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一人遅れてピッチに姿を現した存在は、雷門のユニフォームを着ながらもありえない格好をしていた。
下ろせば随分と長いだろう栗色の髪を、オレンジ色の太目の布で高い位置で結っている。
顔を隠していた黒縁のお洒落眼鏡はごついデザインのゴーグルと変わり、ユニフォームの上から青いマントを纏っていた。
その格好だけでも十分に驚くべきなのに、さらに驚かせたのはその体型。
すらりとした体型は変わらず、胸は男ならありえないほど膨らんでいた。
ゴールキーパーのユニフォームを着た自分と瓜二つな格好の相手に、鬼道の唇がゆるりと持ち上がる。
現れた相手に息を詰めるチームメイトを尻目に、こみ上げる感情が抑えきれずに笑いとなって現れた。
考えてみれば全てが納得できた。
どうして『彼』が気になったのか。
声、雰囲気、動き。何もかもが一致するのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。
声を上げて笑う鬼道に、傍に居た佐久間が恐る恐る近づく。
「・・・鬼道さん、あいつは一体?」
「あいつは『円堂守』だ」
「円堂!?どうして円堂が鬼道さんを真似るような格好を・・・」
「違う」
「え?」
「真似ているのは円堂ではない」
「どういう意味ですか?」
きょとんとした顔で瞬きをする佐久間を尻目に、腹の奥底から湧き上がる憎悪で鬼道の表情が歪む。
常に冷静であれと教わっているのに、とてもそんな教えは守れそうになかった。
何しろ二年間ずっと憎み続けている存在が目の前に居るのだ。
腸が煮えくりそうな怒りに辛うじて身を任せない分だけの制御をし、目の前で止まる相手に笑いかけた。
きっとその笑顔は酷く凶悪なものだったのだろう。
隣に立つ佐久間が息を呑む音が聞こえ、彼は数歩後ずさった。
だが普段なら佐久間の様子を気に掛ける余裕があるが、今はそんな生易しい感情が入る余地はない。
ずっと待っていたのだ、『彼女』に会える日を。
『彼女』自身のチームメイトも何も聞かされていなかったのだろう。
鬼道と瓜二つの格好で現れた『彼女』に戸惑うよう展開を見守っている。
もしかしたらその性別すら知らされていなかったのかもしれない。
否、実際に知らされていなかったのだろう。
必要とあれば味方すら騙すのが『彼女』の流儀なのだから。
自分と同じように騙されていた雷門イレブンに一瞬同情が沸くがその感情もすぐに消えた。
揃いのゴーグル越しにこちらを見ていた『彼女』が、そのゴーグルを顔から外し首へ落とした。
推測が確信に変わり、あまりの怒りに目の前が真っ赤に染まる。
「・・・久し振りだな、有人」
「俺の名前をまだ覚えていてくれたんですね、『姉さん』」
『姉さん!!?』
異口同音の響きが帝国のグランドに響く。
驚愕に満ちた雰囲気に剣呑に瞳を細め、ゴーグルを取り素顔を曝した円堂に嗤った。
「『円堂守』の情報を調べた際、名前と『円堂大介』の孫ってこと以外詳しい経歴は一切わからなかった。情報を操作したのか?」
「操作する必要もない。実際俺には日本での大した経歴はないからな。お前も知ってるだろ?」
「確かにお前にはその生い立ちから日本の大会に出た経歴はない。だがその実力を含め噂にならない方がおかしい。実力を抑えてたのか?」
覚えている『彼女』は、どれだけ努力しても悠々と鬼道の上を行くプレイヤーだった。
どのポジションも器用にこなし、特に今鬼道が担当しているミッドフィルダーとしての実力は秀でていた。
チームの司令塔として攻守を担当し、どちらをしても最高の実力を持っていて、鬼道はいつだって『彼女』の背中を追い続けていた。
気がつかなかったのは、『彼女』がゴールキーパーをしていたからだ。
何処かで見たような動きだと思ったが、完全にイメージが重ならなかったのはその先入観の所為だろう。
キーパー技など一度も見たことがなかったし、そもそもゴールキーパーをしているところを見たことがなかった。
鬼道に質問に肩を竦めることで答えを流した『彼女』に、自然と握り締めた拳が震える。
すぐにでも立ち消えそうな理性を繋ぎ止めているのは、虚勢に近いプライドだった。
「今更何故姿を現した?もう、お前の居場所はないというのに」
「俺は別に帝国に入りに来たんじゃない。お前も知っているとおり、俺は帝国を選ばなかったからな」
「正直に『捨てた』、と言えばいい。鬼道の家も、約束された帝国のキャプテンの座も、そして俺さえも捨てたお前が、何故俺の前に姿を現した!?のこのこと現れ俺から全てを奪うつもりか!?だがそれこそ今更だ!俺はもうお前を超えた!勉強も運動も───そして、サッカーでも!今の俺はお前の背中を追い続けていた餓鬼じゃない!」
