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「それにしても一昨日の対戦相手は凄かったな。あれがジャパニーズオタクか」
「うんうん、凄かった。でもメイドさんは可愛かったよね。守も着てみなよ」
「いや、遠慮する。動き難そうだし。それより近場には執事喫茶なるものもあるらしいぜ?お前こそ着てみたらどうだよ、一哉」
「あはは。守のお願いなら聞いてあげる。それじゃあ、俺は守専用の執事ね」
「・・・冗談だよ。さらりと流すなんてこれだからアメリカ男は面白くないね。なぁ、豪炎寺」
「俺にふるな」
フライパンを振りチャーハンを作りながらため息混じりに訴える。
最近実家よりも居る時間が増えている気がする円堂のマンションで、手馴れた仕草で料理する豪炎寺の後ろでサラダをトレイに並べている二人に苦笑した。
ほとんど一人で食事を取る実家と違い、この家での食事は喧しく騒がしい。
円堂と一之瀬の途切れない会話がほとんどだが、聞いているだけでもコントみたいで面白かった。
二人とも帰国子女だからか、豪炎寺が思いもよらない切り口から会話が弾む。
話に加わらなくとも一人だとは思わずに居られるのは、彼らが何かと言うと豪炎寺に話をふってくれるからだろう。
平時であれば誤解されやすい豪炎寺の冷たくも見える態度だが、二人は全く気にしない。
どころか反応を面白がってさらに絡んでくるほどだ。
初めての空気だが、それはとても居心地がよく安心感がある。
「てか執事なら豪炎寺の方が似合いそうだな。一哉童顔だし、ドレスコードしても七五三だろ」
「むっ!?守だってそうだろ!ドレス着たってつんつるてんなんだからな!」
「残念ー。俺、ドレスくらい着こなせるもん。似合ってるってイタリア男にも言われたもんー」
「イタリア男って誰だよ!」
「一哉には秘密ー。なー、豪炎寺」
「・・・だから、俺にふるな」
ため息混じりに突っ込んで、フライパンを火から降ろす。
少し味見をしたが、醤油の香ばしい香りと生姜の絶妙なハーモニーが中々の一品だ。
カウンターに用意されていた皿に中華用のお玉で三人分よそうと、フライパンはそのまま水を入れて火を消したコンロの上に置いた。
後で洗い物をする時に水につけておくと楽なのだ。
妹に料理を作ってやる際に覚えた手際で軽く流しを綺麗にし、エプロンを脱ぐ。
ちなみに豪炎寺用として用意されたエプロンは黒字に赤のラインつきだ。
一之瀬は淡いピンクで、円堂はオレンジだ。
何故か一之瀬のエプロンが一番可愛いのだが、円堂が購入して半強制的に着せているらしいが、これがまた地味に似合っていた。
壁のネックに並んで掛けられているエプロンの一番端に豪炎寺もエプロンを掛け、そのままリビングへと向かう。
晩御飯はすっかりと並べられていて、子供みたいに目を輝かせた二人がチャーハンを前によだれを垂らさんばかりにして待っていた。
「豪炎寺、今日の晩飯も超美味そう!」
「うんうん。やっぱ、人が作ったものの方が食欲がそそるよね。豪炎寺ありがとう!守じゃあこうはいかないからね」
「失礼な。俺はやれば出来る子だぞ」
「滅多にきちんとやらないくせに。むしろ色々な意味でやり過ぎるくせに」
「何言ってんだ。新しい出会いは挑戦でこそ生み出せるものだぜ!な、豪炎寺」
「・・・もういい。早く食べるぞ。チャーハンが冷える」
「おっと、いけねぇ。冷えたらもったいないよな」
「そうだね。それじゃあ、いただきます!」
「いただきます!!」
「・・・いただきます」
手を合わせてぺこりと頭を下げ、先ほどの騒がしさが嘘のように凄い勢いで食べ始める二人に豪炎寺は目を細めた。
ハムスターのように頬が膨らなんとも間抜けで愛嬌のある姿だ。
成長期である一之瀬はもとより、同じ運動量の円堂も良く食べる。
手料理を美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいことだ。
あっという間に減っていく料理を前に、密かに満足しつつも豪炎寺も食事を始める。
「美味いな、このチャーハン!」
