆け出す。
前からドリブルをしてきた帝国の生徒の正面に立つと、一之瀬の位置を確認してから詰め寄った。
「気を抜くな、佐久間!その女は、総帥の教えを受けている!」
「なっ!?」
「遅いよ、鬼道。教える時間はあっただろうに、お前は詰めが甘い。───キラースライド!!」
「っ!!?」
「プレイが、変わった・・・!?」
瞳を丸くする佐久間と呼ばれた生徒からボールを奪い、弾いたそれを一之瀬に上げる。
一之瀬はそのまま豪炎寺へとボールを回し、三人でパスを続けた。
近寄ろうとする帝国メンバーに、仲間へと指示を飛ばして妨害させる。
格下の相手と油断した彼らを押さえ込むのは今の雷門の実力なら可能で、彼らの動き全てを脳裏に叩き込んだ。
一人、二人とかわしピッチの真ん中ほどまで行くと、ボールを持った豪炎寺に向かって二人の帝国の生徒が近寄りこちらへパスが渡る。
危うげなく受け取りドリブルをしようと前を向いた瞬間、そこにはゴーグルとマントをつけた鬼道の姿があった。
駆け寄ってくる姿が幼い日のものと重なり、少しだけ笑う。
すると憤ったように眉を跳ね上げ、呻るような声を上げスライディングをしてきた。
向けられた『キラースライド』はきっと自分に対抗したものに違いない。
だが、それも読んでいた。
あの場面であの技を使えば、絶対に彼は誘いに乗ると思っていた。
普段の落ち着きがあれば別の技を繰り出しただろうに、冷静さを欠いているおかげで彼の行動は判りやすい。
「本当に甘いよ、鬼道。言っただろう?冷静さを欠くなと」
「何!?」
「・・・真・イリュージョンボール!!」
「なっ!?」
「鬼道さんの技と同じだと!!?」
「同じじゃない。完成度じゃ俺の方が上だ」
鬼道が使う技の二倍のボールを出現させ相手を翻弄し、驚きに声を上げる帝国の面々に笑いかけそのままドリブルで鬼道を抜いた。
すぐ後ろから追ってくる鬼道の気配が近づく前に、目的の位置まで到達する。
こんなに風を感じるのはいつ以来だろう。体は苦痛を訴えるのに、心は開放感で溢れている。
自分の右前に進む一之瀬に合図を送れば、意図を汲み取った彼は一気にスピードを上げて前に進み出た。
「行くぞ、一哉!」
「おう!」
先ほどの鬼道と同じように丸めた指を口に含む。
こちらの様子を窺う周囲の人間が正気に返る前に指笛を高らかに吹き鳴らした。
音に反応し五羽のペンギンが地面から顔を出す。
先ほど鬼道が放った『皇帝ペンギン2号』と同じように半円を描いた彼らに、ボールを空に蹴り上げた。
同時にトップスピードに乗り一之瀬の居る場所まで全力で駆け抜ける。
落ちてきたボールにタイミングを合わせ、左右からシュートの体勢に入った。
『皇帝ペンギンブレイク!!』
鬼道たちの放った皇帝ペンギン2号とよく似た出現方法だが、その後のペンギンの動きはまるで違う。
彼らの動きが五羽同時の力の放出型であるなら、一之瀬と円堂のこの技は一点集中型のもの。
一直線に並んだペンギンたちが押し出すようにボールを順に嘴でつつく。
同じ箇所に圧を掛け、一羽ごとに力を増すのが皇帝ペンギンブレイクだ。
飛び上がった源田がパワーショットで防ごうとしているが、それは無理だ。
「お前の技は何度も見た。そして理解した。その技は力を地面に叩きつけて起こる衝撃波を利用したものだろう。一点集中で同じ箇所に圧を掛ければ穴が開く」
「ぐ・・・うぁぁぁああ!!?」
最後まで見ずに踵を返す。
巻き起こる風でマントが靡き、首に掛かったままのゴーグルも揺れた。
呆然とこちらを見る鬼道は、ぐっと唇を噛み締めて眉間に深い皺を刻み込む。
「・・・嘘だ。何故、お前がペンギンを扱うんだ!?今まで一度だってそんなシュートは打っていなかったはずだ!!」
「俺が影山の教えを受けていると言ったのはお前だろう、鬼道。影山が考案した皇帝ペンギン1号。それを最初に打ったのは誰だと思ってるんだ。それだけじゃない。今の帝国の面々が利用している技。影山が考案したそれらの技を、現実に使えるものにしたのを誰だと思ってる」
