忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
190   189   188   187   186   185   184   183   182   181   180  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

夏だ。海だ。海ときたら水着だ。

短絡的思考でありながらも、年頃の男として健全だと琉夏は絶対的に主張したい。
その主張相手は兄であったり幼馴染であったりと様々だが、呆れを含む彼らを宥めすかし漸く目的を達成した琉夏は、至極満足気な笑みを浮かべる。
周りには布面積の少ない過激な衣装の美女の軍団。
彼女達が着ている布と、ひんやりとした白い肌の間に指先を入れ、胸を覆う布を取り払う。
手にした布を握り締め、その薄さに唇が持ち上がる。
艶やかな微笑みに見惚れる周囲を無視し、彼女から取り上げたばかりの布を手に琉夏は呟いた。

「これ、君よりも俺の女の方が似合うよ」

ぱちり、とウィンクを決め、儚げな見た目と裏腹に大層シュールな性格をした琉夏は、陽気にその場を後にした。



「この、馬鹿!!」

ごつんと後頭部に酷い衝撃が走り、首が揺れる。
加減抜きの拳骨はとても痛く、頭を抱えしゃがみ込んだ。
涙目になりながら、ぶれる視界に映る黒のスニーカーは見慣れたものだ。
持ち主など聞こえた声で判っていたが、今は声すら出せない状態なのでだんまりを決め込んだ。

「何恥ずかしいことやってんだ!?ああ?」

低い唸り声は、苛立ちと怒りを露にしている。
琉夏の方こそいきなり何するんだと怒りたいが、あまりの痛みに反撃の気力すら萎えた。

「・・・本当に、マネキン相手に何してるの。危うく琥一君と一緒に他人のふりして帰ろうかと思っちゃったよ」

心底呆れたとばかりの声は、涼やかに鼓膜を揺らす。
黒のスニーカーの隣に並ぶ白のミュールは、顔を上げてにぱっと笑う。
先ほどのシュールな笑みではなく、子供みたいな無邪気な顔は、彼が相手を選び披露するものだ。
右手に握った戦利品を掲げると、幼馴染へと差し出す。

「これ、絶対に冬姫に似合う」
「似合う、じゃねえよ!何、展示のマネキンから抜き取ってんだ!」
「だって、同じのがなかったし。冬姫は絶対にこの色が似合う」
「・・・琉夏君。これ、フェミニンなイメージだけど、極端に布面積少なくない?」
「いいでしょ?下は流石に取れなかったけど、際どいハイレグ」
「───・・・ため息しか出ないよ、本当に。ねぇ、琥一君」
「っ、ああ。そうだな」
「コウのむっつり。今、絶対に冬姫のハイレグ想像しただろ」
「!?うるせぇ!」

顔を赤らめる兄は正直だ。
そして隣に立っている幼馴染が彼へと向ける視線も生温いものに変わり、慌てていいわけを始める琥一に、琉夏はにんまりと笑う。

「ね、冬姫。試着だけでいいから、これ着て?」
「いや」
「お願い。コウも見たいってさ」
「言ってねぇだろ、そんなこと!!」

唾を飛ばしながら否定すればするほど嘘臭い。
普段の冷静な彼に判るだろうことも、動揺し崩れている彼には判らない。
冬姫の視線もだんだんと冷たいものに変わってくのも、彼の焦りに拍車をかける一端だろう。
大体言わせてもらうが、琥一がむっつりなのは嘘じゃない。
可愛い格好が好きな琉夏と対照的に、ワイルドな格好を好む琥一は、水着もそれなりのものを好む。
兄弟だから知り尽くしている互いの好み。
それを省みるに、琉夏が手にしているこの水着は、兄弟の欲求を満たすものだと自信をもって宣言できる。

「・・・とにかく。そんな水着、絶対に着ないから」
「どうしても?」
「どうしても!」

怒りと羞恥で頬を赤らめる冬姫は、腕に抱きしめてずっと閉じ込めていたいくらいに愛らしい。
しかし今それをすれば、絶対に兄である琥一からもれなく拳骨をもらうので、代わりに微笑みながら左手に握っていたものを差し出した。

「・・・何これ」

警戒心を解かない刺々しい声。
それすら胸をときめかすなんて、自分は相当末期だと思う。
胸を焼く慕わしい想いを笑顔で隠し、こてり、と小首を傾げる。

「水着」
「まだ持ってたの?」
「うん。でも、こっちはワンピース。駄目?」
「ワンピース?」
「そう。白と薄桃が混じった奴。ワンポイントのハイビスカスが夏っぽいよ。これも駄目?」
「・・・さっきのに比べると、随分まともだね。露出も少ないし」
「可愛いでしょ?」
「まぁ、確かに」

先ほど差し出した水着より、余程大人しい見目のそれは冬姫のお気に召したらしい。
『元々』、そちらを望んでいた琉夏は、予定通りの展開に笑みを深くする。
琉夏の表情を見て琥一が渋い顔をした。
きっと、兄である彼は、琉夏の目的を正確に理解したのだろう。
一つ舌打すると、髪を掻き盛大なため息を落とした。

「ね、試着してきて?で、気に入ったらそれにして?」

命令ではなく、お願いをする。
それに冬姫が弱いのは承知している。
実際に冬姫は頷き、琉夏の差し出した水着を受け取ってくれた。

試着室に向かう冬姫を見送りながら上機嫌でいると、琥一が呆れを含んだ声をかける。

「お前の思惑通りで満足か?」
「まあね。コウには出来ない芸当でしょ?」
「したくもねぇよ」

苦々しげに呟かれる言葉に、冬姫を騙まし討ちした事に関する以外のものが含められているのに気づくが、知らない素振りでにこりと微笑む。
今度のため息は苦々しいものではなく、我侭な弟を窘めるようなものだった。
輝かしい笑みを浮かべたまま、琉夏は右手を差し出し彼の手を握る。
違和感に眉を上げる兄に、弟としてお願いした。

「それ、マネキンに返してきて」
「嫌なこった!」

落とされた拳は、やはり遠慮なく痛かった。

拍手[9回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