×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■妙→神楽
初めて会った時から、綺麗な色だと思っていた。今、改めて正面から見ると、やっぱり綺麗な色だと思った。月光の下、空を映したような青い瞳は妙を真っ直ぐに見つめていた。
その日は、たまたまが重なっていた。
たまたま、仕事が急に入り。
たまたま、お客さんを殴って店の片づけを最後までさせられた。
たまたま、その殴った客がストーカー兼真選組の局長で。
たまたま、大荷物があった自分はそれを全て彼に持たせた。
そして。
たまたま、帰り道を歩いていたら可愛い妹分に出会った。
トレードマークの傘を差し、肩においてくるくると回している姿は、まるでブリキのお人形のように愛らしい。最後の一つは、今日で一番嬉しい偶然だ。こちらを振り返らない背に躊躇無く声をかける。
「こんばんは、神楽ちゃん」
にこりと微笑んで言葉にすると、目の前の彼女の空気が少しだけ揺れた。くるりと右足を支点に体を回し、両手で傘を回したまま首を傾げる。妙の気配に気づいていたのだろう。その反応に驚きは見れなかった。
反応を待つために沈黙すれば、暫くして。
「こんばんは、姐御」
以前と全く変わらぬ調子での返事が返ってきて、ホッと息を吐いた。自分で思っていたよりも緊張していたらしい。いつの間にか追いついた近藤が、道に荷物を置く。勝手に荷物を下ろしたことを注意しようかとも思ったが、寸前で思い直した。彼は、自分が思っている以上に思慮深い人間だと言うことを知っている。妙が怒るかもしれないのを承知で、それでもいざという時の為に荷物を道に下ろさずにいられなかったのだろう。
近藤が本気で自分を心配しているのもわかっていたし、彼一人だけなら荷物を持ったままだということも想像できた。彼は本心では神楽を信用したいと思っているし、自分のみならば傷つくのも厭わない。彼が荷物を置き備えたのは、妙に万が一でも危険が及ばないようにする布石の一つだと判るからこそ怒れない。妙を心配しながら、それでも自分の前で神楽に刀を向けない彼に好感を持った。
明かり一つすらない暗闇。新月で月明かりすらない場所なのに、そんな自分達を見て神楽が一瞬笑ったような気がして、一瞬顔が赤くなりかけそうになり慌てて気力で押さえ込む。目の前の少女が、恍けたフリをしながらも、本当はこの上なく鋭い事を妙は誰よりも知っていた。
「──二人で逢引アルか?」
「何を言ってるの、神楽ちゃん。目に一味唐辛子を吹っかけるわよ?私が、この人と逢引するとでも思ってるの?」
「お妙さん、恥ずかしがらなくても大・・・ふがっ!!」
下らない事を言おうとしたゴリラの顔面に裏拳を当てる。鼻に当たったらしく、振り返らなくてもそこを抑えてしゃがみ込んでいるのが判った。
「冗談アル。姐御がゴリラの相手をする訳ないネ。どうせまた、そいつが酷いストーキングをやらかしたに決まってるアル。お前みたいな男、皆に指差されて笑われてるのにも気がついてない、裸の王様も同然ネ。略して『裸王』アル。ちっさい息子をぶら下げて、街道を驀進中ヨ」
「・・・・・・」
神楽のあまりの言い草に、近藤は黙って涙した。
「あらあら、神楽ちゃん。それは酷いと言うものよ」
妙の言葉に、目を輝かした近藤は菩薩を崇めるように彼女を見つめた。
「全裸で歩くゴリラだなんて、王様に相応しくないわ。あえて言うなら、猥褻物陳列罪で捕まる寸前の変質者よ」
笑顔でバサリと斬られ、彼は再び涙を流した。綺麗な薔薇には棘がある。言葉どおりに体現している彼女を見て、神楽は嬉しそうに声を上げた。
「姐御」
「・・・何かしら?」
そして、一瞬で雰囲気を変える。和やかで懐かしいものから、産毛が逆立つほどの気迫を纏いくるりと傘を回した。近藤が静かに立ち上がり、妙を庇うように斜め前に出る。いつでも反応できるように足を半歩開いた。
「チャイナさん・・・?」
神楽の武器は、あの傘だ。近藤も妙も、それがどれだけ威力があるものかを知っていた。ただの雨具ではなく、あれは夜兎である少女に似合う恐ろしい武器。一振りで岩をも砕く威力を持ち、構えれば鉛の弾が降る。それでも、まだ大丈夫だと判断したのか近藤は脇差に手を掛けていない。
「オレたちに、何のようだったのかな?」