「まさか」
「そのまさか、だ。『皇帝ペンギンブレイク』は負担が大きすぎるあの技を改良したものだ。一哉の協力を得て作ったこの技は、皇帝ペンギン1号の威力に劣らない」
「・・・俺はお前を超えたはずだ。家を捨てサッカーを捨て俺を捨てたお前を、俺は超えたはずだ!」
「ゆう・・・」
「そうだ、鬼道。お前はそこの女をもう超えている」
響いた声が前半終了のホイッスルと重なり、円堂はそっと目を伏せた。
打ち込まれるボールの重みは、ずしんと体の奥深くまで響く。
一発一発に腰を入れ、全身の力を使わねば止められない。
その感触は何よりも明確に彼の努力を表していて、そんな場合じゃないのについ笑ってしまった。
攻め込む帝国の勢いは素晴らしく、これが自分が入るはずだったチームなのかと感慨深い。
「いいざまだな、円堂守。お前の仲間は防戦一方じゃないか」
「そうだな」
「それでこの俺に勝つと言うのか。お前を超えるために努力し、最強のチームを得たこの俺に!」
「・・・ああ。俺はこのチームでお前に勝つ。今のお前にはないものをこのチームは持ってる。お前は俺には絶対に勝てない」
「っ・・・ふざけるな!!俺は勝ち続けなければならない!お前など、最早目ではない!佐久間、寺門!!」
「はい、鬼道さん!」
「行くぞ、佐久間!」
「ゴッドハンドを破るために編み出した必殺技!!」
鬼道の合図で名を呼ばれた二人が駆け上がる。
勢いに乗った様子を見届け、指を緩い輪にすると口に咥えた。
高らかとなる口笛に、必殺技の予兆を感じて足を開いて腰を落とす。
予備動作で何を使った技かは判るが、どうアレンジしているかは知らない。
来るべき衝撃に備え真っ直ぐに前を睨むと、鬼道の足元から順にペンギンが頭を出した。
「皇帝ペンギンっ」
蹴り上げたボールが高く飛ぶ。
五匹のペンギンを纏わり付かせたボールが、唸るようにして前に出た二人に追いついた。
『二号!!』
タイミングぴったりに左右から足を出した彼らから繰り出されるシュートは、勢いを増し向かってくる。
鋭い眼差しをした鬼道がこちらを睨み付けているのを視界に入れ、ふっと軽く息を吐いた。
「勝負だ、鬼道!!」
体の気を高めて空に片手を掲げる。
覚えたのは随分前だが、実践で使うのは未だに数えるほどしかない。
嘗ての自分はキーパー技は禁じていた。使えなかったのではない。敢えて使わなかった、のだ。
恩師である人の影響ではなく、ミッドフィルダーであった自分にキーパー技は不要だった。
ゴール前に留まるより、風を感じて駆けるのが好きだったから。
だが恩師の思惑に反し、皮肉にも優秀な体は一度覚えた技を忘れることはなかった。
「ゴッドハンド!!」
金色に輝く手のひらが空中に出現し、それを操り体の正面に持ってくる。
飛び込んできたボールを掌の真ん中で受け止めると同時に、ペンギンがそれぞれの指へ向かって飛び掛ってきた。
ぎりぎりと押される力にぎり、と奥歯を噛み締める。
堪えようと力を篭めた瞬間体の中心から激痛が走り、一瞬の気の緩みをつかれそのまま吹き飛ばされた。
「ゴール!!」
声が高々と響き、ネット脇に転がるボールに微笑んだ。
痛む胸に手を置き呼吸を整えながら、転がったボールを視界の端に入れる。
まさか止められないと思ってなかった。
「これが俺の力、お前を超える俺の力だ!!」
高らかとした宣言に倒れた身を起こす。
駆け寄ってきた幼馴染が心配げな顔で差し出した手を断ると、ゆっくりと立ち上がった。
「努力したんだな、有人」
「・・・っ」
呟きは小さなものだったが、すぐ傍に居た風丸には聞こえたらしい。
きゅっと眉を寄せなんとも言えない微妙な表情をしたので、手を伸ばしてポンポンと頭を撫でる。
ジェスチャーで大丈夫だと伝えると、納得いかないまでも引いてくれた彼はポジションへ戻った。