「本当、美味しいよ。これ、おかわりない?」
「ないな。そもそもご飯も後は炊かねばないぞ」
「・・・ぶー。仕方ない、あるところから奪うか」
「そうだね、守」
「っ」
同時に左右から襲い掛かってきたスプーンを、皿を持ち上げることで回避する。
いきなりの無体な行動に瞳を眇めて二人を見れば、ハイエナのように瞳を眇めた円堂と一之瀬はにいっと唇を持ち上げた。
「往生際悪いぞ、豪炎寺!」
「俺たちにそのチャーハンを渡せ!」
「何故作り手の俺がまだ半分も食べてないチャーハンを渡さなければならない!俺も腹が減っている」
ほとんど治っているが、一応念を入れて足に負担が掛からぬよう体勢を崩していた豪炎寺は、それでもバランスを保ちつつ襲い来るスプーンを避ける。
左右からスプーンを繰り出す二人は、視線を絡ませると今度は時間差攻撃を仕掛けてきた。
息を乱しながら必死に皿を死守し、ぎっと睨みつける。
「大体二人とも行儀が悪いぞ!食事中はもっと大人しくするべきだ!」
「だって腹が減ってんだよ!足りないの!な、一哉」
「そうそう。俺たち育ち盛りだよ?少しくらい分けてくれてもいいじゃない」
「俺も育ち盛りだ!絶対にやらんと言ったらやらん」
きっぱり言い切れば、暫くの睨み合いの後、ふうっと二人はため息を吐いた。
「どうする、一哉」
「本当にどうしようか、守。豪炎寺は我侭だな」
「俺が我侭なんじゃなくて、お前らが自分勝手なんだ!」
あまりと言えばあまりな言い草に、さすがにカチンと来て怒りも露にすれば、それでも飄々として受け流した二人は仕方ないと席を立った。
唐突な行動は多い二人だが、驚いて瞳を丸くする。
もしかして怒ったのだろうか。
自分は全く悪くないと思うのに、背を向けられると不安になる。
それでも何も言えずに戸惑いで瞳を揺らしつつ何処かに行こうとする二人を見ていれば、不意に円堂が振り返った。
「どうせ豪炎寺もそれだけじゃ足りないだろ?ミックスラーメン作るけど、お前も食う?」
「ミックスラーメン?」
「いろんな種類のインスタントラーメンを混ぜて作るラーメンだよ。守と何回か試してるんだけど、これが意外と色々な発見があって面白いし美味しいんだ。この間はテレビでやってた牛乳で作る味噌ラーメンを試したんだけど、びっくりなことに美味しかったよ」
「牛乳で味噌ラーメン・・・」
「お、その顔は信じてないな?よし、それじゃあメニューは決まりだ。あと、ビザトーストも作るか」
「そうだね!じゃあ、俺はミックスラーメン担当で、守がピザトーストね」
「さりげなく簡単なの押し付けたろ、お前」
「楽な方を回しただけだよ。つまり、フェミニスト」
「あっそ。まぁいいけど。んじゃ俺はピザトーストな」
「待ってろよ、豪炎寺。美味いもん用意してやるからな」
にかっとそっくりな笑顔を浮かべた二人は、姦しく去っていく。
リビングからカウンター越しに見えるキッチンに、豪炎寺はチャーハンの入った皿を置いた。
そのままキッチンへ入ると、トーストにチーズを乗せていた円堂が不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんだ、豪炎寺?」
「・・・別に」
「何だ、寂しくなったのか?しょうがないな~」
「別に、そんなこと言ってない」
「言わなくても判るって。俺、弟が居たからな」
「弟?」
「そ!素直じゃなくて素直で可愛いんだぜ!豪炎寺も可愛いぞ」
「俺は?」
「お前は小生意気」
「・・・ぶー。納得いかない、その分類。俺、こんなに尽くしてるのに」
「うそうそ。一哉も可愛いって!可愛いからさっさとミックスラーメン作ってくれな」
ぐしゃぐしゃと一之瀬の頭を掻き乱した円堂は、言葉通りに弟扱いをしているように見えた。
乱暴な仕草なのに嬉しげに目を細めた一之瀬は機嫌よくラーメン作りに戻る。
それを見送った彼女は、今度は豪炎寺の頭もぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
遠慮のない力にがくがくと首が揺れ焦点がぶれる。
