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【4日目】


モニターの映像越しに絡む視線に、獄寺は鼓動を早くする。
彼が獄寺を認識してるのではないと理解してるが、それでも心が昂揚するのは止められない。
熱を持った瞳でじっと彼を見詰め続けていれば、ちょい、と服が引かれ視線を落とした。
膝の上の子供は随分と表情が豊かになり、訝しげに眉を顰めて獄寺を見上げている。
その子供を可愛いと思う気持ちに嘘はないが、彼の頭をひと撫でするとそのまま視線をモニターに向けた。


「隼人・・・?」


鈴を転がしたような耳障りのいい声。
普段の獄寺ならすぐさま表情をとろとろに解かして抱きしめるとこだが、今の彼にはそれは出来ない。

膝の上の存在よりも『遙かに特別』な彼が、命を懸けて戦っている最中だったのだから。


モニターの中の彼に、様々な映像を分析、解析した情報を伝えるのが獄寺の役目だ。
それを果たせるのは自分と、もう一人別室で待機している女しか居ないと知っている。
だからこの役目の最中に他の何かに目を取られるわけにはいかなかった。

いつもの白いスーツの上から黒の外套を羽織った彼の額には、淡く輝くオレンジ色の炎。
彼の存在が何であるかを照明する炎は、夜の闇に良く映える。
静かでありながらも重苦しい存在感。
圧倒的な覇気で部下を従える彼は、普段の百面相も忙しい沢田綱吉ではない。

そこに居るのは、ドン・ボンゴレ。
ボンゴレ十世として世界に名を馳せる沢田綱吉だ。

伏せ目がちになった琥珀色の瞳は、同色の長い睫毛が飾り危うげな色気を醸し出す。
男にしては華奢な体つきに白い肌。
しかし彼は、紛れもなくファミリーを背負うゴッドファーザーで、敬うべきボスで、代えのない存在だった。
それは程度の違いはあれど、彼の部下ならば誰しも持つ想いで、持っていなければいけない感情だ。
右に晴の守護者を、左に雨の守護者を従え堂々と歩く彼を、憧憬の篭る眼差しで見ないファミリーは居ない。

彼は獄寺の最愛のボスで、最高のボスであった。


「オリジナル」
「ええ、そうです。彼はあなたのオリジナル、ボンゴレ十世沢田綱吉さんです」


下から聞こえる声に、視線はやらぬが言葉を返す。
それは常の獄寺からしたら破格の扱いだが、膝の上の子供は淡白な反応に首を傾げるだけだった。

彼が視線を向けているのを知りつつも、モニターとキーボードを操作する手を欠片も止めようと思わない。
そんな自分に少しだけ苦笑した。


「見ていなさい、ウーノさん。彼があなたのオリジナルです。俺が敬愛し、尊敬し、忠誠を捧げ、一生を尽くすと決めた方。誰より尊く優しく強い方」
「・・・隼人の特別?」
「いいえ。───そんな言葉で表せれない、唯一の人です」


目元を紅潮させ、憧れを隠さぬまま綱吉を見詰め続ける獄寺は、当たり前の事実を口にする。
当たり前すぎて、綱吉以外には滅多に口にしない言葉。
今も、膝の上の子供が彼の炎から出来てなければ、返事すらしてないだろう。
それくらい、自分にとって『綱吉』だけが大事。


「あの人は、俺の全てです。俺はあの人のために生き、そして死ぬ。───いつか、一番効果的な時期に、あの人の役に立って死ぬのが俺の夢です」


一般人が聞けば目を剥くような夢だろう。
だが獄寺にとって、それが至上の幸福だ。

過去の出来事により心を閉ざした獄寺の、優しい感情を表に出してくれた人。
無条件で愛せる、愛しいと思わせてくれる人。
困った顔をして、怒り、叫び、悩みながらもずっと獄寺を傍に置いてくれた人。
自分の突拍子ない方向違いの好意も、眉を下げて淡く笑いながら最後には受け止めてくれる人。
傍にいたいから、マフィアのドンになって欲しいと心からずっと望んでいた人。
獄寺が何をしても、最後の最後で捨てれない甘くて馬鹿で、優しい人。

沢田綱吉は獄寺隼人を構成するための代えの利かないピースであり、魂の核でもある。
彼が一分一秒でも自分よりも生きてくれれば、それが獄寺にとって喜び。


「あの人が最強のボンゴレのボスです。ドン・ボンゴレと呼ばれる俺の主。彼の右腕であるのが俺の誇りです」
「隼人の誇り・・・」
「そう。───あの人が必要とするなら、俺はあなたですら簡単に犠牲に出来ます」
「・・・隼人はボンゴレ十世が好き?」
「そんな、甘い言葉で表せる感情は持ってないですよ。───あなたを預かるのが、こんな残酷な男ですみません。ですが、あなたがあの人の一部である限り、俺は自分からあなたを手放せない」
「・・・そう」
「ええ。すみません」
「何が?」
「あなたに俺の想いを押し付けて」
「俺は代わり?」
「・・・いいえ」


───彼の代わりになれるものなど、存在しない。

喉元まで上がった言葉を飲み下すと、もう一度子供の髪を撫ぜた。


「見ていなさい、ウーノさん。彼の戦う姿を。あなたはきっと、自分が彼の炎から生まれたことを誇りに想うでしょう」
「うん」


頷いたらしい子供は、それきり一言も口を利かなかった。
だから獄寺も、それきり口を開かなかった。

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