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【完結:真選組編】
血に濡れた掌が、酷く似合わないと感じた。怒りと悲しみが綯い交ぜになった無表情が、酷く心を痛めさせた。酷い目に合わされて、死にかけさえしたというのに、放っておけない、と。泣きそう顔を歪めた少女を想い、そう、感じた。
「また、お前らアルか」
厭きれたと告げる口調。あの日と同じ漆黒の衣装に身を包んだ少女は、珍しい事に髪の毛を下ろしていた。トレードマークだったお団子頭がないと、年齢よりも大人びて見えるものだと初めて知った。
光を失った青い瞳。一年前の今頃とあまりに違うその色に、近藤は苦笑する。惚れた相手が気にするから、との理由以上に、どうしようもない程のお人よしの彼は、目の前の少女を放っておけなかった。
真っ直ぐな瞳は戸惑いに揺れ、まるで親を見失った幼子のようだ。いや、実際彼女は親を失った。
同情すべき点は多数ある。彼女が殺めてきた政治家達は、武装警察真選組ですら手が出せないほどの大物達だ。それぞれが黒であると知っていても、手をこまねいて見ているしかないような相手。神楽の父親を政治の駒に使うのも大した手間ではなかっただろう。目の前で父親の首をはねられた神楽の感情など、自分には想像もつかない。
自分達の前では無表情だが、銀髪と自分の惚れた女の前でだけ輝くような笑みを見せる彼女は、本来は感受性が豊かな子供なのだろう。幼い頃、一人で過ごす時間が多かった故に、家族の絆を特別に求めていた。星海坊主の娘と聞いたときには、さぞかし寂しい思いをしたのだろうと考えたものだ。
ぽつん、と佇む姿は駆け寄って大丈夫だと抱きしめてしまいたいくらいに頼りない。どれだけの力を秘めていたとしても、彼女はまだ子供なのだ。守られてしかるべき存在のはずなのに。彼女の父親が死んだのは、広い視野で見れば真選組も関わっている。悪を悪と知りながら、放置していた自分たちにも問題はあった。選んだものを、失くせない場所を優先させた、己の罪を近藤は知っている。
「死にたくなければ、どくヨロシ。たった三人で、私に勝てると思ってないダロ。それとも、まだ痛い目見なきゃわかんないアルか?」
静かに傘を構え直す神楽に、自分も刀を構える。それだけの動作で体の節々が痛んだ。実のところ、先日彼女にやられた傷は完治しきれていない。後ろに控える自分の腹心たちもそうだろう。表情こそ変えてないが、額に浮かぶ汗がそれを照明している。
口火を切ったのは沖田だった。淡々とした眼差しで、けれどこの中の誰よりも彼は神楽に執着している。
「何言ってンでさァ。あんたにオレが殺されるわけねぇだろィ、チャイナ」
「悪いが、3度目の遅れを取る気はないんでな。此処から先に、お前を通すわけにはいかねぇ」
刀を構えた沖田と土方は不敵に笑う。
「大丈夫だ。オレたちがアンタを止めてやるよ、チャイナさん」
この場を越えたら天守閣。そこにはまだ江戸の将軍が残っている。この騒動を知った上で、逃げないのは彼なりの矜持なのだろう。だとしたら、尚の事彼女を先に進ませるわけには行かなかった。
もう、決めたのだ。自分達の命に代えたとしても──。
「これ以上、アンタの手を汚させねぇ」
近藤も刀を正眼に構えた。痛みを排除するために息を吐き出し呼吸を整える。真剣な眼差しを向ければ、目の前の少女の気配が初めて揺れた。泣き笑いのような笑顔を見せた少女は。
「本当に、銀ちゃんといいお前らといい。エドの侍は馬鹿ばかりアル」
傘を構えて突進してきた。
自分の能力を最大限に活かした見事な動き。十代の前半とは信じられないほどの鋭さを秘めたそれに、近藤は目を細める。恐ろしいほどの天賦の才だ。夜兎という種族だからと言うだけでは語れないほどの才能。沖田よりも上の才能を持つ相手を、近藤は初めて目にした。そして、その経験も自分達に勝るとも劣らない。
勝ち目が多い戦いではない。それでもゼロではないと信じていた。信じなければいけなかった。疑えば勝機はゼロになり、取り戻すチャンスは永遠に消える。
