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*ルフィたちが海賊王になる少し前の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
だが───今から語る話は、まだ彼らがその栄誉ある称号を手に入れる少しだけ前の物語である。





「もうすぐだな、ルフィ」

背後からかけられた声に首だけを回したルフィは、今空に輝く太陽と同じ魅力を持つ笑みを浮かべる。
心底楽しくて仕方ない、とワクワクドキドキと音が聞こえそうな笑顔で、ゾロは淡く苦笑した。
右手を船の縁に掛けると、彼のお気に入りの席へと無理やり割り込む。
バランスを崩し海に落ちそうになったルフィを片手で支え、その隣に腰掛けた。
男二人で並ぶには手狭だが、彼が座る特等席は今日も心地よい風が吹いている。
昼の心地よい日差しに眠気を誘われながら、ゾロはゆったりとした気分で口を開いた。

「次の島がお前の夢を叶える場所だ。気分はどうだ、海賊王?」
「ししししっ!おれはまだ海賊王じゃねぇよ。でも、そうだな、気分は上々だっ」
「そうか」

機嫌がいいルフィに頷くと、頬を擽る潮風に身を任せ瞼を閉じる。
そうすると波の音とルフィの声しか聞こえず、世界で二人きりになったような錯覚に、自分らしくないと自嘲の笑みを浮かべた。
だがらしくないのも仕方ないと思う。
先日己の夢を叶えたばかりのゾロは、傷だらけで痛む体と昂揚したままの精神を抱えている。
ルフィの隣にいれば少しは落ち着くかと思ったが、そうはならないらしく、むしろ彼の感情に伴ってもっとテンションが上がっていくようだ。
チョッパーに禁止されているが、今すぐにでもルフィと手合わせしたいと欲求が高まり、拳を握ることで辛うじてそれを堪える。
望んだものは今やほぼゾロの手の内にあり、最後の一つももうすぐ転がり込む。
それが酷く待ち遠しく、トレーニングもそこそこに見えた赤いベストに誘われ狭い場所に身を収めている。
もしかすると、自分で思うよりもずっと、ゾロはその瞬間を待ち望んでいるのかもしれない。

「───早く、島につかねえかな」
「んー?どうした、ゾロ?お前がそんなこと言うの、珍しいな」
「そうか?」
「そうだよ。おれが言うんだから間違いない」
「そうか」

しししっといつもどおりに楽しげに笑うルフィに頷く。
彼が言うのなら、きっとそうなのだろう。
ある意味彼はゾロ以上にゾロを判っている。
ゾロが、ルフィをルフィ以上に判っているのと同じで。
この伝染する高揚感は彼と心の奥で繋がってるかもしれないなんて、やっぱりらしくないことを考え渋面し頭をがしがしと掻いた。
幾らなんでも浮かれ過ぎだろう。

そんなゾロの百面相を見て何を考えたのか、唐突に腕を振り上げたルフィは、ゾロの頭を掴んだ。
じとり、と一瞬でゾロの目が据わるが、睨まれただけで今更どうこうする付き合いじゃないルフィは動じない。
がしがしと頭をかき乱され、ぴくりと額に青筋が浮いた。

「何のつもりだ?」
「んー?何が」
「この手だ。場合によっちゃ斬り落とす」
「ははっ、怖ぇなゾロ。んな不機嫌になるなよ、誉めてんだからさ」
「誉める?」
「そう。おれはお前を誉めてんだ」

満足気に人の頭を掻き混ぜるルフィに、段々と怒りが萎えていく。
見た目だけ成長したが、中身は少しも成長していない。
精悍な顔つきに伸びた身長。
強さだってルーキーだったあの頃より桁違いなのに、中身は欠片も変わらない。
今だって誉めていると口にしたなら、本当に誉めているつもりなのだろう。
いい年した年上の男にする態度じゃないなんて、欠片も考えないに違いないのだ。
この、空気の読めない年下の青年は。

だからため息一つで怒りを流したゾロは、仕方なしに好きなままにさせてやる。
スルースキルを身につけたのは、自分が疲れないためだ。
毎度全力で突っ込んでいたら、こちらの身が持たない。
案の定暫く好きにさせていたら満足したらしいルフィは、掌を置きにししと笑う。
何がそんなに楽しいんだと聞きたいくらいにご満悦な表情をしていて、つい釣られて口元が緩んだ。
自身は意識していないが、その表情はとても柔らかで優しげで、もしこの場にサンジがいたなら徹底的にからかわれるほど油断した笑顔だった。

