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朽木の当主からの直々の勅命を漸くこなし、数日ぶりに帰還した家で恋次はおかしな光景を見た。
「・・・何やってんだ、お前」
そこに居たのは不貞腐れた飼い猫のように尻尾を膨らませびたんびたんと床に叩きつける豹系の魔獣。
ヴーヴーと不機嫌に喉を鳴らす様子から、誇り高き魔獣のプライドは見受けられずひっそりと眉根を寄せた。
そもそも彼が不機嫌にいる場所が場所だ。
何ゆえルキアの部屋の前で扉に向かい不機嫌に唸っているのか。
不機嫌な声を出し続ける一護の脇に手を差し込むと、ひょいと体を抱き上げる。
だらんと伸びた体は意外と長く、恋次の視線の高さに持ち上げても尻尾は床を叩いていた。
悔しげに眉を顰めた一護からはそれでも抵抗はない。普段ならとっくに噛まれてるだろうにと首を傾げながらドアノブに手を掛けると。
「っ!?いてぇ!!」
手が触れたと思った瞬間、ばちり、と弾かれた。
電流が走ったような衝撃に掌を見ると、軽く火傷が出来ている。
恋次は訝しげに眉を顰めた。
彼が回復の魔法を会得できないと理解しつつ、ルキアがこんな攻撃的な術を張るだろうか。
意識を切り替えて見てみると、ルキアの部屋を囲むように精巧な結界が出来ていて、対象者には容赦なく電撃を流す仕組み。
静電気をもっと強力にしたものだと考えればいい。
「・・・お前、何したんだ」
眉間に皺を刻み、腕の中で猫化している魔獣を睨む。
「ヴにャぁ」
不細工な声でないた一護に、恋次は気づいた。気づいてしまった。
彼は好きで魔獣の姿でいるのではないことに。
意識を切り替えてみれば幾重にも巻かれる呪縛の力。
魔力を削り、言葉を奪い、動きを制限し、さらに呪縛の力を隠すそれらを器用に組み立ててある。
そんな複雑な魔法を作れる相手は、恋次は一人しか知らない。
「浦原さんか」
「おやおやぁ、気づくのが随分と遅かったっすねぇ阿散井さん。気が緩んでるんじゃないんですか?」
唐突に背後に気配が生まれ一護の毛が逆立つ。
一つため息を吐き振り返ると、私服の遠い異国の服ではなく見慣れた執事服姿の浦原が紅茶のセットを押していた。
カップの数を数えて首を傾げる。
二つ並んだ繊細なそれは、人間国宝と呼ばれるものが作り出した高級品。
ルキアが好んで使うものとは違い来客専用のものだと恋次は知っていた。
「客か?」
「はい。お嬢様の賓客であり、朽木家のもてなす相手であります」
「・・・珍しいな、ルキアが部屋に入れるなんて」
社交はこなすが人見知りが激しいルキアの自室に呼ばれるのは、彼女の兄や勤め先の上司である貴族、そして豪快な彼の契約魔獣。
例外的に動物と認知された生き物の中に、恋次の先輩の姿もあるが、次はないので除外する。
だが思い浮かべた人物の中に、結界を張らなくてはいけない相手は存在しなく、不思議そうに首を傾げると、珍しく判りやすくも嘲笑に似た表情を浮かべた。
「躾けの最中ですよ。お嬢様はどうにも甘くなりすぎる。お嬢様へのお仕置きも兼ね、現在この部屋は魔獣立ち入り禁止区域です」
「あんたも魔獣だろ」
「それ以前に私はこの家の執事ですから。お嬢様の教育係でもありますしね」
「・・・お前何したんだよ、一護」
「お嬢様の客の前で失礼な態度を取ったんですよ。───朽木家令嬢の契約魔獣として、品格が問われます。魔獣の品格は主の品格。そのくらい、少し考えれば判るでしょうに」
漸く得心がいった。
浦原はとても静かに激怒している。
恋次の気配も、一護の気配も何もかもルキアに届かぬよう、そして人には感知できぬ精巧な力を使ってしまうほどに。
はぁ、と一つため息を吐いた。
彼の怒りの理由はとても単純で簡潔。
自分の育てる最愛のお嬢様を、他人に侮らせる切欠を作ったこと。
それが最大で唯一の怒りの理由だろう。
