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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「私も安く見積もられたものよね」

目の前に山と詰まれた財宝を眺め、ナミは猫の呼び名に相応しい笑顔を浮かべた。
世間に広まる手配書と同様、彼女の宝好きは広まっている。
痛い目を見る覚悟があれば、彼女と取引すら出来る手段だ。
何しろ泥棒猫のナミは海賊王の船の中でも大きく幅を利かせる存在。
麦わら海賊団の頭脳の彼女を篭絡すれば、海賊王を動かせるとすら噂される女。
彼らの関係は男と女のものであるか、そうでないのか。
それを知る人間は彼らの仲間のみだろうが、少なくとも海賊王がナミを大事にしているのは事実だった。

「すまねぇ、安すぎたか?」

机の上に広げられた黄金はそれだけでひと財産だったが、表情すら変えず余裕を保つ相手には足らなかったのか。
引き抜きの交渉をしていた海賊船の船長は、背中に汗を掻きながらそれが相手に伝わらないよう笑顔を浮かべる。
若輩の女相手に随分と媚びたものになったそれを睥睨するように眺めたナミは、机を指で叩いた。

「ええ、そうね。私を引き抜きたいなら、この三倍は用意してくれなきゃ。それとも、そのくらいも出来ないで私を引き抜くつもり?」

楽しげに告げてグラスの酒をゆっくりと飲み込む。
腰に届くほどの癖のあるオレンジ色の髪が揺れる。
抜群のスタイルを惜しげもなく晒したショートパンツにノースリーブと挑発的な格好で、ナミはまさしく猫のように気紛れに振舞った。

泥棒猫の本職を航海士と知る人間はごく一部だ。
海賊の間でも海軍の間でも共通して流れる低俗な話題では、彼女ともう一人の女クルーは、その見目の麗しさから海賊王の慰み者と噂されるが、実態は違う。
泥棒猫の正体は超一級の航海士だ。
海賊の中でもその真実を知るごく一部のものは、見目の麗しさも相俟って彼女を欲しがる。
今、場末の酒場で交渉している彼も、その内の一人だった。



「・・・あのクソ野郎!ナミさんに色目使いやがって!!」
「しししっ、サンジはそればっかだなー」

黒足と名高いコックのサンジと、今日は麦藁帽子をロビンに修理してもらうために船に置いて来た海賊王のルフィは、ナミが交渉している席から死角になる場所で様子を見物していた。
サンジは苛々しながら煙草を凄い勢いで消費しているし、その正面では愉快そうにしているルフィがえらい勢いで肉を消費している。
積み上げられた皿はすでに身長を超え、そのルフィの様子にすらサンジは苛立つ。

「お前な、船で晩御飯の準備してんのに食えんのか?」
「ったりめーだ。サンジの料理は別腹!世界一美味いもんな!」
「・・・食えるならいいんだけどよ。言っとくが、残すなよ」
「当然だ。おれがお前の料理を一度でも残したことがあるか?」
「ねぇな。食い意地だけは張ってんもんな、お前」

しししっと笑う彼の額を指先で弾くと、いてえぞと文句を言われた。
少しだけ気分が上向く。ルフィはとんでもなく大喰らいで食い意地が張っているが、コックとして最高の相手だ。
出したものは何でも残さず平らげ、尚且つ本当に美味しそうに食べる。
不味ければ不味いとはっきり言うが、未だにサンジはその一言をもらったことはない。
『サンジの料理が世界一』と誰彼構わず口にするのは恥ずかしいが喜ばしい。
擽ったい気持ちを誤魔化すために紫煙を燻らすと、反らした視線の先でとんてもない光景が映った。

「んな!!?」
「おお、勇気ある男だな!ナミの手握ってる」
「許せん!あの男、殺す!!」
「今出てったらナミに殺されるぞ~?手に入るだけせしめるっつってたし」
「殺されてもいい!ナミさんに触れる男を殺して、おれはナミさんに悩殺される!」
「ししっ、サンジは馬鹿だな」
「お前には言われたくねぇ!」