「宴会は開いたけど、お前の祝福したけれど、おれはまだ言ってねぇもんな」
「だから、何をだ?」
「良くやったなって。おれはまだお前を誉めてなかっただろう?折角お前が世界一になったっていうのに」

自分自身が世界一になったように、自慢げに胸を反らしたルフィがゾロに告げる。
彼の表情は縁側で日向ぼっこしている猫のように緩み、幸せそうだった。
何を言われたのかとぽかんと口を開けるゾロを無視してルフィは続ける。
いつだって彼は他人がどうしてるかを気にしない。
自分がどうしたいかを第一に持ってくるルフィらしい態度だが、現状を飲み込めないゾロは楽しげな彼が告げる言葉を理解するので精一杯だ。

「凄いぞ、ゾロ。さすが、おれが選んだ剣士だ。お前が負けるなんて欠片も思っちゃいなかったが、それでもおれは嬉しい。お前を尊敬するし、格好良いと思う。さすが、おれの相棒だ」
「っ」
「お前を選んでよかったぞ、ゾロ。一目見たときからお前が欲しかった。お前は絶対に強いって判ってたしな」
「・・・・・・」
「お前が居てくれるからおれは迷わずに居られる。いつだって何かあったとき一番に頼りにするのはお前だ。何だかんだ言って面倒見もいいし、必要な時に必要なことをしてくれる。おれが真っ直ぐに進めるのは仲間のおかげだけど、お前に一番安心して背中を任せられる。ゾロ───そんなお前が、夢を叶えて世界一になったのが凄く誇らしい。最高だ!」

一息に告げるルフィに恥じらいはない。
だが聞かされたゾロは居た堪れなさに消えてしまいたくなった。
誉め殺しなんて高度なテクニックを、いつの間に身につけたのだ、この性質の悪い男は。
掌で顔を覆って隠したが、俯いても赤らんだ耳は丸見えだろう。
ゾロの服装は上半身は肌の色が覗きやすく、体を丸めたって隠せやしない。
まして妙に鋭い部分がある嫌な男相手では、きっと意味がない。
呻き声をあげてごろごろと転がりたくなる衝動を何とか押さえ込み、真っ赤になった顔を見られないようルフィから顔をそらす。
しかし、しししと笑い声が聞こえ、お見通しかよと眉間に皺が寄るのは押さえられなかった。

「・・・何なんだよ、お前は、本当にいきなり」
「ししししっ、照れたかゾロ。顔が真っ赤だ!」
「照れてねぇよ!」

勢い込んで反論したが、その声がそもそも掠れていては迫力は薄い。
そして最悪にもルフィの言葉は図星だったので、益々顔が赤らむ。
本当に何なんだと馬鹿の一つ覚えで呟けば、ゾロにこの上ない羞恥を与えた男は頭の後ろで腕を組むと愉快そうにゾロを眺めた。

「言ったろ。誉めてんだ。ゾロが世界最強の剣士になったのを、船長として、モンキー・D・ルフィとして誉めてんだよ」
「今更だろうが。───お前に誉めてもらうために世界最強になったんじゃねぇ」
「知ってるよ。でも、たまにはいいだろ?ゾロは中々おれに誉められてくれねぇからな。結構楽しい」
「おれで遊ぶな」
「遊んでねぇよ。至って真面目だ」
「尚更性質が悪い」
「───ゾロは照れ屋だなぁ」
「うるせぇ!」

あまりな言葉に顔を上げて睨みつければ、予想外に柔らかな笑顔を浮かべたルフィと目が合い言葉が詰まった。
呑まれて黙り込んだゾロに、普段の陽気ではじける笑顔ではなく、包み込むような包容力のある笑顔を浮かべたルフィが静かに訴える。

「覚えてるか、ゾロ?おれがお前に言った言葉」
「『海賊王の仲間になるなら、世界一の剣豪くらいにはなって貰わないとおれが困る』」
「ししし、さすがだ」

頷く彼こそ覚えていたのかとゾロは驚いた。
彼の脳みそは残念な出来をしているので、ずっと昔に交わした会話など覚えていないと思い込んでいた。
例えそれを、ゾロがどれ程重く受け止めていようとも、彼は気にしないと思い込んでいた。
だが違うのだろうか。
もしかしたら、自分が思っている以上に、この言葉に篭められた意味は重いのだろうか。
そうだとしたら、それを酷く喜ぶ自分が居るのをゾロは知ってる。

