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■高杉→神楽
「言ったよな、神楽。オレから、目を放すなと」
ニヤリと笑う隻眼の男を見て、強く、強く目を瞑った。
初めはそこまで本気ではなかった。と、言うよりも自分で言った事すら覚えていなかったのだ。
自分を見つけ追って来た男は、ひくりと痙攣するように体を動かした。まだ生きているらしいそれに唇が弧を描く。刀を伝い、自分の手まで染め上げた色を見て愉しくて目を細める。女物の着物に、色が移ったがそれは着物によく映えた。人の身から出たばかりの紅。点々と飛び散るそれは刹那の美を感じさせる。
自分の刀に貫かれた相手は、弱々しくもがいた。まるで、標本にされた虫のような格好で無様に這い回る姿には兆章しか浮かばない。
「・・・弱い、な」
「っ!!」
伝った赤を舐め取る。木に縫いとめられた状態の男が怒りで頬を染め、叫ぼうとして、また血が溢れる。避けることなくそれを身に浴び、突き刺したままの刀を動かした。
「ぐっ──」
ぐり、と柄ごと捻った刀は鈍い感触を晋助に伝える。内臓まで貫通しているだろうそれに、男は呻いただけで悲鳴は上げない。大した精神力だ。口角が上がる。甚振りがいのある獲物は、大好きだった。
縫いとめられた敵は、真選組鬼の副長と呼ばれた男。屈辱に暗い焔を瞳に灯し自分を睨み続けていた。その反抗的な眼差しに益々気分が高揚する。空いていた手に小太刀を握り突き刺そうとしたまさにその瞬間。
「──何、してるアルか?」
聞こえた声に、抉っていた手を止めた。面白い事になった。本能がそう告げる。目の前の男は、目を見開いて自分の背後を見ていた。
(──こんな、情けない格好。見られたくはなかっただろうにな)
思うと、笑いがこみ上げる。声を漏らさないよう堪えるのに苦労した。それでも震える肩は隠しようが無く、刀に力を込めたまま、ゆっくりと振り返る。
表通りから一本入り込んだだけの道は、それでもほとんど日が入らない。闇に属するものに優しい場所だ。だが、そんな場所でも少女は傘を差していた。光にに忌み嫌われた白い肌を守るために。酢昆布を片手に、くちゃくちゃと咬みながら。そして、無表情にもう一度口にした。
「何してるアルか、晋助」
感情の読めない声。この子供は、時として大人である自分よりも冷静な部分がある。知り合いが串刺しにされているのに、目を逸らす事すらしない。血が飛び鉄錆び臭さが蔓延する凄惨な場面に表情は動かず、動揺も見受けられなかった。
普通の子供なら発狂して失禁でもしているだろう場面で、声を荒げるでもなく、いかにも慣れているといった風情の神楽を、晋助は気に入っていた。
「遊んでるんだよ」
だから、上機嫌に、踊るような声で教える。無邪気に、無抵抗の虫の羽をもぎ取る子供のような残酷さで。
「──お前、やっぱりサドアルナ」
「マゾに見えたか?」
「精神的苦痛で自分を逆境に追い込むのが好きみたいだったから、てっきりマゾかと思ったヨ。けど、本当は両刀って奴だったアル」
「両刀ってのは、言葉の意味が違うぞ」
「いやいやいや。お前はサドとマゾの属性を持つ、奇異な存在アル。例えて言うなら、オスの機能とメスの機能を兼ね備えたカタツムリのような存在ネ」
「──その例え、意味がわからねぇぞ?しかも、やっぱり両刀の意味が違うし」
ククッと咽喉の奥で笑いを噛み殺すと、目の前で青ざめた顔をしている男を見た。出血が酷く貧血を起こしかけているのだろう。それでも意識を繋いでるのはさすがと誉めてもいいところだ。
「晋助」
「何だ?」
「止めるヨロシ」
再び顔を神楽に向ける。静かな眼差しをした少女は強要するでもなく焦るでもなくただ自然体でそこに居た。暫しの間神楽を観察していた晋助は徐に、にいっと歪んだ笑みを浮かべる。
そして。
「言ったよな、神楽。オレから、目を放すなと」
睦言を囁くような甘い声で言うと同時に、抜き取った刃をもう一度目の前の男に沈めた。ざくり、と重たい感触が体に響く。
「ぐっあああああ!」
今度こそ、声を堪えられずに男は絶叫した。零れんばかりに目を見開き、苦痛に耐えかねる姿はいつ死んでもおかしくない。
「大串君!!」
