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■高杉→神楽
ある日を境に神楽は決して晋助の傍を離れようとしなかった。晋助が行くところには何処にでも付いて行き、晋助の隣で彼の服を掴んでいた。周りが止めなければトイレにも付いて行っただろう。金魚の糞状態だ。迷子の子供が再会した親にする仕草と良く似ていたが、幼い仕草に違和感を感じさせるのは。真剣な色を浮かべるその青い瞳。子供とは違い心細さなど欠片も持ちえぬ強さのそれは、監視するように剣呑な色を漂わせる。
だが、それを見ても晋助は止めようとしなかった。何処か面白そうに唇を持ち上げた男は、神楽の行動を拒絶するでもなく好きにさせている。あの猫のように気まぐれな気質の晋助の行動に、初めは誰もが首を捻った。しかしそれが一日、二日、一週間と過ぎれば本気で嫌なら実力行使に出るだろう事を知っていたので、周りも手を出そうとしなくなった。
「神楽」
「何アルか?」
「そろそろ、厭きたんじゃねぇか?」
女物の羽織を着た男は、歪んだ笑みを隣の存在に向けた。彼の服を掴み、ちょこんと隣に座っていた神楽は真っ直ぐに彼を見る。
月の綺麗な夜で、何時も持ち歩いている傘を神楽は持っていなかった。太陽ほど明るくは無いが十分に視野を確保出来る屋根の上で、隻眼の瞳の感情を探るようにまじまじと見る。
「──別に」
暫くの間探るように目を細めた神楽は、不意に興味をなくしたとばかりに視線を逸らした。そして、月に視線を向ける。満月、というわけではなかったが、月は神楽の好む色だった。綺麗な、綺麗な白に近い青。透けるように発光するそれは、神楽の目を捉えて放さない。
隣で、体が動く感触がした。体温を感じるくらいの距離に居た男に慣れてしまった事実に、表情にこそ出さないが愕然とする。警戒心が無いとは言えないが、それでも彼が自分を襲うはずが無いと、いつの間にか思い込んでいた。
漂う紫煙にタバコを吸い始めたのだと眉をしかめる。この匂いは好きじゃなかった。
「タバコ」
「あん?」
「臭いアル。止めるヨロシ」
視線を月に固定したまま、けど彼に向けて言葉を発した。小さく声が漏れる。くつくつと喉を震わせ酷く愉快そうなそれに、何が面白いのだろうと頭の片隅で考えた。だが、すぐにどうでもいいことだと打ち消す。自分たちの間は干渉し合うものではなく、あくまで利害の一致によるものだ。踏み込む気はさらさらになく、彼の心理を理解したいなんて願望は持ち合わせていない。
だから視線を月に移す。空に輝くそれに手が届くことは無いけれど、綺麗で居てくれるのが嬉しくて自然と表情が綻んだ。
「!?ケヘッ、ケホッ」
いきなり顔に紫煙を浴びせかけられて、涙目になりながら噎せた。この匂いを神楽が苦手と知りつつ、態とこんな所業を行う男をキッと睨みつける。何が楽しいのかにたにたとした笑顔を貼り付けた晋助は、もう一度息を吸い込むと神楽の顔めがけて吐き出した。白く煙る視界を慌てて手で払い、生理的な意味で涙目になった瞳を向ける。
「いきなり、何するネ!?」
「──ボケッと間抜けヅラしてるから、生きてんのかなって思って」
「見て判るだろ、ボケェェェェェ!髪がタバコ臭くなったらどうするアルカ!?」
「一緒に風呂入って洗ってやろうか?」
「お断りアル!ポリゴンは嫌いネ!!」
「ポリゴン・・・?ああ、ロリコンのことな」
「お前を表す代名詞ネ!!」
湯気が出るんじゃないかという勢いで本気で怒っているのに、目の前の男は上機嫌に笑う。それは普段の何処か気だるげで惰性で浮かべているものではなく、まるで子供のように無邪気で嘘が無いように見えて、神楽はぐっと唇を噛み締めた。
こんな雰囲気、彼には似合わない。高杉晋助は、こんな顔をしていい男ではない。常に世に対し怒りを向け、全てを壊すべき破壊衝動を身に飼いならし、狂気と正気の狭間を行きかう、この男が、こんな表情を浮かべていいはずないのだ。
