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■神楽独白
「ケホっ」
咳と同時に血が流れ出た。これは、内臓までやられていると直感的に感じた。痛い。
イクスパンディングブレット。
頭の中で単語が浮かんだ。体を貫通する目的ではなく、体内で変形する種類の弾だ。ソフトポイント弾でも打ち込まれたらしい。体の中で異物感でごろごろする感覚が絶えず沸き、同時に激痛が走る。治そうとする夜兎としての性質と、それを阻止する弾丸のおかげで痛みは一向に引かない。随分と趣味の良い物を持っているものだ。クッと皮肉気に口角が上がる。この弾は夜兎である神楽に致命傷を与えるに相応しい威力を誇る。すぐに殺すには到らずとも、体の中に無数の針を差し込まれ抉られるような感覚は耐えがたく叫びだしたい気持ちに駆られる。唇を噛み締めることでそれを堪えると、痛みを吐き出す擬似行為として深く息を吐き出した。
ドジるつもりはなかったのに、最後の最後で甘さが出た自分に嫌気が差す。妙が引き返してくれてよかった。あそこから先に進んだら、いくら近藤とはいえ生身の人間に妙が守れるとは思えない。近藤なら命を捨ててまで妙を助けようとするだろうが、それは彼女が悲しむ。それでは本末転倒だ。妙の体は守れても、心は何一つ守れない。
いつも笑顔の裏に感情を隠す妙は、中々本心を見せることはない。だからこそ、近藤という男は貴重なのだ。怒りにせよ罵倒にせよ負の感情であれなんであれ、妙にあそこまでの百面相をさせることが出来る相手など、彼と後二人しか知らない。その二人を思い浮かべ、神楽は笑った。
重い足を引きずり、蛞蝓のように血の跡を残しながらゆっくりと歩く。飄々として死んだ魚の目をした銀髪の男に、メガネのダサい生真面目少年。思い出すだけで心が温かくなるような、そんな居場所をくれた二人組み。泣いて笑って怒って叫んで。それほど遠いことではないのに、もう随分と昔に感じる。それでもこの温かい感情が色褪せることはなく、神楽を神楽たらしめた。
彼らがいれば大丈夫だろうと、神楽は笑う。妙にとって、自分も大切な人間の一人だなんて欠片も思っていない笑顔で。自分の感想が自己満足の上で成り立つものだと意識的に考えないようにして。
脇腹を押さえて、はっと息を吐く。黒い衣服は血を見えにくくするが、独特の匂いはどんどんと酷くなる。鉄錆び臭いそれは地面にも落ち染みを作っているのだろう。本当に、何という失態か。苛立ち一つ舌打をする。もう、傘を支えにしなければ歩くことすらままならない。
妙との会合を思い、風下に立っていて良かったと安堵する。これだけの血の量は闇に隠すには難しく、布で巻いただけの応急処置ではやはり僅かな時間しか持たない。
「──これは、マジでやばいアルな」
自分の命が消えるかもしれないのに、彼女は異様なまでに冷静だった。死ぬ事すら一つの通過点としてしか捕らえておらず、己の死が廻りに影響を及ぼすのを思いつかない、そんな声。
何時もの無表情。傷の痛みは酷く、額に冷や汗すら滲むのに神楽は一切の表情を消した。必死の思いで傘を支えに川沿いに歩き、橋の下で力尽きる。何とか潜り込んだ橋の袂に背を預け、ずるずるとしゃがみ込んだ。
ズクン、ズクンと心臓の鼓動に合わせ痛みが全身に広がる。
(──絶好のチャンスだったアルのにな)
瞳を閉じた。灼熱のこてを当てられたように、肌が発熱し空気に触れるだけで痛みを訴える。それを何とか堪えゆっくりと呼吸を繰り返した。
もし、あの男を・・・自分の父を殺した男を目にしたら、躊躇いもなく殺せると思っていた。それ位、憎しみは強かった。それなのに気がつけばこの様だ。己を嘲ることすら出来ず、甘さを痛感し絶望する。
うっすらと閉じていた瞳を開ける。残された力を振り絞り見上げた空には、月すらも神楽を見放して煌々と光る星しかなかった。