その様子を見て、始めて神楽が声を荒げた。些細な事。だが、それすら気に入らず腕に力を込める。ざくり。鈍い音が響き、足元にかなりの血だまりが出来る。これは、致死量の出血だ。
流れ出る血を眺め、ふっと笑う。命の輝きが失せる瞬間とはどうしてこうも美しいのか。
「神楽、知ってるか?侍ってのは昔へまをしたら切腹ってのをしたんだ。腹に刀をぶっさしてな」
「・・・・・・」
いきなりの晋助の言葉に、何を考えているのか見定めるように神楽は晋助の目を見た。これほど業に塗れても未だ澄んだ色の青い瞳が真っ直ぐに晋助を捕らえる。あの目に自分が映るのは、とても気分がいい。
「切腹ってのは、中々死ねねぇ方法なんだよ。人間、腹を掻っ捌かれた位じゃ簡単に死ねねぇ」
そして、また刀を抜く。三度突き刺そうとしたその瞬間。
「やめろヨ」
一瞬で移動した神楽に、刀を掴まれた。指が千切れるかもしれないのに遠慮のない力を出す神楽に、刀がピクリとも動かせなくなり哂う。幼い少女でもさすがは夜兎というところか。人間の自分では、力で勝つ事は難しい。
先程まで貫いていた男の血の上に、刀身を伝う神楽の血が重なった。天人の癖に赤いそれは、だが先程とは別の輝きを持っているように映った。刀を引っ張ると、一瞬眉をしかめた神楽は手を離す。刀の構造上ただ押さえるよりも弾く摩擦力で指を深く切ったのだろう。眉間に皺を寄せると晋助をじとりと睨んで来た。
突き刺していた男は、崩れ落ちるように倒れている。それを庇うように立つと、神楽は血の出ていない方の手で酢昆布を握った。くちゃくちゃと咀嚼する音が響く。それに倣うように、晋助も刀についた血を舐め取った。
「──オレから、目を放すなよ神楽。次は、コイツじゃなく」
愉しそうに目をきらめかせると、少年のように晋助は笑った。
「お前の大事な、『銀ちゃん』かも知れねぇぜ?」
別に、目の前の男を狙っていたわけじゃない。真選組の副長なんて、獲物としてはいいものだがそこまで興味を持ってもいない。それでも無視できなかったのは、無視しようとしたときに一匹のうさぎが頭をよぎったから。
残酷とも取れる行動の裏にあった感情は、うさぎの目を、他の何かに向けたくない。ただそれだけだった。
「言ったよな、神楽。オレから、目を放すなと」
ニヤリと笑う隻眼の男を見て、強く、強く目を瞑った。
初めはそこまで本気ではなかった。と、言うよりも自分で言った事すら覚えていなかったのだ。
自分を見つけ追って来た男は、ひくりと痙攣するように体を動かした。まだ生きているらしいそれに唇が弧を描く。刀を伝い、自分の手まで染め上げた色を見て愉しくて目を細める。女物の着物に、色が移ったがそれは着物によく映えた。人の身から出たばかりの紅。点々と飛び散るそれは刹那の美を感じさせる。
自分の刀に貫かれた相手は、弱々しくもがいた。まるで、標本にされた虫のような格好で無様に這い回る姿には兆章しか浮かばない。
「・・・弱い、な」
「っ!!」
伝った赤を舐め取る。木に縫いとめられた状態の男が怒りで頬を染め、叫ぼうとして、また血が溢れる。避けることなくそれを身に浴び、突き刺したままの刀を動かした。
「ぐっ──」
ぐり、と柄ごと捻った刀は鈍い感触を晋助に伝える。内臓まで貫通しているだろうそれに、男は呻いただけで悲鳴は上げない。大した精神力だ。口角が上がる。甚振りがいのある獲物は、大好きだった。
縫いとめられた敵は、真選組鬼の副長と呼ばれた男。屈辱に暗い焔を瞳に灯し自分を睨み続けていた。その反抗的な眼差しに益々気分が高揚する。空いていた手に小太刀を握り突き刺そうとしたまさにその瞬間。
「──何、してるアルか?」
聞こえた声に、抉っていた手を止めた。面白い事になった。本能がそう告げる。目の前の男は、目を見開いて自分の背後を見ていた。
(──こんな、情けない格好。見られたくはなかっただろうにな)
思うと、笑いがこみ上げる。声を漏らさないよう堪えるのに苦労した。それでも震える肩は隠しようが無く、刀に力を込めたまま、ゆっくりと振り返る。
表通りから一本入り込んだだけの道は、それでもほとんど日が入らない。闇に属するものに優しい場所だ。だが、そんな場所でも少女は傘を差していた。光にに忌み嫌われた白い肌を守るために。酢昆布を片手に、くちゃくちゃと咬みながら。そして、無表情にもう一度口にした。