「お前はオーブントースターのスイッチ入れて暖めておいて。こっちはもうほとんど準備できたからな。あとはケチャップとマヨネーズかけるだけー」
「随分こってりしてそうだな」
「こってりがいいんだよ。チーズとろりで、ささみはかりっとして、ケチャップとマヨネーズの絶妙なハーモニー。生トマトやベーコンにピーマンもいいけど、面倒だからな。よし、んじゃ乗せるぞ」
「ああ・・・大丈夫か?落ちそうだぞ」
「アルミホイルしくから大丈夫!これでトースト3枚でセットオッケーだな。一哉、そっちは?」
「オッケー!あとは粉末スープを投入するだけだよ」
「じゃあ、もう準備終わりだな。先に座っとけよ、豪炎寺。すぐに持ってくからさ」
「・・・ああ」
逆らえばまたからかわれる気がして、頷くとその場を後にした。
さきほど感じた寂寥感は嘘みたいに消えていて、騒がしいキッチンからの声に瞳を細め、少し冷えてしまったチャーハンへスプーンを差し込んだ。
「・・・良かったの、守。弟の話なんかだして」
「いいさ。どうせあれだけじゃ何も判らない。それにもうすぐ知れることだ」
「弟が『居た』か。嘘じゃないけど、本当じゃないな。でも」
「一哉、それ以上はもう止めだ。豪炎寺が待ってるしな」
「・・・・・・俺は。俺は、・・・それでも、守の味方だよ」
「───サンキュ」
小さく微笑んだ円堂は、いつもよりずっと儚く見えた。
『サッカーしようよ!』
『・・・断る。俺はもう、サッカーはしない。一之瀬、お前はもう俺のところに来るな』
『嫌だ!俺は君とサッカーがしたい!元・イタリアジュニアユース代表の鬼道守。ヨーロッパ屈指のミッドフィルダーで、不屈のポラリスと呼ばた君と』
真っ白な部屋で暗い瞳をした少女に、一之瀬は自分を重ね合わせる。
全身を包帯でぐるぐる巻きにされ辛うじて動く首を振ると、ゆっくりと瞼を閉じた。
そのまま呼吸を止めてしまうんじゃないかと思えるくらい儚い印象に、一之瀬はぞくりと背を奮わせる。
ベッドの上に広がる栗色の髪を握ると、眠る少女の傍らで夕日が落ちてもずっと佇み続けた。
「うんうん、凄かった。でもメイドさんは可愛かったよね。守も着てみなよ」
「いや、遠慮する。動き難そうだし。それより近場には執事喫茶なるものもあるらしいぜ?お前こそ着てみたらどうだよ、一哉」
「あはは。守のお願いなら聞いてあげる。それじゃあ、俺は守専用の執事ね」
「・・・冗談だよ。さらりと流すなんてこれだからアメリカ男は面白くないね。なぁ、豪炎寺」
「俺にふるな」
フライパンを振りチャーハンを作りながらため息混じりに訴える。
最近実家よりも居る時間が増えている気がする円堂のマンションで、手馴れた仕草で料理する豪炎寺の後ろでサラダをトレイに並べている二人に苦笑した。
ほとんど一人で食事を取る実家と違い、この家での食事は喧しく騒がしい。
円堂と一之瀬の途切れない会話がほとんどだが、聞いているだけでもコントみたいで面白かった。
二人とも帰国子女だからか、豪炎寺が思いもよらない切り口から会話が弾む。
話に加わらなくとも一人だとは思わずに居られるのは、彼らが何かと言うと豪炎寺に話をふってくれるからだろう。
平時であれば誤解されやすい豪炎寺の冷たくも見える態度だが、二人は全く気にしない。
どころか反応を面白がってさらに絡んでくるほどだ。
初めての空気だが、それはとても居心地がよく安心感がある。
「てか執事なら豪炎寺の方が似合いそうだな。一哉童顔だし、ドレスコードしても七五三だろ」
「むっ!?守だってそうだろ!ドレス着たってつんつるてんなんだからな!」
「残念ー。俺、ドレスくらい着こなせるもん。似合ってるってイタリア男にも言われたもんー」
「イタリア男って誰だよ!」
「一哉には秘密ー。なー、豪炎寺」
「・・・だから、俺にふるな」
ため息混じりに突っ込んで、フライパンを火から降ろす。
少し味見をしたが、醤油の香ばしい香りと生姜の絶妙なハーモニーが中々の一品だ。
カウンターに用意されていた皿に中華用のお玉で三人分よそうと、フライパンはそのまま水を入れて火を消したコンロの上に置いた。
