忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
188   187   186   185   184   183   182   181   180   179   178  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「久しぶりだな。ニコ・ロビン」

背後から聞こえた声に、ロビンはぴたりと足を止めた。
その声は忘れたくとも忘れれない、ロビンにとって特別な響きを持つ声。

正義の名の下に己の親友を殺した人。
殺せるはずだった自分を敢えて逃がした人。
二十年も泳がせ監視していた人。
己の選択を見据え親友の想いを汲み取った人。

その人はロビンの敵でありながら、縁が深い存在。

額から汗が滲み出て、頬を伝い顎から地に落ちる。
本能的な恐怖はもうどうしようもない。
彼を見れば必ず過去を思い出す。
懐かしく悲しく切ない、苦々しい過去を。
それをなかった事にしたいと望まないけれど、それでも進んで関わりたいと思えるような容易な相手でもない。
昔も今も彼は敵でしかなく、それはロビンが生きている限り一生変わらない事実だった。

すっと息を吸い込むと、ブーツの踵に力を入れる。
右足を引きターンの要領で振り返れば、やはりそこに居たのは想像通りの男だった。
ロビンにしては珍しく、苦々しい表情を隠さないまま口を開く。
それは恐怖心を悟られないように作った精一杯の虚勢だったが、本当は相手に通用してないと判っていた。

「───久しぶりね、大将青キジ。いいえ、今は元帥だったかしら」
「どっちでもいい。好きなように呼べ。おれがおれであるのに変わりはないからな。久しぶりに会って話も尽きないところだが、まあおれたちはそんなものを語る間柄じゃない。本題から言わせてもらう。ニコ・ロビン。お前はここで何をしてる?」

海軍元帥の服を着た青キジ───クザンは腕を組み、同じく正義の衣装を纏いサングラスをかけたロビンにうっそりと笑う。
その表情は何も言わずとも答えを知っていると伝えるもので、目の前の男が飄々とした雰囲気に似合わず機微に聡いと教えてくれる。
海軍元帥まで上り詰めるほどなのだから頭の回転が速いのは判るが、こちらにとっては何とも不都合なことだ。
大体、彼がこの場に居るのは予定外だった。

今回海軍の要塞に忍び込んだのは、お宝の情報を相手にした海兵からナミが聞き出したからだ。
何でもその海兵たちの乗っていた軍艦は、とある国から寄付という名の献上品を運んだらしく、それを聞いた瞬間にナミの目がベリーに変わる。
ロビンとナミが乗る船は海賊王のものであるが、特別裕福な暮らしはしていない。
何しろお金に頓着しない船長が中心にいて、宴会好きの船員と並べば結果は一目瞭然。
そして我らが船長の食欲は旺盛で、海賊王の家計簿はいつだって火の車だ。
ロビンが仲間に入った当初から金品に対するナミの執着は中々のものだったが、年を経た現在もそれは変わっていない。
ファミリーの財布は彼女が握っており、その現状を誰より理解する彼女がお宝に飛びつくのも仕方ないだろう。

得た情報ではこの要塞の財宝庫に宝は隠され、それを狙った一味の皆は変装しつつ散らばっている。
一路財宝を目指す彼らとは別に、ロビンは帰路の確保ろ、ここでしか見つけれない海軍の情報を得るのために海兵に変装し必要な情報のある部屋まで忍び込んだというのに。

よりにもよって、海軍を取りまとめる男がこの場にいるなど、何て運が悪いのか。

「どうした?ニコ・ロビン。口が利けなくなったのか?」

淡々と問いかける男は戦闘態勢にすら入ってない。
それなのにこの背筋を駆け抜ける怖気は何なのか。
魂に刻まれた恐怖心。
目の前で自分の大切な人を殺された想いが湧き上がる。
無意識に後ずされば背中に壁が当たり、窓から外が見えてもそこが行き止まりだと理解した。

「ここには大した情報もない。それなのに、態々捕まりに来たか?」
「───どうして、あなたがここに?」
「何、偶々だ。雑務が面倒で自転車で旅をしててな。ここの管理者に会うついでに、休暇を取ってた」
「海軍のトップであるあなたが動くほどのものがここにあると思えないけど」
「そうか?現に目の前に、海賊王の仲間がいるだろう?」

どこから仕組まれていたのか。
自分たちがここに忍び込んだときか。
それともここの情報を知ったときか。
もしかしたら偶然を装った軍艦が自分たちの前を堂々と横行したときか。
それすら判断できないが、今がとてつもなくやばいことだけはわかる。
今すぐにでも逃げたいのに、崖の切り立つ場所に建てられたこの外は海。
海に嫌われる悪魔の実の能力者であるロビンには、窓から外に出ても助かる確率はとても低い。
せめて仲間にこの状況を伝え逃げて欲しいのに、それすら今はままならない。

「私をどうする気?」
「さて、どうするかねぇ」

面倒そうに呟いた彼は、気だるげに頭を掻く。
用がないなら去って欲しいが、自分と相手の関係を省みれば無理だろう。
時間稼ぎをするために話を続けているが、これすら見破られているはず。
面倒だが相手はロビンより一枚も二枚も上手だ。