浦原は飄々としているがああ見えてルキアにとても手をかけている。
恋次と方法は違うし許容できない部分もあるが、厳しさも含めて彼女を特別に扱った。
おかげで今やルキアはどこに出ても恥ずかしくない令嬢であるし、彼女を養子と侮る輩も随分と減ってきた。
それは朽木の当主の力であり、浦原の力だろう。
「お前が悪い、一護」
「・・・ぶにゃ」
「浦原さんが判断したなら、ルキアにとってその相手は本当に賓客だ。お前が知らぬ、他人だったとしてもな」
「ぶにー・・・」
「俺だって巻き込まれてんだ、お前は少し反省しろ」
耳を垂れたままばしばしと尻尾を振る一護は、拗ねたように瞳孔を立てに開いた。
だがわずかばかりに漂う気まずさは、彼だって本当は判っているということなのだろう。
やれやれと首を振り、その場を後にしようとしたら、不意に後ろから声を掛けられた。
「あなたも最近緩みすぎです。お嬢さまの魔獣として恥ずかしくない礼儀作法を叩き込んで差し上げますから私の執務室で待っていなさい」
「ええ!?何で・・・」
「その結界、ノックをすれば解除できるようになってます。親しき仲にも礼儀ありと理解なさい。人の姿を取っているときは、人の礼儀を守るもんです」
長い前髪の下から目を輝かせた彼が、ぱちりと指打ちしただけで恋次も本性に強制的に戻らされる。
腕がなくなり必然的に落下する事になった一護は、身を捻り器用に着地した。
「きっちりとした作法が身につくまで、お嬢さまの前に出れないと思いなさい」
もう一度指が鳴らされると、小さな結界が張り巡らせる。
力を圧縮させ作られたそこから、恋次と一護が出るのは不可能だ。
しかも丁度ドアを開けた場所から見えない死角になっていて、彼の用意周到さに少しだけ泣きたくなった。
「失礼します、お嬢さま」
ノック四回の後、部屋の主の了承を貰った彼はポーカーフェイスで室内に消える。
開いた隙間から聞こえ漏れる主の声に、ぱたり、と力なく尻尾を振った。
「・・・何やってんだ、お前」
そこに居たのは不貞腐れた飼い猫のように尻尾を膨らませびたんびたんと床に叩きつける豹系の魔獣。
ヴーヴーと不機嫌に喉を鳴らす様子から、誇り高き魔獣のプライドは見受けられずひっそりと眉根を寄せた。
そもそも彼が不機嫌にいる場所が場所だ。
何ゆえルキアの部屋の前で扉に向かい不機嫌に唸っているのか。
不機嫌な声を出し続ける一護の脇に手を差し込むと、ひょいと体を抱き上げる。
だらんと伸びた体は意外と長く、恋次の視線の高さに持ち上げても尻尾は床を叩いていた。
悔しげに眉を顰めた一護からはそれでも抵抗はない。普段ならとっくに噛まれてるだろうにと首を傾げながらドアノブに手を掛けると。
「っ!?いてぇ!!」
手が触れたと思った瞬間、ばちり、と弾かれた。
電流が走ったような衝撃に掌を見ると、軽く火傷が出来ている。
恋次は訝しげに眉を顰めた。
彼が回復の魔法を会得できないと理解しつつ、ルキアがこんな攻撃的な術を張るだろうか。
意識を切り替えて見てみると、ルキアの部屋を囲むように精巧な結界が出来ていて、対象者には容赦なく電撃を流す仕組み。
静電気をもっと強力にしたものだと考えればいい。
「・・・お前、何したんだ」
眉間に皺を刻み、腕の中で猫化している魔獣を睨む。
「ヴにャぁ」
不細工な声でないた一護に、恋次は気づいた。気づいてしまった。
彼は好きで魔獣の姿でいるのではないことに。
意識を切り替えてみれば幾重にも巻かれる呪縛の力。
魔力を削り、言葉を奪い、動きを制限し、さらに呪縛の力を隠すそれらを器用に組み立ててある。
そんな複雑な魔法を作れる相手は、恋次は一人しか知らない。
「浦原さんか」
「おやおやぁ、気づくのが随分と遅かったっすねぇ阿散井さん。気が緩んでるんじゃないんですか?」
唐突に背後に気配が生まれ一護の毛が逆立つ。