後で洗い物をする時に水につけておくと楽なのだ。
妹に料理を作ってやる際に覚えた手際で軽く流しを綺麗にし、エプロンを脱ぐ。
ちなみに豪炎寺用として用意されたエプロンは黒字に赤のラインつきだ。
一之瀬は淡いピンクで、円堂はオレンジだ。
何故か一之瀬のエプロンが一番可愛いのだが、円堂が購入して半強制的に着せているらしいが、これがまた地味に似合っていた。
壁のネックに並んで掛けられているエプロンの一番端に豪炎寺もエプロンを掛け、そのままリビングへと向かう。
晩御飯はすっかりと並べられていて、子供みたいに目を輝かせた二人がチャーハンを前によだれを垂らさんばかりにして待っていた。
「豪炎寺、今日の晩飯も超美味そう!」
「うんうん。やっぱ、人が作ったものの方が食欲がそそるよね。豪炎寺ありがとう!守じゃあこうはいかないからね」
「失礼な。俺はやれば出来る子だぞ」
「滅多にきちんとやらないくせに。むしろ色々な意味でやり過ぎるくせに」
「何言ってんだ。新しい出会いは挑戦でこそ生み出せるものだぜ!な、豪炎寺」
「・・・もういい。早く食べるぞ。チャーハンが冷える」
「おっと、いけねぇ。冷えたらもったいないよな」
「そうだね。それじゃあ、いただきます!」
「いただきます!!」
「・・・いただきます」
手を合わせてぺこりと頭を下げ、先ほどの騒がしさが嘘のように凄い勢いで食べ始める二人に豪炎寺は目を細めた。
ハムスターのように頬が膨らなんとも間抜けで愛嬌のある姿だ。
成長期である一之瀬はもとより、同じ運動量の円堂も良く食べる。
手料理を美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいことだ。
あっという間に減っていく料理を前に、密かに満足しつつも豪炎寺も食事を始める。
「美味いな、このチャーハン!」
「本当、美味しいよ。これ、おかわりない?」
「ないな。そもそもご飯も後は炊かねばないぞ」
「・・・ぶー。仕方ない、あるところから奪うか」
「そうだね、守」
「っ」
同時に左右から襲い掛かってきたスプーンを、皿を持ち上げることで回避する。
いきなりの無体な行動に瞳を眇めて二人を見れば、ハイエナのように瞳を眇めた円堂と一之瀬はにいっと唇を持ち上げた。
「往生際悪いぞ、豪炎寺!」
「俺たちにそのチャーハンを渡せ!」
「何故作り手の俺がまだ半分も食べてないチャーハンを渡さなければならない!俺も腹が減っている」
ほとんど治っているが、一応念を入れて足に負担が掛からぬよう体勢を崩していた豪炎寺は、それでもバランスを保ちつつ襲い来るスプーンを避ける。
左右からスプーンを繰り出す二人は、視線を絡ませると今度は時間差攻撃を仕掛けてきた。
息を乱しながら必死に皿を死守し、ぎっと睨みつける。
「大体二人とも行儀が悪いぞ!食事中はもっと大人しくするべきだ!」
「だって腹が減ってんだよ!足りないの!な、一哉」
「そうそう。俺たち育ち盛りだよ?少しくらい分けてくれてもいいじゃない」
「俺も育ち盛りだ!絶対にやらんと言ったらやらん」
きっぱり言い切れば、暫くの睨み合いの後、ふうっと二人はため息を吐いた。
「どうする、一哉」
「本当にどうしようか、守。豪炎寺は我侭だな」
「俺が我侭なんじゃなくて、お前らが自分勝手なんだ!」
あまりと言えばあまりな言い草に、さすがにカチンと来て怒りも露にすれば、それでも飄々として受け流した二人は仕方ないと席を立った。
唐突な行動は多い二人だが、驚いて瞳を丸くする。
もしかして怒ったのだろうか。
自分は全く悪くないと思うのに、背を向けられると不安になる。
それでも何も言えずに戸惑いで瞳を揺らしつつ何処かに行こうとする二人を見ていれば、不意に円堂が振り返った。
「どうせ豪炎寺もそれだけじゃ足りないだろ?ミックスラーメン作るけど、お前も食う?」
「ミックスラーメン?」
「いろんな種類のインスタントラーメンを混ぜて作るラーメンだよ。守と何回か試してるんだけど、これが意外と色々な発見があって面白いし美味しいんだ。この間はテレビでやってた牛乳で作る味噌ラーメンを試したんだけど、びっくりなことに美味しかったよ」