「何してるアルか、晋助」
感情の読めない声。この子供は、時として大人である自分よりも冷静な部分がある。知り合いが串刺しにされているのに、目を逸らす事すらしない。血が飛び鉄錆び臭さが蔓延する凄惨な場面に表情は動かず、動揺も見受けられなかった。
普通の子供なら発狂して失禁でもしているだろう場面で、声を荒げるでもなく、いかにも慣れているといった風情の神楽を、晋助は気に入っていた。
「遊んでるんだよ」
だから、上機嫌に、踊るような声で教える。無邪気に、無抵抗の虫の羽をもぎ取る子供のような残酷さで。
「──お前、やっぱりサドアルナ」
「マゾに見えたか?」
「精神的苦痛で自分を逆境に追い込むのが好きみたいだったから、てっきりマゾかと思ったヨ。けど、本当は両刀って奴だったアル」
「両刀ってのは、言葉の意味が違うぞ」
「いやいやいや。お前はサドとマゾの属性を持つ、奇異な存在アル。例えて言うなら、オスの機能とメスの機能を兼ね備えたカタツムリのような存在ネ」
「──その例え、意味がわからねぇぞ?しかも、やっぱり両刀の意味が違うし」
ククッと咽喉の奥で笑いを噛み殺すと、目の前で青ざめた顔をしている男を見た。出血が酷く貧血を起こしかけているのだろう。それでも意識を繋いでるのはさすがと誉めてもいいところだ。
「晋助」
「何だ?」
「止めるヨロシ」
再び顔を神楽に向ける。静かな眼差しをした少女は強要するでもなく焦るでもなくただ自然体でそこに居た。暫しの間神楽を観察していた晋助は徐に、にいっと歪んだ笑みを浮かべる。
そして。
「言ったよな、神楽。オレから、目を放すなと」
睦言を囁くような甘い声で言うと同時に、抜き取った刃をもう一度目の前の男に沈めた。ざくり、と重たい感触が体に響く。
「ぐっあああああ!」
今度こそ、声を堪えられずに男は絶叫した。零れんばかりに目を見開き、苦痛に耐えかねる姿はいつ死んでもおかしくない。
「大串君!!」
その様子を見て、始めて神楽が声を荒げた。些細な事。だが、それすら気に入らず腕に力を込める。ざくり。鈍い音が響き、足元にかなりの血だまりが出来る。これは、致死量の出血だ。
流れ出る血を眺め、ふっと笑う。命の輝きが失せる瞬間とはどうしてこうも美しいのか。
「神楽、知ってるか?侍ってのは昔へまをしたら切腹ってのをしたんだ。腹に刀をぶっさしてな」
「・・・・・・」
いきなりの晋助の言葉に、何を考えているのか見定めるように神楽は晋助の目を見た。これほど業に塗れても未だ澄んだ色の青い瞳が真っ直ぐに晋助を捕らえる。あの目に自分が映るのは、とても気分がいい。
「切腹ってのは、中々死ねねぇ方法なんだよ。人間、腹を掻っ捌かれた位じゃ簡単に死ねねぇ」
そして、また刀を抜く。三度突き刺そうとしたその瞬間。
「やめろヨ」
一瞬で移動した神楽に、刀を掴まれた。指が千切れるかもしれないのに遠慮のない力を出す神楽に、刀がピクリとも動かせなくなり哂う。幼い少女でもさすがは夜兎というところか。人間の自分では、力で勝つ事は難しい。
先程まで貫いていた男の血の上に、刀身を伝う神楽の血が重なった。天人の癖に赤いそれは、だが先程とは別の輝きを持っているように映った。刀を引っ張ると、一瞬眉をしかめた神楽は手を離す。刀の構造上ただ押さえるよりも弾く摩擦力で指を深く切ったのだろう。眉間に皺を寄せると晋助をじとりと睨んで来た。
突き刺していた男は、崩れ落ちるように倒れている。それを庇うように立つと、神楽は血の出ていない方の手で酢昆布を握った。くちゃくちゃと咀嚼する音が響く。それに倣うように、晋助も刀についた血を舐め取った。
「──オレから、目を放すなよ神楽。次は、コイツじゃなく」
愉しそうに目をきらめかせると、少年のように晋助は笑った。
「お前の大事な、『銀ちゃん』かも知れねぇぜ?」
別に、目の前の男を狙っていたわけじゃない。真選組の副長なんて、獲物としてはいいものだがそこまで興味を持ってもいない。それでも無視できなかったのは、無視しようとしたときに一匹のうさぎが頭をよぎったから。
残酷とも取れる行動の裏にあった感情は、うさぎの目を、他の何かに向けたくない。ただそれだけだった。
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