子供に語りかけるような口調は優しい。踏まれても蹴られても、雑草のようにしぶとい男は同時に酷く器が大きい男でもあった。
「──この先に、進んじゃ駄目アル」
ポツリ、と呟かれた言葉に首を傾げる。この先の道を歩かないと、妙は自分の家まで帰れない。別の道を行くには、ここらか戻らなくてはいけないし、結構な大回りになってしまう。それは神楽も知っているだろうに。
「引き返すアル。姐御、今、先に進んだら駄目アル」
淡々とした声に、熱意など欠片も見当たらない。それでも、神楽が必死なのが妙には伝わった。
もしかしたら、コレだけを伝えるために神楽はずっと自分を待っていたのかもしれない。そう考え、気がついたら体が勝手に頷いていた。
「わかったわ、神楽ちゃん。私、別の道から帰ることにする」
迷うことなく踵を返す。この可愛い妹分を信じない理由はない。敵対関係にあったとしても、彼女が自分を無意味に傷つけるはずが無い。
「お妙さん・・・」
「何をしているの、近藤さん。早く、その荷物を持ってきてください」
「・・・・・・」
暫し躊躇し、けれど結局妙に無言でいた彼は、最終的には自分の意思を尊重してくれた。それでも念を押すように、もう一度だけ彼女に向かって問いかける。
「一つだけ、教えてくれチャイナさん」
「何アルか?」
「・・・この先で、殺しはやってないよな?」
「ないアル」
信じるための証拠は何もない。神楽が此処にいるからといって、他の誰かが手を下していないという確証はない。全てを知った上で、彼はその言葉に深く頷いていた。
「わかった。あんたを信じるぜ」
荷物を持ち、少し早足でかけてきた彼は自分の後ろに先程と同じように付いて歩く。もう、振り向く気はなかった。
だから、気がつかなかった。
彼女がホッと息を吐いた事も。
彼女の足元に、出来たばかりの血溜りがあったことも。
──何もかもに、気がつかなかった。
初めて会った時から、綺麗な色だと思っていた。今、改めて正面から見ると、やっぱり綺麗な色だと思った。月光の下、空を映したような青い瞳は妙を真っ直ぐに見つめていた。
その日は、たまたまが重なっていた。
たまたま、仕事が急に入り。
たまたま、お客さんを殴って店の片づけを最後までさせられた。
たまたま、その殴った客がストーカー兼真選組の局長で。
たまたま、大荷物があった自分はそれを全て彼に持たせた。
そして。
たまたま、帰り道を歩いていたら可愛い妹分に出会った。
トレードマークの傘を差し、肩においてくるくると回している姿は、まるでブリキのお人形のように愛らしい。最後の一つは、今日で一番嬉しい偶然だ。こちらを振り返らない背に躊躇無く声をかける。
「こんばんは、神楽ちゃん」
にこりと微笑んで言葉にすると、目の前の彼女の空気が少しだけ揺れた。くるりと右足を支点に体を回し、両手で傘を回したまま首を傾げる。妙の気配に気づいていたのだろう。その反応に驚きは見れなかった。
反応を待つために沈黙すれば、暫くして。
「こんばんは、姐御」
以前と全く変わらぬ調子での返事が返ってきて、ホッと息を吐いた。自分で思っていたよりも緊張していたらしい。いつの間にか追いついた近藤が、道に荷物を置く。勝手に荷物を下ろしたことを注意しようかとも思ったが、寸前で思い直した。彼は、自分が思っている以上に思慮深い人間だと言うことを知っている。妙が怒るかもしれないのを承知で、それでもいざという時の為に荷物を道に下ろさずにいられなかったのだろう。
近藤が本気で自分を心配しているのもわかっていたし、彼一人だけなら荷物を持ったままだということも想像できた。彼は本心では神楽を信用したいと思っているし、自分のみならば傷つくのも厭わない。彼が荷物を置き備えたのは、妙に万が一でも危険が及ばないようにする布石の一つだと判るからこそ怒れない。妙を心配しながら、それでも自分の前で神楽に刀を向けない彼に好感を持った。
明かり一つすらない暗闇。新月で月明かりすらない場所なのに、そんな自分達を見て神楽が一瞬笑ったような気がして、一瞬顔が赤くなりかけそうになり慌てて気力で押さえ込む。目の前の少女が、恍けたフリをしながらも、本当はこの上なく鋭い事を妙は誰よりも知っていた。
「──二人で逢引アルか?」