「牛乳で味噌ラーメン・・・」
「お、その顔は信じてないな?よし、それじゃあメニューは決まりだ。あと、ビザトーストも作るか」
「そうだね!じゃあ、俺はミックスラーメン担当で、守がピザトーストね」
「さりげなく簡単なの押し付けたろ、お前」
「楽な方を回しただけだよ。つまり、フェミニスト」
「あっそ。まぁいいけど。んじゃ俺はピザトーストな」
「待ってろよ、豪炎寺。美味いもん用意してやるからな」
にかっとそっくりな笑顔を浮かべた二人は、姦しく去っていく。
リビングからカウンター越しに見えるキッチンに、豪炎寺はチャーハンの入った皿を置いた。
そのままキッチンへ入ると、トーストにチーズを乗せていた円堂が不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんだ、豪炎寺?」
「・・・別に」
「何だ、寂しくなったのか?しょうがないな~」
「別に、そんなこと言ってない」
「言わなくても判るって。俺、弟が居たからな」
「弟?」
「そ!素直じゃなくて素直で可愛いんだぜ!豪炎寺も可愛いぞ」
「俺は?」
「お前は小生意気」
「・・・ぶー。納得いかない、その分類。俺、こんなに尽くしてるのに」
「うそうそ。一哉も可愛いって!可愛いからさっさとミックスラーメン作ってくれな」
ぐしゃぐしゃと一之瀬の頭を掻き乱した円堂は、言葉通りに弟扱いをしているように見えた。
乱暴な仕草なのに嬉しげに目を細めた一之瀬は機嫌よくラーメン作りに戻る。
それを見送った彼女は、今度は豪炎寺の頭もぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
遠慮のない力にがくがくと首が揺れ焦点がぶれる。
「お前はオーブントースターのスイッチ入れて暖めておいて。こっちはもうほとんど準備できたからな。あとはケチャップとマヨネーズかけるだけー」
「随分こってりしてそうだな」
「こってりがいいんだよ。チーズとろりで、ささみはかりっとして、ケチャップとマヨネーズの絶妙なハーモニー。生トマトやベーコンにピーマンもいいけど、面倒だからな。よし、んじゃ乗せるぞ」
「ああ・・・大丈夫か?落ちそうだぞ」
「アルミホイルしくから大丈夫!これでトースト3枚でセットオッケーだな。一哉、そっちは?」
「オッケー!あとは粉末スープを投入するだけだよ」
「じゃあ、もう準備終わりだな。先に座っとけよ、豪炎寺。すぐに持ってくからさ」
「・・・ああ」
逆らえばまたからかわれる気がして、頷くとその場を後にした。
さきほど感じた寂寥感は嘘みたいに消えていて、騒がしいキッチンからの声に瞳を細め、少し冷えてしまったチャーハンへスプーンを差し込んだ。
「・・・良かったの、守。弟の話なんかだして」
「いいさ。どうせあれだけじゃ何も判らない。それにもうすぐ知れることだ」
「弟が『居た』か。嘘じゃないけど、本当じゃないな。でも」
「一哉、それ以上はもう止めだ。豪炎寺が待ってるしな」
「・・・・・・俺は。俺は、・・・それでも、守の味方だよ」
「───サンキュ」
小さく微笑んだ円堂は、いつもよりずっと儚く見えた。
『サッカーしようよ!』
『・・・断る。俺はもう、サッカーはしない。一之瀬、お前はもう俺のところに来るな』
『嫌だ!俺は君とサッカーがしたい!元・イタリアジュニアユース代表の鬼道守。ヨーロッパ屈指のミッドフィルダーで、不屈のポラリスと呼ばた君と』
真っ白な部屋で暗い瞳をした少女に、一之瀬は自分を重ね合わせる。
全身を包帯でぐるぐる巻きにされ辛うじて動く首を振ると、ゆっくりと瞼を閉じた。
そのまま呼吸を止めてしまうんじゃないかと思えるくらい儚い印象に、一之瀬はぞくりと背を奮わせる。
ベッドの上に広がる栗色の髪を握ると、眠る少女の傍らで夕日が落ちてもずっと佇み続けた。
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