一つため息を吐き振り返ると、私服の遠い異国の服ではなく見慣れた執事服姿の浦原が紅茶のセットを押していた。
カップの数を数えて首を傾げる。
二つ並んだ繊細なそれは、人間国宝と呼ばれるものが作り出した高級品。
ルキアが好んで使うものとは違い来客専用のものだと恋次は知っていた。
「客か?」
「はい。お嬢様の賓客であり、朽木家のもてなす相手であります」
「・・・珍しいな、ルキアが部屋に入れるなんて」
社交はこなすが人見知りが激しいルキアの自室に呼ばれるのは、彼女の兄や勤め先の上司である貴族、そして豪快な彼の契約魔獣。
例外的に動物と認知された生き物の中に、恋次の先輩の姿もあるが、次はないので除外する。
だが思い浮かべた人物の中に、結界を張らなくてはいけない相手は存在しなく、不思議そうに首を傾げると、珍しく判りやすくも嘲笑に似た表情を浮かべた。
「躾けの最中ですよ。お嬢様はどうにも甘くなりすぎる。お嬢様へのお仕置きも兼ね、現在この部屋は魔獣立ち入り禁止区域です」
「あんたも魔獣だろ」
「それ以前に私はこの家の執事ですから。お嬢様の教育係でもありますしね」
「・・・お前何したんだよ、一護」
「お嬢様の客の前で失礼な態度を取ったんですよ。───朽木家令嬢の契約魔獣として、品格が問われます。魔獣の品格は主の品格。そのくらい、少し考えれば判るでしょうに」
漸く得心がいった。
浦原はとても静かに激怒している。
恋次の気配も、一護の気配も何もかもルキアに届かぬよう、そして人には感知できぬ精巧な力を使ってしまうほどに。
はぁ、と一つため息を吐いた。
彼の怒りの理由はとても単純で簡潔。
自分の育てる最愛のお嬢様を、他人に侮らせる切欠を作ったこと。
それが最大で唯一の怒りの理由だろう。
浦原は飄々としているがああ見えてルキアにとても手をかけている。
恋次と方法は違うし許容できない部分もあるが、厳しさも含めて彼女を特別に扱った。
おかげで今やルキアはどこに出ても恥ずかしくない令嬢であるし、彼女を養子と侮る輩も随分と減ってきた。
それは朽木の当主の力であり、浦原の力だろう。
「お前が悪い、一護」
「・・・ぶにゃ」
「浦原さんが判断したなら、ルキアにとってその相手は本当に賓客だ。お前が知らぬ、他人だったとしてもな」
「ぶにー・・・」
「俺だって巻き込まれてんだ、お前は少し反省しろ」
耳を垂れたままばしばしと尻尾を振る一護は、拗ねたように瞳孔を立てに開いた。
だがわずかばかりに漂う気まずさは、彼だって本当は判っているということなのだろう。
やれやれと首を振り、その場を後にしようとしたら、不意に後ろから声を掛けられた。
「あなたも最近緩みすぎです。お嬢さまの魔獣として恥ずかしくない礼儀作法を叩き込んで差し上げますから私の執務室で待っていなさい」
「ええ!?何で・・・」
「その結界、ノックをすれば解除できるようになってます。親しき仲にも礼儀ありと理解なさい。人の姿を取っているときは、人の礼儀を守るもんです」
長い前髪の下から目を輝かせた彼が、ぱちりと指打ちしただけで恋次も本性に強制的に戻らされる。
腕がなくなり必然的に落下する事になった一護は、身を捻り器用に着地した。
「きっちりとした作法が身につくまで、お嬢さまの前に出れないと思いなさい」
もう一度指が鳴らされると、小さな結界が張り巡らせる。
力を圧縮させ作られたそこから、恋次と一護が出るのは不可能だ。
しかも丁度ドアを開けた場所から見えない死角になっていて、彼の用意周到さに少しだけ泣きたくなった。
「失礼します、お嬢さま」
ノック四回の後、部屋の主の了承を貰った彼はポーカーフェイスで室内に消える。
開いた隙間から聞こえ漏れる主の声に、ぱたり、と力なく尻尾を振った。
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