傘を右手に下げたまま疾走した神楽に、土方の肩が撃ち抜かれた。反動で崩れる体勢を利用し繰り出した右足で首筋に踵を落とすと、そのままの勢いで沖田に飛び掛る。振り上げられた傘に咄嗟に刀を平行に持った沖田に笑いかけ、急角度をつけ傘を左手に持ち変える。目を見開く沖田の腹に傘が打ち込まれた体がくの字に曲がる。吹っ飛ばされた沖田に視界を塞がれた近藤の顔面に、何時の間に距離を詰めたのか、早い拳が打ち込まれた。脳髄を揺さぶる衝撃が体を貫く。落ちそうな意識を必死に保ち、刀をついて立ち上がった。
数だけ見れば圧倒的に有利な存在。経験も、技術も半端ない手製を揃えているのに、神楽にはほとんど傷をつけれない。
それでも、何度殴られても、蹴られても、諦めず立ち上がる彼らに、神楽の肩が上下し始めた。
舌打ちした神楽は、手近にいた人間を無造作に殴り意識を沈める。反動を利用しくるりとトンボを切った。
「ほんっと、しつこい、奴らネ。ストーカーされてる姐御の気持ちがよくわかるアル」
「もてねぇ男は工夫しなきゃいけねぇんだ。近藤さんばかりを責めないであげてくだせェ」
「そうだ。苦労せずもてる男なら、ストーカーになってねェ」
「え?ちょ、あの、オレだけの話?しつこいのって、オレだけの話なの?」
「他に誰がいるんでさァ」
「悪いな、近藤さん。オレたちはしつこくする必要がねぇ」
「!?」
密かに傷ついていると、押し殺したような声が聞こえた。刀を構えたまま前を見れば、華奢な体が震えている。
「あはは!!ホント、お前ら馬鹿ばかりネ」
久しぶりの笑い声。快活な声を上げた少女は、目に涙して笑っていた。楽しそうに、声を大きく張り上げて。久しぶりに見る光景に、驚いて固まっているのは自分だけではなかった。
「私、お前らの事そんなに嫌いじゃなかったアル。だから、一思いに終わらしてやるネ」
暫く笑い続けていた少女は、先程までと雰囲気を一転させる。闇が似合うその笑みは、昏く静かなものだった。底知れない雰囲気にごくりと喉がなる。死闘に慣れた近藤たちですら寒気を感じる。
クスクスと微笑み、そして緩やかな動作で傘を構えた。一分の隙も、迷いもない。その代わり、殺気も感じられない。
「勝負」
静かな宣言に、彼らは全員獲物を構えた。
血に濡れた掌が、酷く似合わないと感じた。怒りと悲しみが綯い交ぜになった無表情が、酷く心を痛めさせた。酷い目に合わされて、死にかけさえしたというのに、放っておけない、と。泣きそう顔を歪めた少女を想い、そう、感じた。
「また、お前らアルか」
厭きれたと告げる口調。あの日と同じ漆黒の衣装に身を包んだ少女は、珍しい事に髪の毛を下ろしていた。トレードマークだったお団子頭がないと、年齢よりも大人びて見えるものだと初めて知った。
光を失った青い瞳。一年前の今頃とあまりに違うその色に、近藤は苦笑する。惚れた相手が気にするから、との理由以上に、どうしようもない程のお人よしの彼は、目の前の少女を放っておけなかった。
真っ直ぐな瞳は戸惑いに揺れ、まるで親を見失った幼子のようだ。いや、実際彼女は親を失った。
同情すべき点は多数ある。彼女が殺めてきた政治家達は、武装警察真選組ですら手が出せないほどの大物達だ。それぞれが黒であると知っていても、手をこまねいて見ているしかないような相手。神楽の父親を政治の駒に使うのも大した手間ではなかっただろう。目の前で父親の首をはねられた神楽の感情など、自分には想像もつかない。
自分達の前では無表情だが、銀髪と自分の惚れた女の前でだけ輝くような笑みを見せる彼女は、本来は感受性が豊かな子供なのだろう。幼い頃、一人で過ごす時間が多かった故に、家族の絆を特別に求めていた。星海坊主の娘と聞いたときには、さぞかし寂しい思いをしたのだろうと考えたものだ。
ぽつん、と佇む姿は駆け寄って大丈夫だと抱きしめてしまいたいくらいに頼りない。どれだけの力を秘めていたとしても、彼女はまだ子供なのだ。守られてしかるべき存在のはずなのに。彼女の父親が死んだのは、広い視野で見れば真選組も関わっている。悪を悪と知りながら、放置していた自分たちにも問題はあった。選んだものを、失くせない場所を優先させた、己の罪を近藤は知っている。
「死にたくなければ、どくヨロシ。たった三人で、私に勝てると思ってないダロ。それとも、まだ痛い目見なきゃわかんないアルか?」