出会った当初では想像も出来なかった笑顔に、神楽は困惑した。殺戮を好み、破壊を欲する。高杉晋助とはそんな男で、それ以外でないのに。
「──お前、最近変ヨ。最近、誰も殺してないアル」
「・・・そうだったか?」
「そうネ。少なくとも、私の前ではしてないアル」
首を傾げる男に神楽は眉を寄せる。最近、神楽は彼にべったりだ。何処に行くのも付いていっているし、片時も離れない。
それなのに、その事実には今気がついた。作戦には参加する。楽しそうに指示もする。殺しに躊躇いは無く、命が散る瞬間には酷く満足げに哂う。
しかしながら、最近の彼は手を下す事はない。以前は良く見た刀についた血糊を拭う仕草すら最近は見ていなかった。首を傾げる神楽の額を、高杉はキセルでちょんと叩く。
「痛いアル!」
本当はそれほどでもなかったが、思わず額を押さえて恨みがましい顔を見せれば、晋助は穏やかとも見える表情を浮かべた。幾度も瞬きを繰り返し、錯覚だと言い聞かす。こんなのは、困る。
「──言っただろ?」
困惑し瞳を揺らす神楽を見ていた高杉が、優しくも聞こえる声で囁いた。変だ、おかしい。違和感をはっきりさせようと神楽は彼の目を覗き込む。しかし遮るようにまたしても煙を吐きかけられ、涙目になって酷く噎せた。
「お前がオレを見てるなら、もう少しの間だけ自粛してやるさ」
声は聞こえた。けど、顔は見えない。噎せた呼吸を整える頃には、もういつもの高杉に戻っていて、感じた違和感は気のせいだったのだろうかと、神楽は首を傾げた。
「そろそろ行くか、じゃじゃ馬姫」
「誰がじゃじゃ馬ヨ。しとやかなお嬢様とは、この神楽のことを表す言葉アル」
文句を言いながらも、反抗するでもなく素直に月に背を向け立ち上がる。
それを見た高杉が酷く上機嫌な顔をして、理由の判らない感情の機微に、益々神楽は首を捻った。
ある日を境に神楽は決して晋助の傍を離れようとしなかった。晋助が行くところには何処にでも付いて行き、晋助の隣で彼の服を掴んでいた。周りが止めなければトイレにも付いて行っただろう。金魚の糞状態だ。迷子の子供が再会した親にする仕草と良く似ていたが、幼い仕草に違和感を感じさせるのは。真剣な色を浮かべるその青い瞳。子供とは違い心細さなど欠片も持ちえぬ強さのそれは、監視するように剣呑な色を漂わせる。
だが、それを見ても晋助は止めようとしなかった。何処か面白そうに唇を持ち上げた男は、神楽の行動を拒絶するでもなく好きにさせている。あの猫のように気まぐれな気質の晋助の行動に、初めは誰もが首を捻った。しかしそれが一日、二日、一週間と過ぎれば本気で嫌なら実力行使に出るだろう事を知っていたので、周りも手を出そうとしなくなった。
「神楽」
「何アルか?」
「そろそろ、厭きたんじゃねぇか?」
女物の羽織を着た男は、歪んだ笑みを隣の存在に向けた。彼の服を掴み、ちょこんと隣に座っていた神楽は真っ直ぐに彼を見る。
月の綺麗な夜で、何時も持ち歩いている傘を神楽は持っていなかった。太陽ほど明るくは無いが十分に視野を確保出来る屋根の上で、隻眼の瞳の感情を探るようにまじまじと見る。
「──別に」
暫くの間探るように目を細めた神楽は、不意に興味をなくしたとばかりに視線を逸らした。そして、月に視線を向ける。満月、というわけではなかったが、月は神楽の好む色だった。綺麗な、綺麗な白に近い青。透けるように発光するそれは、神楽の目を捉えて放さない。
隣で、体が動く感触がした。体温を感じるくらいの距離に居た男に慣れてしまった事実に、表情にこそ出さないが愕然とする。警戒心が無いとは言えないが、それでも彼が自分を襲うはずが無いと、いつの間にか思い込んでいた。
漂う紫煙にタバコを吸い始めたのだと眉をしかめる。この匂いは好きじゃなかった。
「タバコ」
