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「火原の音はわかりやすいでしょ?」


甘く艶やかな色っぽい音を奏でる恩師のラッパに、耳まで顔を赤くして俯いていた八木沢は顔を上げた。
視線が絡んだのに気づくと、声の主はにこりと微笑む。
蓬生と同じくらいに長い髪をした麗人は、名高い柚木梓馬だ。
雑誌の特集で先日も登場していた、今を輝く有名人。
彼が楽器を嗜むのは知らなかったけれど、火原と親友関係という意外性の方がインパクトが大きかった。

顔を赤く染めたまま、八木沢はそろそろと頷く。
自分の音も恋をして変わったと自覚しているが、この音はそれ以上だ。
恥ずかしくて照れくさくて、今すぐ布団を被って叫びだしたいくらいに艶気がある。
元気溌剌といった火原の普段からは考えられない位に大人びた音。

まさか彼が、こんな恋の音を奏でるなんて、想像したこともなかった。


「火原の音、色っぽいでしょ?」
「・・・はい」
「普段は華やかな曲調を得意としてるくせにね。彼女に関してだけは、随分と艶やかな音も奏でられるんだよ」
「・・・・・・凄いですね」
「おや?火原みたいな音を出したいの?」
「いえ、その、・・・僕には、まだ早いと思いますけど、でも、いつかは、とは思います」


これ以上ないくらいに赤くなりながら告げると、目の前の綺麗な人は目を細めて笑った。
それは先ほどまで見せていた笑顔とどこか違う気がして、数度目を瞬くとまた笑みを深くする。


「君は火原の教え子だね」
「え?」
「彼に似てとても素直で可愛いって言ったんだよ」
「?」


意味を図りかねて首を傾げれば、彼は視線を八木沢から正面の女性に向ける。
その眼差しは直向で憧憬と焦燥を含んだもので、不意に気づいてしまった。
彼もまた、日野に焦がれる男の一人であることに。


「いつか君も、火原みたいな音を出す日が来るんだろうね。その音を捧げる相手は、そこの彼女なのかな?」
「え、えええ!?」


思わず大声が出てしまい、慌てて口を押さえる。
火原の音楽が丁度終わった後でよかった。
そうでなければ、折角この音を楽しんでいた彼女の顔が曇ってしまうし、同じく音を楽しんでいた彼らからきつい視線を向けられただろう。
顔を赤くしたまま目を白黒させる八木沢に向かい、柚木はにこりと微笑んだ。


「次は、僕が演奏しようかな」


長い髪を優雅に手で梳いた彼は、フルートを持って立ち上がる。
その姿にうっかり見惚れてしまい、何も返せぬままに流されたと気づいたとき、恥ずかしさに消えそうになった。

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