「・・・そうか。だが悪いな有人。お前がどれだけ努力しても、今のお前じゃ俺に勝てない」
「何をっ!?」
「影山についているお前じゃ、俺には勝てないよ」
真っ直ぐに鬼道を見詰めて微笑んだ『彼女』は、どこか寂しげだ。
自分を捨てて行ったくせに、今だって敵対宣言をしているくせに、何故こんなに悲しそうな顔で笑うのか。
心の奥深くで眠らせていた感情が揺さぶられそうになり、唇を噛んで堪える。
相手は鬼道の信頼を裏切り捨てて入った『彼女』だ。同情など不要だ。
勝つ、と宣言しているが、今の『彼女』が鬼道に勝てるはずがないのだ。
彼女が居なくなってから、鬼道は死に物狂いでサッカーの特訓をした。
自分を捨てた姉を忘れるために。そして、自分が大切にしている妹を引き取るために。
『姉さん、俺は必ず帝国でスタメン入りをします。それまで待っててください。三年間全国制覇したら春奈を引き取ると父さんが約束してくれたんです!だからお願いです、姉さん。姉さんの力を俺に貸してください!』
妹を引き取るためにどれだけ努力していたか、彼女は知っていたはずだ。
それなのに鬼道の願いも想いも何もかも裏切り、ある日唐突に姿を消した。
父に問い詰めても何も知らないと言われ、どれだけ探しても手紙一つ見つからなかった。
まるで存在しないかのように姿を消した彼女を、慕った分だけ深く怨んだ。
もう世界の何処にも大好きだった『鬼道守』は存在しない。
今目の前に居るのは憎むべき敵、『円堂守』だ。
憎悪を隠しもせずに瞳に篭めれば、一つ息を吐いた『円堂』は踵を基点に背を向けた。
青いマントが風を孕んでふわりと揺れる。
こちらを見ない彼女に、また胸の奥で憎しみが膨らんだ。
「俺はお前を許さない。この試合に勝ち、俺の実力をお前に見せてやる」
「精々楽しませてくれ、『鬼道』。この二年間でお前がどれだけ成長したか知れないが、口先だけではないのを祈るよ」
『有人』ではなく、『鬼道』と呼んだ円堂に息が出来ないくらい激しい感情の奔流が押し寄せる。
長年押さえ込んでいた憎しみを開放し、乱れた呼吸を整えながら自身も踵を返した。
過去の亡霊を振り払うために、絶対に勝つと心に誓って。
下ろせば随分と長いだろう栗色の髪を、オレンジ色の太目の布で高い位置で結っている。
顔を隠していた黒縁のお洒落眼鏡はごついデザインのゴーグルと変わり、ユニフォームの上から青いマントを纏っていた。
その格好だけでも十分に驚くべきなのに、さらに驚かせたのはその体型。
すらりとした体型は変わらず、胸は男ならありえないほど膨らんでいた。
ゴールキーパーのユニフォームを着た自分と瓜二つな格好の相手に、鬼道の唇がゆるりと持ち上がる。
現れた相手に息を詰めるチームメイトを尻目に、こみ上げる感情が抑えきれずに笑いとなって現れた。
考えてみれば全てが納得できた。
どうして『彼』が気になったのか。
声、雰囲気、動き。何もかもが一致するのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。
声を上げて笑う鬼道に、傍に居た佐久間が恐る恐る近づく。
「・・・鬼道さん、あいつは一体?」
「あいつは『円堂守』だ」
「円堂!?どうして円堂が鬼道さんを真似るような格好を・・・」
「違う」
「え?」
「真似ているのは円堂ではない」
「どういう意味ですか?」
きょとんとした顔で瞬きをする佐久間を尻目に、腹の奥底から湧き上がる憎悪で鬼道の表情が歪む。
常に冷静であれと教わっているのに、とてもそんな教えは守れそうになかった。
何しろ二年間ずっと憎み続けている存在が目の前に居るのだ。
腸が煮えくりそうな怒りに辛うじて身を任せない分だけの制御をし、目の前で止まる相手に笑いかけた。
きっとその笑顔は酷く凶悪なものだったのだろう。
隣に立つ佐久間が息を呑む音が聞こえ、彼は数歩後ずさった。
だが普段なら佐久間の様子を気に掛ける余裕があるが、今はそんな生易しい感情が入る余地はない。
ずっと待っていたのだ、『彼女』に会える日を。
『彼女』自身のチームメイトも何も聞かされていなかったのだろう。
鬼道と瓜二つの格好で現れた『彼女』に戸惑うよう展開を見守っている。
もしかしたらその性別すら知らされていなかったのかもしれない。
否、実際に知らされていなかったのだろう。
必要とあれば味方すら騙すのが『彼女』の流儀なのだから。
自分と同じように騙されていた雷門イレブンに一瞬同情が沸くがその感情もすぐに消えた。