「お前はお前の夢を叶えた。今度はおれの番だ。───おれは、海賊王になる男だ」

声は大きくない。
普段のように怒鳴るように世界に向けて宣言するわけでもない。
けれど酷く静かな主張は、ゾロの心の奥深くにすとんと入り込んで、とぐろを描きそこに居座る。
ゾロの魂を縛ろうとする彼の声は、出会った頃から今でも健在。

「そうだ。お前は海賊王になる男だ。そしておれは、世界最強の剣豪だ」
「ああ。お前は世界一の剣豪だ。海賊狩りのロロノア・ゾロ。そしてお前はおれの相棒でもある」
「そうだ。おれはお前の相棒だ。お前を支え隣に並び立つのは他の誰でもなくこのおれ、ロロノア・ゾロだ」
「ああ。なぁ、ゾロ」
「何だ」
「おれは海賊王になる。だからお前、ずっとおれの隣に居ろ」
「・・・・・・」
「おれは今より高みに上る。生きてる内は一生上を目指す。その欲求に果てはない。強くなりたい。誰よりも自由に海を駆ける存在であり続けたい。心のままに生きていたい」
「ああ」
「お前も同じだろう、ゾロ?世界一の称号だけでお前が満足するはずねぇ。お前もおれと同じだ。もっともっと上に行きたいはずだ。おれたちはこの程度で終わるはずがねぇもんな」
「そうだな」
「きっと、最後までおれの隣に居られるのは、お前だけだ、ゾロ。だから強くあり続けろ。他の誰かのためじゃなく、おれ自身のために。おれが間違った方向に行こうとしたらお前が止めろ。それはきっと、お前以外の誰にも出来ない。お前が出来ないなら、他の誰にも出来ない」

ルフィの言葉は酷く魅力的にゾロの耳に響く。
誰よりも高みを目指す故に、何処かに孤独を抱える男。
誰よりも自由を望み、誰よりも強さを望む。
自分が自由で居るために、強さを求めるのがルフィだ。
そして彼が言うとおりに、彼に本当の意味でついていけるのはゾロだけで、最後の最後で彼の砦になれるのもゾロだけだ。
彼が心を砕く仲間の誰にも許されぬ、ゾロだけに与えられた特権は、彼の心を内から満たす。
無意識に口端が上がると、魔獣と称されるに相応しい剣呑な雰囲気で、獲物を前にした飢えた獣みたいに哂った。

「当たり前だ。お前の横に立てるのはおれだけだ。世界一の剣豪におれはなったんだ。海賊王にくらいお前がならないとおれが困る。そうじゃなきゃ、お前はおれに並べる存在じゃねぇからな」
「ししし、言うねぇ。さすがおれのゾロだ」

凪いだ海に揺れる船の上で、ゾロの傲慢な台詞にルフィは満足したようだった。
彼の笑顔は曇りなく、いつの間にか静かな雰囲気は消えている。
腹を割った話は、ゾロとルフィが対等だからこそなされたもので、一生この関係を維持すると決めていた。

早く、時が来ればいいと願う。
もう幾日か過ぎれば、目の前の男は海賊王になるだろう。
その日が待ち遠しくて仕方ない。

何故なら。
彼の夢が叶う瞬間こそ、ゾロの野望が叶う瞬間でもある。

『海賊王になったルフィの隣に、世界最強の剣豪として肩を並べる』

いつの間にか純粋だった夢に混じりこんだ野望は、ゾロの心の内に深く根付いていた。
海賊王に上り詰めた彼は、同時に心に孤独を飼うだろう。
他の誰も辿り着けない極みに立つなら、同じ立場の人間でなければ真の意味で分かり合えない。
それを知るからこそ、ゾロはその日を願った。

海賊王に彼がなる日。
それは真の意味でゾロが彼を独占できる日でもあった。

くつりと喉を震わせて哂った彼に、ルフィも小さく笑った。
無邪気に笑う彼も、きっと心の奥底でそれを理解しているのだろう。
だからこそゾロに手を伸ばすのだ。
そうして伸ばされた手を握り締めれば、きっと自分はもうそれを放さない。

刻一刻と近づくその日は、この上ない充足感をゾロに与えるに違いない。
世界に二人だけしか感じ取れない絆を得る日が、待ち遠しくて仕方ない。

この世界に住む誰よりも、最強の名を冠する剣士こそが、海賊王の誕生を望んでいるに違いない。
自分の考えがおかしくて、やっぱりゾロも笑った。

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