キーパーの守備位置に立つと、間髪入れず横から風きり音を響かせて向かってきたボールに視線も向けず手を伸ばす。
ばしん、と鈍い音が響き右腕にじんじんと痛みが伝わった。
いや、痛いというより熱い、かもしれない。
顔を向ければ怒りに瞳を眇めた豪炎寺が鋭い眼差しでこちらを睨んでいた。
「俺がサッカーにかける情熱の全てを篭めたボールだ」
「・・・ああ」
「それを片手で受け止めれるなら、どうしてさっきのボールが取れない!?俺たちを馬鹿にしているのか!?」
「違う。そうじゃなくて、俺は」
「言い訳はいい。全力のプレイをしろ。それが俺たちに対するお前の責任だ」
心からの憤りを我慢ならないとばかりに叫ぶ豪炎寺に、手の中のボールを見つめる。
豪炎寺の言っていることは正論だ。
どれだけ正当化しようとも、今この瞬間のために彼らを利用した事実は消えない。
こんな時にも容赦なく悲鳴を上げようとする肉体に、そっと苦笑した。
サッカーは楽しいものだ。
サッカーは素敵なものだ。
自分の都合で鬼道の心を歪めたくせに、またも勝手な都合で鬼道に思い出させるために、自分は彼らを利用した。
ならば彼の言うとおり、責任に対する義務は果たさねばならない。
怒りで顔を歪めているのに、どこか泣きそうな目をしている豪炎寺に苦笑する。
素直で真っ直ぐで自分にはない輝きを持つ彼は、円堂が初めからが持ち得ない何かを持っていて、とても羨ましく眩しい。
「豪炎寺」
「・・・何だ」
「ありがとな。目が覚めたよ」
自分の都合で『有人』の心に干渉する権利があるのかと、今更になって心のどこかで迷っていた。
心の反応に体が倣い、全力のプレイを拒絶しようとしていた。
だがそれでは全てに意味がなくなる。
何も話さず巻き込んだ雷門中の皆にも、協力してくれた一之瀬にも不誠実な態度でしかない。
こちらを見ていた一之瀬に頷くと、心得たように彼も頷き返した。
体の隅々まで意識を張り巡らし、動かぬ部位がないか確認する。
負けるわけにはいかない。ここまで来て、負けてはいけない。
体が悲鳴を上げようと、全てを無視してプレイする。
それが自分に向かう鬼道にも、共に戦う仲間にも当然の礼儀だ。
全力のプレイはこの二年一度もしてこなかった。
自分を守るために無意識に掛けたリミッターを排除すると、豪炎寺に微笑む。
「取られた一点は責任持って取り返す」
「守!行くぞ!」
「───頼むぞ、一哉」
「任せろ!」
後ろを振り返り少し笑った一之瀬に、円堂も笑い返した。
そして弾かれるように守備範囲外へ飛び出ると一気にトップスピードに乗って駆け出す。
雷門が持っていたボールは気がつけば帝国に奪われていて、ボールを操る人物に目標を定めた。
全力で走れる時間は限られている。
限られた時間で全てを活かすには、決定的な場面でより効果的に相手の士気を下げなければならない。
「ごめん、風丸、壁山、土門!ゴールは任せた!」
「円堂!?」
「俺はやらなきゃいけない。頼む!」
「・・・判った、ゴールは俺たちに任せて行って来い」
「風丸、本気か!?」
「ああ。悪いな土門。そして壁山。二人とも付き合ってくれ。絶対に円堂はシュートを決める」
「───っ、判ったっす!任せるっす、キャプテン!」
「ありがとう!」
誘う言葉に促されるまま、ゴールから一気に全速で駆け出す。
前からドリブルをしてきた帝国の生徒の正面に立つと、一之瀬の位置を確認してから詰め寄った。
「気を抜くな、佐久間!その女は、総帥の教えを受けている!」
「なっ!?」
「遅いよ、鬼道。教える時間はあっただろうに、お前は詰めが甘い。───キラースライド!!」
「っ!!?」
「プレイが、変わった・・・!?」
瞳を丸くする佐久間と呼ばれた生徒からボールを奪い、弾いたそれを一之瀬に上げる。
一之瀬はそのまま豪炎寺へとボールを回し、三人でパスを続けた。