静かに傘を構え直す神楽に、自分も刀を構える。それだけの動作で体の節々が痛んだ。実のところ、先日彼女にやられた傷は完治しきれていない。後ろに控える自分の腹心たちもそうだろう。表情こそ変えてないが、額に浮かぶ汗がそれを照明している。
口火を切ったのは沖田だった。淡々とした眼差しで、けれどこの中の誰よりも彼は神楽に執着している。
「何言ってンでさァ。あんたにオレが殺されるわけねぇだろィ、チャイナ」
「悪いが、3度目の遅れを取る気はないんでな。此処から先に、お前を通すわけにはいかねぇ」
刀を構えた沖田と土方は不敵に笑う。
「大丈夫だ。オレたちがアンタを止めてやるよ、チャイナさん」
この場を越えたら天守閣。そこにはまだ江戸の将軍が残っている。この騒動を知った上で、逃げないのは彼なりの矜持なのだろう。だとしたら、尚の事彼女を先に進ませるわけには行かなかった。
もう、決めたのだ。自分達の命に代えたとしても──。
「これ以上、アンタの手を汚させねぇ」
近藤も刀を正眼に構えた。痛みを排除するために息を吐き出し呼吸を整える。真剣な眼差しを向ければ、目の前の少女の気配が初めて揺れた。泣き笑いのような笑顔を見せた少女は。
「本当に、銀ちゃんといいお前らといい。エドの侍は馬鹿ばかりアル」
傘を構えて突進してきた。
自分の能力を最大限に活かした見事な動き。十代の前半とは信じられないほどの鋭さを秘めたそれに、近藤は目を細める。恐ろしいほどの天賦の才だ。夜兎という種族だからと言うだけでは語れないほどの才能。沖田よりも上の才能を持つ相手を、近藤は初めて目にした。そして、その経験も自分達に勝るとも劣らない。
勝ち目が多い戦いではない。それでもゼロではないと信じていた。信じなければいけなかった。疑えば勝機はゼロになり、取り戻すチャンスは永遠に消える。
傘を右手に下げたまま疾走した神楽に、土方の肩が撃ち抜かれた。反動で崩れる体勢を利用し繰り出した右足で首筋に踵を落とすと、そのままの勢いで沖田に飛び掛る。振り上げられた傘に咄嗟に刀を平行に持った沖田に笑いかけ、急角度をつけ傘を左手に持ち変える。目を見開く沖田の腹に傘が打ち込まれた体がくの字に曲がる。吹っ飛ばされた沖田に視界を塞がれた近藤の顔面に、何時の間に距離を詰めたのか、早い拳が打ち込まれた。脳髄を揺さぶる衝撃が体を貫く。落ちそうな意識を必死に保ち、刀をついて立ち上がった。
数だけ見れば圧倒的に有利な存在。経験も、技術も半端ない手製を揃えているのに、神楽にはほとんど傷をつけれない。
それでも、何度殴られても、蹴られても、諦めず立ち上がる彼らに、神楽の肩が上下し始めた。
舌打ちした神楽は、手近にいた人間を無造作に殴り意識を沈める。反動を利用しくるりとトンボを切った。
「ほんっと、しつこい、奴らネ。ストーカーされてる姐御の気持ちがよくわかるアル」
「もてねぇ男は工夫しなきゃいけねぇんだ。近藤さんばかりを責めないであげてくだせェ」
「そうだ。苦労せずもてる男なら、ストーカーになってねェ」
「え?ちょ、あの、オレだけの話?しつこいのって、オレだけの話なの?」
「他に誰がいるんでさァ」
「悪いな、近藤さん。オレたちはしつこくする必要がねぇ」
「!?」
密かに傷ついていると、押し殺したような声が聞こえた。刀を構えたまま前を見れば、華奢な体が震えている。
「あはは!!ホント、お前ら馬鹿ばかりネ」
久しぶりの笑い声。快活な声を上げた少女は、目に涙して笑っていた。楽しそうに、声を大きく張り上げて。久しぶりに見る光景に、驚いて固まっているのは自分だけではなかった。
「私、お前らの事そんなに嫌いじゃなかったアル。だから、一思いに終わらしてやるネ」
暫く笑い続けていた少女は、先程までと雰囲気を一転させる。闇が似合うその笑みは、昏く静かなものだった。底知れない雰囲気にごくりと喉がなる。死闘に慣れた近藤たちですら寒気を感じる。
クスクスと微笑み、そして緩やかな動作で傘を構えた。一分の隙も、迷いもない。その代わり、殺気も感じられない。
「勝負」
静かな宣言に、彼らは全員獲物を構えた。
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