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*ルフィたちが海賊王になる少し前の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。
だが───今から語る話は、まだ彼らがその栄誉ある称号を手に入れる少しだけ前の物語である。





「よう、フランキー!せいが出るな!」
「おお、まぁな。なんたって、もうすぐおれの夢が叶うんだからな」
「しししし!おれの夢もだ」

そう言って子供みたいに無邪気に笑うルフィは、随分と精悍になったが未だに幼く見える。
子供みたいに残酷で強欲、そして傲慢で真っ直ぐ。それがフランキーが愛する麦わら海賊団の長で、大黒柱だった。
今日のような青空が良く似合い、夏の日差しが絵になる男。
かといって暑苦しいわけではなく、しなやかに鍛えられた体は痩身とも言える。
ゾロやサンジと並んで大人しくしてれば女にももてるだろうに、未だにウソップとチョッパーとつるんで面白いことばかりに目が行く。
何も経験していない、などとは思わないが、あまりに変わらないので時折将来が心配になってしまう。
もっとも彼が変わってしまったら、それはそれで心配どころではすまないと判っているのだけれど。

麦藁帽子を首からぶら下げている、いつまでも子供みたいな男の頭をくしゃりと撫でる。
潮に噴かれて随分とぱさついていたが、その感触はもう慣れていた。

縁とは不思議なものだ。
初めは敵対する立場だったのに、いつの間にかどうしようもないほど引き込まれている。
まるで蟻地獄に嵌められた蟻のようだ。
違うのは吸い込まれても何ら後悔なく、最終的に彼が綺麗なウスバカゲロウに羽化してくれればそれで良いと思えるとこだろう。
ルフィのためになるのなら、この船で自分を構う人間はいない。
きっと、それは船長である彼が思うより絶対の想いで、そして誰もが彼に知られたいと思っているわけでもない感情だ。
別に自分たちの感情を背負わせたいわけではなく、彼は自然体のままでいてくれるのが一番いい。
この笑顔が曇らぬように、強くなる決意をした自分のためにも。
ぐしゃぐしゃになった髪を直すでもなくそのままにして笑い続けるルフィの額を弾くと、フランキーはまた船の整備を始める。
騒がしく大人しく出来ないルフィだが、フランキーが船を弄っているときは比較的静かにしている。
今回もじっと黒い瞳を好奇心旺盛に輝かせ、素早く動く手を見詰めていた。
その様子を横目で眺め小さく笑うと、何気ない風を装い口を開く。

「なぁ、麦わら」
「んー?」
「あん時、強引におれを連れ出してくれて、ありがとうな」

さりげなく口にした台詞は、こんなときでもなければ口に出来ない内容だった。
何か切欠がなければ改めて言葉に出来る話ではなく、天邪鬼な自分が簡単に言える言葉でもない。
だから、今このタイミングでフランキーは口を開いた。
ずっと、伝えたいと思っていた想いを告げるために。
夢が叶う、その前に。

「おれはさ、ずっと子供の頃から夢があった。凄く憧れてる人がいて、その人に追いつきたかった。子供の頃からの夢で、野望だったんだ」
「野望か。そりゃかっこいいな!」
「だろ?スーパーなおれさまにぴったりだ」

くくくくっと笑うと、機嫌よさげに目を細めたルフィはフランキーを覗き込む。

「おれさまは夢の船をずっと作りたかった。ずっと、ずっとだ。もうずっと、たった一人の背中を追ってきた」
「へぇ」
「隣に立てるくらい、凄い男になりたかったんだ」

万端の想いを篭めた言葉の意味は、フランキーの他にその想いを理解できるのはきっと兄弟子くらいだろう。
誰よりも憧れていた、でかい男。

『造った船に!!!男はドンと胸をはれ!!!!』

誰よりも憧れ、誰よりも目指した人。
そして今尚追い続け、未だに並び立つことが出来なかった人。
先走るばかりだったフランキーを、あっさりと包める度量を持った、最高に格好いい漢だった。
胸をはれと言って貰えたから、その言葉を思い出したからこそ今のフランキーはあり、サニー号も存在する。
フランキーにとって夢であり望みであり願いであり野望であるそれは、彼が居たからこそ形を作った。
でも本当は嘘だ。
隣に並びたかったんじゃない。
フランキーは、ずっと、子供の頃から。

「本当は、違う。並びたかったんじゃない。おれは、憧れたあの人を追い越したかったんだ」

リズム良くかなづちを振るっていた手が止まる。
顔を上げれば思ったよりも近い場所にルフィの顔があり、サングラスの奥で瞳を見開いた。
だがこの船で最年長の彼は、それを素直に表情に出さずに僅かに口角を上げると言葉を続けた。

「おれの夢は海賊王の乗る船を作ることだった。世界一を果たすその船に乗り、世界を回りきったその船こそがおれの夢の船になる瞬間だった」
「過去形か?」
「おう。今は違うぜ」

きょとり、とフランキーを見詰める瞳は相変わらず一点の曇りもなく真っ直ぐだ。
それが好ましくくすぐったく嬉しくもある。
我侭で馬鹿でどうしようもなく自分勝手だが、真っ直ぐで強い。
そして何があっても潰れない。
きっと理由を聞けばゴムだから、とどんと効果音を背負って言うことだろう。
そんな馬鹿な船長が、フランキーは嫌いじゃない。
だから望む。もっともっと、もっと上へと。
彼自身が上を目指し続けるから、フランキーも上を願っている。
随分と欲張りになってしまったものだ。
ウォーターセブンで過ごした頃には考えられないくらい、自分の夢へ貪欲になっている。
そしてそんな自分も嫌いじゃなかった。

「おれはもっと上を目指すぜ、『海賊王』」
「ししし、もっとか。次はどんな野望を持つんだ?」
「世界一周した夢の船で、『海賊王』と一緒に冒険する。我侭で強引で馬鹿な船長の願いを全部聞き遂げられるスーパーな船を維持し続ける。そんなスーパーな偉業、おれ以外に出来っこないだろ?」

にい、と笑い格好つけてポーズをつければ、ししししと上機嫌にルフィは笑った。
首を竦め、頭の後ろで腕を組んだ彼は、太陽のように明るい笑顔を浮かべる。
面白そうに楽しそうに悪戯を思いついた子供のように。

「いいな、それ!おれが『海賊王』になっても進む最高の船!海の底も空の上も行ける船。素敵機能が一杯あって、どひゃあ!ってなるお前の船!最高だな、フランキー!」
「だろう!」

顔を見合わせ豪快に笑う。
その声は青空に吸い込まれ、船中に響く声に仲間が段々と集まりだした。

きっと自分は彼のためにこの船を維持し続けるだろう。
世界で最高の木を使い造った、彼だけのための船を。
我侭なルフィが望むように、どこにでも行ける船にして、機能ももっと増やすのだろう。
何しろこの好奇心旺盛な子供は、新しいものと面白いものが大好きだ。
そして自分も改造するのが大好きだ。

「おれはお前が死ぬまでこの船を維持し続けてやるよ、ルフィ。だからお前はおれが夢を果たすために、とんでもなく長生きしやがれ」

冗談めかしたこの本音に、彼は気づかなくていい。
好きように生き、後悔なく死んでくれればそれでいい。
彼が進むための船を一生掛けて造ると決めた。
海賊王の船を最高の状態にし続ける。
それが夢の船を造った後の、フランキーの新しい野望だ。

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