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先ほどから恋次は居た堪れない思いをしていた。
その原因は四掛けの席であるのに何故か前方右斜めに座る親しい相手からの視線である。
針のむしろと言うにはおかしいかもしれないが、多数に見られるよりこの研ぎ澄まされた殺気すら篭る一つの視線の方が堪える。
剣の師でもあったこの人からの覚めた眼差しは精神的にクるものがあり、先ほどから背筋をゾクゾクと駆け上るものがある。
温かかったしょうが焼き御膳もすっかり冷え、ついでに目の前の人の視線もお冷より冷えた。
「───あの。いい加減にしてもらえませんか」
「・・・・・・」
「一角さん!」
手酌できんきんに冷えた酒を口にする男の視線に我慢ならず、ついに大声が出る。
しかし恋次の言葉にたいして感慨も沸かないとばかりに表情一つ変えぬ男は、苛立つ彼を鼻で笑うとくいっと喉を鳴らして酒を呷った。
「一体何なんすか、この間から!俺の何が気に入らないっていうんです!?弓親さんも一角さんも、ずっと苛ついてんのは隠さねぇくせに何で何も言わないんすか!!」
ここ一週間で溜まっていた鬱憤を晴らせとばかりに声を大に張り上げる。
思えば彼らの態度だけじゃなく、他の面々も僅かに変わった気がする。
白哉は普段より一層寒々しい空気を醸し出し、理吉はおずおずと伺うように恋次を見る。
仕事で会った浮竹には笑顔の奥で鋭く睨まれ、書類を届けた京楽にはぽんと肩を叩かれた。
誰も彼も恋次に何か言いたそうなのに、誰一人として肝心な『何か』を口にしない。
腫れ物に触れるような一週間は、検査入院した一日を除き最悪だ。
「うるせぇよ」
「あんたが理由を言わないからでしょう!?」
しかし恋次が熱くなればなるほど一角は冷めていくようで、そこで漸く彼が怒っているのかもしれないと思い当たり瞠目した。
苛立ちに燃える恋次の怒りを赤い炎としたら、一角のそれはより酸素を含み温度を増した青い炎。
恋次の怒りなどとうに超えてしまう怒りがそこに存在し、一気に熱が冷めて首を振る。
どちらにせよ理由は何一つ判らず、八つ当たりされているとしか思えない。
何故って、彼の態度が変わったのは大体一週間ほど前からだが、その後に彼に対し粗相を働いた記憶はなく、入院する前、つまり任務前にも何かした記憶はない。
ならば彼の今の苛立ちは自分と離れた場所にあり、偶々ご飯に誘ったタイミングが悪かったと判断するしかないだろう。
一つため息を落とし、湯飲みから冷めた緑茶を啜る。
渋みばかりが強いそれに眉を顰め、その味にもう一度ため息を吐いた。
「何をそんなに苛立ってるのか知りませんがね。八つ当たりはやめてくださいよ」
「・・・八つ当たり?」
「そうでしょ?俺は、あんたに何かした記憶はないんだから。さっさといつもの一角さんに戻ってください」
「八つ当たり、ねぇ」
冷ややかな眼差しの奥に篭る熱をそのままに、一角はゆるりと口角を上げた。
手に持っていた酒の入った枡が一瞬で砕け、飛び散る雫に眉を寄せる。
ぴりぴりと肌をさす霊圧に、彼の怒りが自分に向けられていたのを嫌でも理解させられた。
「お前、何のために俺に刀を習った。戦い方を師事したんだ」
「え・・・?」
「答えろ、阿散井。何故、お前は俺に師事した」
「───強く、・・・強くなりたかったからです」
「何故だ?」
「朽木隊長に、追いつきたかったからです。けど、それが・・・」
どうしたんですか、との問いは喉奥で消える。
そんな質問を許してくれそうな顔をしていない。
唾を飲み、落ち着けと自分に言い聞かせると背筋を伸ばす。
一瞬でも気を抜いたら、全てを持っていかれそうだった。
今の一角は、悪友であり先輩でもある顔じゃなく、昔彼が師事した男の顔をしている。
「お前は」
「はい」
「何で朽木隊長に追いつきたかった?」
「それは隊長が隊長だからで・・・」
「お前は馬鹿か?俺んとこの更木隊長だって隊長だろうが。隊長なら十三人いる。その中で、『何で』朽木隊長だったかと聞いてるんだ」
「何でって、それは朽木隊長を超えなきゃいけないからで」
「超えなきゃいけない理由を聞いてんだよ、俺は」
苛立たしげに舌打され、恋次は酷く混乱する。
急に胸の奥が落ち着かなくなり、酷く気持ちが急いて来るのに、何故そうなるかが判らない。
心の奥の何かが足りない。
けれど足りない何かがわからず、その欠片すら見つけれない。
仕事帰りの死覇装の胸を部分をぎゅっと握る。
それでも何も思い出せず、もどかしく息苦しく、涙が零れそうになり慌てて瞬きを繰り返した。
判らない。判らないのに胸が疼くのだ。
足りない、思い出せ、欲しろ、と。
思い当たる節のない欲求は抑えられないほど強く、気がつけば想いは油断した瞬間に目尻から零れ落ちた。
「どうやら、全部を忘れてるわけじゃなさそうだな」
「一角さん、俺・・・」
「お前の求めるものは、お前以外も求めてるってのを忘れるな。タイムリミットは着々と近づいている。失くすも取り戻すもお前次第だ」
「何を」
「───いいか、阿散井。お前がぼやぼやしてんなら、俺が横から掻っ攫うぞ」
そうして、この日漸く笑みを見せた一角は、いつもよりも子供っぽく悪戯したばかりの子供みたいだった。
