×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■銀時→神楽
『──また、私を斬るアルか?』
感情のない声。自分を映しているだけで見ていない瞳。鋭利な刃物で傷つけられたように、言葉は心の奥まで入り込んだ。
空に浮かぶ白い月。彼女も今見上げているだろうか。それとも、また隻眼の男の隣に立ち、似合わぬ色の返り血をその身に浴びているのだろうか。目を瞑れば、あの日あの時の情景が浮かぶ。
志村家の広い庭。高杉を庇った神楽は、無表情に己の持つ刀を掴んだ。躊躇ない力で握られたそこからは血が流れ、それだけで、体が震えた。攘夷志士として幾人もの天人を屠って来たこの自分が、ただ一人、幼いといっても過言ではない天人を刺しただけで動けなくなった。
肉を貫く感触が離れない。体に響いた音が忘れれない。──初めて人を殺した時のように、思い出すだけでじっとりと汗が滲む。殺したわけではない。神楽は夜兎で、恐るべき回復力を持っている。大体、力づくで刀を引き寄せたのは向こうの方だ。言い訳は頭の中で限りなく響く。だが。
──刀を放せばよかったのだ。
──向けたからあんなことになった。
──自分じゃない誰かを庇ったから、頭に血が上った所為だ。
否定の声も、同時に響く。カタカタと、手が震えた。それを見て、苦く笑う。白夜叉とも呼ばれた男が、何という体たらく。幾人の天人を屠っても揺れなかった心が、ただ一人を傷つけただけで恐怖に苛まれる。
百戦錬磨の白夜叉ともあろう自分が、情けないことこの上ないがあの日以来志村家に足を踏み込むことすら出来やしない。
「ははっ・・・こんなんじゃ、止められる訳ねぇっての」
自嘲気味に呟いた。先日、真選組の鬼の副長が何者かに瀕死の重態を負わされた。実際後数分でも仲間が駆けつけるのが遅かったら、確実に命を落としていただろう。刀傷はそこかしこにあり、内臓に到達するほどに深く刺された痕があったらしい。失血し一歩手前で身動きすら儘ならない。徹底的に甚振られた男にも驚いたが、何より驚いたのは土方に抵抗のあとが見受けられなかったと聞いたときだ。
まさか、と勘が働いた。機密事項だ、まだ面会謝絶だと言う下っ端を押しのけ、白い病室で変なチューブに繋がれた土方に会いに行った。信じたくないが可能性として消せないそれが頭を巡る。何度か声をかけ、うっすらと目を開いた土方は焦点の合っていない目で、それでも銀時を捉えると口を開いた。
『あいつじゃ・・・ねぇよ』
呼吸音にすらかき消されそうなほど小さな声。一言だけ搾り出し、力尽きたように土方はまたゆっくりと目を瞑った。体中の力が抜け、病室の床にしゃがみ込む。よかった、と我知らず声に出し、震えている掌で顔を覆った。
その後、見舞いに来た近藤と沖田に病室から追い出され、どうやったのか覚えてないが気がついたら家に帰っていた。気配のない家で、ソファに座り込み動けなくなる。一人になると、どうしても彼女を求めてしまう。
『銀ちゃん、今帰ったアルか?』
『銀ちゃん、酒臭いアル~・・・』
『あっちに・・・行けよ、酔っ払い。私は眠いアル』
『クォラ、銀時~!!貴様、何玄関で吐き戻してるアルか!!』
夜帰ると、何だかんだで少女はそこにいてくれた。一人がいないだけで、室温がどっと下がった気がする。家族のいない銀時にとって、神楽は家族そのものだった。妹で、娘で、可愛い──・・・。考え、首を振り思考を中断させる。それ以上は、考えてはいけないと警鐘が鳴った。
先日、万事屋の仕事をしている時に久しぶりに神楽と会った。予定外の再会に始めに己を取り戻したのは桂で、動揺を一切見せずに己の取るべき行動を選んだ桂に神楽は笑った。そして当たり前に迎え撃ち吹っ飛ばした神楽に、銀時は震える己を宥めつつ刀を向けたのだ。だが、刀を向けた銀時に神楽は少し目を伏せ。
『銀ちゃんに、私は斬れないアルよ?』
銀時だけに聞こえるように、小さいが確信を込めた声でそっと囁いた。
それは、奇妙な自信に満ちた言葉。そして実際にその通りだと、銀時は実証してしまった。
神楽は銀時を殺すことが出来るが、銀時には神楽を殺すことはおろか、傷つけることすら難しい。刀を向けるたびに、神楽を貫いた時の記憶がフラッシュバックする。手に響く肉を突き刺す瞬間の鈍い感触。刀身を滴る赤い血の温かさ。神楽の命を握っているどうしようもない恐れ。
「・・・どうすりゃいいんだよ、マジで。なあ、神楽?」
窓越しに月を見た。神楽が好んで見ていた月は、青白い光を放つだけで今日もやっぱり何も教えてくれない。自分を傷つけた瞬間に、彼女の顔に浮かんだ苦痛の表情が、本物であればいいのに。それが真実ならば、また別の意味で傷つくだろう自分を理解しながら、銀時は硬く目を瞑った。
『──また、私を斬るアルか?』
感情のない声。自分を映しているだけで見ていない瞳。鋭利な刃物で傷つけられたように、言葉は心の奥まで入り込んだ。
