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心底困ったと眉尻を下げる珍しい兄の表情に、琉夏はこてりと首を傾げる。
時間は昼放課を少し過ぎたばかりの麗らかな午後。
本来なら授業真っ只中の時間帯に、彼は屋上で佇んでいた。
「何してるんだ、コウ?」
琉夏の声に弾かれたように顔を上げた琥一は、決まり悪そうに視線を逸らす。
鋭く舌打ちされたが、残念ながら淡く染まった目元が剣呑さを台無しにしていた。
もっとも、他の輩ならともかく長年付き合っている琉夏は今更琥一のこうした態度にびびることはない。
無造作に歩いて距離を詰めるともう一度同じ問いを繰り返した。
すると渋々ながら顔を上げた琥一は、重い唇を漸く開く。
「見て判んねぇのか」
「───いや、寝てる冬姫に肩を貸してるのは判るんだけど」
「なら、聞く事はねぇだろうが」
照れ隠しで不機嫌そうな表情になった琥一は、眠る少女に気を使い小さな声で話している。
しかも律儀にも日よけの役目をしていて、顔に日差しが直にかからぬよう掌まで翳していた。
さすがお兄ちゃん気質。気が利くなと感心していると、かいがいしい母猫のような彼は、ぼそぼそと話し出した。
「こいつ、昨日寝てねぇんだと」
「夜更かししたの?何で?」
「そんなの俺が知るわけねぇだろう。そもそも理由を聞く前に勝手に寝やがった」
「嫌ならどければいいのに」
「俺が退いたらコンクリートに頭をぶつけるだろうが」
憮然として訴える琥一は本当にお人よしだ。
見た目は怖いが中身は優しい。
外見ではなく内面で人を見る人物は、自分でなく琥一へと流れる。
それは当たり前だが少し寂しい。
彼の膝の上で眠る少女に、そんな打算はないと理解しているのに溢れる寂寥感はどうしようもない。
それに琥一の優しさは誰にでも発揮されるわけではない。
冬姫だからこそ下手に振り払うことも出来ず、強面の奥で混乱している内に好きにされてしまったのだろう。
マイペースな彼女は琥一のペースを乱すのが得意だから。
くすり、と小さく笑うと琉夏は二人へと近づく。
冬姫を挟んで反対側に座ると、眠る少女の肩に首を預けた。
少々無理のある体制だが、眠ろうとして眠れないほどでもない。
「おい、ルカ。冬姫が起きる」
「大丈夫だよ、コウ。冬姫は寝ると決めたら起きるときまで寝てるから」
不思議な言い回しだがこれは明確に少女の特色を現している。
冬姫は寝つきがよく、眠ると決めたら余程のことがない限り目を覚まさない。
かといって寝起きが悪いわけではなく、自分が起きると決めている次官になると自然に目を覚ました。
「俺も少し寝る。冬姫が起きたら起こして」
瞼を閉じれば段々と眠気が募ってきて、くあっと小さく欠伸をした。
頬を擽る風も麗らかな、五月のある日の出来事だった。
時間は昼放課を少し過ぎたばかりの麗らかな午後。
本来なら授業真っ只中の時間帯に、彼は屋上で佇んでいた。
「何してるんだ、コウ?」
琉夏の声に弾かれたように顔を上げた琥一は、決まり悪そうに視線を逸らす。
鋭く舌打ちされたが、残念ながら淡く染まった目元が剣呑さを台無しにしていた。
もっとも、他の輩ならともかく長年付き合っている琉夏は今更琥一のこうした態度にびびることはない。
無造作に歩いて距離を詰めるともう一度同じ問いを繰り返した。
すると渋々ながら顔を上げた琥一は、重い唇を漸く開く。
「見て判んねぇのか」
「───いや、寝てる冬姫に肩を貸してるのは判るんだけど」
「なら、聞く事はねぇだろうが」
照れ隠しで不機嫌そうな表情になった琥一は、眠る少女に気を使い小さな声で話している。
しかも律儀にも日よけの役目をしていて、顔に日差しが直にかからぬよう掌まで翳していた。
さすがお兄ちゃん気質。気が利くなと感心していると、かいがいしい母猫のような彼は、ぼそぼそと話し出した。
「こいつ、昨日寝てねぇんだと」
「夜更かししたの?何で?」
「そんなの俺が知るわけねぇだろう。そもそも理由を聞く前に勝手に寝やがった」
「嫌ならどければいいのに」
「俺が退いたらコンクリートに頭をぶつけるだろうが」
憮然として訴える琥一は本当にお人よしだ。
見た目は怖いが中身は優しい。
外見ではなく内面で人を見る人物は、自分でなく琥一へと流れる。
それは当たり前だが少し寂しい。
彼の膝の上で眠る少女に、そんな打算はないと理解しているのに溢れる寂寥感はどうしようもない。
それに琥一の優しさは誰にでも発揮されるわけではない。
冬姫だからこそ下手に振り払うことも出来ず、強面の奥で混乱している内に好きにされてしまったのだろう。
マイペースな彼女は琥一のペースを乱すのが得意だから。
くすり、と小さく笑うと琉夏は二人へと近づく。
冬姫を挟んで反対側に座ると、眠る少女の肩に首を預けた。
少々無理のある体制だが、眠ろうとして眠れないほどでもない。
「おい、ルカ。冬姫が起きる」
「大丈夫だよ、コウ。冬姫は寝ると決めたら起きるときまで寝てるから」
不思議な言い回しだがこれは明確に少女の特色を現している。
冬姫は寝つきがよく、眠ると決めたら余程のことがない限り目を覚まさない。
かといって寝起きが悪いわけではなく、自分が起きると決めている次官になると自然に目を覚ました。
「俺も少し寝る。冬姫が起きたら起こして」
瞼を閉じれば段々と眠気が募ってきて、くあっと小さく欠伸をした。
頬を擽る風も麗らかな、五月のある日の出来事だった。
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