ずべし、と全力でチョップする。
皿に顔面を強打しながらも、彼は食べかけの肉を決して離さなかった。
大した根性だ。しかし、やはり馬鹿は馬鹿だ。

「・・・あんたたち、五月蝿すぎるんだけど」
「んナミさん!!」

めろりん、と振り返れば、呆れた眼差しのナミが腰に手を当てて立っていた。
年を経るごとにいい女になるナミに、サンジの心は釘付けだ。
ハートを飛ばすサンジをあっさり無視すると、麦藁帽子の代わりにパーカーを被るルフィに視線をやると肩を竦める。

「交渉決裂。あ、でもあのお宝は私の時間を浪費した代償にもらっていきましょ」
「お前って感心するほどあこぎだよな」
「・・・あんた、よくそんな言葉知ってたわね」
「この間ロビンの聞かせてくれた童話にあった。何か名作劇場シリーズらしいけど、なんも報われない話だったぞ!義理の親があこぎだったんだ」
「ふーん。何か、意味は判ってなさそうだけど、あんたにしては凄いわね」
「だろっ。そんで、あのお宝は持ってくのか?」
「ええ。結構な量だからあんたたち二人で手分けしてね。落としたりしたら殺すわよ」
「んー、いいけど何か買ってくれ。肉がいいな、肉!」
「あー、はいはい。一塊だけよ」
「ちょっと待てぇ!!」

話すルフィとナミの間に入ったのは、先ほどまでナミと話をしていた男だった。
手配書で見たことがあるような気がするが、サンジよりは賞金額は少ないだろう。
ナミの本職を知るからにはそこそこ有能な海賊団の一味だと思うが、彼らは決定的な思い違いをしていた。
席を立ち上がると、ナミを庇うために前に立つ。
いきり立った目で睨まれたが、生憎その程度で怯む経験の積み方ではない。
頭のねじが数本飛んだ海賊王と旅をしていれば、度胸くらい嫌でも身につく。

「この女っ、おれをコケにする気か!」
「コケに?何で私が」
「そうだろうが!『あんたに私は釣り合わない』ってどういう意味だ!」

唾を飛ばして訴える男に、サンジは何があったかを理解できた。
搾り取れる鴨を前にナミが席を立ったのは、きっと彼女の逆鱗を逆なでする『何か』を彼が口にしたからだろう。
彼が何を言ったか知らないが、その逆鱗の在り処は同じクルーとしてサンジははっきりと悟れる。
彼らの逆鱗は、共通点では『ルフィ』に関することのみだ。
それぞれ違うプライドを持つが、それだけは共通していた。

「そのままの意味よ。あんたじゃ私に釣り合わない。私を誰だと思ってるの?」
「んだと、このクソ女!」

咄嗟に武器に伸びた手を蹴り飛ばし、ついでに踏み込んだ勢いを利用して男を壁際まで吹っ飛ばした。
ざわり、と空気が揺れる。男を蹴り飛ばした瞬間に席を立った人間が幾人もいて、この店の客の大多数が彼の仲間だと漸く悟った。
しかしだからといって何も気負うことはない。
周りを囲われため息を吐くと、この状況でも食事を続けるルフィに声を掛けた。

「おい、ルフィ。お前いつまで食ってんだ?」
「これで最後だ!にしても美味いな、この料理。サンジ、これ帰ったら作れるか?」
「んー・・・ま、大丈夫だろ。ああ、皿舐めるな!外でするな、恥ずかしい!」
「・・・貴様ら、おれたちを馬鹿にしてるのか!?」
「はぁ・・・面倒ね。説明しなきゃ判らないなんて」

肩を竦めると、未だに肉を咀嚼しているルフィの襟首を掴んで立たせたナミは、彼のフードをむんずと引っぺがす。
扱いは酷いものだが慣れてるルフィは抵抗せず好きにさせ、ナミは彼を体の前に突き出した。

