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【エピローグ】




 血に塗られた道を好んで歩んできた。ただ一人、尊敬したいた人を理不尽に亡くしてから、誰を信じることもなく。肩を並べるものもなく、誰を信頼するわけでもなく、誰に依存をするのでもなく。
 攘夷戦争の時とは全く真逆の生活。死線を掻い潜る日はいつでも命がけだったけれど、信頼できる仲間がいて、貫き通したい信念があり、守りたいと願う人がいた。
 その存在がなくなって、守るべき信念も踏みにじられ、仲間は死に希望は絶望に変わった。地の中に深く潜り、ただ江戸を破壊する事だけを目的に生きてきた。そこには信念などはない。狂おしいばかりの衝動に突き動かされ生き急ぐ。
 全てを失った晋助には、あの人を自分から奪った世界への復讐しか残っていなかった。だからこそ、あの少女に惹かれたのだろう。
 自分によく似ていて、そして全く似ていなかった神楽に。彼女の大切な相手も、下らない政治の犠牲者になった。目の前で、実の父親の首に刀が振り下ろされるのを見届けるのはどんな気分だったろう。それに同情は欠片もないが、得たであろう感情は想像できた。
 堕ちる、と確信していた。真っ直ぐである物ほど、いざという時に折れやすい。事実、万事屋を去り自分の手の内に転がり込んできた存在は、相手を傷つけることを躊躇しなかった。
 自分と、同じだ。そう、思い笑っていたのは最初の内だけだった。
 神楽は、晋助とは決定的に違う。憎しみに支配され、幕府の連中を憎んでいるくせに、実の父を奪ったこの世界を恨んでいるくせに、憎しみに囚われた自分と違い、神楽は江戸を愛していた。矛盾する感情に折り合いを付け、憎悪と同時に江戸の住人を、愛していたのだ。
 神楽は自分の罪の重さを知っている。血に濡れた手を隠す事もなかったが、誇る事もしなかった。自身の強さを誇らず、驕りもなく、誰を消しても慶ばなかった。殺す相手は殺したが、傷つけない相手は絶対に守った。

『私には、私の正義がアルね』

 ずっと前に、彼女が言った言葉を思い出し晋助は目を細める。神楽の生き様は、その言葉に相応しいものだった。だから、なのだろう。有言実行を潔く成し遂げた彼女だからこそ、自分もここまで惹かれたのだ。自分と良く似て、そして正反対の道を選んだ小さな子供に。

「馬鹿な子供だ」

 紛れもない、本音。嘲るような口調だが、声には優しさすら含まれる。そんなもの、とうに無くしたと思っていたのに。

「だが、それに付き合おうって言うオレも大概馬鹿だな」

 聳え立つ江戸城を見上げて、晋助は唇を歪める。幹部はとうに戦線の離脱をし、城から離れた場所に逃げた。多少の部下は残っているだろうが、助けるつもりなどサラサラない。遅かれ早かれ武装警察たちもここに来る。討伐されようがどうされようが、それは晋助に関係ない。
 この場に残っていてメリットなど何もない。覚悟を決めた眼差しに、生への道は見受けれなかった。
 それでも。彼は、城に向かい歩を進める。目標は天守閣。そこには、己が欲する存在がいる。有終の美を飾るため、神楽が何をするつもりなのか、晋助には痛いほど理解できた。万事屋を、そして仲間を愛しているからこその、彼女の行動の行く末を。だからこそ、神楽の傍に居たいと願う。

「一人で死のうったってそうはいかねぇぞ、じゃじゃ馬。オレからは逃げられないって、教えておいてやっただろう?」

 上機嫌な猫のように咽喉を鳴らすと、自らの望む結末を手にする為彼の姿は消えて行った。江戸のシンボルが焼け崩れたのは、それから僅かに30分後の事だった。

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