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「琉夏君」
「うん」

並んで歩く男女を一歩下がった場所で眺める。
思えば昔から少し控えたこの場所が琥一の居場所だった。
夕暮れの帰り道。
どこか物悲しさを感じさせる景色を眺め、話の尽きない二人の後をゆっくりと追いかける。

昼間の伝言を正確に伝えたらしい冬姫が帰り支度をしていた琥一に特攻してきたのは予想の範囲内だったが、その後に続いて彼女と同じように弟も特攻をかけて来た。
曰く『冬姫だけなんてずるい』だそうだ。
一見すると琥一に甘えたように見えるが、その瞳は明確に別の意思を持って光っていた。
弟が自覚しているかどうかは甚だ疑問だが、彼の瞳に込められた意味はきっと理解できている。
琉夏は昔から何物にも執着しなかった。
人であれ物であれ、いつかなくなると最初から諦めるように寂しげな瞳で笑っているのが常だった。
だがそんな琉夏の唯一の例外が彼の隣に居る少女の存在だ。
普通なら仲良くなるはずもない位置にあったのに、偶然知り合った冬姫に初めて執着らしきものを琉夏は見せた。

『・・・信じる?』

瞼を閉じればいつかの教会での会話が思い出される。
信じると問いかけたのは、彼女に向けたものだったのだろうか。
それとも自分自身への問いかけだったのだろうか。
今更聞いても琉夏は教えてくれないだろうが、時々ふと思い出す。
この茜色に染まった景色が郷愁を強めるのかもしれない。

「・・・コウ?」

気がつけば前を向いて歩いていた二人がこちらを振り返りじっと見ていた。
きょとり、と整った顔で疑問符を浮かべる姿は子供の頃から変わらない。
冬姫も琉夏も、まるで何も変わらなかった昔のようだ。
懐かしさに、つい目元を綻ばすと、二人は目を丸めて顔を見合わせた。

「冬姫」
「うん」
「コウが壊れた」
「うん」

ぼしょぼしょと聞こえるように内緒話を始めた二人に、先ほどまでの胸が詰まるくらいの寂寥感があっという間に去っていく。
ぎゅっと拳を握り締めると、意識して凄みのある笑顔を浮かべた。

「スポンサーを怒らせたらどうなるか。判ってねぇみてえだな、お前らは」

怒りに満ちた声に、もう一度顔を見合わせた二人は首を竦めて小さく笑った。
そして視線だけで会話をすると、二人同時に走り出す。
無駄に意思疎通が出来る二人に、待て!と態と声を上げて走り出した。
すぐには追いつかないように、ちゃんとスピードを加減して。

きゃあきゃあと子供みたいに走る二人の後を追いかける。
彼らの背中越しに見えた夕日が眩しくて、じっとり眉を寄せ目を眇めた。
一日が、もう終わる。

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