「ケホっ」
咳と同時に血が流れ出た。これは、内臓までやられていると直感的に感じた。痛い。
イクスパンディングブレット。
頭の中で単語が浮かんだ。体を貫通する目的ではなく、体内で変形する種類の弾だ。ソフトポイント弾でも打ち込まれたらしい。体の中で異物感でごろごろする感覚が絶えず沸き、同時に激痛が走る。治そうとする夜兎としての性質と、それを阻止する弾丸のおかげで痛みは一向に引かない。随分と趣味の良い物を持っているものだ。クッと皮肉気に口角が上がる。この弾は夜兎である神楽に致命傷を与えるに相応しい威力を誇る。すぐに殺すには到らずとも、体の中に無数の針を差し込まれ抉られるような感覚は耐えがたく叫びだしたい気持ちに駆られる。唇を噛み締めることでそれを堪えると、痛みを吐き出す擬似行為として深く息を吐き出した。
ドジるつもりはなかったのに、最後の最後で甘さが出た自分に嫌気が差す。妙が引き返してくれてよかった。あそこから先に進んだら、いくら近藤とはいえ生身の人間に妙が守れるとは思えない。近藤なら命を捨ててまで妙を助けようとするだろうが、それは彼女が悲しむ。それでは本末転倒だ。妙の体は守れても、心は何一つ守れない。
いつも笑顔の裏に感情を隠す妙は、中々本心を見せることはない。だからこそ、近藤という男は貴重なのだ。怒りにせよ罵倒にせよ負の感情であれなんであれ、妙にあそこまでの百面相をさせることが出来る相手など、彼と後二人しか知らない。その二人を思い浮かべ、神楽は笑った。
重い足を引きずり、蛞蝓のように血の跡を残しながらゆっくりと歩く。飄々として死んだ魚の目をした銀髪の男に、メガネのダサい生真面目少年。思い出すだけで心が温かくなるような、そんな居場所をくれた二人組み。泣いて笑って怒って叫んで。それほど遠いことではないのに、もう随分と昔に感じる。それでもこの温かい感情が色褪せることはなく、神楽を神楽たらしめた。
彼らがいれば大丈夫だろうと、神楽は笑う。妙にとって、自分も大切な人間の一人だなんて欠片も思っていない笑顔で。自分の感想が自己満足の上で成り立つものだと意識的に考えないようにして。
脇腹を押さえて、はっと息を吐く。黒い衣服は血を見えにくくするが、独特の匂いはどんどんと酷くなる。鉄錆び臭いそれは地面にも落ち染みを作っているのだろう。本当に、何という失態か。苛立ち一つ舌打をする。もう、傘を支えにしなければ歩くことすらままならない。
妙との会合を思い、風下に立っていて良かったと安堵する。これだけの血の量は闇に隠すには難しく、布で巻いただけの応急処置ではやはり僅かな時間しか持たない。
「──これは、マジでやばいアルな」
自分の命が消えるかもしれないのに、彼女は異様なまでに冷静だった。死ぬ事すら一つの通過点としてしか捕らえておらず、己の死が廻りに影響を及ぼすのを思いつかない、そんな声。
何時もの無表情。傷の痛みは酷く、額に冷や汗すら滲むのに神楽は一切の表情を消した。必死の思いで傘を支えに川沿いに歩き、橋の下で力尽きる。何とか潜り込んだ橋の袂に背を預け、ずるずるとしゃがみ込んだ。
ズクン、ズクンと心臓の鼓動に合わせ痛みが全身に広がる。
(──絶好のチャンスだったアルのにな)
瞳を閉じた。灼熱のこてを当てられたように、肌が発熱し空気に触れるだけで痛みを訴える。それを何とか堪えゆっくりと呼吸を繰り返した。
もし、あの男を・・・自分の父を殺した男を目にしたら、躊躇いもなく殺せると思っていた。それ位、憎しみは強かった。それなのに気がつけばこの様だ。己を嘲ることすら出来ず、甘さを痛感し絶望する。
うっすらと閉じていた瞳を開ける。残された力を振り絞り見上げた空には、月すらも神楽を見放して煌々と光る星しかなかった。
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