「何を言ってるの、神楽ちゃん。目に一味唐辛子を吹っかけるわよ?私が、この人と逢引するとでも思ってるの?」
「お妙さん、恥ずかしがらなくても大・・・ふがっ!!」
下らない事を言おうとしたゴリラの顔面に裏拳を当てる。鼻に当たったらしく、振り返らなくてもそこを抑えてしゃがみ込んでいるのが判った。
「冗談アル。姐御がゴリラの相手をする訳ないネ。どうせまた、そいつが酷いストーキングをやらかしたに決まってるアル。お前みたいな男、皆に指差されて笑われてるのにも気がついてない、裸の王様も同然ネ。略して『裸王』アル。ちっさい息子をぶら下げて、街道を驀進中ヨ」
「・・・・・・」
神楽のあまりの言い草に、近藤は黙って涙した。
「あらあら、神楽ちゃん。それは酷いと言うものよ」
妙の言葉に、目を輝かした近藤は菩薩を崇めるように彼女を見つめた。
「全裸で歩くゴリラだなんて、王様に相応しくないわ。あえて言うなら、猥褻物陳列罪で捕まる寸前の変質者よ」
笑顔でバサリと斬られ、彼は再び涙を流した。綺麗な薔薇には棘がある。言葉どおりに体現している彼女を見て、神楽は嬉しそうに声を上げた。
「姐御」
「・・・何かしら?」
そして、一瞬で雰囲気を変える。和やかで懐かしいものから、産毛が逆立つほどの気迫を纏いくるりと傘を回した。近藤が静かに立ち上がり、妙を庇うように斜め前に出る。いつでも反応できるように足を半歩開いた。
「チャイナさん・・・?」
神楽の武器は、あの傘だ。近藤も妙も、それがどれだけ威力があるものかを知っていた。ただの雨具ではなく、あれは夜兎である少女に似合う恐ろしい武器。一振りで岩をも砕く威力を持ち、構えれば鉛の弾が降る。それでも、まだ大丈夫だと判断したのか近藤は脇差に手を掛けていない。
「オレたちに、何のようだったのかな?」
子供に語りかけるような口調は優しい。踏まれても蹴られても、雑草のようにしぶとい男は同時に酷く器が大きい男でもあった。
「──この先に、進んじゃ駄目アル」
ポツリ、と呟かれた言葉に首を傾げる。この先の道を歩かないと、妙は自分の家まで帰れない。別の道を行くには、ここらか戻らなくてはいけないし、結構な大回りになってしまう。それは神楽も知っているだろうに。
「引き返すアル。姐御、今、先に進んだら駄目アル」
淡々とした声に、熱意など欠片も見当たらない。それでも、神楽が必死なのが妙には伝わった。
もしかしたら、コレだけを伝えるために神楽はずっと自分を待っていたのかもしれない。そう考え、気がついたら体が勝手に頷いていた。
「わかったわ、神楽ちゃん。私、別の道から帰ることにする」
迷うことなく踵を返す。この可愛い妹分を信じない理由はない。敵対関係にあったとしても、彼女が自分を無意味に傷つけるはずが無い。
「お妙さん・・・」
「何をしているの、近藤さん。早く、その荷物を持ってきてください」
「・・・・・・」
暫し躊躇し、けれど結局妙に無言でいた彼は、最終的には自分の意思を尊重してくれた。それでも念を押すように、もう一度だけ彼女に向かって問いかける。
「一つだけ、教えてくれチャイナさん」
「何アルか?」
「・・・この先で、殺しはやってないよな?」
「ないアル」
信じるための証拠は何もない。神楽が此処にいるからといって、他の誰かが手を下していないという確証はない。全てを知った上で、彼はその言葉に深く頷いていた。
「わかった。あんたを信じるぜ」
荷物を持ち、少し早足でかけてきた彼は自分の後ろに先程と同じように付いて歩く。もう、振り向く気はなかった。
だから、気がつかなかった。
彼女がホッと息を吐いた事も。
彼女の足元に、出来たばかりの血溜りがあったことも。
──何もかもに、気がつかなかった。
PR
更新内容
|
(06/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)
(03/31)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/24)
(03/24)
(03/24)
(03/23)
(03/14)
(03/14)
(03/13)
(03/13)
(03/13)
(03/11)
(03/10)
(03/08)
カテゴリー
|
リンク
|
フリーエリア
|