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「おかあさん、だーいすき」

にこにこしながら抱きついてきた息子に、かなでは僅かにバランスを崩す。
洗濯籠を動かして視線を向ければ、夫によく似た容姿の彼は、今日は可愛い犬耳の付いた着ぐるみを着ていた。
おはようの代わりとばかりに好きを繰り返す息子に微笑むと、洗濯籠を脇に置きしゃがみ込む。
そして視線を合わせたまま額をこつりとくっつけた。

「お母さんもだーいすき」

ほにゃりと高校時代から全く変わらぬ微笑みを浮かべたかなでに、静もつられてふわりと微笑む。
何と和やかな光景だろう。
暖かで優しいこの場所は、高校生だった自分には想像できなかったものだ。
否、正確に言えば彼女に出会う前の自分だったら、だろうか。
愛しい妻に可愛い息子。
て可愛い娘の着替えを手ずから行いながら、子煩悩な父親になった彼はくすくすと微笑む。

そして爽やかな微笑みを浮かべたままさらりと告げた。

「完璧な家族団らんだと思わないかい?冥加」
「───・・・そうか」
「君が居なければもっと完璧だったんだけどね」

ふふふふと裏も表もありませんとばかりに優しげな笑みを浮かべたまま、刺々しい言葉を静は吐き出す。
慣れたとはいえうんざりするほど直接的な表現に、玲士は重いため息を吐き出した。

「言っておくが俺は来たくて来たんじゃない。貴様のところの人の迷惑を顧みぬ妻に引きずってこられたんだ。これならゴミを捨てに行かなければ良かった」
「・・・へぇ。君、僕の優しい奥さんの気遣いを迷惑って切り捨てるんだ?」
「迷惑以外の何物でもないだろう。朝食など、必要ないのに」

ぶつぶつと文句を垂れる玲士に、笑顔の静の背景に暗雲が立ち込め始める。
可愛い娘のレース付きのスカートとブラウスを調えてから立ち上がると、息子の名を呼びこう告げた。

「冥加のおじさんがお母さんの好意を『迷惑』だって。我が家の優秀な番犬君はどうするのかな?」
「もちろん、かみつくのですー」
「なっ!?」

驚き身を引こうとした玲士は、だが残念にも間に合わなかった。
オーダーメイドのスーツに食いついた子供は、本当に犬のように顔を振る。

「今日のコスプレはワンコなんだ。可愛らしい番犬でしょ?」
「・・・貴様らいい加減にしろ!!」
「ぼくはおかあさんのばんけんなんです!わるいやつにはかみつきます」

再びかぶりと噛み付いた息子の姿に、かなでは慌てふためいた。
だがそんな妻の肩を抱くと、静は鮮やかな微笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ」
「何がですか!?」
「───肉は噛まないように言っておいたから」
「っ!!全然大丈夫じゃないですよ!」

ぐしゃぐしゃになったスーツに、意外と子供を叱れない玲士が項垂れるのは僅かな後で、その玲士を慰めようとする娘とすみませんと只管謝るかなでの姿に苛立った彼らが再び玲士を強襲するのはもう日常になった出来事。

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