「私は海賊王の航海士よ?その意味が理解できてるの?」
「・・・超一流の航海士ってことだろう」
「ええ、そう。私は一流の航海士じゃなくて、超一流の航海士なの。海賊王がどこにでも行けるよう、超一流になったの」
「だから、あんたの腕はそこで終わらせるには勿体無いって・・・」
「私の将来をあなたが決めないで」

怒りで瞳の色を濃くしたナミは、頬を赤らめて言い放った。
屈辱に燃える顔は美しく、きつい口調は誇りに満ちている。
か弱い女が相手だと思っていた男は息を呑み、ナミはルフィの隣に並んだ。

「私の飼い主になるですって?私はルフィの航海士よ。彼が行きたい場所のどこにでも船を進めれるように技術を磨いたの。幾らお金を積まれても、誇りを売るつもりはないわ。私はルフィの船を進めるの。あんたじゃ私に釣り合わないわ」
「ヒュー」

思わず口笛を吹き鳴らす。
潔い啖呵は痺れるほどに格好いい。さすがサンジが見込んだ女だ。
見た目も中身も極上品。彼女はサンジの誇りだった。
もっとも、彼女はサンジをちらりとも見ることはない。
彼女の視線はいつだって一方向に向かっていて、逸らされることはないのだから。
唯一残念なのは男の趣味だと言いたいのに、ルフィは彼が知る誰よりも格好いい男だった。
超絶悔しいし認め難いが、男であるサンジが惚れ込むほど、いい男なのだ。

ナミの啖呵を嬉しそうに聞いたルフィは、隣に居るナミの肩を抱くとしししっと笑った。
酷く満足気に頷く姿に、ひっそりと眉を顰める。
ルフィは馬鹿だが馬鹿じゃない。
彼は本能でナミが自分のものだと理解している。
骨の髄まで自分のものだと理解して、欠片も手放す気はないのだ。
子供と同じ無邪気さで、彼は傲慢さを振りかざす。
生まれながらの王様なのだ、モンキー・D・ルフィは。

「最高だ、ナミ。お前、格好いい」
「当然よ」
「しししっ、何てったって『おれの』航海士だもんな!」

昔より体だけは成長した男は、女を独占して甘く笑う。
精悍な顔つきで、とても愉快だと幸せそうに。

「聞いたろ?ナミはおれのだ。おれのために船を進める『航海士』なんだよ。世界一凄い腕を持つ、最高の女だ」
「・・・か、い、賊王だと?」
「超一流の腕はおれの船を進めるために努力してくれたものだ。おれは航海士を、仲間を手放す気はねぇよ」

そうして彼は、笑顔のまま静かに覇気を纏う。
空気が変わったと肌で感じた瞬間に、その場の男たちが次々と気絶を始めた。

「おれの仲間に手を出すな。ナミはおれの航海士だ。こいつがいねぇとおれの船が進まない。奪う気なら、覚悟して来い」

ナミの命令通りに机の上の財宝を布に纏めて背負うと、店を出る瞬間に彼は後ろを振り返る。

「覚悟はいるが、奪う価値がある女だぜ、こいつは」

誇らしげに告げたルフィの死角で、ナミが一気に顔を赤らめた。
可愛いや綺麗を聞き慣れた彼女の初心な反応にサンジは苦笑する。
普通の誉め言葉より破壊力があるのだろう。
サンジの賛美には欠片も照れや恥じらいを見せないのに、この差は何だと訴えたいが、誰に訴えればいいか判らない。
何せサンジもナミの気持ちは判るのだ。
臆面もなくルフィに同じ台詞を吐かれれば、サンジとて赤面するだろう。
だから悔しさを堪えると、せめてもの情けでルフィとナミの間に入り込み壁となる。

「ありがと、サンジ君」
「いえいえ。ナミさんのためならお安い御用です」

情けなく眉を下げながらそれでも笑ってしまうのは、恥らう彼女が可愛らしいからに違いない。

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