空に浮かぶ白い月。彼女も今見上げているだろうか。それとも、また隻眼の男の隣に立ち、似合わぬ色の返り血をその身に浴びているのだろうか。目を瞑れば、あの日あの時の情景が浮かぶ。
志村家の広い庭。高杉を庇った神楽は、無表情に己の持つ刀を掴んだ。躊躇ない力で握られたそこからは血が流れ、それだけで、体が震えた。攘夷志士として幾人もの天人を屠って来たこの自分が、ただ一人、幼いといっても過言ではない天人を刺しただけで動けなくなった。
肉を貫く感触が離れない。体に響いた音が忘れれない。──初めて人を殺した時のように、思い出すだけでじっとりと汗が滲む。殺したわけではない。神楽は夜兎で、恐るべき回復力を持っている。大体、力づくで刀を引き寄せたのは向こうの方だ。言い訳は頭の中で限りなく響く。だが。
──刀を放せばよかったのだ。
──向けたからあんなことになった。
──自分じゃない誰かを庇ったから、頭に血が上った所為だ。
否定の声も、同時に響く。カタカタと、手が震えた。それを見て、苦く笑う。白夜叉とも呼ばれた男が、何という体たらく。幾人の天人を屠っても揺れなかった心が、ただ一人を傷つけただけで恐怖に苛まれる。
百戦錬磨の白夜叉ともあろう自分が、情けないことこの上ないがあの日以来志村家に足を踏み込むことすら出来やしない。
「ははっ・・・こんなんじゃ、止められる訳ねぇっての」
自嘲気味に呟いた。先日、真選組の鬼の副長が何者かに瀕死の重態を負わされた。実際後数分でも仲間が駆けつけるのが遅かったら、確実に命を落としていただろう。刀傷はそこかしこにあり、内臓に到達するほどに深く刺された痕があったらしい。失血し一歩手前で身動きすら儘ならない。徹底的に甚振られた男にも驚いたが、何より驚いたのは土方に抵抗のあとが見受けられなかったと聞いたときだ。
まさか、と勘が働いた。機密事項だ、まだ面会謝絶だと言う下っ端を押しのけ、白い病室で変なチューブに繋がれた土方に会いに行った。信じたくないが可能性として消せないそれが頭を巡る。何度か声をかけ、うっすらと目を開いた土方は焦点の合っていない目で、それでも銀時を捉えると口を開いた。
『あいつじゃ・・・ねぇよ』
呼吸音にすらかき消されそうなほど小さな声。一言だけ搾り出し、力尽きたように土方はまたゆっくりと目を瞑った。体中の力が抜け、病室の床にしゃがみ込む。よかった、と我知らず声に出し、震えている掌で顔を覆った。
その後、見舞いに来た近藤と沖田に病室から追い出され、どうやったのか覚えてないが気がついたら家に帰っていた。気配のない家で、ソファに座り込み動けなくなる。一人になると、どうしても彼女を求めてしまう。
『銀ちゃん、今帰ったアルか?』
『銀ちゃん、酒臭いアル~・・・』
『あっちに・・・行けよ、酔っ払い。私は眠いアル』
『クォラ、銀時~!!貴様、何玄関で吐き戻してるアルか!!』
夜帰ると、何だかんだで少女はそこにいてくれた。一人がいないだけで、室温がどっと下がった気がする。家族のいない銀時にとって、神楽は家族そのものだった。妹で、娘で、可愛い──・・・。考え、首を振り思考を中断させる。それ以上は、考えてはいけないと警鐘が鳴った。
先日、万事屋の仕事をしている時に久しぶりに神楽と会った。予定外の再会に始めに己を取り戻したのは桂で、動揺を一切見せずに己の取るべき行動を選んだ桂に神楽は笑った。そして当たり前に迎え撃ち吹っ飛ばした神楽に、銀時は震える己を宥めつつ刀を向けたのだ。だが、刀を向けた銀時に神楽は少し目を伏せ。
『銀ちゃんに、私は斬れないアルよ?』
銀時だけに聞こえるように、小さいが確信を込めた声でそっと囁いた。
それは、奇妙な自信に満ちた言葉。そして実際にその通りだと、銀時は実証してしまった。
神楽は銀時を殺すことが出来るが、銀時には神楽を殺すことはおろか、傷つけることすら難しい。刀を向けるたびに、神楽を貫いた時の記憶がフラッシュバックする。手に響く肉を突き刺す瞬間の鈍い感触。刀身を滴る赤い血の温かさ。神楽の命を握っているどうしようもない恐れ。
「・・・どうすりゃいいんだよ、マジで。なあ、神楽?」
窓越しに月を見た。神楽が好んで見ていた月は、青白い光を放つだけで今日もやっぱり何も教えてくれない。自分を傷つけた瞬間に、彼女の顔に浮かんだ苦痛の表情が、本物であればいいのに。それが真実ならば、また別の意味で傷つくだろう自分を理解しながら、銀時は硬く目を瞑った。
PR
更新内容
|
(06/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)
(03/31)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/24)
(03/24)
(03/24)
(03/23)
(03/14)
(03/14)
(03/13)
(03/13)
(03/13)
(03/11)
(03/10)
(03/08)
カテゴリー
|
リンク
|
フリーエリア
|