揃いのゴーグル越しにこちらを見ていた『彼女』が、そのゴーグルを顔から外し首へ落とした。
推測が確信に変わり、あまりの怒りに目の前が真っ赤に染まる。
「・・・久し振りだな、有人」
「俺の名前をまだ覚えていてくれたんですね、『姉さん』」
『姉さん!!?』
異口同音の響きが帝国のグランドに響く。
驚愕に満ちた雰囲気に剣呑に瞳を細め、ゴーグルを取り素顔を曝した円堂に嗤った。
「『円堂守』の情報を調べた際、名前と『円堂大介』の孫ってこと以外詳しい経歴は一切わからなかった。情報を操作したのか?」
「操作する必要もない。実際俺には日本での大した経歴はないからな。お前も知ってるだろ?」
「確かにお前にはその生い立ちから日本の大会に出た経歴はない。だがその実力を含め噂にならない方がおかしい。実力を抑えてたのか?」
覚えている『彼女』は、どれだけ努力しても悠々と鬼道の上を行くプレイヤーだった。
どのポジションも器用にこなし、特に今鬼道が担当しているミッドフィルダーとしての実力は秀でていた。
チームの司令塔として攻守を担当し、どちらをしても最高の実力を持っていて、鬼道はいつだって『彼女』の背中を追い続けていた。
気がつかなかったのは、『彼女』がゴールキーパーをしていたからだ。
何処かで見たような動きだと思ったが、完全にイメージが重ならなかったのはその先入観の所為だろう。
キーパー技など一度も見たことがなかったし、そもそもゴールキーパーをしているところを見たことがなかった。
鬼道に質問に肩を竦めることで答えを流した『彼女』に、自然と握り締めた拳が震える。
すぐにでも立ち消えそうな理性を繋ぎ止めているのは、虚勢に近いプライドだった。
「今更何故姿を現した?もう、お前の居場所はないというのに」
「俺は別に帝国に入りに来たんじゃない。お前も知っているとおり、俺は帝国を選ばなかったからな」
「正直に『捨てた』、と言えばいい。鬼道の家も、約束された帝国のキャプテンの座も、そして俺さえも捨てたお前が、何故俺の前に姿を現した!?のこのこと現れ俺から全てを奪うつもりか!?だがそれこそ今更だ!俺はもうお前を超えた!勉強も運動も───そして、サッカーでも!今の俺はお前の背中を追い続けていた餓鬼じゃない!」
「・・・そうか。だが悪いな有人。お前がどれだけ努力しても、今のお前じゃ俺に勝てない」
「何をっ!?」
「影山についているお前じゃ、俺には勝てないよ」
真っ直ぐに鬼道を見詰めて微笑んだ『彼女』は、どこか寂しげだ。
自分を捨てて行ったくせに、今だって敵対宣言をしているくせに、何故こんなに悲しそうな顔で笑うのか。
心の奥深くで眠らせていた感情が揺さぶられそうになり、唇を噛んで堪える。
相手は鬼道の信頼を裏切り捨てて入った『彼女』だ。同情など不要だ。
勝つ、と宣言しているが、今の『彼女』が鬼道に勝てるはずがないのだ。
彼女が居なくなってから、鬼道は死に物狂いでサッカーの特訓をした。
自分を捨てた姉を忘れるために。そして、自分が大切にしている妹を引き取るために。
『姉さん、俺は必ず帝国でスタメン入りをします。それまで待っててください。三年間全国制覇したら春奈を引き取ると父さんが約束してくれたんです!だからお願いです、姉さん。姉さんの力を俺に貸してください!』
妹を引き取るためにどれだけ努力していたか、彼女は知っていたはずだ。
それなのに鬼道の願いも想いも何もかも裏切り、ある日唐突に姿を消した。
父に問い詰めても何も知らないと言われ、どれだけ探しても手紙一つ見つからなかった。
まるで存在しないかのように姿を消した彼女を、慕った分だけ深く怨んだ。
もう世界の何処にも大好きだった『鬼道守』は存在しない。
今目の前に居るのは憎むべき敵、『円堂守』だ。
憎悪を隠しもせずに瞳に篭めれば、一つ息を吐いた『円堂』は踵を基点に背を向けた。
青いマントが風を孕んでふわりと揺れる。
こちらを見ない彼女に、また胸の奥で憎しみが膨らんだ。
「俺はお前を許さない。この試合に勝ち、俺の実力をお前に見せてやる」
「精々楽しませてくれ、『鬼道』。この二年間でお前がどれだけ成長したか知れないが、口先だけではないのを祈るよ」
『有人』ではなく、『鬼道』と呼んだ円堂に息が出来ないくらい激しい感情の奔流が押し寄せる。
長年押さえ込んでいた憎しみを開放し、乱れた呼吸を整えながら自身も踵を返した。
過去の亡霊を振り払うために、絶対に勝つと心に誓って。
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