その原因は四掛けの席であるのに何故か前方右斜めに座る親しい相手からの視線である。
針のむしろと言うにはおかしいかもしれないが、多数に見られるよりこの研ぎ澄まされた殺気すら篭る一つの視線の方が堪える。
剣の師でもあったこの人からの覚めた眼差しは精神的にクるものがあり、先ほどから背筋をゾクゾクと駆け上るものがある。
温かかったしょうが焼き御膳もすっかり冷え、ついでに目の前の人の視線もお冷より冷えた。
「───あの。いい加減にしてもらえませんか」
「・・・・・・」
「一角さん!」
手酌できんきんに冷えた酒を口にする男の視線に我慢ならず、ついに大声が出る。
しかし恋次の言葉にたいして感慨も沸かないとばかりに表情一つ変えぬ男は、苛立つ彼を鼻で笑うとくいっと喉を鳴らして酒を呷った。
「一体何なんすか、この間から!俺の何が気に入らないっていうんです!?弓親さんも一角さんも、ずっと苛ついてんのは隠さねぇくせに何で何も言わないんすか!!」
ここ一週間で溜まっていた鬱憤を晴らせとばかりに声を大に張り上げる。
思えば彼らの態度だけじゃなく、他の面々も僅かに変わった気がする。
白哉は普段より一層寒々しい空気を醸し出し、理吉はおずおずと伺うように恋次を見る。
仕事で会った浮竹には笑顔の奥で鋭く睨まれ、書類を届けた京楽にはぽんと肩を叩かれた。
誰も彼も恋次に何か言いたそうなのに、誰一人として肝心な『何か』を口にしない。
腫れ物に触れるような一週間は、検査入院した一日を除き最悪だ。
「うるせぇよ」
「あんたが理由を言わないからでしょう!?」
しかし恋次が熱くなればなるほど一角は冷めていくようで、そこで漸く彼が怒っているのかもしれないと思い当たり瞠目した。
苛立ちに燃える恋次の怒りを赤い炎としたら、一角のそれはより酸素を含み温度を増した青い炎。
恋次の怒りなどとうに超えてしまう怒りがそこに存在し、一気に熱が冷めて首を振る。
どちらにせよ理由は何一つ判らず、八つ当たりされているとしか思えない。
何故って、彼の態度が変わったのは大体一週間ほど前からだが、その後に彼に対し粗相を働いた記憶はなく、入院する前、つまり任務前にも何かした記憶はない。
ならば彼の今の苛立ちは自分と離れた場所にあり、偶々ご飯に誘ったタイミングが悪かったと判断するしかないだろう。
一つため息を落とし、湯飲みから冷めた緑茶を啜る。
渋みばかりが強いそれに眉を顰め、その味にもう一度ため息を吐いた。
「何をそんなに苛立ってるのか知りませんがね。八つ当たりはやめてくださいよ」
「・・・八つ当たり?」
「そうでしょ?俺は、あんたに何かした記憶はないんだから。さっさといつもの一角さんに戻ってください」
「八つ当たり、ねぇ」
冷ややかな眼差しの奥に篭る熱をそのままに、一角はゆるりと口角を上げた。
手に持っていた酒の入った枡が一瞬で砕け、飛び散る雫に眉を寄せる。
ぴりぴりと肌をさす霊圧に、彼の怒りが自分に向けられていたのを嫌でも理解させられた。
「お前、何のために俺に刀を習った。戦い方を師事したんだ」
「え・・・?」
「答えろ、阿散井。何故、お前は俺に師事した」
「───強く、・・・強くなりたかったからです」
「何故だ?」
「朽木隊長に、追いつきたかったからです。けど、それが・・・」
どうしたんですか、との問いは喉奥で消える。
そんな質問を許してくれそうな顔をしていない。
唾を飲み、落ち着けと自分に言い聞かせると背筋を伸ばす。
一瞬でも気を抜いたら、全てを持っていかれそうだった。
今の一角は、悪友であり先輩でもある顔じゃなく、昔彼が師事した男の顔をしている。
「お前は」
「はい」
「何で朽木隊長に追いつきたかった?」
「それは隊長が隊長だからで・・・」
「お前は馬鹿か?俺んとこの更木隊長だって隊長だろうが。隊長なら十三人いる。その中で、『何で』朽木隊長だったかと聞いてるんだ」
「何でって、それは朽木隊長を超えなきゃいけないからで」
「超えなきゃいけない理由を聞いてんだよ、俺は」
苛立たしげに舌打され、恋次は酷く混乱する。
急に胸の奥が落ち着かなくなり、酷く気持ちが急いて来るのに、何故そうなるかが判らない。
心の奥の何かが足りない。
けれど足りない何かがわからず、その欠片すら見つけれない。
仕事帰りの死覇装の胸を部分をぎゅっと握る。
それでも何も思い出せず、もどかしく息苦しく、涙が零れそうになり慌てて瞬きを繰り返した。
判らない。判らないのに胸が疼くのだ。
足りない、思い出せ、欲しろ、と。
思い当たる節のない欲求は抑えられないほど強く、気がつけば想いは油断した瞬間に目尻から零れ落ちた。
「どうやら、全部を忘れてるわけじゃなさそうだな」
「一角さん、俺・・・」
「お前の求めるものは、お前以外も求めてるってのを忘れるな。タイムリミットは着々と近づいている。失くすも取り戻すもお前次第だ」
「何を」
「───いいか、阿散井。お前がぼやぼやしてんなら、俺が横から掻っ攫うぞ」
そうして、この日漸く笑みを見せた一角は、いつもよりも子供っぽく悪戯したばかりの子供みたいだった。
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