「あん?」
「臭いアル。止めるヨロシ」
視線を月に固定したまま、けど彼に向けて言葉を発した。小さく声が漏れる。くつくつと喉を震わせ酷く愉快そうなそれに、何が面白いのだろうと頭の片隅で考えた。だが、すぐにどうでもいいことだと打ち消す。自分たちの間は干渉し合うものではなく、あくまで利害の一致によるものだ。踏み込む気はさらさらになく、彼の心理を理解したいなんて願望は持ち合わせていない。
だから視線を月に移す。空に輝くそれに手が届くことは無いけれど、綺麗で居てくれるのが嬉しくて自然と表情が綻んだ。
「!?ケヘッ、ケホッ」
いきなり顔に紫煙を浴びせかけられて、涙目になりながら噎せた。この匂いを神楽が苦手と知りつつ、態とこんな所業を行う男をキッと睨みつける。何が楽しいのかにたにたとした笑顔を貼り付けた晋助は、もう一度息を吸い込むと神楽の顔めがけて吐き出した。白く煙る視界を慌てて手で払い、生理的な意味で涙目になった瞳を向ける。
「いきなり、何するネ!?」
「──ボケッと間抜けヅラしてるから、生きてんのかなって思って」
「見て判るだろ、ボケェェェェェ!髪がタバコ臭くなったらどうするアルカ!?」
「一緒に風呂入って洗ってやろうか?」
「お断りアル!ポリゴンは嫌いネ!!」
「ポリゴン・・・?ああ、ロリコンのことな」
「お前を表す代名詞ネ!!」
湯気が出るんじゃないかという勢いで本気で怒っているのに、目の前の男は上機嫌に笑う。それは普段の何処か気だるげで惰性で浮かべているものではなく、まるで子供のように無邪気で嘘が無いように見えて、神楽はぐっと唇を噛み締めた。
こんな雰囲気、彼には似合わない。高杉晋助は、こんな顔をしていい男ではない。常に世に対し怒りを向け、全てを壊すべき破壊衝動を身に飼いならし、狂気と正気の狭間を行きかう、この男が、こんな表情を浮かべていいはずないのだ。
出会った当初では想像も出来なかった笑顔に、神楽は困惑した。殺戮を好み、破壊を欲する。高杉晋助とはそんな男で、それ以外でないのに。
「──お前、最近変ヨ。最近、誰も殺してないアル」
「・・・そうだったか?」
「そうネ。少なくとも、私の前ではしてないアル」
首を傾げる男に神楽は眉を寄せる。最近、神楽は彼にべったりだ。何処に行くのも付いていっているし、片時も離れない。
それなのに、その事実には今気がついた。作戦には参加する。楽しそうに指示もする。殺しに躊躇いは無く、命が散る瞬間には酷く満足げに哂う。
しかしながら、最近の彼は手を下す事はない。以前は良く見た刀についた血糊を拭う仕草すら最近は見ていなかった。首を傾げる神楽の額を、高杉はキセルでちょんと叩く。
「痛いアル!」
本当はそれほどでもなかったが、思わず額を押さえて恨みがましい顔を見せれば、晋助は穏やかとも見える表情を浮かべた。幾度も瞬きを繰り返し、錯覚だと言い聞かす。こんなのは、困る。
「──言っただろ?」
困惑し瞳を揺らす神楽を見ていた高杉が、優しくも聞こえる声で囁いた。変だ、おかしい。違和感をはっきりさせようと神楽は彼の目を覗き込む。しかし遮るようにまたしても煙を吐きかけられ、涙目になって酷く噎せた。
「お前がオレを見てるなら、もう少しの間だけ自粛してやるさ」
声は聞こえた。けど、顔は見えない。噎せた呼吸を整える頃には、もういつもの高杉に戻っていて、感じた違和感は気のせいだったのだろうかと、神楽は首を傾げた。
「そろそろ行くか、じゃじゃ馬姫」
「誰がじゃじゃ馬ヨ。しとやかなお嬢様とは、この神楽のことを表す言葉アル」
文句を言いながらも、反抗するでもなく素直に月に背を向け立ち上がる。
それを見た高杉が酷く上機嫌な顔をして、理由の判らない感情の機微に、益々神楽は首を捻った。
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