「どうもしなくても構わないがな」
「・・・どういう、意味?」
「そのままだ。お前がここに居るだけで、お前の仲間は必ずおれの前に現れる。それが誰かは賭けになるが、誰だろうとお前を『見捨てない』。過去、世界政府の旗を打ち抜いた馬鹿どもが変わったとは思えないからな」
「っ!?」

しまった、と臍を噛む。
時間稼ぎをしていたのは相手も同じで、ロビンは初めから餌でしかなかった。
彼は確信している。
ロビンの仲間がロビンを助けに来ることを。
そしてそれは、十割の確率で果たされることを。

「ロビン!迎えに来たぞ!」

とんでもない破壊音と共に壁を崩した相手は、おそらく目の前の男がもっとも望んでいた賞金首。
世界を自由に駆ける海賊王、モンキー・D・ルフィ。
彼の姿を見た瞬間に、クザンの唇はゆるやかに弧を描き部屋の温度が徐々に下がる。
力の発動を前に、それでもロビンしか見ていない彼は、にかっと笑う。

「お宝はもうナミたちが船に積み込んだ。食料もかっぱらったし、今日は宴会だ!」
「───ルフィ」
「すげえんだぞ、ここ!何とみずみず肉があった!どうやって運んだのかしらねぇけど、あれ美味ぇ~んだ!ほっぺたがおっこちるぞ!」
「ルフィ」
「ゾロも上等の酒を手に入れて上機嫌だし、サンジが食材の下準備を始めてる!」
「ルフィ」
「───だから、とっとと帰るぞ、ロビン」

それからは一瞬だった。
こちらが怯むほどの覇気を放ったルフィは、腕を伸ばしてロビンの腰を掴むと壁に手を掛けにいと笑う。
その笑い方は先ほどまでの無邪気なものじゃなくて、随分と物騒な笑顔は実に海賊らしいものだった。

「久しぶりだな、青キジ」
「・・・・・・」
「んで、じゃあな!」

相手が反応する前に、己の拳を床に叩きつける。
突然の事に一瞬反応が遅れたクザンを尻目に、ルフィは壁の外───つまり海へと飛び出した。

「ちっ・・・アイス・ブロック パルチザン!」

叫び声と同時に顕現された力を覇気で弾いたルフィは、反転すると腕を伸ばす。
その先には集中砲火を浴びながらも、徐々に力を蓄えているサニー号の姿。
縁を掴んだルフィを追うように飛び出したクザンの姿に目を見張り、体を強張らせる。
そんなロビンを安心させるように、抱く腕に力を篭めたルフィはサニー号へと距離を縮めた。

「遅いぜ、麦わら!もう準備は出来てる!」
「よっしゃ、ナイス!フランキー!皆掴まれ!」
『了解!』
「行くぞ!風来バースト!!」

空気の圧が一気に掛かり、自分を抱き寄せるルフィへしがみ付く。
ロビンを抱きしめたまま視線を上げたルフィは、しししっと笑うと声を張り上げた。

「仲間と宝はもらってくぞ!青キジ!」
「っ───ならばその首置いていけ!」
「そりゃ無理だ!おれはまだ冒険したりねぇからな!」
「氷河時代!!」

ルフィの言葉に眉を跳ね上げた男が、海に着くと同時に力を発現し瞬く間に海が凍りだす。
だがサニー号を捕まえるには、そのタイミングは些か遅すぎた。

「ししししっ!お前にロビンはやんねぇよ!」

満足そうに笑い小さくなる姿に向け笑うルフィは、邪気がない子供みたいだ。
悪気ない言葉にクザンが苛立ち、その力を向けるも双頭と名高い彼らが呆気なく散らした。
クザンが本気であればもっと手間取っただろう脱出も、随分とあっさり決行された。
一人では分が悪いと、さすがの彼も判断せざるを得なかったのだろう。
ルフィだけならともかく、彼の副官たちとて大将クラスの実力を持つ。
三対一でクザンの勝ち目は薄い。

ルフィに釣られけたけたと笑う仲間達は、心底愉快だと満足気だ。
昔苦渋を舐めさせられただけあって、今回の件は爽快だったのだろう。
彼らは過去を引きずるタイプではないが、やられたことはきっちり返すから。

笑っていたルフィがロビンを見る。
その黒々とした瞳は出会った当初から変わらず好奇心で輝き、とても魅力的な力を放っていた。
魅入られるように見詰めていると、くしゃりと頭を撫でられる。
いつの間にか上空でも船は安定し、縁を掴んでいた手は放されていた。
幾度も幾度も掌で髪を掻き混ぜるルフィに、頬が段々と熱くなる。
ロビンの方がずっと年上なのに、彼はたまにほんの子供を扱うようにロビンに接し、それが恥ずかしいのに嫌いじゃない・・・どころか喜ぶ自分に恥じらいを覚えた。

「おかえり、ロビン」
「・・・ただいま」

幾度繰り返しても心が満ちる言葉に、ロビンは少女のように笑った。
はにかんだ笑みを浮かべたロビンに頷くと、ルフィは高らかに宣言する。

「よぉし、野郎ども!今夜は宴会だー!!」
『おう!』

西の海に太陽が隠れ始める時間。
優しい居場所に、ロビンは笑った。

ルーキーと呼ばれた時分から、ルフィの傍こそがロビンの居場所。
海賊王になった彼は何年経っても変わらず、やはりロビンの居場所を作り続ける特別な人だった。

拍手[46回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