近寄ろうとする帝国メンバーに、仲間へと指示を飛ばして妨害させる。
格下の相手と油断した彼らを押さえ込むのは今の雷門の実力なら可能で、彼らの動き全てを脳裏に叩き込んだ。
一人、二人とかわしピッチの真ん中ほどまで行くと、ボールを持った豪炎寺に向かって二人の帝国の生徒が近寄りこちらへパスが渡る。
危うげなく受け取りドリブルをしようと前を向いた瞬間、そこにはゴーグルとマントをつけた鬼道の姿があった。
駆け寄ってくる姿が幼い日のものと重なり、少しだけ笑う。
すると憤ったように眉を跳ね上げ、呻るような声を上げスライディングをしてきた。
向けられた『キラースライド』はきっと自分に対抗したものに違いない。
だが、それも読んでいた。
あの場面であの技を使えば、絶対に彼は誘いに乗ると思っていた。
普段の落ち着きがあれば別の技を繰り出しただろうに、冷静さを欠いているおかげで彼の行動は判りやすい。
「本当に甘いよ、鬼道。言っただろう?冷静さを欠くなと」
「何!?」
「・・・真・イリュージョンボール!!」
「なっ!?」
「鬼道さんの技と同じだと!!?」
「同じじゃない。完成度じゃ俺の方が上だ」
鬼道が使う技の二倍のボールを出現させ相手を翻弄し、驚きに声を上げる帝国の面々に笑いかけそのままドリブルで鬼道を抜いた。
すぐ後ろから追ってくる鬼道の気配が近づく前に、目的の位置まで到達する。
こんなに風を感じるのはいつ以来だろう。体は苦痛を訴えるのに、心は開放感で溢れている。
自分の右前に進む一之瀬に合図を送れば、意図を汲み取った彼は一気にスピードを上げて前に進み出た。
「行くぞ、一哉!」
「おう!」
先ほどの鬼道と同じように丸めた指を口に含む。
こちらの様子を窺う周囲の人間が正気に返る前に指笛を高らかに吹き鳴らした。
音に反応し五羽のペンギンが地面から顔を出す。
先ほど鬼道が放った『皇帝ペンギン2号』と同じように半円を描いた彼らに、ボールを空に蹴り上げた。
同時にトップスピードに乗り一之瀬の居る場所まで全力で駆け抜ける。
落ちてきたボールにタイミングを合わせ、左右からシュートの体勢に入った。
『皇帝ペンギンブレイク!!』
鬼道たちの放った皇帝ペンギン2号とよく似た出現方法だが、その後のペンギンの動きはまるで違う。
彼らの動きが五羽同時の力の放出型であるなら、一之瀬と円堂のこの技は一点集中型のもの。
一直線に並んだペンギンたちが押し出すようにボールを順に嘴でつつく。
同じ箇所に圧を掛け、一羽ごとに力を増すのが皇帝ペンギンブレイクだ。
飛び上がった源田がパワーショットで防ごうとしているが、それは無理だ。
「お前の技は何度も見た。そして理解した。その技は力を地面に叩きつけて起こる衝撃波を利用したものだろう。一点集中で同じ箇所に圧を掛ければ穴が開く」
「ぐ・・・うぁぁぁああ!!?」
最後まで見ずに踵を返す。
巻き起こる風でマントが靡き、首に掛かったままのゴーグルも揺れた。
呆然とこちらを見る鬼道は、ぐっと唇を噛み締めて眉間に深い皺を刻み込む。
「・・・嘘だ。何故、お前がペンギンを扱うんだ!?今まで一度だってそんなシュートは打っていなかったはずだ!!」
「俺が影山の教えを受けていると言ったのはお前だろう、鬼道。影山が考案した皇帝ペンギン1号。それを最初に打ったのは誰だと思ってるんだ。それだけじゃない。今の帝国の面々が利用している技。影山が考案したそれらの技を、現実に使えるものにしたのを誰だと思ってる」
「まさか」
「そのまさか、だ。『皇帝ペンギンブレイク』は負担が大きすぎるあの技を改良したものだ。一哉の協力を得て作ったこの技は、皇帝ペンギン1号の威力に劣らない」
「・・・俺はお前を超えたはずだ。家を捨てサッカーを捨て俺を捨てたお前を、俺は超えたはずだ!」
「ゆう・・・」
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